原作は1973年のジャン・ポワレ作の舞台劇『Mr.レディ Mr.マダム』、1973年から1978年までパレ・ロワイヤル劇場でロングランを記録。日本では版権を宝田明が買い取り、1981年に初演。1978年公開の映画版で『Mr.レディ Mr.マダム』と邦題がついたので、その題名を引き継いだ。1983年、アーサー・ロレンツ演出、スコット・サーモン振付によってミュージカル版が開幕、トニー賞6部門、ドラマ・ディスク賞3部門受賞。そして、2004年12月9日ブロードウェイのマーキース・シアターでジェリー・ザクス演出、ジェリー・ミッチェル振付でリバイバルされ、再びトニー賞2部門、ドラマ・デスク賞2部門を受賞。さらに2008年にはロンドン/ウエストエンドでも開幕し、オリビエ賞『ベスト・リバイバル・オブ・ミュージカル』受賞、2010年にはブロードウェーで2度目のリバイバルとなり、トニー賞史上初の2度目の「ベスト・リバイバル・オブ・ミュージカル」受賞という快挙を成し遂げた。
日本では1985年に青井陽治演出、リンダ・ヘイバーマン振付で近藤正臣のザザ、岡田真澄のジョルジュのカップルで帝国劇場にて初演。そして1993年から市村正親の当たり役として上演を重ね、2008年からは劇団四季時代からの盟友・鹿賀丈史をジョルジュ役に迎え、「ラ・カージュ」史上最高のコンビとして、2008年、2012年、2015年、2018年公演とも、初日から千穐楽まで連日のスタンディングオベーションという大成功を収め、今なおその人気は衰えを見せない。そして2022年、再び、このゴールデンカップルで上演、この二人の愛する息子・ジャン・ミッシェル役に決まった内海啓貴さんのインタビューが実現した。
――出演が決まったときの感想は?
内海:歴史ある作品に出演させて頂けること、鹿賀丈史さん、市村正親さんという素晴らしい先輩方と共演させて頂けることが本当に夢のようでした。うれしい気持ちと同時に大変緊張もしました。
楽曲を初めて聞いた時も「素敵な楽曲だな」「どんな作品なんだろう?」と思って、舞台を観たときにその華やかさに驚かされました。それからもう「出演したい」と思う気持ちがどんどん強くなっていきましたので、出演が決まったときは本当にうれしかったですし、そのような作品の世界がこれから待っていると思うと、今からとても楽しみです。
――これまでに鹿賀さん、市村さんの作品は観たことがありましたか?また、お二人についての魅力はどんなところだとお思いですか。
内海:鹿賀さんは『生きる』を配信で観させていただいています。市村さんは『モーツァルト』、あとは最近ですと『オリバー』でしょうか。最初は「(舞台に)立っているだけでその役の歴史がにじみ出ている」というのを、客席で観劇していて感じました。セリフを言わなくても歌わなくてもなにかそこにいるだけで役が存在しているということが衝撃だったのを今でも覚えています。これまで生きてきた年輪というんでしょうか、役者として勉強させていただきました。今まで僕自身、たくさんの先輩方と共演させていただきましたが、もちろん演技の面は言うまでもなく稽古場の姿がベテランの役者さんってかっこいいんですよ。役に対する姿勢がぜんぜん違うので、舞台上だけでなく、舞台の裏、稽古場でもたくさん学ばせていただきたいと考えています。とても緊張していますが、今回も若さとガッツで乗り越えていきたいです。
――3月の公演に向けて、ご自身ではなにか解消しておきたい課題、または稽古場にはこういう気持ちで臨みたいというものはあるでしょうか。
内海:稽古に入る前にまずは自分の役を、そしていろんな役からも読んでみて視野を広げた状態で現場に入りたいと思っています。最終的には全て頭に入れないといけませんから稽古場に入る頃には台本をすべて暗記するくらいの勢いでないと(笑)。また、稽古場で自由にできるように楽曲も全て入れた状態で頑張っていきたいです。
――この作品が初演以来愛されている理由についてはいかがでしょうか。
内海:僕はこの作品が持っている「愛」だと思っています。観終わった後に、とても幸せな気持ちになれるんですよね。そこがいちばんの見どころだと思うし、楽曲やセリフからダンスに至るまで、家族の絆や愛がたくさん散りばめられている。最後はハッピーエンドで終わる王道なミュージカルなんですが、ほかの作品とは違う、いい意味で異色な華やかさがあるんです。男性が女性になって愛を表現する面であったり。市村さんが演じられるザザは女性よりももっと女性らしい愛を表現されていらっしゃって。そういったところがこの作品の魅力だと思っています。いろんな色の愛が存在しているような、そうした部分が面白いなと思います。
――演じられる役についてはどう解釈されているでしょうか。
内海:台本は今はまだいただいていないので深くは掘り下げられていないのですが、(ジャン・ミッシェルは)お二人が演じるザザとジョルジュに育てられてきて、本当に素直に育っている子だなと感じています。そういう素直な部分を出していければいいなと思いました。
――ジョルジュは実の父親ですが、ザザは母親代わり。普通の血縁による親子関係とは違う、精神の結びつきのようなものがありますね。
内海:お二人とこれから話し合って作っていけたらと思っています。台本をいただいてそこから受け取るものと、稽古場で受けるプライベートな部分が舞台上でも活きてきたりしますので、そういう部分を作り上げていきたいです。(ジャン・ミッシェルについては)きっと自分が思っている普通と同じ年代の友達との普通は違うと思うんですよね。それは両親とも男性に育てられたという部分ですが、でもきっと誰よりも愛情深く育ててくれたのがザザで、そこも異色の愛としてジャン・ミッシェルにとってキーになる部分なんだなと…僕も普通でいたいとか、周りと比べてしまうとかそういう時期があったので、なにかそういう昔の自分とリンクさせながら役作りをしていきたいなと考えています。
――役と似ているということでしょうか?
内海:どうでしょうか?素直なところは似ているかもしれません(笑)。
――今回、家族のお話になると思うんですけれど、もし自分だったら家族に恋人とかを紹介したいタイプでしょうか?
内海:悩みますね(笑)。結構、僕自身は家族になんでも言いたいタイプです。でもそれって結構勇気がいる人もいそうですよね。ジャン・ミッシェルは彼なりに決意があって、アンヌを本気で紹介したいと思っている。そこをどれだけ表現出していけるかが課題でしょうか。
――鹿賀さん、市村さんのほかに共演の方々で気になっている先輩方は?
内海:初共演の方ばかりなので皆さん気になるのですが、特に『ラカージュ~』の初演から出演されている森公美子さんからはいろいろとお話を聞きたいですね。僕は今回が初参戦なので、どういう作品なのかということはどんなに台本を読んだとしても、僕一人では解釈が足りないと思うので、あの世界で何百回も生き続けてらっしゃったダンドン夫人ならではの思いや考え方などたくさん聞けたらいいなと思っています。
――今回、内海さんにとって新たな挑戦だなと思っている部分は?
内海:ますは、僕自身初めて日生劇場に立たせて頂くので 劇場に立てるということ自体が新たな挑戦ですし、偉大な先輩方に囲まれて初挑戦の作品なので、フレッシュに、僕にしか出せない色を出せていけたらと思います。
――また、内海さんにとってのミュージカル愛とは?
内海:僕自身、こんなにミュージカルが好きになるとは思ってもみませんでした。「もっとミュージカルをやっていきたい!」と考えたのがここ3~4年のこと。もともと歌が好きで、20歳くらいから路上ライブをしていたんですね。さらにお芝居も好きなので、ミュージカルへ出させていただいたときは「こんなに楽しい世界があるんだな!」って。とくに衝撃を受けた作品が「キンキー・ブーツ」で、シアターオーブで初めて観劇したとき「なんて華やかな作品なんだろう」と思うと同時にそのメッセージ性の強さに驚かされたんですね。それが僕も役者としてそういう作品に参加したい、と思うきっかけでした。今はコロナ禍ですが、こんな状況下でもエンターテインメントの力、ミュージカルの力というものがなにか心に明るい光を照らせると信じているのでこれからもミュージカルを始め、エンタテインメントの仕事をしていきたいです。
――たしかに、ここ2年で大きく舞台を取り巻く状況は変わりました。舞台に対する取り組み方とか、心境が変わったということはあるでしょうか。
内海:やはり、自己管理の意識は高くなりましたね。舞台はみんなでひとつのものを作っているので僕が感染してしまったり、皆さんに感染させてしまったら公演が中止になってしまいます。みんなの仕事がなくなると思うと、現場に行くのもかなりの緊張感で行っています……。本当はマスクをして芝居をし歌を歌わなければならないのは役者としては辛いですが、慣れていかないといけませんね。板の上に立つ他の皆さんも、もちろんそういうストレスはあると思いますが、それはお客様も同じ、マスクをしたり消毒も徹底してくださっている。コロナ前とは違って、お客様があってのひとつの舞台なんだなというのをより一層強く感じるようになりました。そこがいちばん大きいです。でも、マスクをされていてもお客様の反応ってわかるんですよね。ここで声出したいなって部分がきっとあると…その想いは伝わってきます。
――歌やダンスで表現するとき、とくに大切にされているのは?
内海:最終的にたどり着くのは役への想いです。がミュージカルの歌というのはセリフの延長線なのでやっぱりいちばん大事にしているのは役の気持ちの部分ですね。
――『GREASE』の体験を今作に活かせる部分はありましたか?
内海:舞台役者にとって舞台上のことがすべてではなく、日々のケアからはじまり、本当に細かいことなんですけれど、部屋の湿度調整とか。ロングランだとそういう小さい積み重ねが大事になってきます。『ラカージュ~』もたいへん長い公演なので『GREASE』でロングランのミュージカル……10曲以上歌ったりもしていますので、そういう体験をさせて頂けたことに感謝しています。
――今回は『GREASE』とは違う種類のダンスですね。
内海:今までは、運動神経とリズム感でカバーはしていたのですが今は基礎からペアダンスのレッスンをがんばっているところです。ペアダンスは二人の距離感だとか、所作とか手先まで神経を行き渡らせないといけないのでそういったところを細かく表現できたらいいなと思っています。
――具体的にケアはどのようになさっていますか?
内海:寝る前の湿度気をつけたり、柔軟体操したり。いま、ドリルみたいな(笑)マッサージグッズも購入したんです。それで身体をほぐしたりしてます。最近は、お風呂入ったときにダンスでパンパンになった脚を冷水につけてアイシングをしたりしています。いい感じに締まります。あとは、メンタルの部分では良く音楽を聞いています。僕のおじいちゃんとおばあちゃんがスナックをやっているので、くじけそうなときは歌謡曲を聞くと落ち着くんです(笑)。
――『ラカージュ~』は異色の愛、家族の絆を描いた作品ですが、内海さんが最近なにか絆を感じた出来事はありますか?
内海:『GREASE』も絆でできている作品ですが、舞台はナマモノなので、小道具を落としてしまうなどハプニングがあったりするのですが、それも演出であるかのようにみんなでカバーして作り上げていったり、そういう部分でとくに絆を感じますね。
――今後、役者としてどう成長していきたいですか。
内海:30才になった時にどんな俳優になっているかということを一つ目標にしているので、それまで地道に努力していろいろな役ができる役者になっていきたいです。ミュージカルを好きになった3年前くらいからは、いろいろ作品を調べたり観たりしているのですが、観るとやっぱり「俺自分もやりたい」って欲が出てくるんです。そうなるってことはきっと、舞台が好きなんだと思います。映像では味わえない、ナマのビートであったり、心が震える感じとか観劇した人ならわかるゾワッとした感覚は劇場でないと味わえないですよね。
――それでは、最後にメッセージを。
内海:「愛」、異色の愛がテーマになっている作品、ハッピーエンドで終わる王道ミュージカル。観に来てくださるお客様に心から楽しんでいただきたいなという想いでいっぱいです。歴史ある作品『ラカージュ~』は、たくさんの方に愛されている作品なので僕もこれからもっともっと愛して、先輩方の胸を借りてがんばっていければと思います。劇場でお待ちしております!
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。
<物語>
南仏サントロペのゲイクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」のオーナーのジョルジュ(鹿賀丈史)と、看板スターの“ザザ”ことアルバン(市村正親)は20年間同棲し、事実上の夫婦として生活してきた。
アルバンはこのところふさぎこんでいて、ショーの出番に遅れることもしばしば。愚痴をこぼすアルバンとそのご機嫌をとるジョルジュ―いわばふたりは倦怠期なのだ。
ジョルジュには、24年前の過ち(?)から生まれた最愛の息子ジャン・ミッシェル(内海啓貴)がいるが、アルバンが母親代わりとなって手塩にかけて育ててきた。そんなある日、ジャン・ミッシェルが突然結婚を宣言。その結婚相手が、よりにもよってゲイクラブを厳しく取り締まるべきだと主張する政治家ダンドン議員夫妻(今井清隆&森公美子)の娘アンヌ(小南満佑子)で、家族揃って挨拶に来ることになったので、さあ一大事!
ジャン・ミッシェルはジョルジュに、一晩だけマトモな家族に見えるよう取り繕ってくれるよう懇願し、そのうえ、ずっと会っていない実の母親を呼んで欲しいと頼みこむ。それを聞いたアルバンは深く傷つくが、ジョルジュの説得によりジャン・ミッシェルの頼みを受け入れ、叔父として同席するために慣れない“男装”の訓練をするハメに。
ところが、実の母親が急きょ来られなくなってしまい自体はさらに複雑に!
アルバンはついに、女装して母親としてダンドン一家と対面することを決意、馴染みのジャクリーヌ(香寿たつき)の店での食事会はひとまず大成功に終わるはずだったのだが…。
<概要>
ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』
[東京]
日程・会場:2022年3月8日〜3月30日 日生劇場
※2022年全国ツアー公演あり
出演:
鹿賀丈史(ジョルジュ)
市村正親(ザザことアルバン)
内海啓貴(ジャン・ミッシェル)
小南満佑子(アンヌ)
真島茂樹(ハンナ)
香寿たつき(ジャクリーヌ)
今井清隆(エドワール・ダントン)
森 公美子(マリー・ダントン)
ほか
作詞・作曲:ジェリー・ハーマン/脚本:ハーベイ・ファイアスティン/原作:ジャン・ポワレ
翻訳:丹野郁弓/訳詞:岩谷時子、滝弘太郎、青井陽治/演出:山田和也/オリジナル振付:スコット・サーモン
主催・企画製作:東宝/ホリプロ
公式サイト https://www.tohostage.com/lacage/
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし