成河、初の一人芝居「フリー・コミティッド」無限ループのような電話の音に孤軍奮闘

抜群の演技力で数々の賞を受賞し、ストレートプレイからミュージカルまで活躍の成河の初一人芝居「フリー・コミティッド」が上演中だ。
設定はマンハッタンにある超人気レストラン、売れない俳優のサムはそこで予約受付係をしており、場所はレストランの地下にある受付室。この部屋が雑然としている、いやそれ以上、イマドキの言葉で言えば「汚部屋」だ。掃除した形跡もなく、物が散乱、受付室という割には、何故かフィットネスに使用するバランスボールもある。季節はクリスマス、幕開きの曲は「もろびとこぞりて」、この曲がかかること自体、なかなかウイットに富んでいて洒落が効いており、これから始まる一人ドタバタをイメージさせてくれる。部屋の端には小さなクリスマスツリーにサンタクロースの人形。そこへ、主人公のサムがやってくる。ダウンジャケットにヘッドホン、そしてジャケットを脱ぐ・・・・・・ゆっくりとお茶など飲んでいる暇などなく、ひっきりなしに電話がかかる、レストランの予約をしたい客からの電話、サムはできる限り丁寧な【声】で対応する。そう、【声】だけは丁寧だ。電話の向こうの客、それを成河が表現する。外国人、老婦人、マフィアの下っ端などなど、サムとの切り替えが鮮やかで、ここは抱腹絶倒。そんな演技をマシンガンのように繰り出す成河。ベースは「スタンダップコメディ」であるが、あくまでも“ベース”である。

客とのやり取り、サムは俳優だが、それで生活できる訳ではないので、こうしてレストランで働いている。客の機嫌を損ねてクレームになるなら、首になってしまう。それでは困るのだ。クリスマスでしかも人気レストラン、予約など取れるはずもないのに、なんとかして予約したい客、それを断ろうとするサムの果てしなき“戦い”。その合間にかかってくる別の電話、それはレストランのシェフだったり、父親だったり、俳優仲間だったり。そのてんてこ舞いぶりを観客は“高みの見物”という構造。だが、しかし、この光景は実はありふれたこと、もちろん多少オーバーに見せているが、今ならさしずめ「山のように送りつけられてくるメール」、それを見るだけでも骨が折れる。返事もしなければならない、返信はできる限り丁寧な文面を心がけるが、時にはPCの画面に向かって「なんで今頃、こんな要件を送ってくるんだろう?暇じゃないんだから・・・・・・」とつぶやくことの一つや二つは誰しも経験はあるはず。

ストレスでいっぱいいっぱい、サムの髪の毛はボサボサ、トイレにも行けない、食事も取れない、時折ペットボトルの水を一気飲み。それでも懸命に電話の向こうにいる誰かに対して必死に応対する。演劇、エンターテインメントなので、サムに「これでもか」という試練が降りかかる。タイトルにある「コミティッド」の意味は『熱心に取り組む』『献身的な』『引っ込みがつかなくなった』などの意味がある。受話器を取ったら最後、『引っ込みがつかなくなる』のである。受話器を取らなきゃよいのだが、取ってしまう。そこがサムという人物の良いところだが、この状況ではそれが仇になり、ドツボにはまり、無限ループのような電話の向こうとのやり取りが行われる結果に。
都市生活の「ある、ある」ネタ、それを通してサムというどこにでもいそうな人物の人生の瞬間、それをどう捉えるかは、観客一人一人にゆだねられている。観劇後にスマホのスイッチをONにすると・・・・・・。

【公演概要】
「フリー・コミティッド」
作:ベッキー・モード
翻訳:常田景子
演出:千葉哲也
出演:成河
企画・製作/主催:シーエイティプロデュース
劇場: DDD青山クロスシアター
公演期間:2018年6月28日(木)~7月22日(日)  全30回公演

公式HP:https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2018/free_committed/

文:Hiromi Koh

撮影:神ノ川智早