新国立劇場 オペラ 2025/2026 ラインアップ発表会レポ

新国立劇場の2025/2026シーズンラインアップ発表会が行われた。登壇したのは芸術監督の大野和士。
シーズンは今年10月から来年7月まで。全10演目(46公演)が上演される。
まず最初に新制作の公演から紹介。11月のアルバン・ベルク『ヴォツェック』と来年6~7月のリヒャルト・シュトラウス 『エレクトラ』。指揮はどちらも大野自身が自ら棒を振る。


アルバン・ベルク『ヴォツェック』は今年没後90周年を迎えるベルクが完成させた唯一の作品で夭折した作家ビューヒナーが、1830年代に実際に起きた殺人事件を題材に、社会の底辺で精神を病み、内縁の妻を殺して破滅していく男を描いた原作を、1世紀近く経ってベルクが無調音楽で作曲したオペラ。新国立劇場で初の新演出に臨むのは、巨匠リチャード・ジョーンズ。無調と聞くとちょっと躊躇する方もいると思うが、そこはあまり考えない方が良い。大野自身も「それに脅かされないでほしい」とコメント。「無調の中にも“ワルツ”と書いてあるところがある。また、“アダージョ”で鼓手長が緩やかにアリアを歌っているような場面も出ます。マリーがヴォツェックとの子供を抱きながら6拍子で歌う場面もあります。様々なフーガも出てきます。それらは聴き馴染んでくると、ああ、こう来た、そう来た、と耳への喜びをもたらしてくれるのです」と実際に口ずさみながら語る大野。「最後の幕に、ピアノのソロが弾くポルカも出ます。演出の合間に聴こえてきますから…」とコメントし、「凄まじい内容ですが、あちこちにベルクの人間の本質に対する愛情が出てきますので、それを舞台と音楽で皆さんに体験していただけるように演奏していきたい」と語った。
全3幕であるが、それぞれが30分程度と時間もコンパクト。ちなみに無調とは19世紀末期から20世紀初頭にかけて新たに形成された音組織の概念である。調性のない音楽のことを無調音楽という。ヴォツェック役はトーマス・ヨハネス・マイヤー、マリーにジェニファー・デイヴィス、鼓手長にジョン・ダザック、大尉はアーノルド・ベズイエンと当代随一と言える歌手が集結するとのこと。

リヒャルト・シュトラウス 『エレクトラ』1915年初演、愛する父を母とその愛人に殺された娘エレクトラが凄惨な復讐を果たすギリシャ悲劇の演出を、新国立劇場初登場の演出家ヨハネス・エラートが手がける。「私はフランクフルト歌劇場で『Der Mieter(借家人)』というドイツ現代作曲家の世界初演を共に手がけましたが、プロの音楽家としてスコアを読み解いた上での彼の演出アプローチは、オペラという総合芸術に限りない力を発揮しました」と大野。エレクトラはバイロイト音楽祭にも出演しているアイレ・アッソーニ、母クリテムネストラは藤村実穂子、弟オレストにエギルス・シリンス、義父エギストは『ボリス・ゴドゥノフ』で陰惨な簒奪者グリゴリーを演じた工藤和真という布陣。「エレクトラは最初から最後まで手に汗を握るオペラです」と大野。「バババーン、バババーンというのが何度も出てくる終わり方が印象的です。殺された父の復讐を果たすことで頭が一杯のエレクトラ、そして姉とは違い復讐を積極的に遂げたいとは思わない妹のクリソテミス、そこへ放浪をしていた弟オレストが、ついに復讐の時が来たと帰ってきて、敵討をします」とまた口ずさみながら解説。「復讐が成功したあと、エレクトラが長大なアリアを歌い、最後に息が絶えて「ダーン」と。そこで照明がダーンと消える」とドラマチックな幕切れを解説。この演出はとても多いそう。だが、実際の演出はどうなるのか、そこは観てのお楽しみ。

それからレパートリー作品の紹介。

シーズン開幕には『ラ・ボエーム』。名指揮者パオロ・オルミ、ミミはマリーナ・コスタ=ジャクソン、ロドルフォ役のルチアーノ・ガンチ、マルチェッロ役のマッシモ・カヴァレッティ。
『オルフェオとエウリディーチェ』は勅使川原三郎の演出で、音楽と空間が素晴らしい調和、舞踊も圧巻のプロダクション。作品全編を牽引するオルフェオ役に、アルト歌手のサラ・ミンガルドが初登場。指揮は園田隆一郎。初演のオルフェオ役は、「カウンターテナーの王者」と評され、艶やかな声を武器に世界各地を飛び回るローレンス・ザッゾであったが、今回はアルト歌手のサラ・ミンガルド、初演を観た方はぜひ、比べてみると面白いかもしれない。

<初演レポ記事>

勅使川原三郎(演出)×鈴木優人(指揮) 新国立劇場公演 バロック・オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』開幕

1874年初演の『こうもり』、数あるウィンナ・オペレッタの中でも最高峰とされる作品。指揮ダニエル・コーエン、トーマス・ブロンデル、サビーナ・ツヴィラクらに加え、カウンターテナー藤木大地がオルロフスキー公を担う。

『リゴレット』は、ジュゼッペ・ヴェルディが作曲の全3幕からなるオペラ。1851年、ヴェネツィア・フェニーチェ座で初演、ヴェルディ中期の傑作と言われている。主演は世界をリードする名バリトン、ウラディーミル・ストヤノフ。ジルダは年々大きな飛躍を続けている中村恵理。マントヴァ公は、『ルチア』のエドガルドを歌ったローレンス・ブラウンリー、指揮はダニエレ・カッレガーリと豪華な布陣。

『ドン・ジョヴァンニ』、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが1787年に作曲したオペラ・ブッファ。出演はヴィート・プリアンテ、ダニエル・ジュリアニーニ、イリーナ・ルング、サラ・コルトレツィス、指揮は飯森範親。

『椿姫』、ヴィオレッタはカロリーナ・ロペス・モレノ、急速にキャリアを伸ばしているソプラノで期待大。アルフレードにアントニオ・コリアーノ、ジェルモンは名歌手ロベルト・フロンターリ。

『愛の妙薬』を作曲したドニゼッティは、たいへん貧しい家に生まれ、幼い頃から慈善音楽学校に通い教育を受けましたが、その後のドニゼッティの発展を見ると、早くからの教育が才能ある子に与えた影響はよほど大きなものがあったと思わざるを得ません。彼が20代から始めたオペラ作曲の40番目が『愛の妙薬』でした。アディーナ役のフランチェスカ・ピア・ヴィターレに、マッテオ・デソーレ、シモーネ・アルベルギーニの3人と彼らを翻弄するドゥルカマーラ役のマルコ・フィリッポ・ロマーノの愉快な争いが見どころ。

『ウェルテル』はマスネの名作。ウェルテル役には、世界的スター、チャールズ・カストロノーヴォの新国立劇場初登場。「世界的な大スターとなったテノール歌手に注目していただきたい」とのこと。シャルロット役は、同じく世界的に活躍する脇園彩、指揮は、才能あふれるアンドリー・ユルケヴィチ。

概要
『ラ・ボエーム』〈レパートリー〉
2025年10月1日~11日(5回公演)
指揮:パオロ・オルミ
演出:粟國 淳

『ヴォツェック』〈新制作〉
2025年11月15日~24日(5回公演)
指揮:大野和士
演出:リチャード・ジョーンズ

『オルフェオとエウリディーチェ』〈レパートリー〉
2025年12月4日~12月7日(3回公演)
指揮:園田隆一郎
演出・振付・美術・衣裳・照明:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター:佐東利穂子

『こうもり』〈レパートリー〉
2026年1月22日~29日(5回公演)
指揮:ダニエル・コーエン
演出:ハインツ・ツェドニク

『リゴレット』〈レパートリー〉
2026年2月18日~3月1日(5回公演)
指揮:ダニエレ・カッレガーリ
演出:エミリオ・サージ

『ドン・ジョバンニ』〈レパートリー〉
2026年3月5日~3月12日(5回公演)
指揮:飯森範親
演出:グリシャ・アサガロフ

『椿姫』〈レパートリー〉
2026年4月2日~12日(5回公演)
指揮:レオ・フセイン
演出・衣裳:ヴァンサン・ブサール

『愛の妙薬』〈レパートリー〉
2026年5月16日~5月27日(4回公演)
指揮:マルコ・ギダリーニ
演出:チェーザレ・リエヴィ

『ウェルテル』〈レパートリー〉
2026年5月24日~5月30日(4回公演)
指揮:アンドリー・ユルケヴィチ
演出:ニコラ・ジョエル

『エレクトラ』〈新制作〉
2026年6月29日~7月12日(5回公演)
指揮:大野和士
演出:ヨハネス・エラート

新国立劇場 こどものためのオペラ劇場 2025
『オペラをつくろう!小さなエントツそうじ屋さん』〈新制作〉
2025年5月5日∼6日(4回公演)

新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室 2025
『蝶々夫人』〈レパートリー〉
2025年7月7日~7月12日(6回公演)

新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室 2025
ロームシアター京都 メインホール
『魔笛』〈レパートリー〉
2025年10月28日~10月29日(2回公演)