『シュレック・ザ・ミュージカル』 演出 岸本功喜×翻訳・訳詞・音楽監督 小島良太 クロストーク

ブロードウェイで人気を博した『シュレック・ザ・ミュージカル』のトライアウト公演が8月15日より開幕する。『シュレック』は、『マダガスカル』『カンフー・パンダ』など数多くの子供向けアニメ映画を手掛けてきたドリームワークスが2001年に制作、史上初のアカデミー長編アニメ映画賞を受賞したアドベンチャーコメディ映画。
「仲間との絆」や「真実の愛」、「困難に立ち向かう」という普遍的テーマをジョークやパロディ満載で描いた『シュレック』は子供だけでなく、大人も夢中にし、公開から20年経った今でも世界中で愛されている。
そんな映画『シュレック』を元に2008年にブロードウェイにてミュージカル化され大好評を博した本作が、日本初上陸!
大人も子供も夢中になる魅力を凝縮した笑いっぱなしの90分間。キャストはフルオーディションで選出、主人公・シュレックに、spiが決定!186cmの体躯と 舞台『信長の野暮』や『テレビ演劇サクセス荘』でコメディセンスを発揮。ヒロインとなるフィオナは、今年の11月には『天使にラブ・ソングを~シスターアクト~』ティナ役での出演も控える福田えり、喋るロバ、ドンキーには、有名テーマパークでアクター・シンガー・MC・キャラクターボイスを務めるほか、盤石の歌唱力で幅広い活躍を見せる吉田純也。ファークアード卿は、99年『RENT』でミュージカルに出演以降、『レ・ミゼラブル』マリウス役など数多くの大作ミュージカルのメインキャストとして活躍する泉見洋平。他にも、ジンジャーブレッドマン役の岡村さやか、ドラゴン役の須藤香菜、ピノキオ役の新里宏太 など、歌と演技を兼ね備えた面々に加え、次世代のミュージカルを担う若き俳優たちが集まった。この夏最高の話題作、演出の岸本功喜さんと翻訳・訳詞・音楽監督の小島良太さんに企画のことや作品について、また翻訳・訳詞のことなどを大いに語っていただいた。

――これを手掛けることになった時のお気持ちをお願いいたします。

小島:驚きました!我々はロンドンで10年ほど前に観ておりまして、すごい爆笑の渦だったんです。観劇後は「すごい作品だね」「面白かったね」「こういう作品もあるんだね」と。メインキャラクターのシュレックやフィオナはもちろんですが、各キャラクター、隅々まで個性的で、皆、実力もあり、しかも演出が面白い。そうしたら数年後にこのお話をいただいて、驚きましたが、すごく楽しみにもなりました。我々はオリジナルものを中心にやっていたのですが、今回ブロードウェイ作品をやらせていただけるということはとても光栄でしたし、我々の作品作りにもすごく勉強になる、素晴らしい機会をいただけたことが嬉しかったです。

岸本:作品については小島くんもいってくれたように、2012年にロンドンで観て、盛り上がっていた作品なんです。作品のタイトルが出た時に思わず、僕も小島くんも「あーー!!」って。その当時の記憶が鮮明に蘇りました。企画のコンセプト自体が、日本初演であることも含めて、ワクワクすることが多く、プロデューサーさんのお話がすごくチャレンジングだなと。このトライに対して全てがめちゃくちゃ楽しみになりました。

――向こうではトライアウト公演というのは一般的ですが、それから本公演、日本では馴染みが薄いですが、この企画、より良い作品を作るためには良いステップだと思います。今回のキャストは主演も含めて全てオーディションであるということですが、オールオーディションであるという企画と、すでにキャストさんは決まっていますが、そのオーディションのことですとか、そのあたりを。

小島:今回フルオーディションでやったといいうことと、そこに至ったところはプロデューサーの清水さん、お願いいたします。

清水:夏にファミリーで楽しめる作品を作りたい、というのがベースにございました。探していたら『シュレック・ザ・ミュージカル』が出てきて、「これはいいぞ」と。『魔女の宅急便』をご一緒にやらせていただいた小島さんと岸本さんという、家族で楽しめる作品を作れるチームが身近にいた事も大きかったです。それでご一緒にやりませんか?と、お二人にお声がけさせていただきました。『シュレック・ザ・ミュージカル』は、コメディ要素がとても強く、大人の心にも響くメッセージ性もある全世代が楽しめる作品です。登場するキャラクターは全員個性が強く、しかも歌唱のスキルは必須ですが、皆さん素顔がほとんど出ない…オファーでキャスティングするのは大変だぞと思いました。ですが、俳優さんの“素顔”が見えなくなってしまうことを逆手にとって、一緒にやってみたいというキャストから純粋にオーディションで選んだら、どうなるのかな?という興味と、従来のキャスティングの仕方を一回取っ払ってみた時に、どうなるのかな?今まで出会えなかったキャストに会えるのではないか?と。この作品だったら挑戦できるのでは?と思いました。岸本さんも小島さんも同じところに興味を持ってくださる方なので、時間はないけれどもオールオーディションで、トライしてみたいとお伝えしたら「面白いですね」と快諾してくださいました。作品が強いので、この方法できっと子供も大人も楽しめるものになるぞと。そんな願いを込めてスタートしました。

――フルオーディション、日本では珍しいですね。また、それをしたことによって出会える方々、基本的にトライアウト公演ですので、その後、本公演、しかも日本初演、皆で試行錯誤しながら創っていくのはエキサイティングですね。企画も全てひっくるめて、理解し、賛同する方々がオーディションで集まる、最高の作品が作れそうですね。いろんな方がオーディションにいらっしゃったと思うんです。そのオーディションのエピソードとかあれば。

小島:フルオーディションということで、普段のミュージカルのオーディションよりも、本当にものすごい人数と色々なフィールドの方々に受けていただきました。最初はリモートで予選を行い、それから本選という流れでしたが、ありがたいことに実力のある方がものすごくいらっしゃるんだなと…ヒシヒシと感じました。それぞれのキャラクターに細かく求められている要素があるので、テクニックはもちろん外見的な雰囲気なども含めてイメージに合うか丁寧に選ばせていただきました。おかげさまで役とすごくハマっているキャストさんばかりで、稽古中「もう、そのものだね!」と岸本くんとも話しており、本当に面白いです。例えばピノキオ役は「この役って日本でできる人、いるの??」って思っていたぐらい特殊な実力が必要。男性ですが、ソプラノの音域の声を出さなきゃいけないので、選考も難しかったんです。でも、そこの枠に対してもレベルの高い方々がたくさん応募してくださって、「こんな人もいる、こんな人もいる」っていう中から選考させてもらい、本当にすごく面白かったです。

――フルオーディションを行うことで本当に力のある人がキャスティングされるのはいいことですし、実力があっても現状あるキャラクターに合わない人も当然いらしたわけですが、そういった方々と製作側との出会い、『シュレック・ザ・ミュージカル』ではご縁がなくても、今後に繋がっていくことで、フルオーディション、そういう出会いは意味があると思います。

岸本:今、おっしゃっていただいたことはまさにそうです。僕たちは普段はオリジナルを作っていますので、それぞれの企画にそれぞれのコンセプトや良さがあります。今回はブロードウェイで完璧に出来上がっているものですから、日本版が見劣りするのは嫌で
すし、日本人キャストで海外でもヒケを取らないようなものにしたいですね。そういう意味では今回最高の環境を用意していただけたと思います。
今回フルオーディションをすることによって普段出会えない方々にも出会えましたし、非常に楽しかったです。小島くんはピノキオを例に出しましたが、本当に個性豊かなキャラクターがたくさん登場しますし、誰1人あますことなく、個性的かつ実力派が揃っていて見どころ満載です。稽古場は本当に一瞬一瞬が楽しくって、それぞれの役に色んなアプローチをしたり、見つける作業も楽しい、主演のspiさんをはじめ皆さんの芝居を読み解く姿はとても素晴らしく刺激的。こんなに恵まれた環境でいいのかな?というくらい毎日、感謝しています。

――現場は本当に楽しそうですね。

岸本:換気はしっかり、心は熱く。気持ちは猛暑です(笑)キャストのみなさんがポシティヴで持てる力を全て出してトライしてくださるので、毎日がエネルギーに満ち溢れている、すごくいい稽古場で毎日が本当に楽しいです。

――『シュレック・ザ・ミュージカル』に限らず、翻訳、特に歌ですが、日本語と英語の違い、英語の歌詞を機械的に翻訳すると絶対にはみでる、訳詞の苦労ですとか。台本拝読しましたが、ネタバレにならない範囲内でお願いいたします。

小島:おっしゃるように、英語を日本語にするとき、文章の音節数、英語だと、例えば「I・love・you」、3音節で言えることが、日本語では「私はあなたを愛しています」と15音節になってしまう。つまり5倍、間伸びしてしまうので、ものすごく言葉を選ばないといけない。文字数を少なくしても真意が伝わるように言葉をどう選ぶのか、何を取捨選択するかすごく悩みました。これはどの翻訳ものでも翻訳者が悩むところかと思います。そこで考えるのですが、英語の歌には韻を踏ませるがために言葉遊びとして入れている、内容の重複しているそれほど重要じゃない歌詞もあるんです。そういうものを間引いたり繰り返しを削ったり。、物語の本質として言わなきゃいけない言葉や面白い言葉をどれだけ取りこぼさず訳せるか、いうのを考えましたね。
もう一つは英語と日本語の文法、言葉の順序ですね。そのまま訳すと言葉の場所が逆になってしまうんです。そうならないように音楽のイメージというんでしょうか、なるべくこのセクションで言っている内容をそのまま日本語にしていって紡いでいけるように、マッチする方法を考えました。本来作曲者、作詞者、原作が意図した「このメロディの部分でこの内容を歌う」という流れを汲む作業です…難しいですが、なるべくそのイメージを大切にしてやるように工夫はしました。
また、英語でもじっているユーモアやローカルなアメリカンジョークがかなりあり、直訳、つまりそのまま訳すと全く意味をなさないものがかなり多い、ただし、このエッセンスを日本語バージョンとしてどういう風に表現したらいいか、話が通るのか、面白くなるのかっていうところはこの作品の中ではすごく重要な部分になるので、こういうもじり方をしたら面白くなるんじゃないのかっていうのを考えて、今回、いろんなチャレンジをさせていただきました。今回トライアウト公演なので、いろんなところで試してみて、本当のお客様の反応を見ないことには…「どうなんだろう?」ってドキドキしながら、やっているものもあります。公演が始まってからも「やっぱりこれ、こういう風にしてみようか」とか。試していけるような公演にできたらいいのかなと思っています。

――いろんな意味でのトライアウト、ブロードウェイ版を拝見すると、向こうのジョークも多いし、それをそのまま日本語に訳しても日本人には何のことやら、さっぱり?になっちゃうので、そこを台本と照らし合わせてみたのですが、日本人にもわかるように、日本風っていうんでしょうか、例えば、塩胡椒で味付けしていたものを醤油と味醂で味付けしたのかな?と受け取りました(笑)。

小島:(笑)そうですね。「シュレック」の物語の世界観からはもちろん離れないように気をつけながら日本の方でもわかるように、またファミリー層のお客様も楽しんでもらえるように、言葉を選ぶようにして作っていきました。

――それでは、今回のみどころを。とはいえブロードウェイ版を観たことがある方ならば見せ場の部分とかわかってしまいますけれども。

岸本:この作品に関しては脚本の段階から、稽古に入る前までも作業として分断させずに、演出も含めて事前にディスカッションしながら作っているんです。「そこまで外しちゃうとわからないよね」というところも細かく聞きながらできたのでよかったなと。チームとしてアプローチできること、英語が堪能な小島くんですから、音楽的なアプローチだけでなくいろいろと演出に関わることも含めてできた。できる限りブロードウェイの知識やベースがなくても楽しんでいただけるようなテイストにしています。本来ならば稽古場に翻訳や訳詞家が入ることはあまりないのですが、彼が入ることにより常に相談しながら微調整ができるというのが、演出としてやりやすかったですね。
また、現場で役者が出してくる芝居を観て「やっぱりこっちのほうがいいよね」ということもありますし。お客様の反応を待たずに日々アップデート、書き直しができるというのは大きいです。ハードルが高いですが、日本版のキャストは勝るとも劣らないです。むしろいいものがたくさん用意ができているんじゃないかなと思うのでぜひ細かな部分まで楽しんでいただければと思います。

――『シュレック・ザ・ミュージカル』は基本的にお子さんだけでなく、どの世代でも楽しめると思いますし、結構深い話も見え隠れしていますよね。シュレックはあのゴツい緑色の身体、外見で判断されて逃げられてしまうということに対して「好かれるのはどうもむずがゆい」みたいなことも言っています。大人の心にも刺さるものがあるので本当に幅広い世代でも楽しめそうですね。

岸本:実は、ファミリーミュージカルとして作ってはいないんです。今回「こども料金」を設定しているのは、子どもの頃に観たミュージカルってその後にかなり影響を与えたりしますよね。ミュージカルは、いわゆる“舞台大好き”な人たちに支えられている部分がございますが、単純にこの作品の素晴らしさを伝えたいので、料金をリーズナブルに、家族連れでも気軽に観られる金額設定にしています。もちろん目が肥えているようなお客様にも満足していただけるキャスティング、作品力。どなたでも楽しんでいただける普遍的な作品だと自信を持っております。多様性、分断の問題など、テーマも今の方が当時よりも、すごくマッチングしている。ただ、表現が当時のアニメの過激さやユーモアを孕んでいて、現代だと少しウィットに富みすぎている部分があるので、そこは小島くんとマイルドに調整しようかと相談しているところ、そこもトライですね。向こうのブラックジョークって日本人にはどうも伝わりづらかったりしますし、エンタメとして楽しめなくなってしまう(笑)。作品が持っている軽快さは失いたくないので、ベースのお芝居をしっかり作ってからそれを「笑い」でコーティングする、という作業を意識しています。そして、この作品が持っている社会に必要なメッセージがふんだんに盛り込まれているので、この作品を選択したことは現代社会においてめちゃくちゃ合っていたんじゃないかなと改めて思います。

小島:大人がキャッチできる作品の深みと単純に観て楽しい部分、両方の楽しさがある作品です。もちろん、ちりばめられた笑いの要素を作品としてがエンターテインメントとして確立させているものが音楽。これが本当に素晴らしくて!他にも『モダンミリー』などのブロードウェイ・ミュージカルを手掛けるジニーン・テソーリによる快活なサウンド!すごくかっこよくて、素晴らしい曲ばかり。そしてブロードウェイには作曲家とは別に、オーケストレーターという編曲専門の担当が必ずいます。今回はダニー・トゥルーブという方がやっていらして、ディズニー黄金期の作品をほぼ網羅しているというほどの方で、ブロードウェイの最高峰のオーケストレーターなんです。曲をさらに楽しくさせる楽器編成というか、思わずウキウキする曲アレンジばかりなんですよ。お子さんも、大人の方も満足できる素晴らしい音楽なので、そこも見どころなのではないかと。あと、ミュージカルをよく観られている大人の方にもおすすめできる点としては、ほかの作品のパロディがたくさん散りばめられており。ニヤリとしてしまう部分があるかもしれません(笑)。それを見つけてもらえたらまた楽しめるんじゃないかなって思います。

ーー最後に岸本さん、締めを。

岸本:この作品はエンターテインメントの良さ、力強さに満ちています。ミュージカル大好きな方から、お子さんまで楽しめる作品です。本来人間が五感で感じる感覚…僕はお子さんのうちから一流のクリエイターがつくったものに触れていただくことが大切だと考えています。メインキャストの皆さんだけでなく、全員がソリストです。ぜひ劇場に足を運んでいただいて、楽しんでいただければ幸いです。お待ちしております。

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしております。

▼配役
spi:シュレック
福田えり:フィオナ
吉田純也:ドンキー
岡村さやか:ジンジャーブレッドマン ほか
須藤香菜:ドラゴン ほか
新里宏太:ピノキオ
泉見洋平:ファークアード卿
▼あらすじ
物語の主人公は、人里離れた森の沼のほとりに住む、怪物シュレック(spi)。
彼にまつわる恐ろしい伝説とは裏腹に、気ままな生活を送っていました。
そんなある日、領主によって国を追放されたピノキオ(新里宏太)をはじめとするおとぎ話の住人たちが、シュレックの住む森に押し寄せてきます。
静かな生活を取り戻したいシュレックは、追放令を取り消すよう領主・ファークアード卿(泉見洋平)に交渉。
真の王になるためにプリンセスとの結婚を目論んでいたファークアード卿は、ジンジャーブレッドマン(岡村さやか)から情報を聞き出し、シュレックたちに「自分の代わりにドラゴン(須藤香菜)と戦って囚われの姫・フィオナ(福田えり)を救い出せ」という交換条件を出します。
仕方なくシュレックは、お調子者の喋るロバ・ドンキー(吉田純也)を道連れに、沼を取り戻すため冒険の旅に出たのですが・・・・

概要
公演名:『シュレック・ザ・ミュージカル』トライアウト公演
日程・会場:2022年8月15日(月)~28日(日) 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
★15日(月) プレビュー公演。

スタッフ
原作:ドリームワークスアニメーション『シュレック』/ウィリアム・スタイグ『みにくいシュレック』
脚本・作詞:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
作曲:ジニーン・テソーリ
翻訳・訳詞・音楽監督:小島良太
演出:岸本功喜
振付:岸本功喜・中塚晧平 美術:松生紘子 照明:日下靖順(ASG) 音響:遠藤宏志(アコルト) 映像:O-beron inc.
衣裳:永橋康朗(はせがわ工房) ヘアメイク:小竹珠代 特殊造型:林屋陽二 歌唱指導:小島良太 稽古ピアノ:森本夏生演出助手:坂本聖子・加藤由紀子 舞台監督:辻 泰平(DDR) 技術監督:堀 吉行(DDR) 制作:S-SIZE
出演:spi 福田えり 吉田純也 岡村さやか 須藤香菜 新里宏太 鎌田誠樹 鈴木たけゆき 熊澤沙穂 岩﨑巧馬
大井新生 澤田真里愛 石田彩夏 大村真佑 小金花奈・矢山花(Wキャスト)/泉見洋平
主催・企画・製作:フジテレビジョン/アークスインターナショナル/サンライズプロモーション東京
公式HP: https://www.shrek-musical.jp/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし