演出 鯨井康介 インタビュー 舞台『弱虫ペダル』The Cadence!

2022年、舞台『弱虫ペダル』はシリーズ10周年目を迎える。
それを記念してイベントなど、様々な趣向を凝らした企画が用意されている。この節目の年に初演から演出を手がけていた西田シャトナー氏が総監督・脚本を、演出は手嶋純太を演じていた鯨井康介氏が担うことになった。その心境や作品に対する想い、演出への意気込み、鯨井康介氏へのインタビューが実現した。

――『弱虫ペダル』という作品を知ったのはいつ頃でしょうか?

鯨井:タイトル自体は以前から知っていたんですけれど、内容にふれるようになったのは舞台がきっかけです。出演に際して、漫画も同時に読み始めたんですよね。

――舞台自体は?

鯨井:僕は「新インターハイ篇」からの参加なので。その前の「インターハイ篇」や初期の映像を資料として観たのが最初だったと思います。

――作品への感想をお願いいたします。

鯨井:作品に関しては、仲間同士のスポ根ともまたちょっと違うような…ドラマ性といいますか、自転車競技は個人的な勝負ではあるけれども、原作ならではのチーム競技にインターハイの流れを持っていったところに、とても横のつながりを感じました。それはチームメイトたちだけではなくライバルたちに対しても。その関係性のドラマというのに惹かれたのをよく覚えています。まして、漫画的な展開も多いと思うんですが、一生懸命がんばるという熱い想いが入るだけでこんなにも現実味が増すのかな、というのでしょうか、「いやいや、100人追い抜いて小野田が戻って来るとか無理だろ」と思いつつ、なにか期待してしまう感じ。真実を超えたものがあるなと感じた記憶があります。

――実際に舞台に参加してみてはいかがでしたか?観ていると脚がたいへんそうな印象が……。

鯨井:手嶋純太というキャラクター(役)をいただいたときに「自分がこのキャラクターなのか」と、正直、驚きました。(物語の中で)かなり重要な人物であるのは間違いがないし、僕にまかせていただけることが光栄でありつつ少し怖くもありました。稽古場に入ったときに演出の西田さんから「キャプテンである」ということを強く求められていたのを覚えています。もしかしたらこのカンパニーにおいて、キャプテンシーというところまで見られていたのかなというくらい、西田さんから指導があったんです。はじめは「いやいや、鯨井康介にキャプテンシーを求められても…」と、ちょっと思っていたんですけれど…あまりにそう言ってくださるから、そのリーダーシップに対する恐怖感と、でもキャプテンにならなきゃいけない、自分は凡人なのに才能もった1年生に囲まれた中でそうでなくてはならないというところ、そこが自分と役とがリンクしたのかなと思います。強者たちがいる中で頑張らなきゃいけない、という部分にキャラクターを乗せていただいたなとも思います。過去にペダステに出ていた、役者仲間たちから「ペダステってこうなんだよ」とは聞いてはいたんですが、実際にやってみて、想像を上回るキツさでした(笑)。「ちょっと腰はキツそうだけど、走ればなんとかなるよね」という目論見は甘かったです。走ることもキツいんですけれども、それよりも「走りながら長ゼリフをテンションMAXで演じる」というのが一番キツかったです。熱量をもって人に伝えなければならない。また僕がやる手嶋は本当によく話すキャラクターだから(笑)。セリフをたくさんいただけるのは光栄ですけれども、体力的にキツかった記憶が……。息が上がってしまうとセリフが聞こえませんから。むしろ、精神的には感情をセリフに乗せられて演技できるのでそちらは問題なかったかも。

――かなり、出演回数を重ねていますね。それで今回の舞台『弱虫ペダル』新作。自分が演出することについての感想は?

鯨井:正直言って、青天の霹靂と言いますか。それこそずっと、演劇を知ったときから自分の中で「演出」というものへのあこがれはありましたが、その役が自分に回ってくるのはもうちょっと先かなと漠然と考えていたところがありました。今年35歳ですが「こんなに早く来るのか」というのと、「ついに来たか!」という気持ちが50:50。しかも『弱虫ペダル』という作品自体にも魅力を感じていますし、これまでにもたくさん出演させていただきましたから。こんなに体力的にキツい作品で、それで心が折れることも何回かあったくらいだけれど、それでもなお、出たくなる。不思議な魅力のある作品ですよね。「この作品を自分がやれるんだ」という思いと「これは西田さんの作品なのに俺が演出しちゃってどうなるの」という怖さと、本当にきれいに感情が分かれている状態なんです。良いも悪いもどっちも押し寄せてきています。とはいえ自分のどこかで「これは逃したくない」という気持ちもありまして、話をいただけたことが僕にとってもチャンスでもあるから、マイナスに感情が揺らいでいたとしても、この列車に乗らない手はないなと決めました。ご存知の通り、もう走ってしまっているので戻れないのですが、ここからは自分次第かなって感じです。自転車と違って(すぐには)止まれませんから(笑)。

――『弱虫ペダル』は人気がある作品ですし、プレッシャーも、もちろんあるという感じでしょうか。

鯨井:包み隠さずいうと「やっちまったな」って思うくらい(笑)。今年はペダステが10周年、たくさんの方に愛していただけた作品ですからね。そんな中、自分がこの(演出という)ポジションにつくということは非常に大変なこと。その反面、僕も『弱虫ペダル』好きな気持ちにかけては負けないつもりでいますから。いわばファンでもある僕だからこそできることだし、演じてきた経験も含めて、もてる武器なのかなとも思います。

――公演は7月ですけれども、舞台『弱虫ペダル』をこういう風にしたいというプランはあるでしょうか。

鯨井:(取材時)今は脚本も推考いただいている段階ですが、その分、妄想がすごく膨らんでいるんです。プランとまではもちろん行きませんが、西田さんと話させていただいたとき「本物以上の」というテーマが浮かんだんです。実際に見てみると、ハンドルだけを持って自転車(競技)を表現するとか、いろいろな役を役者が兼ねてやったりとか、すごく「演劇的」。今回も映像は使わないつもりなんですが、実際のものを極力出さないのに、より本物以上のものを目指していくというのが、舞台『弱虫ペダル』の、西田さんのスタイルなのかなと思います。そして「本物以上の」をどれだけ僕が出せるか、探れるか。そして、それをどれだけ観ていただいているお客様に感じていただけるかというチャレンジが、一番の課題。小野田坂道が見る空であったり、彼らが持ちうる熱量が「本物以上」なのか…舞台だからこそ「本物以上」を目指せるような環境、感じていただける演出を作っていくのが僕の目標なんですよね。そういうものを役者さんと一緒に生み出していくこと、それが今のところのプランでしょうか。

――西田さんは、他作品もそうなんですけれども「21世紀ならではのテクノロジーを極力使わない演出」というところがやっぱり“らしい”ですよね。演劇の原典というか歌舞伎のような、昔の時代の人があれやこれやと工夫して驚かせてやろう、みたいな。

鯨井:すごくわかります。「一周回ってこのテクノロジーを削ぎ落とした作品は、ある意味新しいのでは」と西田さんに問いかけたことがあったんですね。そしたら西田さんは「自分の作品は新しいものではない、ずっと培われたものだから」とおっしゃるんです。すごく確固たる自負、こだわりがあるんだろうなと思いました。テクノロジーがあるからそれを使うこと自体は素晴らしいことですが、その反面、シンプルに削ぎ落としたなにか根源的なもの。それがある意味意外と「本物を超える」近道なのかなと思えるんですね。それはお客様の想像力のおかげでもあるんですけど。ある種、お客様とがっぷり四つになるような取組み(笑)。そういうものが生まれやすいスタイルなんだろうな、と僕自身も『ペダステ』に出演していたころから魅力に感じている部分であるのは今でも変わりません。そこは変わらず、西田さんの演出方法を受け継ぎたいなと思っています。

――余分なものを削ぎ落とす、日本の伝統芸能のような。ある意味「能」に通ずるものがありそうで、非常に日本的ですね。それでは、お客様にメッセージを。

鯨井:はじめての演出なのでお手柔らかに……というよりも「僕も走り抜いた結果やっぱり好きなんです」ということを伝えたいんです。小野田坂道の物語が好きなんです。10周年を迎え、原作の頭からはじまる『ペダステ』と、手嶋純太を演じきって、それでもやっぱり戻ってきた僕と、その親和性が最初からスタートするというところのリンクでもあると思うんです。「やっぱり好きなんだよ『ペダステ』」って、僕も思っていますし。、とてもフレッシュな役者さんもたくさん集まっていただけて、彼らと接する中でその魅力をたくさん感じているところ。稽古場でさらにその魅力が増すのかなと思うと、今からすごく楽しみなんです。そんな新しい『ペダステ』、10周年というリスペクトを込めたうえで彼らとともに走っていきたいですね。
これまでを見守ってくださったお客様にも、アニメだけしかご覧いただけていない、舞台未経験の方々にも「やっぱり『弱虫ペダル』が好き」と今の僕と同じ気持ちになっていただけたらすごくうれしいなと思います。そんな『ペダステ』を目指して僕もがんばりますので、どうぞご期待ください!

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしております。

[弱虫ペダルとは]
2008年より『週刊少年チャンピオン』(秋田書店刊)にて大好評連載中の、渡辺航が描く作品。ロード レースという自転車競技を題材にし、男女問わず漫画ファン、自転車愛好家など、多くの人から支持され、 コミックス累計発行部数2,700万部を突破した、今もっとも熱いスポーツ少年漫画である。 孤独なアニメオタク少年の小野田坂道が、総北高校自転車競技部の仲間と共にインターハイを目指し、そ の中でライバル校である王者・箱根学園(ハコガク)や京都伏見高校らのメンバーと切磋琢磨しながら成長していく物語。 2013年10月にTVアニメ化され、2014年10月に第2期、2017年1月に第3期、2018年1月に第4期を放送。 2015年8月には劇場版アニメが公開。2016年8月に放送した実写ドラマも好評を博し、2017年8月には 「Season2」を放送。2020年8月には実写映画を公開した。 2022年10月からTVアニメのシリーズ第5期となる『弱虫ペダル LIMIT BREAK』が放送開始予定。

[あらすじ]
千葉県・総北高校に入学した小野田坂道は、千葉から秋葉原まで往復90kmの距離を毎週ママチャリで通うほど、アニメやフィギュアが大好き。 高校生になったらアニメ研究会に入って友達を作ろう!と意気込んでいたが、ひょんなことから同じく新入生の今泉俊輔・鳴子章吉と出会い、自転車競技部へと入部することに。 孤独なオタク少年だった小野田坂道は、やがて自転車を通じて出会った仲間や先輩達と共にインターハイ 優勝を目指す!

概要
日程・会場
東京  7月5日(火)~7月10日(日)  シアター1010
大阪  7月16日(土)~7月18日(月・祝)  COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
原作:渡辺航『弱虫ペダル』(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)
総監督・脚本:西田シャトナー
演出:鯨井康介
音楽:manzo
作詞・歌:桃井はるこ
レース演出協力:河原田巧也
キャスト
小野田坂道 役:島村龍乃介 今泉俊輔 役:砂川脩弥 鳴子章吉 役:北乃颯希 巻島裕介 役:山本涼介 金城真護 役:川﨑優作 田所迅 役:滝川広大/
福富寿一 役:髙﨑俊吾 荒北靖友 役:相澤莉多 東堂尽八役:フクシノブキ 新開隼人役:瑛 真波山岳 役:中島拓人/
パズルライダー監督:伊藤玄紀 パズルライダー:村上渉 田上健太 山口拳生

公式サイト:http://www.marv.jp/special/pedal/

©渡辺航(秋田書店)2008/ 舞台『弱虫ペダル』製作委員会

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし