あのシンデレラの物語が、ローマのチネチッタ撮影所を舞台にしたスター発掘物語に!? 新国立劇場オペラ『チェネレントラ』_

誰しもおなじみのシンデレラの物語を、楽しさいっぱいの極上のオペラで!愉快な重唱に華麗な装飾満載のアリア、早口のアジリタで盛り上がるクライマックスと、ロッシーニの魅力満載!10月1日より開幕。

『チェネレントラ(イタリア語のシンデレラ)』はヒット作メーカーのロッシーニのオペラであるが、映画のヒロイン探しの物語に変更、幸せを勝ち取る女の子のストーリーを描く。時代設定は1950年代~70年代のローマのチネチッタ(映画撮影所)。『チェネレントラ』の映画を撮影しようとしているプロデューサーと映画監督がヒロインの女優を探す物語に変貌。
コルベッリ、バルベラら世界のロッシーニ歌いと共に、イタリアで大躍進を遂げベルカントの主役を次々射止めている脇園彩が、シーズン開幕公演のタイトルロールに登場。得意のアンジェリーナ(チェネレントラ)役をオペラパレスで披露。

ヒット作を連発したロッシーニのオペラ・ブッファが 頂点を極めた作品で、おなじみのシンデレラの物語が極上のオペラ。物語は変装に次ぐ変装で笑いいっぱいに進み、愉快な重唱、華麗な装飾満載のアリア、アジリタで盛り上がるクライマックスと、ロッシーニの魅力が満載。フィナーレのチェネレントラ(シンデレラのイタリア語)のアリア「苦しみと涙のうちに生まれ」は、メゾソプラノの絢爛たるアリアとして独立して演奏されることも多い名曲。この大曲が描く、許すことの難しさ、尊さが、フィナーレに深い余韻を与える。演出には、イタリア・オペラの読み込みにかけては随一の演出家、粟國淳。

序曲で、この物語の設定がスピーディに描かれる。舞台上のスクリーンにはサイレント映画の字幕のように。「映画界に革新を」などの言葉が次々と。映像で高層ビルが映し出され、舞台上には『シンデレラ』のパネルが。新作映画『チェネレントラ』のヒロイン女優を探す、という設定。『チェネレントラ』つまり『シンデレラ』、よく知られているのはディズニーのアニメーション。ぽっちゃりした魔法使いのおばさんにかぼちゃの馬車、ガラスの靴、そしてハッピーエンド。ところが、この『チェネレントラ』は趣が異なる。

元々の『チェネレントラ』、継母ではなく、継父で男爵。意地悪な姉二人は変わらず。物乞いが突然やってくる。ヒロイン・アンジェリーナはこの物乞いに施しをするが、姉二人に叱られる。ところが、この物乞いの正体は…。ここまで書けば、勘の鋭い人はすぐにわかるだろう。とにかく”なりすまし”が多い。王子(ここでは映画プロデューサー)は王子の従者(付き人)になりすまし、従者(付き人)は王子になりすまし。もちろん、そうとは知らないアンジェリーナは従者(付き人)に恋愛感情を抱き、従者(付き人)も彼女に恋をする…なりすましなので実は王子!もう、ここで結末はわかってしまうが、それでも物語の面白さやキャラクターのユニークさに惹かれてしまう。

お約束感のある舞踏会、絶世の美女になって登場するアンジェリーナ、誰もが釘付け!王子になりすました従者も彼女に恋してしまう。三角関係!そして、舞踏会に来ていた継父と姉二人は彼女を一目見て「似ている…いや、まさか」と疑惑の目。設定は映画業界なので、終始、映画クルーが撮影している、そしてあの物乞いに変装していた人物も!もちろん、結末はハッピーエンドに決まっているが、そこに至るまでがとにかく面白い。継父は偽王子に酒蔵係に任命されて有頂天になる、そして”お金”が欲しい。娘たちがお金を使ってしまって実は貧乏貴族。だから”玉の輿”にのって欲しい。その娘二人もキャラが立ってる。背丈の関係で見た目が凸凹コンビ、意地悪度は同じくらいだが、妹の方がちょっと現実的な一面を見せる。この親子、お金で繋がっている、と受け取れる。

また、娘のどちらかが首尾よく王子と結婚したならば、もう一人は?その娘たちの問いかけに対しての答えが「知ったこちゃない」、身も蓋もないパパぶり!それに対してアンジェリーナは正反対。この”お金親子”の存在がアンジェリーナを際立たせている。

演出面では、コロスの存在感。男性陣、白塗りの顔で挙動がシニカル。しかも女性に扮する場面もあり、これが一種独特な雰囲気を醸し出す。セットもアートでレトロタッチな感じでシンプル。映画撮影所という設定なので舞台上で映画スタッフと思しき人たちが動かしており、これも雰囲気にマッチ。
ラストではもう”お約束感”満載で、「実は〜」な種明かしのオンパレード。アンジェリーナも実は騙されていたわけである。付き人だと思ってた相手が高貴なお方で驚愕するも、真の愛があれば、そんなことはお構いなしで恋を貫き、意地悪をしていた継父、姉二人に手を差し伸べる。ラスト近くで「望むのは気高い心を持つことです」と歌う。しかも精神は自立しており、シニカルな発言も随所に見られる。導入曲で「王は奢侈や華美を嫌い、純真で善良な娘を選ぶ」と歌う(姉たちは彼女を叱る)、民謡風カンツォーネ。このオペラのテーマソング的な内容。本当に最初から”種明かし”、今風で言えば”ネタバレ”。それでも面白い。

また、楽曲が、よく練り上げられており、全てのキャラクターに見せ場があり、歌の技巧を余すことなく披露できる。軽妙で登場人物の心理状況を描写する楽曲に、オペラならではの”聴きどころ”も随所にちりばめ、それでいて内容は現代的、ファンタジー要素はゼロ。ヒロインは受け身ではなく能動的で等身大。よってこの21世紀でも古びない。タイトルロールのアンジェリーナ(チェネレントラ)は、イタリアを拠点に年々成熟を見せる脇園彩。超絶技巧が要求される役どころだが、よく伸びる歌声でこれからの活躍がますます楽しみ。王子ラミーロには、2020年『セビリアの理髪師』で脇園彩との名コンビぶりを見せ、大喝采を浴びた破格のロッシーニ歌いルネ・バルベラ。今回のラミーロ=映画プロデューサーも絶妙な感じ。チェネレントラの父の男爵ドン・マニフィコには、ベルカントのレジェンドとして活躍を続ける名ブッフォのアレッサンドロ・コルベッリ。コミカルな動きが憎めない。王子の家庭教師アリドーロにはベルカントの旗手として躍進中のガブリエーレ・サゴーナ。帽子とマフラーがよく似合っており、いかにも業界人風。従者ダンディーニはバリトンの上江隼人。いっときの”王子生活”、あろうことかラミーロが恋する相手・アンジェリーナを見初めてしまう、ちょっと可哀想な役どころ、悲哀ぶりがちょっと可愛い。
ロッシーニの『チェネレントラ』、台本はヤコボ・フェレッティ、1817年1月25日にローマで初演、基本は早口ソングやドタバタを採り入れたオペラ・ブッファ。真摯なアリアもあり、「オペラ・セミ・セリア」とも分類。時代を超えて愛される傑作である。

<「チェネレントラ」ものがたり>
【第1幕】ドン・マニフィコ男爵の屋敷。男爵の今は亡き後妻の連れ子アンジェリーナは“チェネレントラ(灰かぶり)”と呼ばれて使用人のように扱われ、姉となった男爵の娘クロリンダとティーズベを世話している。心優しいアンジェリーナは物乞いの男に水と食べ物を与える。彼は実は王子ラミーロの家庭教師アリドーロで、貧者に身をやつして王子の花嫁を探しているのだ。従者に扮した王子が屋敷に入り込み、アンジェリーナと一目で恋に落ちる。一方、王子の従者ダンディーニが王子に成りすまして現れ、一家を城の舞踏会に招く。 アンジェリーナも行きたがるがマニフィコが拒む。アリドーロはこっそりアンジェリーナを舞踏会に誘う。城の舞踏会では、姉娘2人が偽 王子(実はダンディーニ)を取り合うが、突然現れた絶世の美女(アンジェリーナ)に皆が驚く。
【第2幕】城の中。王子姿のダンディーニが出てきてアンジェリーナに求愛するが、彼女は従者を愛しているのだと語る。その言葉を耳にしたラミーロは、早速出てきて求婚する。すると、彼女は腕輪を差し出し、自分を探すよう告げて姿を消す。屋敷に帰った男爵と姉たちはアンジェリーナに八つ当たりする。外は嵐になり、馬車が転覆、乗っていたダンディーニが屋敷を訪れる。王子も次いで現れ、アンジェリーナの腕にもう片方の腕輪を見つけて再会を果たし、城に連れ帰る。王宮では、幸せを手にしたアンジェリーナが父や姉たちを許し、フィナーレの大アリア「苦しみと涙のうちに生まれ」を歌って幕となる。

<概要>
【公演日程】
2021年10月1日(金)19:00/3日(日)14:00/6日(水)19:00/9日(土)14:00/11日(月)14:00/13日(水)14:00
【会場】新国立劇場 オペラパレス
指揮:城谷正博
演出:粟國淳
美術・衣裳:アレッサンドロ・チャンマルーギ
出演:
ドン・ラミーロ ルネ・バルベラ
ダンディーニ 上江隼人
ドン・マニフィコ アレッサンドロ・コルベッリ
アンジェリーナ 脇園 彩
アリドーロ ガブリエーレ・サゴーナ
クロリンダ 高橋薫子
ティーズベ 齊藤純子

合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
芸術監督:大野和士
主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場

公演情報WEBサイト https://www.nntt.jac.go.jp/opera/lacenerentola/

撮影:寺司正彦 舞台写真提供:新国立劇場