本来は昨年に開幕するはずだったディズニー最新ミュージカル『アナと雪の女王』が満を持して6月24日開幕する。年内のチケットはほぼ完売、観客の期待の高さをうかがわせる。
開演前、緞帳がすでに”アナ雪”、タイトルロゴ、城、街、そしてオーロラが!刻々と変化し、かなり、リアル。始まる前から劇場は作品世界観に包まれている。そして吹雪の音、いよいよ始まる、といった雰囲気で客席は静かにテンションが上がる。
エルサとアナの幼い日々、優しい父と母、幸せなロイヤルファミリー、無邪気に遊ぶ姉妹。ミュージカルナンバーで綴られる(「二人から少しずつ」というナンバーが可愛らしく、童謡っぽい)。エルサは子供らしく、ちょっとした魔法を見せ、はしゃぐアナ。しかし、その魔法が思わぬ事態を生む。魔法のパワーが使ってる本人の想定を超えていた。アナが倒れる、驚くエルサ、心配な両親。エルサは手袋をはめるようになり、アナとは今まで通りに会えなくなってしまう。そして両親は事故で死去、たった2人きり、そして成人する。ここまではかなりのアップテンポで進行する。アニメ映画を観ていれば、展開も結末もわかりきっているが、それでも見入ってしまうのは作品の力。
おなじみのキャラクターが次々と登場する、絵に描いたようなイケメン王子・ハンス。トナカイ・スヴェンを連れたクリストフ、あとは…お待ちかね!オラフ!可愛らしくも可笑しい。山で出会った雪だるまであるが、実はエルサとアナが幼い頃に作った雪だるまだった。夏に憧れているのだが、夏を憧れて歌うナンバーで軽快なダンスを!パペットであるが、これがアニメ版から出てきたかのようで!おお〜と見てしまう。
ストーリーはおおむね、アニメ映画と一緒であるが、あくまでも”おおむね”。日本で制作される原作モノの舞台でも昨今は原作と少し違ったり、あるいはオリジナルストーリーであったりするが、原作そのままではないところに舞台にする意義がある。大きな相違点はアニメでは”トロール”、舞台では”隠れびと”。この”隠れびと”は不思議な力を持つ民。物語の中で重要な役割を果たす。その他、どこがどう違うのかは劇場で確かめて欲しいところ。そして描かれている人物像、エルサとアナ、正反対な性格、姉は落ち着いた気品を漂わせて毅然とはしているものの、どこか陰りがあり、自分の殻を破れないでいる。戴冠式の場面では女王として威厳を漂わせつつも、どこか不安そうな表情を見せる。
対する妹のアナは天真爛漫でちょっと落ち着きがないが、自分の気持ちに正直だ。自分の感情の赴くままに行動、よってイケメン王子・ハンスに一目惚れし、ソッコーで結婚したいと決断してしまうくらいの勢いだ。
舞台では幼い日々から丁寧に描いて、2人の心情、絆、互いを思いやる心を深く、立体的に観客に提示する。久しぶりに会うも衝突してしまう、その時の哀しい気持ち、お互いを愛しているからこその衝突であり、そこからの後悔。思わず、涙ぐんでしまう観客もいるかもしれない。だからこそのエルサの、アナの行動、そしてエルサの気づき、1幕ラストの「ありのままで」は、文字通り、”自分はそのままの自分でいいのだ”と気がつき、心を、気持ちを解放する瞬間。ここの歌唱シーンは圧巻で、舞台装置の素晴らしさや舞台効果も相まって、釘付けな場面。アニメのシーンも印象深いが、舞台はまた違った驚き。エルサが築き上げた氷の宮殿、なんと本物のスワロフスキーをあしらい、宮殿にふさわしい煌びやかさ。
また、2幕では冒頭で観客に向かって!いじられたら、素直に応じよう。そこからサウナ付き山小屋のシーン、和み、笑える場面、ここで歌われるナンバー「ヒュッゲ」、新曲であるが、いわゆるブロードウェイミュージカルなナンバーで、着てる(着てない?!)ものが!。
そして場面変わり、エルサとアナが再会、エルサは国が凍ってしまったことを知らなかった。そこから怒涛の展開、ラストへと突き進んでいく。2幕の最大のハイライトシーン、アナがエルサを身を挺して守るシーンは、究極のアナログ。ハンスがエルサに襲いかかる、身を投げ出すアナ、愛する姉のために。真実の愛は…それまでの凍てついた世界が…わかっているが、それでも泣けてくる瞬間。
脇を彩るキャラクターにも注目、トナカイ・スヴェン、動きが!そこにスヴェンがいる!ひょんなことでアナと出会うクリストフ、彼の心情の変化はアニメ版もそうだが、なかなか自分の心に気がつかないキャラ、そこが彼の良いところ。ラストでアナと抱き合う場面では、わかっているのに口元が緩む瞬間。山に行く途中で出会うオラフ、チャーミングな性格で雪だるまなのに夏が好き!オラフファンは多いと思うが、期待以上のオラフ!ハンス王子、最初はその正体がわからないが、2幕で本性がわかる、ディズニー・ヴィランズ。単純な”悪者”ではなく、人間が持っている負の側面、彼は自国では大勢の王子たちの中で末っ子、王位継承権はない。そういった背景も見逃せない。こういったキャラクター造形が作品に奥行きを与える。
上演時間は休憩時間を除くと正味2時間ほどで、アニメは102分。この時間の違い、生の舞台はアニメとは”言語”が異なる、よって上演時間を長くし、楽曲も増やす、オリジナル曲にプラス10曲以上!このプラスされた楽曲が実は物語に深みと陰影、立体感をもたらしている。とりわけ、2幕第6場で「モンスター」という楽曲が場面的にもハイライトシーン。舞台上で歌うエルサ、背後から忍び寄る、彼女を捉えようとするハンスら。交錯しつつ、舞台上、楽曲に合わせて氷の鋭い柱が!エルサは「ありのまま」で自分はそのままの自分で良いのだという気づきを得て高らかに歌うが、そこから先、アナや人々のために、一種の”自分超え”というのだろうか、悩み、苦しみを経て堂々とハンスらに捉えられるのだが、エルサが本来持っていたであろう気高さ、強さが開花した瞬間に思える。「ありのまま」もそうだが、この「モンスター」という楽曲も聴く人の心を揺さぶるナンバー。ゲネプロとプレビュー公演ではエルサは岡本瑞恵、アナは三平果歩。ともに当たり役。プレビュー公演終了後、大きな拍手。その他のキャストはクリストフ役、神永 東吾、オラフ 役、小林 英恵、ハンス役、杉浦 洸、ウェーゼルトン役、山本 道。
”真実の愛”、エルサもアナもそれぞれを思いやり、それを実行に移す。無私の愛、ギリシャ語で「アガペー(agapē)」、時代を選ばない普遍的なテーマ、翻って現代、2021年、だからこその作品。末長く愛されるミュージカルになるであろう。
<コメント>
[エルサ役:岡本瑞恵]
多くの方に愛されたアニメーション映画を舞台化した本作。このような大作の初演に参加できることを大変光栄に感じています。
初めてこの作品に触れた時、エルサが自問自答を繰り返しながらも、自分を受け入れて開放し、前を向いて歩んでいく姿に強く共感しました。不自由な生活が強いられる今、作品に溢れる”愛”の力でお客様の心を解きほぐすことができるよう、精一杯演じたいと思います。
[アナ役:三平果歩]
アナはこの物語を照らす太陽のような存在です。このような大役に挑戦する機会をいただき、光栄に思うのと同時に身が引き締まる思いです。誰もが知る楽曲の数々や雪と氷の世界を表現した舞台美術も大変魅力的ですが、姉妹の愛と絆を中心としたストーリーには深い感動があります。この役を通して作品のドラマをしっかりとお届けできるよう、一回一回の舞台を誠心誠意努めてまいります。
<稽古場レポ>
<会見レポ>
<公演概要>
2021年6月24日開幕
2021年6月26日~12月31日公演分
好評につき、2022年6月末日まで延長。
延長分の発売日は公式HPを。
劇団四季公式HP:https://www.shiki.jp/applause/anayuki/
撮影(TOP画像舞台写真):阿部章仁