オフィスエンドレス代表 下浦貴敬 インタビュー 2.5次元舞台の 現在、そしてこれから。

2020年に始まった未曾有の新型コロナウイルスの大規模パンデミックは、他業種同様2.5次元舞台を含むライブエンターテイメント業界に壊滅的なダメージを与えた。国内需要だけでなく、東京オリンピックに向けたインバウンド需要を受け入れるための設備投資やイベントの大型化が進んだ矢先の出来事であった。
東京オリンピックは延期、多くの舞台作品もまた延期や中止になり、花火大会や地方のお祭りのような小規模イベントも軒並み中止になった。2022年6月現在では、感染者数は減少はしたが、増加傾向の地域もあり、ウイルスの変異も確認される予断を許さない状況である。
会場の入り口での検温、消毒は当たり前、ロビーでの物販もキャッシュレスがスタンダードになってきている。厳しい会場では混雑を避けるため物販も許されないこともある。
この状況下、2.5次元舞台を数多く手掛けているオフィスエンドレスの代表である下浦貴敬さんから、2.5次元舞台を中心としたライブエンターテインメントの状況とこれからを大いに語っていただいた。

――2.5次元舞台に関してですが、今が節目のように思えますがいかがでしょうか。

下浦:本当にコロナ禍の直前の2019年末位ですかね?2.5次元舞台の公演数もかなり増えてきていて、マーケットも飽和直前にあったと思うんですね。以前は基本的には僕が企画書を持ち込むか、もしくは原作の立ち上げ段階から関わって、その中で舞台を企画するとか、「舞台化させてください」ということが多かったんです。ですが、2017年くらいからは「舞台化をしたい」というコンテンツ側からの提案が増えてきましたね。逆提案というか。それこそ2019年頃には半分以上がそうであったような気がします。
以前はアングラと捉えられがちだった「舞台」が、コンテンツ側からしてもユーザーに対する一つのアプローチの手段になったんだなと肌で感じていたところではありました。
それがコロナ禍によってうちも含めて半端じゃない数の舞台が中止になったことによって「実際にビジネスとして成り立つものなのか」ということを各所が考えている、直面しているのだと思います。
例えば、今は公演関係者の新型コロナウイルスが発生した場合の助成金等もあったりしますが、果たして来年再来年にあるかというとそうではないでしょうし。一つの事例として、実際に地方から舞台を観に来られる方は全盛期と比べると圧倒的に減っています。実は、本当にありがたいことに地方のお客様というのは1回東京に来てくれたら、何ステージもリピートして観劇してくださる方が多かったんです。なので、この事例だけ見ても動員に対する影響はかなり大きいと感じています。

――コロナ禍によって、相当動員数も落ちたんですね。ですが、今も御社を含めて新しい2.5次元舞台がどんどん企画されており、上向きになってきたように感じます。今後全盛期の様に戻ることはあるのでしょうか

下浦:少し、難しいのではないかと思います。やはりお客様のマインドが全盛期の頃まで持ち上がってきていないというか、お財布の事情もあるし、エンタメというものが、この約2年で、もうすでに他の在宅で楽しめる手段によって満たされてしまった様に感じます。ここから割って入っていくというのは、十年前にやっていた作業に近くなるかと。それこそ「舞台」がアングラであった頃のような、畑を耕し開拓する作業です、そこまで立ち戻って、現在のお客様の嗜好に合わせて再構築していかないと2018年、19年のような盛り上がりにはならないんじゃないかと思っています。ただ、2.5次元舞台自体の枠組みがダメと思っている訳ではなくて、前述の通り、ある種飽和状態の2019年にそのまま戻りたいとは考えていません。多分そうならないでしょうし。仮に、マーケットが小さくなったとしても舞台を生で観にきたいと考えて下さっているお客様は今も一定数いらっしゃいます。こちらにしっかりとフォーカスした作品作りにすれば良いのではないかと考えています。

――本当に「2.5次元舞台にするべき、したら面白い」作品を精査したり、よりお客様に向けて変化するというイメージでしょうか。

下浦:そうですね。2022年の今からよりシビアな部分でふるいがかかっていくのかもしれないなと考えています。実際にビジネスとして考えた場合、顧客が一気に減ったというのを業界全体が今知り始めていると思うので、そうしたときに『商品』をどう変えていくか、どういう風に合わせていくのか。例えば逆にちょっと違うジャンルを開発したり、フレキシブルに変化していかなくてはいけない状況なのではないか、とも思います。

――変わっていかなくてはいけない節目ですね。確かにどういう作品を舞台化するのかというところから始まって、どういう表現にしていくのか、プロモーションの仕方に至るまで、すべてを今までのビジネスモデルではなく時代に合わせていく必要があるのではないかな、と思います。あとは、「2,5次元」、日本のアニメを舞台化するイメージがなかった劇団四季が『バケモノの子』、国産アニメのミュージカル化、2.5次元舞台を始めましたね。

下浦:そもそも、劇団四季はディズニーをやっていましたからね。広いユーザーに「2.5次元作品」を提供するという意味では元祖かもしれませんね(笑)

――劇団四季は『まだまだです』と言っていますが、『バケモノの子』が成功したので、ゆくゆくは国産アニメの舞台化、第二弾や第三弾もあるかもしれませんね。

下浦:それは興味深いですね。僕はいま42歳なんですけど、このあとの5年間10年間をよく考えるんです。それで2018〜19年の当時に、やはり飽和に近い状態にある2.5次元がもうピークを迎えてきてるんじゃないかな?みたいな予感はしてたんです。もちろんコロナ禍みたいな形ではなくて、もっとゆっくりしたものを想像していましたが。
それで僕も2019年当時、海外に日本発のものを持っていくとか、逆に海外からの旅行者に日本の作品を見せていく方法を突き詰めてみようと考えていたんです。その一つの形が複数回の延期、調整を経て2021年に公演『ニンジャバットマン ザ・ショー』だったりします。また、それらと同時に、顧客の拡大や若い層の育成という部分も真面目に考えていて、いわば学校みたいなスタイルで、役者だったり制作スタッフの育成をしていきたいと強く考えていたんです。同世代の演出家とかともいろいろそういう話をしていて、大まかに準備も整って、さあここから新しく舵を切るぞ、というタイミングでのコロナ禍で、みんなそれどころじゃなくなっちゃって。
ですからまた世の中全体が落ち着いてきたら、そういう部分、うちの会社だけが生き残ろうとかそういうのではない、2.5次元のジャンルに制限するとかではなく、舞台全体に寄与できるような、そんな広い意味での、ポジティブな意味での変化をまた考えていきたいですね。その時は前もそうであった様に、いろんな人ともう一度話し合ったりしたいです。みんな同じ苦労を共にしていますからね(笑)。

――そういう意味では、横のつながりって大事ですよね。制作会社単独だとどうしても縦割りの関係性になりますし。

下浦:昔は一社で主催とか多かったですけど、今は製作委員会が基本ですね。うちはそこの部分で柔軟性があるのが強みでもあります。ここ半年くらいから徐々に、制作の一部分だけでも〜といったようにどっぷりというより広く浅くやっていく形も増えています。単純にコロナ禍が大変だったというのもありますが、コロナ禍によって逆に増えた配信業務とかを請け負ってみると、他の会社さんとの新しい関わり方が見えてきたりするんですね。ですから今はうちの強みである柔軟性を生かして、例えば制作の一部分だけとか、他の制作会社とも組んだりみたいな感じで、前は上下での他社との繋がりが、同じような規模感の会社さんとも付き合いが増えました。おっしゃる通り、「横の繋がり」の大切さを実感してます。

――コロナによって「家でも楽しめる娯楽」が増えましたけど、そういう人たちを劇場に連れてくるにはさてどうしたらいいのか、とか。お芝居を配信するというのはここ最近、より発達しましたよね。

下浦:そうですね。たしかにその部分では裾野が広がったかも。単純にビジネスとして捉えると、それこそ19年以前のユーザーの割合を100だとすると、今は50くらいになってしまっている。そうなったら裾野を広げないと考えるのは当然で。ですから配信が発達したのは自然な流れなのだと思います。
ただ、舞台って生のもので、同じ場所に集まってやるものだから、その特徴をしっかりと活かしつつも新しい、オンラインや配信といったもの適合するように、これも変化させていかなくてはいけないのかな、とも思います。コロナ禍で会場にお客様を呼べないことからある種の苦し紛れで急速に広がっていった感もありますが、でもやはり今後はと言いますか、既に配信も1つの舞台の形になっているのだなと思います。

――配信も一つ見方を変えて、稽古の様子を映してみたりとか……。ネタバレになってしまうと言われそうですね。

下浦:2.5次元舞台って漫画やアニメがすでに完結している場合、それを観ると展開がすべてわかっちゃう(笑)。すなわちそれがネタバレなんですよね。僕らの世代は絶対ネタバレしたくない!という想いが強かったですが、今の子ってゲームも攻略サイトを見ながらやるくらい、ネタバレに抵抗感がないらしくて。僕らからすれば考えられないことなんですが(笑)。

――「予習をして」作品に挑んでいるということでしょうか。

下浦:ですね。そういう見方も時代が変わっていっているのだなと思います。これが2.5次元舞台となると、各々の入り口から興味を持って来てくれている人もいるわけで。そういうお客様に生の衝撃をどう与えるか、というのが我々の使命なのではないかとも思うし、そういう形になっていくんだろうなと思います。

――また、30年前とかと違って、今は老若男女がアニメや漫画に触れてきている。なので、2.5次元舞台というものはすでに特別なものではないのかなと感じます。

下浦:そう、それでいうとドラマも映画もオリジナルというより原作つきが増えている。企画書を通すときに原作があったほうが色々とスタートしやすいですからね(笑)。映像の場合はそれが顕著。
僕も役者やスタッフたちにおもしろいアニメや漫画を教えてもらったりしています。そこにはいろいろな作品、自分が知らなかった作品に触れていけるし発見がありますね。
コロナの最中に考えるタイミングがたくさんあったから。実は、『NIGHT HEAD』もアニメの制作時点で僕がプロデューサーとして入っています。その段階からすでに舞台にすることを視野に入れていまして。ただし、アニメって今は30分が11~12回、各話に小さい波があってクライマックスに向かっていくものなんですが。舞台は2時間しかないから、アニメで得られた小さい波をそのまま入れてもただのダイジェストにしかならず薄味なものが出来上がってしまうんです。なので、そのあたりも演出家さんと相談しつつ、舞台ならではの展開、言い方は悪いですが端折ったりもして、より作品で伝えたいテーマ性の輪郭をはっきり描こうと。さらにリアルに起こっているエッセンスを入れたり。『NIGHT HEAD2041』でいえば僕らがいる現代を過ぎた2041年……である錯覚を起こせるようにしたいよね、というところは意識して作りました。そういう部分では、アニメの中に僕が入っているというのが、ただ権利を取りたいからだけではなく、舞台での面白さに繋げられればいいなと願っています。
もしかしたら、コロナ禍前のただただひたすら年間10本15本作品を作って、という中ではそういう考えに至らなかったかもしれないけれど、1つずつの作品のもつ役割というか、なにがこの後どう発展していくんだろう、それを観たお客様に対してなにが変えられるんだろうと1つずつ考えられるようになった気がします。『薔薇王の葬列』だったらジェンダーについてとか、『NIGHT HEAD2041』だったら捻くれた世界、という部分での表現の自由さだとか、そういったものを考えたりして。
2.5次元はあくまで原作の権利を「お借りして」舞台を作っているとはいえ、立場がどっちが上でどっちが下で、というのはお客様にとってどうでもいいことなので、そこの部分をクリエイティブの現場でなるべく排除する形に作っていくのが、プロデューサーの役割ではないかなと思います。

――ありがとうございました。また、今後、何かの機会にこういったお話をお願いいたします。

<過去インタビュー記事>

自分たちにとって今面白いものを、と心がけているから、それが結果的に「終わりなき感動をあなたへ」 インタビュー Office Endress 代表取締役社長 下浦貴教

《インタビュー》 Office ENDLESS代表「ひとりしばい」プロデューサー下浦貴敬氏インタビュー

オフィスエンドレス公演
舞台『NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-』
日程・会場:2022年7月1日〜7月10日 シアター Gロッソ
公式HP:https://officeendless.com/sp/nh2041/
舞台『佐々木と宮野』
日程・会場:2022年7月23日〜7月31日 シアター1010
公式HP:https://officeendless.com/sp/sasamiya/

オフィスエンドレス公式HP:https://officeendless.com

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし