北川拓実(少年忍者/ジャニーズ Jr.), 愛原実花etc.出演『ドン・カルロス』演出 深作健太 インタビュー

世界的に有名なシラーの戯曲『ドン・カルロス』書かれたのは1783年から1787年にかけて。物語の舞台は16世紀、フェリペ2世治世下のスペインで起きた歴史的事件を元にした最盛期のスぺイン宮廷。愛する女性が父親の妻となり思いを断ち切ることはできないドン・カルロス。愛、友情、そして父と息子のそれぞれの想いが交差し、物語は結末へ。なお、この戯曲はヴェルディのオペラでもよく知られている。出演は『火の顔』に初主演した北川拓実(少年忍者/ジャニーズJr.)、そして元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の愛原実花、他。演出は深作健太。今年、2021年より『火の顔』『ブリキの太鼓』と続けてドイツ作品に挑戦、今年ラストは、この『ドン・カルロス』で締めくくる。作品について、また、ドイツ戯曲を選んだ経緯について深作健太さんのインタビューが実現した。

――深作組ドイツ三部作の締めにこの作品を持ってきた理由は?

深作:3つの作品に共通するのは、〈親殺し〉の物語。親と息子の闘いが軸になっています。『火の顔』は両親を殺さざるを得なかった少年の悲劇。『ブリキの太鼓』もまた、親に対するコンプレックスから成長を止めていた少年が成長をはじめる風刺劇です。今回の『ドン・カルロス』も、同様のテーマを孕んでいます。三本並べてみると、時代がどんどんさかのぼっているんですね。『火の顔』は現代、『ブリキ』は戦争の時代、『ドン・カルロス』は中世。年代記的に、家族の物語を追いかけていたんだな、と。僕にとっては映画監督だった父親への、同じ表現者としてのいろんな想いがあり、父と息子の関係を考える事は自分自身について考える事になるので、無意識のうちにこだわっていたんだと思います。いい加減そろそろ親離れしなくちゃならないんですけど。

――たしかに3つとも家族がキーワードですね。とくに『ドン・カルロス』はスペインが「沈まぬ太陽」と呼ばれたあたりの時代。

深作:シラーがこの戯曲を書いたのはその200年後、フランス革命の頃ですね。強圧的だった権力者への反抗を謳った『群盗』でデビューして、イケイケだった時代。だけど『ドン・カルロス』は書き上げるまでに4年もかかっているんですよね。経済状況や体調もあって苦しんだんだと思います。この戯曲の執筆中に、のちにベートーヴェンが第九の歌詞として使う『歓喜の歌』がシラーによって書かれています。そういう意味で『ドン・カルロス』は中世スペインを舞台としながらも、フランス革命へと突き進む、シラーの時代の民衆の想い、〈自由〉への渇望みたいな熱い言葉が溢れています。

――シラーが執筆したころの空気に、自由を求める流れが来ていたからではないかとも思います。「コスモポリタニズム」という言葉も生まれて。

深作:素敵な言葉ですよね、「コスモポリタン」「世界市民」。ネットが普及して、グローバリズムが一般的になった現代ではあたりまえの考え方ですが、シラーの時代にこの言葉が書かれているというのがすごい。今までなくなりかけていた〈国境〉がコロナ禍で復活し、世界規模で〈分断〉が進む現代だからこそ、通じるメッセージもあると思います。人って臆病だし、他者が怖いんですよね。そこからイジメや誤解、差別が生まれる。国家が強い支配力と束縛力を持っていた『ドン・カルロス』の時代、あえて語られる「世界市民」の思想は、今でも充分にアナーキーだし強い説得力を持っています。

――分断といえば、登場する司祭ドミンゴはカトリックなんですよね。ただこの時代はプロテスタントが出てきていて……。

深作:キリスト教が、分断されてるんですよね。シラーは劇中でカトリックに対してかなり批判的で、やばい領域に踏み込んで書いている。教会が裏で国家を操り、異教徒は火あぶりですからね。シラーが描こうとした過激さは、大切にしたいと思います。ただ、スペインを舞台にした物語とはいえ、執筆当時のドイツの観客にとっては自分の国の問題だと思って見たんだと思うんです。だから今回、この作品が日本で上演される時も、決して遠い海の向こうの、昔の話だとはとらえてほしくなくて。自分たちの国、自分たちの問題なんだと思って観てもらえるよう、演出してゆけたらと思います。

――今回、主演は『火の顔』にも出ていた北川拓実さんがカルロスを演じますね。

深作:一年に二度も御一緒できるなんて本当に嬉しいです。まっすぐな役者だし、いちから一緒に始めたから息子みたいに思ってて。彼にぴったりの役なんですよ。『ドン・カルロス』があまり上演されてこなかったのは、大人の役者がカルロスを演じると合わないからだと思うんです。カルロスは愚直ともいえるほど、まっすぐな王子。今の十代の拓実くんが演じると、彼の素直さと熱さがカルロスとシンクロして、劇を揺り動かしてゆくんですね。あっと驚くカルロス像になるので、お客さんははじめは驚くと思いますが、最後にはきっと共感していただけると信じています。毎日、稽古場でどんどん拓実くんがカルロスを自分の中に落とし込んでいるのを見ていると、彼の役者としての成長とスピードが頼もしくもあり、さびしくもありますね。凄い役者になってゆくんだなあと。

――エリザベートは愛原実花さん、ベテランさんで元トップ娘役ですし、キャスティングはいい感じでバランスが取れていますよね。

深作:そうですね。史実のエリザベートはカルロスと同年代なんですけれど、今回は年齢が離れた設定にして作っています。エリザベートはカルロスにとって恋人でもあり、母でもあるんですよね。強い女性です。今回、実花さんと御一緒できて、本当に嬉しいです。実花さんのお父さんはつかこうへいさんなんですよね。父親同士がかつて『蒲田行進曲』で共闘していたというのもありますけど、同じひとりっこ同士、親子で同じ世界を進む葛藤と苦悩を理解できるところがあると思うので。

――そのほか、面白いのはロドリーゴですよね。

深作:ロドリーゴはシラーの分身ですね。シラーのかわりに演説してる。最初はカルロスを描こうと思って書き始めたものの、どんどん自由人であるロドリーゴの方に感情移入していったフシがあると思うんです。それを小田龍哉くんという、素晴らしい技と感性を持った役者さんと出会えることが出来て、うれしいです。これからの可能性あふれる方が、こういう大役に出会い、まっすぐに言葉を飛ばしてゆくたくましさ、潔さが演劇的なんですね。拓実くんともすごくいいコンビネーションで、稽古場でも本当の兄弟みたいに過ごしています。

――さて、台本ですがシラーで『ドン・カルロス』で……と難しそうな第一印象を受けがちですけれども、今回の舞台はシンプルにわかりやすくなっているように思います。

深作:ありがとうございます。大川珠季さんによる新訳なんですが、今回の演出はカット版になるんです。完全版だと、この4倍の長さになりますし、登場人物も膨大な人数が出るので、現代での上演にはそぐわないと思いまして。一度大川さんには完訳してもらったのですが、打ち合わせを重ねながらカットして、およそ二時間の今の台本が出来上がりました。シンプルに、最小限の人数で、家族劇として構成し直したかったんです。なので、名優・宮地大介さん演じるドミンゴは、実は元の戯曲に登場するいろんな役を兼ねたりしています。
昔とは時間の感覚が違いますからね、僕は古典劇はカット版の上演に賛成なんです、戯曲の本筋を見失わなければ。ドイツでも古典劇はカット版の上演が多いんです。お金とか時間の問題ではなくて、戯曲の本質を現代に突きつけるのがドイツ演出なので。今回6人でのバージョンを作ろうとしたきっかけは、ヴェルディのオペラ版の台本でした。シラーののちにフランスの作家が改作したものをベースにしているんですが、とてもよくまとまっていて。とはいえ僕は作家ではないので、改作はしてないです。シラーの思想と言葉をダイレクトに、そしてミニマムに、現代日本のお客さんに伝えられたらと思います。

――それでは、読者にメッセージを。

深作:本当に多くの方に観てほしい作品です。僕が10年、演劇の演出をやってきて、その間に出会った大好きな俳優さんたちと、やっと御一緒できた2021年だったので。拓実くんファンの方はもちろん、演劇ファンや、ドイツ演劇に興味のある方にも足を運んでいただけたら。上演される事自体すごく珍しい戯曲ですし、次の10年につながる作品に仕上げられたらと思っています。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

<あらすじ>
16世紀ーー〈太陽の沈まない国〉と呼ばれ、全盛を誇るスペインの 王子ドン・カルロスは、 フランス王女エリザベートと深く愛し合っていた。 しかしカルロスの父、スペイン王フィリぺ二世は、 国家のさらなる繁栄のため、エリザベートを妻とする事に。 愛する女性が〈母〉となり、絶望に沈むカルロス。
植民地であるネーデルラント(オランダ)から帰国したカルロスの親友、 ポーサ侯爵ロドリーゴは、圧政に苦しむフランドルの民衆を解放し救う 英雄となるよう、カルロスに進言する。 一方、片眼の美女・エーボリ公女は、カルロスに片想いしていたが、 彼がエリザベートを愛している事を知り、復讐を誓う。やがてオランダの解放を拒絶した王に向かって剣を抜いたため、 カルロスは反逆の罪で投獄される。
妻と息子に愛されない、孤独に打ちひしがれるフィリペ二世。 王はすべてを理解し合える知性を持つロドリーゴに、理想の息子像を見るが、ロドリーゴ は「王権の時代は終わり、やがて世界市民の時代が来る」と 王の信頼と愛情を固く拒絶する。
王国を支配する真の黒幕・宗教裁判長は、ロドリーゴこそが国の脅威だと王に告げる。
カルロスのエリザベートへの想いを王に密告したエーボリは、 それを恥じ、自分こそが王の愛人だったとエリザベートに告白する。 運命の歯車は止まる事なく、ロドリーゴはカルロスの身代わりとなって、王の刺客に暗殺される。 オランダへ逃げのびようとしたカルロスは、エリザベートに再会を誓うが、 その時、王と宗教裁判長が現れ、許されぬ不義の恋に鉄槌を下す。

<概要>
日程・会場:
[東京]
2021年11月17日~2021年11月23日 紀伊国屋ホール
[京都]
2021年11月26日~2021年11月28日 京都劇場
◆出演
北川拓実(少年忍者/ジャニーズ Jr.)
愛原実花
七味まゆ味
小田龍哉
宮地大介
神農直隆
◆スタッフ
作:フリードリヒ・シラー
翻訳:大川珠季
演出:深作健太
音楽:西川裕一 美術:伊藤雅子 照明:佐藤啓 音響:長野朋美 衣裳:伊藤正美 舞台監督:深瀬元喜 プロデューサー:児玉奈緒子
主催・企画・制作:深作組/MA パブリッシング/Goh(東京公演)
主催:サンライズプロモーション東京(京都公演)

◆公式WEBサイト https://www.mafmap.com/doncarlos
◆Twitter アカウント @fukasakucarlos

取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし