『シュレック・ザ・ミュージカル』フルバージョン公演がこの7月に日本青年館ホールにて上演される。
『シュレック』は、『マダガスカル』『カンフー・パンダ』など数多くの子供向けアニメ映画を手掛けてきたドリームワークスが 2001 年に制作し、史上初のアカデミー長編アニメ映画賞を受賞した大ヒットアドベンチャーコメディ映画。
「仲間との絆」や「真実の愛」、「困難に立ち向かう」という普遍的テーマをジョークやパロディ満載で描いた『シュレック』は子供だけでなく大人も夢中にし、世界中で愛される名作。そんな映画『シュレック』を元に2008年にブロードウェイにてミュージカル化され、2022年8月に90分短縮バージョンがトライアウト公演として日本初上陸した本作。
大人から子供まで楽しめる物語や音楽などが話題となり、大好評のうちに終幕。
今回、フルバージョン上演、演出の岸本功喜さんとシュレックを演じるspiさんのクロストークが実現した。
ーーオーディションのことも交えつつ、トライアウト公演手応えをお願いいたします。
岸本:オーディションでは急な募集にもかかわらず、本当に数多くの方々にご応募いただきました。この中から、それぞれの役、キャラクターにマッチングしているということを、すごくニュートラルな目線で既成概念に囚われずに、いい形のオーデションをさせていただきました。この作品にとって本当に必要なエッセンスを持ち合わせた方、有名な方々もたくさんいらっしゃいましたけど、この作品に関して実力があるという方を選ばせていただいています。実力が拮抗する中でも、キャリアだとかは安心材料としつつ、とはいえ、そういう意味では役、作品自体がみなさんを選んだじゃないかなと思います。
手応えといえば、お客様の反応は本当によかったですよね。一方、ある部分では、自分の力不足を痛感することもまだまだいっぱいありました。本当に貴重な経験をさせていただいたトライアウト公演だったと思っています。
spi:実は僕、オーディションはギリギリの滑り込みで、スケジュールが被ってていたから「出れないかもなー」って思っていたんですよ。ですが、家族の後押しもあって、ようやく間に合わせることができて。「じゃあ受けてみよう」と。で、めでたく選出していただけて本当に光栄です。
トライアウト公演の手応えとしては僕、今回一緒に作らせてもらったので、いいものができたんじゃないかなと思いつつ、前回作ったものの集大成として、フルバージョン公演をさせていただける。トライアウト公演はお客様の反応もとてもよかったし、子供たちの笑い声もたくさん聞けたのも大きかった。楽しんでもらえたんじゃないのかなと思っています。
ーートライアウト公演拝見しております。面白かったです。
spi:ありがとうございます。
ーー出てくるキャラクターの面白さが突き抜けてて(笑)。今年は晴れてフルバージョンでの上演ですが、カットされたところも復活して。今、お稽古の最中ですが、今のお稽古の進行状況は?
またキャストさんについてもお願いいたします。
岸本:前回から引き続き今回も出てくださる方々については、この作品は全ての方がメインキャスト。 それぞれのキャラクターの位置付けとか、去年から贅沢な時間だったんですけども。そういう意味では、皆さんキャラクターを見つける時間にたくさんボリュームを割いていただいていたんですね。振りとかそういうことではなく、皆さんが自分のキャラクターを見つける時間、 解釈に時間をたくさん費やし、役柄がフィックスするまで丁寧に作り上げてもらったなというのがあります。解釈ですでにたくさんの時間を使っていたのと、仕上がった中に、新しいキャストさんも中に入るわけなのですが、それもすごく前回より時間をかけてもらっています。すでに世界観ができていますしね。仕上がった登場人物の中へ新しいキャストさんが、短時間にもかかわらず、すでに追いついていってる印象も受けました。そういう意味では、新しいキャストの皆さんもこれまでのキャストも、すごく作品に向き合ってくださっているのを感じたので、そこは昨年同様、楽しかったなと思っています。加えて、一人ひとりが自由にキャラクターとして動けていること自体にも、楽しめているんじゃないかなと。
spi: 前回作ったものがあるので「そのままで大丈夫だな」っていうのがありましたので、完成までは結構スピード感がありましたね。どんどんできていくので、僕自身がまだ追いついてないな、と思ってしまってる部分はあります。僕、セリフ覚えるの苦手なので……。あとは、演出家さんに対してただ「ハイ」と聞くだけじゃなくて、「ここ、こうしていいですか」とか能動的に取り組むようにしているんです。今回はそれで結構OKしてくださったので、やりやすかったですね。それは僕と演出家さんだけではなくて、ドンキーと結構絡む場面が多いのですが、そのスタイルについてきてくれる役者さんがいてくれるのがありがたい。だから僕としてはすごく居心地がいいというか。やりやすいです。例えば「一回動いてみる」、「一回やってみる」っていう精神がすごく大事だと考えているんですけど、みなさんそれがあるから、ものすごくスムーズに進んでくれて、やりやすいなと思っています。
ーー稽古のエピソードとかあれば。
岸本: spiさん含めて、メインキャラクターの話に当てさせていただくと、spiさんの話と重複しますが「一回、やってみる」作品の作り方、そのうえで「違うな」と感じたところは「違う」とはっきり言えるような…そこは、spiさんが率先して本当に理想に近い形で作っていただいているなと。この現場において、キャラクターを深めるということでは、理想に近い形になっていると思っているんです。結局、役者さんが演出家と向き合う現場は、spiさんが真ん中にいてくださることによって、全体にその空気感が浸透してるということ、ここが大きい、演出家として、そこがありがたいんですよ。この作品については全てオリジナルで作っていきたいところがあるので。トライアウト公演の皆さん、本当に楽しい現場になっているんじゃないかと思います。
spiさんについては、役に合ってるのはもちろんですが、単純に一人のアクターとして、尊敬できるんですね。ちゃんと真ん中にいてもらって、稽古場を一緒に作ってくれるという、稀有な方だと思います。だから、本当にこの稽古場が一番純粋に楽しいだけではなくて、尊敬と畏敬の念を持って演出の時間を過ごせるということが、貴重ですね。面白いことを言えたらいいんですけど(笑)。やっぱり、純粋な気持ちで没頭できる舞台にしたいので、来ていただけるお客様に楽しんでいただきたい。ポップカルチャーとかもそうだと思うんですけど、エンターテイメントって 大衆への奉仕と、人が生きることに対しての肯定なんじゃないかなと思っているんですね。そこがこの作品の主となる部分というか、そこがすごく楽しんでいただきたいところではある。しかも、これはライブエンターテインメント。やっぱり、ライブにしかできない空気感ってありますし、同じ舞台やパフォーマンスは二度と生まれないですからね。それに対する価値が再認識できるところが、やはりすごく素晴らしい。
spi:実は、必死過ぎて作っている最中は全然客観的に見れてなくって。何がどういうエピソードになるのか、僕たちよりはスタッフの方々のほうが客観的に見られているんじゃないかな、と思っていました。仕事人ばっかりで、 スピーディーに作っていくようなイメージ。どんどん面白くしていくという作業はありながらも、アンサンブルさんとかが失敗したりとかセリフが飛んじゃったりとか、表現の方向性が違っていたりとか、そういう瞬間がもしあったとしても、周りのみんなが笑ったり、それを受け入れている空気、というのはよく見かけるんですよ。それってすごく、ここが安全な場所だって思えている印象。1ミリも間違えちゃいけない現場を、僕は経験しているので。そういうときって間違えたりすると「この出来損ないが!」といったような雰囲気になることもあるんですけど。それで自己嫌悪に陥ったりね。でも一方で、この作品に関しては作っている段階では「どんどん前に進んでいこうね」っていうのを楽しく、気楽に力抜いて、作っていってるんだろうなっていう印象です。
ーー今回の見どころ、個人的にはフルバージョンになって、前回カットされたところが出てくるのが楽しみですが、見どころについて。
岸本:見どころはやっぱり、上演時間が単純に長くなっているので、 キャラクターの掘り下げがよりできていますよね。トライアウト公演はそれはそれでめちゃくちゃ好きではあるんですけど。結局、ちゃんと、その整理されて、本当に必要なものだけを抽出して、単純に時代に合ってるっていうんでしょうか…トライアウト公演はね。今は動画を1.5倍の速度にしないと飽きちゃうような人も多いくらいだから、ショートのスピード感はすごく時代に合ってるなと思っていたんです。一方、フルバージョンになると、知っているシーンでも解釈が変わったりもするので、作品的にも変わっていたり。なので、トライアウト公演って結構好きだったんです。で、フルバージョンは何がいいかっていうと、『THAT’S ENTERTAINMENT』が盛り盛りになったところ。ちょっと時間が伸びた分、ボリュームが増しているから、子どもたちが「大丈夫かな?」「ずっと座っていられるかな?」っていうのが懸念としてはあります。小さい子はもちろん、すべての世代に観てもらいたいと思っていますから。そこは一つの基準として大事にしているところですが。それを忘れるくらい、あっという間に時間が過ぎる、それだけ圧倒的な技術で創り上げる役者たち。この長いセリフをどうやって、この長いシーンをどうやって、処理できるのか、それでいつも頭悩ませながら稽古場に行くんですけど。そんな心配事が1ミリもなく、稽古の終わりには、吹き飛んでいるくらい役者の皆さんが本当にある種、難しいセリフも難なくこなしてくださって。あとナンバーに関しても「これはトライアウト公演の方が聞きやすいんじゃないかな」っていうものであっても、一瞬で自分のものにしちゃう。本当に役者さんたちがこの作品を作るということ全てに没頭している印象なんですね。劇場にきていただければわかるのですが、むしろ、1ミリも長くなく、よりこの作品への理解が深まる、華やかなダンスナンバーも含めて、僕が「どう料理しようか」と悩んでいることが薄っぺらくなるくらい、それくらい主演のspiさんはじめ、圧倒的に皆さんを引っ張ってくださっている。だから全てがめちゃくちゃ面白いと思うんです。これは皆さん楽しんで、きていただけたら。トライアウト公演を見ていただいた方も、見てない方も、純粋に、そんなの関係なくこの作品に没入して、この物語の世界を楽しんで帰っていただけると思っています。フルバージョンとか抜きにして、純粋に贅沢な時間を過ごしていただく、ミュージカルの醍醐味がたくさん詰まっていると、自信を持って伝えていきます。
spi: 1幕ラストの曲が見どころかなと。そう思いつつ、ハイライトするなら全部といいたいところなんですけどね。ファークアード卿の周りは大人向けのいろんな皮肉だったり、ちょっと独裁国家のような、社会的な風刺がすごくある。演じる泉見さん自体はすごく純粋な方なんですけどね。だからこそ、お芝居が際立っているんですよ。だからファークアード卿には、悪意のなさからくる、残酷さみたいなもの。子供にはわからない、大人だからわかるその捻れた人物像に面白みがあって、それをお稽古で見ています。
岸本:お子さんからみた面白いキャラクターとして、ちゃんとエンターテインメントとして消化されているのですが、一方大人の解釈もできるというのが、この作品ならではですよね。それをどちらもちゃんと拾える度量というんでしょうか、幅広さっていうのを、メインの4役のみなさんは持ち合わせていて。どうしてもどちらかに寄っちゃう…大人が楽しいものはお子さんがちょっと退屈だったりするのですが、これはアニメーション以上に全ての世代の皆さんが楽しんでくださるものになっているんじゃないかなと思います。ファミリーミュージカル、”ファミリー”っていう肩書き、それも大事ですが、どんな人でも楽しめる作品になっていると思いますよ。
ーー今のご回答と重複はするのですが、最後に締めをお願いします。
岸本:入門っていうんでしょうか、そういう、お子様でこれからミュージカル観るよという方にも、入り口として入りやすい作品ではないでしょうか。僕も10年前にイギリスで見て、純粋に楽しかった記憶がありますし。普段、たくさんミュージカルを観られている方にも多分、楽しんでいただける作品になっている。そういう意味では、すごく幅広い方が楽しめるようになっているんじゃないかなと。生オケですしね。とにかくキャストの皆さん、本当に素晴らしいので、必ず、推しができると断言できます(笑)。濃いキャラクターを皆さんちゃんと作ってるので、純粋にいろんな意味で、軽い気持ちで劇場に来て、だけではないんですが、必ず、帰り際には気持ちが明るくなるように、がんばりますので!ぜひ一度、足を運んで観にきていただけるよう、もちろん何回でもみたいなって思っていただける舞台になっていますので、何度でも来てください!
spi:いろんな舞台があるけど 、舞台って敷居が高いなと思ったり、小難しいって言われたりもしますけど。その中でも「シュレック」は、小さい子でもすぐに覚えられる内容ですし、大人でも、敷居が相当低い。本当に気楽に、遊園地のなかのステージを観に行く感覚でもいいですし。本当に面白くってわかりやすくて、今の世知辛い自分の人生を一瞬忘れることができる。もしも自分の人生の中で何か変えたいなっていうサインを探しているとしたら、それがそのサインかもしれない。むしろ、この作品こそ、舞台とか観たことのない人、しばらく観てない人、初めて誰かに見せたいなら、ピッタリなので。ぜひ、楽しんで観てほしいと思います。
ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。
<トライアウト公演レポ記事>
<演出 岸本功喜×翻訳・訳詞・音楽監督 小島良太 クロストーク>
キャスト ※(★)はトライアウト公演にも出演したキャスト。
シュレック spi(★)
フィオナ 福田えり(★)、ドンキー 吉田純也(★)、ファークアード卿 泉見洋平(★)
ジンジャーブレッドマン 岡村さやか(★)、ドラゴン 須藤香菜(★)、ピノキオ 新里宏太(★)
▽男性キャスト
佐々木誠、鈴木たけゆき(★)、岩﨑巧馬(★)、清水泰雄、深堀景介、村上貴亮、横田剛基、中桐聖弥
▽女性キャスト
咲良、元榮菜摘、寺町有美子、澤田真里愛(★)、石田彩夏(★)、青山瑠里
▽子役
矢山花(★)、本木麻由花、三浦あかり
概要
公演名:『シュレック・ザ・ミュージカル』 フルバージョン公演
期間会場:2023年7月8日(土)~16(日)、7月22日(土)~7月30日(日) 日本青年館ホール
スタッフ
原作:ドリームワークスアニメーション『シュレック』/ ウィリアム・スタイグ『みにくいシュレック』
脚本・作詞:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
作曲:ジニーン・テソーリ
翻訳・訳詞・音楽監督:小島良太
演出:岸本功喜
主催・企画制作:フジテレビジョン/アークスインターナショナル/サンライズプロモーション東京
公式 HP: https://www.shrek-musical.jp/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし
撮影:金丸雅代