『ニュルンベルクのマイスタージンガー』開幕!祝祭感溢れる贅沢な全3幕。

19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーが作曲した大作『ニュルンベルクのマイスタージンガー』がいよいよ開幕。
新国立劇場と東京文化会館が展開する「オペラ夏の祭典 2019-20 Japan↔Tokyo↔World」の第2弾。『ニュルンベルクのマイスタージンガー』は、誰しも耳になじみのある勇壮な前奏曲に始まり、活き活きとした人間模様と芸術の理想が壮大に描かれる、祝祭感あふれる人気作。
本公演は新国立劇場、東京文化会館とザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の共同制作。ザルツブルクでの初演、ドレスデンでの上演後、2020年の上演予定が中止、今回待望の上演が実現。マイヤー、エレートら世界のワーグナー歌手と日本の実力派歌手が贅沢にも集結、大野和士芸術監督指揮により、ワーグナーの芸術讃歌が3年越しとなった「オペラ夏の祭典」を締めくくる。

16世紀中ごろのニュルンベルクを舞台、全3幕、15場。本格的な台本執筆は1861年、翌1862年から作曲、1867年の完成まで20年余り、1868年6月21日、ミュンヘン・バイエルン宮廷歌劇場でハンス・フォン・ビューローの指揮により初演。

物語は、人間と芸術の価値を輝かしく肯定するとともに、天才が得た霊感を形式の枠の中で鍛え上げる必要性を説いた寓話にもなっている。その豊かで鋭い洞察と暖かな人間性によって、本作品は幅広い人気を保っている。
マイスタージンガーとは職人の親方が音楽芸術の分野で作詞、作曲、歌唱を兼ねるもので、日本語では「親方歌手」あるいは「職匠歌手」。ドイツ語のタイトル Die Meistersinger は複数形であり、ハンス・ザックス一人ではなく「マイスタージンガーたち」を指す。全3幕15場、正味の上演時間が4時間半超。
有名すぎる序曲、それから幕が開き、始まる。この楽劇『ニュルンベルクのマイスタージンガー』はワーグナーの唯一の喜歌劇。第1場の舞台は聖ヨハネ祭 (6月24日) の前日の午後、聖カタリーナ教会。そして時代設定だが、なんと現代、2021年!


自らも詩人になろうとニュルンベルクにやってきたヴァルターは親方の一人娘エーファに一目惚れする。エーファは婚約の身ではあるが、その花婿は明日のマイスタージンガーの歌くらべで決まる、とマグダレーネに教えてもらう。だが、エーファもまたヴァルターに想いを寄せていたが、二人が結婚するにはヴァルターは歌くらべに優勝しなければならない。ヴァルターは自作の歌を披露するも、散々な結果。エーファとの結婚を目論むベックメッサーがヴァルターを非難、靴屋の靴屋のハンス・ザックスだけが彼を擁護するのだった。

ストーリー自体はヴァルターとエーファの恋の行方、そして彼らを取り巻く人々の思惑が絡まって進行する。細かいことをあげるときりがないが、聴かせどころも多く、また、細かいやりとりもユーモアに溢れたものがあり、さしずめ日本の落語のような面白さも感じる。また、ワーグナーの作品は神話や伝説を題材にしたものが多いが、この作品は16世紀中盤のニュルンベルクを舞台に実在の人物ハンス・ザックスを中心に描かれているが、全ての登場人物に見せ場があり、群像劇っぽい感じも。

人間味溢れる物語、芸術の素晴らしさを謳う、観客にとって共感するところが多く、そこも人気の要因。また”歌くらべ”なだけに歌唱シーンは、思わず聴き惚れる。また、喧嘩のシーンもユーモアたっぷり、時節柄ソーシャル・ディスタンスをとっており、しかもスローモーションだったり、コント的な面白さで思わず笑ってしまう。2021年という設定なので、スマホで延々と喋っている者がいたり、あるいは、テーブルや椅子はアルコールを吹き付けてしっかり拭いていたり。ソーシャルダンスも微妙に手と手が触れ合っていなかったり。そういった現代的な味付けを施して、より親しみやすくしている。ラスト近く、ポーグナーはヴァルターに「マイスター」の称号を授けようとするも、ヴァルターは「私はマイスターにならずに、しあわせでいたのです」と。そこへザックスは「マイスターたちを軽蔑してはいけない。その芸術を敬ってほしい」と諭す。さらにマイスターが取り立ててくれたおかげ、感謝の念を示すがようにと。さらにドイツの芸術を維持していくことができたのはマイスターたちのおかげであるといい、伝統の重みを語る。ここでクライマックス、民衆がハンス・ザックスと同じ言葉を合唱で歌い上げて感動とともに幕が降りる。

喜劇ではあるが、少しほろ苦い喜劇であり、また、ワーグナーの人生哲学と芸術観も透けて見える。なお、聖ヨハネの日は、キリスト教の聖名祝日である。キリスト教受容前のヨーロッパは、夏至の時期に祝祭が行われていたが、そのMidsummer Day と、聖ヨハネの誕生日とが結びつき、この日は夏のクリスマスとも呼ばれている。太陽が夏至で頂点に達した後、この祭には、太陽に力を与えるたき火が付き物。また、その火によって今後を占ったり,火の周りを踊ったりして、健康と幸福を祈る。聖ヨハネ祭の前夜には、魔女や精霊が現れるという言い伝えがあり、その夜を舞台にしたシェークスピアの『真夏の夜の夢』もこの伝説が背景となっている。

<あらすじ>
【第1幕】
ニュルンベルク。聖カタリーナ教会で騎士ヴァルターはエーファに一目惚れする。ヴァルターは翌日のマイスタージンガーの歌合戦の勝利者がエーファを花嫁にできるとマグダレーネから聞き、自分も歌合戦に参加しようと徒弟のダーヴィットから歌の心構えを聞く。書記ベックメッサーとエーファの父ポーグナーが現れるのでヴァルターは試験を受けたいと頼みこむ。明日の合戦について協議する親方達の前で、ヴァルターは自作の歌を披露する。歌の途中でやはりエーファとの結婚を目論むベックメッサーが非難を口にし始め、靴屋のハンス・ザックスのみが、認めるべき箇所が多いと擁護する。失格となったヴァルターは意気消沈する。
【第2幕】
エーファは、騎士の様子を父親に訊ねるが、彼は言葉を濁す。ザックスがエーファを愛する心を歌っていると、当の彼女が現れてヴァルターの出来について聞きだそうとする。エーファのヴァルターへの愛が本物だと知ったザックスは、彼女のために動こうと決心。エーファを訪ねて来たヴァルターはことの次第を悔しげに語り、駆け落ちを迫る。ベックメッサーがエーファの部屋の下でセレナーデを歌おうとすると、ザックスが金槌の音を立てて邪魔をし、エーファの身代わりで窓辺に立つマグダレーネの姿に、彼女と恋仲のダーヴィットが気付いて大騒動に。騒ぎに乗じて家を出ようとしたエーファとヴァルターの前にザックスが飛び出して、騎士を家に引っ張り込み、娘は父親に引き渡す。
【第3幕】
翌朝。ザックスは自分の迷いから逃れられない。ヴァルターが夢に見た話を語るので、ザックスはそれを歌にせよと励ます。ベックメッサーが訪ねて来て、ザックスが書き留めたヴァルターの歌を自分のものにしてしまう。エーファは ヴァルターとともに、ザックスに感謝の気持ちを表す。歌合戦でベックメッサーが 歌いだすが上手く行かず、責任をザックスに被せる。ザックスは同じ歌をヴァルターに歌わせ、皆は彼の歌いぶりに感動する。勝利が決まったヴァルターにザックスが伝統の重みを説き、一同がザックスを讃える。

<概要>
公演日程:
2021年11月18日(木)16:00/21日(日)14:00/24日(水)14:00/28日(日)14:00/12月1日(水)14:00
会場:新国立劇場 オペラパレス
指揮:大野和士
演出:イェンス=ダニエル・ヘルツォーク
管弦楽:東京都交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団、二期会合唱団
合唱指揮:三澤洋史
出演:
ハンス・ザックス…トーマス・ヨハネス・マイヤー
ファイト・ポーグナー…ギド・イェンティンス
クンツ・フォーゲルゲザング…村上公太

※本公演は、新国立劇場、東京文化会館、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場の国際共同制作で上演。
協力:日本ワーグナー協会
公式HP:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/diemeistersingervonnurnberg/
撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場