内博貴主演、『シェイクスピア物語~真実の愛~』~SHAKESPEARE OF TRUE LOVE ~が上演中だ。
ウィル・シェイクスピア役に内博貴、ヒロインのジュリエッタ・ド・キューブレッド役は熊谷彩春、マーガレット・ド・キューブレッド役にこだま愛、エドワード・パーシー役に門戸竜二(大衆演劇)、フィリップ・ヘンズロー役に下村青。さらに、エリザベス女王/亡霊オリヴィア、名優ダンカン・ランズウィック<二役>に真野響子、ロンドンの演劇界を束ねる大富豪の公爵エセックス卿を村上弘明という豪華布陣。さらにウィルの良き先輩として人気劇作家、詩人であるクリストファー・マーロウとアドミラル一座のスター俳優のネッド・アレンの二役に廣瀬智紀。また、アドミラル一座の信頼できる俳優ヘンリー・ロートンに伊東孝明。キューブレッド邸使用人アダム・ドリントンには小谷嘉一。ジュリエッタの乳母アンには、黒田こらん。
この物語はシェイクスピアの若かりし頃の話、『ロミオとジュリエット』がどういう経緯で書かれ、上演されたかが描かれている。勘の良い観客なら、そこでピンとくるはず、「あの、物語かな」と。だが、タイトルは異なるので、そこから着想したオリジナルである。
開演前は舞台中央のスクリーンにシェイクスピアの有名な戯曲の名セリフが映し出される、「To be, or not to be that is the question.」等。よってちょっと早めに席に着いておきたい。
幕開き、フィリップ・ヘンズロー(下村青)が登場、「この世は舞台、人は誰でも役者…」有名な『お気に召すまま』(All the world’s a stage,And all the men and women merely players.)の名セリフ。とにかく、いたるところで様々な名セリフが登場するので、シェイクスピアの主要な戯曲を知っていれば、俄然楽しくなる。そして歌に連なる、劇団四季出身の下村青、よく通る声、そこからコーラス、黒のフードコートを被った男性陣と赤いフードコートを被った女性陣のエモーショナルな動き、ヘンズローは舞台の上の方にいるので、コロスは彼の手で動かされているかのように見える。そして、場面変わり、机に向かう一人の男、もちろん、この物語の主人公・ウィル・シェイクスピア(内 博貴)、「あーー書けない」と叫ぶ、明らかにスランプに陥っている。そして場面変わり、ヘンズローが「ウィルを見なかったか?」とイライラ。そこへ、エセックス卿(村上弘明)がやってくる。
エリザベス女王(真野響子)の時代、折しも、大流行したペストがようやく終息し、劇場がようやく封鎖を解かれたタイミング、大富豪で貴族公爵ローズ座のオーナー、エセックス卿、ここで新作を上演し、観客をわんさか集めたい、経済効果も高いし、何より女王にいい顔ができる。その新作、ウィルに書かせているとヘンズロー。エセックス卿は「あいつは役者だろ?」と言うもヘンズローは”ウィル推し”、彼の才能を見抜いていたが、この頃の人気作家はクリストファー・マーロウ(廣瀬智紀)、しかもケンブリッジを出ている。そんな頃、居酒屋の薔薇亭では人々が大いに飲んで盛り上がっている。そこにマーロウ、ウィル、ヘンリー・ロートン(伊東孝明)、娼婦たち、女主人・ビアトリス(琴音和葉)、楽しげだ。そんなところへ、なんとエセックス卿が。ここで彼らの関係性、立ち位置がよくわかる。まだまだ、駆け出しのシェイクスピア、彼と親交があり、人気作家で自由奔放な生き方をするマーロウ、ローズ座のオーナーで富豪、権力者でもあるエセックス卿、彼なしではローズ座はやっていけない、エセックス卿の手下のヘンズロー。もちろん皆、実在の人物である。場面変わり、この物語のヒロイン・ジュリエッタ・ド・キューブレッド(熊谷彩春)、登場。エセックス卿の許嫁で芝居好き。キューブレッド家は名家だが、主が身罷り、困窮していた。そこへエセックス卿が…彼は実力も富もある。史実ではイケメンな容姿を生かしてエリザベス女王の目に留まったと言われている。
ジュリエッタはとにかく、結婚するまでは自由でいたい、母親のマーガレット(こだま愛)も乳母のアン(黒田こらん)もそこは認めている、よき理解者。だが、自由すぎて…なんと男装してローズ座のオーデションに出かけてしまう。そこから、有名すぎる”あの”話が!
オリジナル作品なので、”あの話”そのままではなく、随所に工夫が見られる。また、ところどころ歌を挿入し、場面や感情を凝縮させる。シェイクスピア愛がふんだんに見られ、”ここはあの作品からかな?”などと思いを巡らしつつチェックするのも一興。また真野響子がエリザベス女王の他に亡霊オリヴィアを演じる(亡霊と言えば…)、またの名をダンカン・ランズウィック(ダンカンと言えば…)。ウィルに謎めいた言葉をかけたり、示唆を与えたりする。真野響子がエリザベス女王の時は堂々たる佇まいを見せ、亡霊の時はミステリアス、そしてちょっと怖く。内博貴の悩めるシェイクスピア、後半は真実の愛を知り、貫く様を好演。ジュリエッタの熊谷彩春は可憐で、しかも透き通る歌声が役柄にふさわしい。
男装のトマスの時はキュート。エセックス卿の村上弘明は、曲者感と大物感を同時に醸し出し、女王の寵愛を受けて権力を保持するにはどんな手段も厭わない、だが、文化・芸術、とりわけ芝居好き、権力があるが故に己のすべきことをきちんとわきまえているキャラクターを、出番は少なめだが、がっしりと骨太に演じて場面を引き締める。また、下村青と琴音和葉、元劇団四季&元宝塚歌劇団、二人のデュエットは聴かせる。廣瀬智紀はクリストファー・マーロウと人気俳優・ネッド・アレンを巧みに演じ分け、芝居巧者。二人の愛を軸にして周囲の人々の生き様も描く。
また、この時代は女性は舞台には出られなかった。俳優は全て男性、女性の役は主に変声期前の男性が演じており、声変わりをしたら男役になるか、あるいは舞台を降りるか、どちらかであった。これを逆手に取ったのがシェイクスピアで『十二夜』では少年俳優が女性を演じるという約束事の上に女性が男性を装っている、という約束事を重ねて、さらに「瓜二つの人物が現れる」、舞台上ではこれで大混乱、観客に大ウケ。構成も巧み、長く上演され、現代でもシェイクスピア作品の中でも人気演目の一つに数えられている。ここではジュリエッタが男装してトマスと名前を変えてオーデションを受けにやってくるが、当初はウィルも、誰も目の前にいるトマスが実は女性とわからなかった。このような設定も”シェイクスピア愛”と言えるのではないだろうか。いちいち細かいことを挙げるとキリがないが、作り手のシェイクスピアへの限りない愛、そしてここで描かれる揺るぎない愛情、シェイクスピア戯曲が時代や国を超えて愛される理由をあらためて思い知る。
2幕もの、休憩時間は舞台上のスクリーンに芝居用語の解説が映し出される。”Break a leg”、”elevation”、”acting area”などの用語が出るので、トイレを手早く済ませて、チェックしたい。また、衣装、特にエリザベス女王の衣装に注目、リアル女王感!!公演は24日まで。
<会見の様子>
https://theatertainment.jp/japanese-play/101637/
<稽古の様子>
https://theatertainment.jp/japanese-play/100663/
公演概要
公演名:「シェイクスピア物語~真実の愛~」~SHAKESPEARE OF TRUE LOVE ~
脚本・演出:佐藤幹夫/モトイキシゲキ
配役/出演:
ウィル・シェイクスピア(ローズ座付き作家兼役者)=内 博貴
ジュリエッタ・ド・キューブレッド(キューブレッド家一人娘の令嬢)=熊谷彩春
クリストファー・マーロウ(人気劇作家、詩人)/ネッド・アレン(アドミラル一座の俳優)<二役>=廣瀬智紀
エドワード・パーシー(アドミラル一座の女形)=門戸竜二(大衆演劇)
ヘンリー・ロートン(アドミラル一座の俳優)=伊東孝明
アダム・ドリントン(キューブレッド邸使用人)=小谷嘉一
衛兵隊長 ブラントン=真砂京之介
ティルニー儀典長=冨岡 弘
ランス・ギネス(役者兼ヘンズローの従者)=髙木 薫
道化のニック=石井智也
衛兵 アルコック=沢柳 健
乳母・アン(ジュリエッタの乳母)=黒田こらん
ビアトリス(居酒屋娼家「Tavern of the ROSES」の女主人)=琴音和葉
娼婦 アビー=木村美月
娼婦 クラウディア=佐藤アンドレア
娼婦 エセル=久保田成美
娼婦 マギー=桐本絢可
娼婦 ダリル=ヒナゴ茉莉乃
マーガレット・ド・キューブレッド(キューブレッド家の伯爵夫人)=こだま 愛
フィリップ・ヘンズロー(ローズ座興行主でエセックス卿の子分)=下村 青
エリザベス女王/亡霊オリヴィア、またの名をダンカン・ランズウィック<二役>=真野響子
エセックス卿(大富豪で貴族公爵ローズ座のオーナー)=村上弘明
横浜公演:
日程・会場:2022年4月15日(金)~4月24日(日) KAAT神奈川芸術劇場 ホール
問合:shakespeare2022@aoistudio.net
大阪公演:
日程・会場:2022年5月20日(金)~5月22日(日) 森ノ宮ピロティホール
問合:0570-200-888(11:00~16:00 ※日曜・祝日休業)
公式HP:https://www.shakespeare-love.com
(C)「シェイクスピア物語」製作実行委員会2022
写真提供:「シェイクスピア物語」製作実行委員会