2021年、深作組ドイツ3部作の完結編『ドン・カルロス』が開幕、好評上演中。
3月に『火の顔』を上演し、夏には劇団CEDARとのコラボレーションによる『ブリキの太鼓』、そしてこの『ドン・カルロス』。ヴェルディのオペラにもなった戯曲、この作品の執筆中にヴェートーヴェンの第九交響曲で有名な『歓喜の歌』を書き上げる。
舞台上にはスチールの椅子、長いテーブル。開演前は舞台上はフードを被った男が懐中電灯を持って歩いている。彼と入れ違いにドミンゴ(宮地大介)がやってきて座ってコーヒーを飲む。時間になり、鐘の音が鳴り響く。登場人物が次々と舞台上に。時代がかった衣装ではなく、現代風。カルロス(北川拓実)は父親であるフィリぺ二世(神農直隆)に突き飛ばされる。この一瞬で父子の関係がわかる。カルロスは足が悪く、足を引きずっている。女性2人ヨガマットを持っている、ヨガのポーズをとりながら談笑する。一人はエリザベート(愛原実花)、もう一人はエーボリ公女(七味まゆ味)、片目の美女。史実ではフェンシングで右目を失い、パッチで塞いでいること、誰もが圧倒されるほどの美貌、ドラマチックな生涯を送ったが、この『ドン・カルロス』でもキャラクター設定はこの史実をベースにしている。それから各キャラクターの服にドイツ語で書かれている言葉、カルロスは「HOFFNUNG」、希望、期待、希望、エリザベートは「FREUDE」、喜び、ロドリーゴは「FREIHEIT」、自由、国王は「MENSCH」、一目置かれる人、etc.。
ロドリーゴはカルロスにとってはちょっと頼れる友人のようで抱擁したりする。そして壁に書く、”前進せよ”、”歓喜”、”自由”と。作品が書かれた時代、フランス革命の足音が近づいている、まさに時代の空気。
当初はエーボリ公女はエリザベートと親しげに会話、だがカルロスに思いを寄せていたエーボリ公女、エリザベートとカルロスの関係を知り、「私は復讐したい」とまで言い放つ。愛憎関係が絡み合い、物語は悲劇へと向かっていく。
愛と憎しみと、そして父と子の関係、妻に愛されていない国王、恋人を父に取られてしまった息子、その息子を愛しているのにその父親の妻にならなければならなかった若い娘、彼女に嫉妬する美女、この状況を憂いている男、それを見ている司祭、様々な感情と思惑が渦を巻く。ロドリーゴは優秀でリベラルな考えの持ち主、自分のことを”世界市民”と言い、人間とは己の定めた信念に生きる者と国王に臆面もなくいい、人間の尊厳を説く。
16世紀頃は、キリスト教ではカトリックとプロテスタントが激しく対立、宗教で分断されている時代。しかし、作品が書かれたのはスペインが隆盛を誇っていた時代からおよそ200年後。そしてこの舞台は、いつの時代とは特定できないようにしている。つまり今日性を重視、よって時代がかった衣装ではなく、シンプルに白と黒。しかし、ラスト近く、カルロスとエリザベートの衣装がカラフルなリゾート風な衣装に。二人とも短パン、開放感に溢れたいでたち。そして『ドン・カルロス』の物語とシラーが考えていた世界がクロスする。自由を愛する風が吹き始めた時代に書かれた『ドン・カルロス』、それは現代にも通じる。果たして世界は自由なのか、そんな疑問もわいてくる。単純なエンディングではなく、ほのかな光も感じさせ、それでいて観客にそう言った疑問も投げかける。先に上演された『火の顔』、『ブリキの太鼓』もそうだが、安易な結末は用意されていない。そこに今回の3部作の意義がある。
ドン・カルロスを演じた北川拓実は10代らしいあどけなさを残した空気感が役にマッチ、純粋ゆえに迷い、悩むカルロスを等身大で演じる。カルロスを愛するエリザベートの愛原実花、史実ではエリザベートとカルロスは同い年であるが、ここではエリザベートの方がちょっと”お姉さん”、しっかり者で、婚約者の父親と結婚しても、それをさだめと思う達観した潔さも。だが、”人間”に目覚めたところから、年相応な空気感も。そんなエリザベートを愛原実花がたおやかに演じていたのが印象的。七味まゆ味はエーボリを魅惑的に演じ、小田龍哉はロドリーゴの聡明さと勇敢さ、潔さを爽やかに。”年長組”の宮地大介、神農直隆が脇をしっかりと固める、バランスの良い座組。11月23日まで紀伊国屋ホールで上演後、11月26日より京都公演。
<インタビュー記事>
<あらすじ>
16世紀ーー〈太陽の沈まない国〉と呼ばれ、全盛を誇るスペインの 王子ドン・カルロスは、フランス王女エリザベートと深く愛し合っていた。 しかしカルロスの父、スペイン王フィリぺ二世は、 国家のさらなる繁栄のため、エリザベートを妻とする事に。 愛する女性が〈母〉となり、絶望に沈むカルロス。
植民地であるネーデルラント(オランダ)から帰国したカルロスの親友、 ポーサ侯爵ロドリーゴは、圧政に苦しむフランドルの民衆を解放し救う 英雄となるよう、カルロスに進言する。 一方、片眼の美女・エーボリ公女は、カルロスに片想いしていたが、 彼がエリザベートを愛している事を知り、復讐を誓う。やがてオランダの解放を拒絶した王に向かって剣を抜いたため、 カルロスは反逆の罪で投獄される。
妻と息子に愛されない、孤独に打ちひしがれるフィリペ二世。 王はすべてを理解し合える知性を持つロドリーゴに、理想の息子像を見るが、ロドリーゴ は「王権の時代は終わり、やがて世界市民の時代が来る」と 王の信頼と愛情を固く拒絶する。
王国を支配する真の黒幕・宗教裁判長は、ロドリーゴこそが国の脅威だと王に告げる。
カルロスのエリザベートへの想いを王に密告したエーボリは、 それを恥じ、自分こそが王の愛人だったとエリザベートに告白する。 運命の歯車は止まる事なく、ロドリーゴはカルロスの身代わりとなって、王の刺客に暗殺される。 オランダへ逃げのびようとしたカルロスは、エリザベートに再会を誓うが、 その時、王と宗教裁判長が現れ、許されぬ不義の恋に鉄槌を下す。
<概要>
日程・会場:
2021年11月17日~2021年11月23日 紀伊国屋ホール
2021年11月26日~2021年11月28日 京都劇場
出演
北川拓実(少年忍者/ジャニーズ Jr.)
愛原実花
七味まゆ味
小田龍哉
宮地大介
神農直隆
スタッフ
作:フリードリヒ・シラー
翻訳:大川珠季
演出:深作健太
音楽:西川裕一 美術:伊藤雅子 照明:佐藤啓 音響:長野朋美 衣裳:伊藤正美 舞台監督:深瀬元喜 プロデューサー:児玉奈緒子
主催・企画・制作:深作組/MA パブリッシング/Goh(東京公演)
主催:サンライズプロモーション東京(京都公演)
舞台撮影:阿部章仁