『SMOKE』を手がけた韓国の気鋭の作家コンビ、チュ・ジョンファ（作演出）＆ホ・スヒョン（音楽）が2018年に制作した作品。日本では2020年7月に初演され、脚本・演出を荻田浩一が務めたが、引き続き荻田が脚本・演出を担う。博品館劇場で上演中だ。
2020年、ミュージカルとしては先陣を切る形で日本初演を迎え、ビニールシートとディスタンスを演出効果に取り組み、コロナ対策を逆手に。今回の再演では自身の父親が殺された事件の真相を追うルキペール家の次男・ルーク役を、日本初演にも出演した東山光明が務める。犯人と目されるルキペール家の長男・テオ役（ダブルキャスト）を大沢健と石井雅登が、テオの恋人・ヘイドン役を彩乃かなみが、ルキペール家に長年仕える使用人・エマ役を池田有希子が、新しく来たばかりの使用人・サイラス役（ダブルキャスト）を伊藤広祥と染谷洸太が、強欲で横暴な富豪であるジョン・ルキペール役を今拓哉が担う。なお東山、池田を除く6名は新キャスト。
物語は、ドストエフスキーの名作『カラマーゾフの兄弟』をベースに、舞台を1990年後半のアメリカ西部に移し変えたもの。ひとつの殺人事件の真相を追ううちに、ある家族――父と息子たち、兄と弟の憎しみと深い因縁を暴き出し、人間の根源的な業が可視化される、サスペンフルでありながら文学的な叙情性を持つミュージカル。人の業に鋭く切り込むパッション溢れる脚本・演出と美しく煽情的なメロディが溶け合う独特の世界観で数多くの熱狂的ファンを生み出している。なお、観劇したのは14日。
生演奏、ピアノの旋律が響く。舞台には透明なパーテーション、これは自在に動く。白髪混じりの男が登場、彼はジョン・ルキペール(今拓哉)、「1997年7月2日、23時12分、私は殺された」と言って笑う。「23時32分、20分後に警察が…」匿名の通報があったという。さらに「残念ながら、私の長男」と…。インパクトのある出だし、殺されたジョン・ルキペール、いかにも金持ちそうなリッチなガウンを着ている。傲慢な空気感。息子が二人いるが、母親が違う。次男・ルーク(東山光明)は弁護士、NYで活躍、長男・テオ(大沢健・石井雅登)は歌手。次男は仕立ての良いスーツ、長男は革ジャン。「俺はやっていない」とテオ。「潔白を証明しないと」とルーク。「罠だ！」「仕組まれていた」「正当防衛を主張しろ」、とにかく、テオにとっては不利な状況しかない。全体としてほぼ歌が途切れない印象。そして登場人物の立場、気持ち、関係性が歌、そして舞台上の立ち位置で判明してくる。死んだ父親は次男の方を向いて嘲るように「お前の連勝記録もこれでストップか」と。世間的には成功者のジョン・ルキペール、だが、性格悪そう、ワンマン、金のためならなんだってしそうな人物だ。
ソロ、二重唱、四重唱、とにかく歌の難易度が高いが、出演者は、皆、歌唱力が高く、聞き惚れてしまう。次第に明らかになってくる事の真相。登場人物は、皆、ジョン・ルキペールを嫌っていた。よって動機は全員が持っている、と言っても過言ではない。微妙に心が寄り添わない雰囲気を透明なパーテーションが象徴する。コロナ対策だそうだが、舞台セットとして違和感なく、むしろ効果的。多彩な楽曲、死んでいるのに今拓哉演じるジョン・ルキペールの存在感。強欲な人物だが、ある意味、欲望に忠実。金、名誉、地位、「立場と地位が人を作る」、彼の信条。人間の持つ業、また「人間は愚かだ」とも。テオはひたすらにヘイドン(彩乃かなみ)を想い、ヘイドンもまた、テオを想う、これも人間。”負”の部分だけではなく、愛もしっかり描かれている。ルークは真実を突き止めようとする。エマ(池田有希子)、血縁関係ではないが、兄弟を見つめてきた立場。そして新しく来た使用人・サイラス(伊藤広祥・染谷洸太)。謎めいた存在。肉親故だからこその相克、父と息子、兄弟、そして彼らを取り巻く人々、犯人は？ということもさることながら、そこに至るまでの過程はヒリヒリするほど。
全てのキャラクターに見せ場、そしてソロパートもあり、歌だけ聴いても聴きごたえあり。休憩なしで、スピーディに展開。メロディーも耳に残り、クオリティの高いミュージカル、サスペンス的な要素もあり、そして人間そのものをあぶり出す。公演は26日まで。
＜13日公開稽古の様子＞
<登場人物>
ルーク(東山光明):弁護士で、ジョン・ルキペールの次男。
テオ(大沢健・石井雅登):歌手で、ジョン・ルキペールの長男。 父親と折り合いが悪く、何年も前に家出をしている。ヘイドンの恋人。
サイラス(伊藤広祥・染谷洸太):新しく入った、ルキペール家の使用人。
ヘイドン(彩乃かなみ):歌手で、テオの恋人。悲しい過去を持つ。ジョンに出資してもらいアルバムを出そうとしている。
エマ(池田有希子):ルキペール家に長らくいる使用人。テオやルークの乳母的な存在。
ジョン・ルキペール(今拓哉):強欲で横暴な富豪。何者かに殺害される。
＜STORY＞
――――俺を殺したのは、誰だ。
1997年、ニューヨーク。強欲な富豪、ジョン・ルキペール(今拓哉)が殺害された。
犯人と目されたのは、父と反発し12年間家に戻っていなかった長男、テオ(大沢健・石井雅登)。
弁護士となった次男のルーク(東山光明)はこの事件の真相を追ううちに、殺害現場から大金が消えていたこと、兄テオの恋人・ヘイドン(彩乃かなみ)がジョンの愛人になっていたことなど、兄に不利な証拠ばかり見つけてしまう。現場で倒れていたルキペール家の家政婦・エマ(池田有希子)はテオをかばうも、新しく入ったばかりの使用人・サイラス(伊藤広祥・染谷洸太)らの証言も、テオが犯人であることを示しているようだ。
この事件の真相は……そして次第に浮かび上がる、家族の相克。彼らが抱える憎しみの行方は……。
＜概要＞
タイトル：Dramatico-musical『BLUE RAIN』
ORIGINAL PRODUCTION BY C101
BOOK BY JOUNG HWA CHOO, MUSIC BY SOO HYUN HUH
日程・会場：2022年1月13日（木)～26日（水） 博品館劇場
脚本：JUNG HWA CHOO
脚本・演出：荻田浩一
音楽：SOO HYUN HUH
音楽監督：河谷萌奈美
出演：東山光明、彩乃かなみ、石井雅登、染谷洸太、伊藤広祥 / 大沢健 / 池田有希子 / 今拓哉
演奏：河谷萌奈美 / 門馬由哉、小金坂栄造
主催：atlas
問合せ：公演事務局 https://supportform.jp/event （営業時間：平日10:00～17:00）
公式HP：https://g-atlas.jp/bluedramatico/
公式Twitter：@BlueDramatico
(C)「BLUE RAIN」製作委員会／岩田えり
