人狼ゲームを題材とした人気舞台シリーズ『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』が今年10周年を迎える。2012年から毎年数回公演されており、ファンも多く様々なバージョンで上演もされている。脚本があるのはオープニングのみ。開演直前に出演者はカードを引き、人狼ゲームのルールに従ってお互いの正体を推理しつつ、ゲーム展開に基づいた物語を即興劇のスタイルで演じ、ゲームとしての勝敗が決まったところで終幕。観客も役者と同じ目線で推理できるので“参加型演劇”といえよう。今年は10周年という節目、様々なお楽しみ公演が予定されている。この『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』に初演から出演し、演出も担い、マドック役でファンにもお馴染み、今回総合演出を行う松崎史也さんのインタビューが実現した。
――2012年初演時の思い出などお願いいたします。
松崎:思い出はいっぱいあるのですが、当時はどんな舞台になるのか誰もわからない状態でスタートを切りました…本当に小劇場の隅っこで始まった演劇だったので、実際、客席には10人前後のお客様っていうところから始まったので、出演者が知り合いや友達、後輩とかに声をかけたりとかっていうこともしながらスタートしました。公演の最中、日に日にお客様が増えていっていくのが実感としてわかってきまして。個人的には“小劇場ドリーム”を目指してやっているところがありましたが、それを実感出来て、そこからみるみる次の公演が決まって、やっていくごとに客席の人数や熱量とかが、加速度的に上がっていきました。その全部の瞬間に初めからいたことによって、そういう場面に立ち会えたのはすごく幸せだったし、楽しかった。本当にどうなるのかわからないっていう舞台上と客席だったな、というのがすごく思い出深いですね。今でも記憶に残っています。
――私も初めて観たのが、確か、2014年か2015年ぐらいで池袋のシアターKASSAI。その時に「これはやっている方は大変だな」と思いました。大変だけど、すごく面白いなと。
松崎:大変に見えると思いますね。
――最初のプロローグは決まっていますが、そこからはキャラクターを演じながら即興で、その場で会話をしながら、誰が人狼なのかをお互い探りつつ、お客様も探りつつ、というところがすごく面白い反面、演者さんは「素」ではなくって、キャラクターになって、ガチでやるから、結構大変だなという印象を受けました。これが「素」だったら普通のゲームですが、そのキャラクターがやっているってことですから。
松崎:演劇やショー、エンターテイメントはそもそも普通の人ができないことを軽々とやってのけているように見えるから、価値がある、と思っているので、そう見えるコンテンツであることはすごくよかったなと思いますし、そう見えるように振る舞っているつもりなので、実践している側としては。歌が素晴らしいとか踊りが素晴らしい、演技が素晴らしい、というのと同じで、普通の人から見たらどうやって演じているのか、自分にはできないけど、すごいっていうものがやっぱり舞台上にあるべきだと思います。アドリブでやっている、その場でやっている人狼ゲーム、観たことのないエンターテイメントがあるってことをお客様に思ってもらえたなと思っています。
――私もまず、最初の印象は面白いなっていうことと、あと観ているお客様のスタンスが自由。つまり、誰が人狼なのか、誰が人間なのか、誰が予言者なのか、そういうところを当てるために観るという方向性もありつつ、当たらなくていいから、それぞれのやりとり、面白さを体験すればいいという風に観る方もいらっしゃる。もちろん両方、会話を楽しみつつ、当ててやるぞという人もいたと思うんです。そこが自由で面白いなと思いつつ、個人的にはやりとりを見ている方が楽しいなと。
松崎:そこは本当に好きに観ていただいていいと思います。
――ゲームをやることの面白さもあり、お芝居を鑑賞するという楽しさもあり、その二つが存在していることが非常に面白いと一番最初にそう感じました。松崎さんはマドック役をずっとやっていらっしゃいますが、世界観は桜庭さんが作っていますが、ずっと演じてきたなかで、ご自身の演じる上でのマドックへのこだわりはどういうところでしょうか?
松崎:変遷している部分もあるのですが、スタートが村の中の医者という立ち位置だったので、賢く見えて鼻持ちならない、癖のある人物でスタートし、そこからは認知された状態で進んでいくことになる。初期の頃はメガネがアイコンになっていた感覚だったので、新撰組の時はメガネは継続して、真逆の柔らかいけれども知的であるというところにいき、スチームパンクの世界になると、メガネを片眼鏡、モノクルにしてぶっとんだ天才という役どころにしました。自分としてのこだわりは、ゲームの中における天才キャラ、みんなの先を行って、答えを言ってかぶりつくっていうのを背負ってやっていましたので、そこはこだわりました。あれから10年経ったので、自分で言うのは難易度が高いこと、そういうキャラクターがいるとお客様は絶対に楽しいから、それが出来ていてもいなくても、そう振る舞うことが大事、と思ってやっていました。
――マドックはメガネが特徴の一つですね。たとえば、メガネひとつとっても。フレームの色や素材、流行りのメガネをかけているのか、30年前の流行りのメガネをかけているのか、それでもだいぶ印象が変わりますから、どういうメガネにするかで、キャラクターが、また違った感じに見えるかな?と今、思いました。
松崎:そうですね。自分ではキャラクターも意図的にその世界観ごとにかなり明確に変えてやっていましたね。
――スペースゼロでやった新撰組を拝見いたしましたが、新撰組の元々の登場人物、このキャラクターの設定、皆さんご存知の土方歳三、山南敬助、近藤勇、沖田総司など有名な方々がいらっしゃいます。拝見していて、あのキャラクターを踏襲しつつ、各々の役割、土方や近藤はあまりにもまとめようとするので、逆に疑われたりして、そういうところが、面白かったし、興味深かったですね。みんながすでに知っているキャラクターで『人狼』をやるのは面白いですね。
松崎:これは本当に面白いと思ってやっていました。自分でも「そんなこと、言うんだ」っていう瞬間がありました…オリジナルの設定でもそうなんですが、発言する瞬間まで全く用意していないから物語としても俳優としても面白くって…特に新撰組の場合はそれが色濃くて、しかも内側に向けての絆が強いから仲間を疑ったり、仲間に疑われて切腹することの負荷がシンプルに強く、それが演技に影響し、結果として男達が涙を流す…心の痛みとか、実際にそういう順番では死んでいなかったりするここだけの壬生の物語が紡がれていくんだけど、こういう局面になったら、この人物はこういう反応をするかもしれないって言う言葉が仲間や自分から出てくるって言うのがすごく演じていて面白いところ。“システム”が正しい形で流用されて適切な形で指導が行われていれば、おそらく、既存の2.5次元演劇、役者がキャラクターを背負った状態の、2.5次元演劇とも結構相性がいいんじゃないかな?とは思っていまして。多分、俳優たちってカーテンコールとか、オフショットのところはこれにかなり近いことをすることを求められていまして、2.5次元演劇の場合はキャラクターが逸脱することはあまり良いことではない。アドリブで演じきることは非常にリスクが高いので、今、すぐにはきっと難しいんでしょうけど、非常に面白いコラボレーションの可能性はあるなと思っています。
――『宇宙兄弟』バージョンを拝見しまして、2.5次元ですけど、原作にいそうでいないキャラクターがいましたね。メンバー全員が漫画なり、アニメなりにいる人物だと結構ハードルは高いと思うんですけど、原作にいそうで、実はいない人物を多く混ぜたところが面白かったし、『宇宙兄弟』バージョンに出てきたオリジナルキャラクターを逆に原作に登場させたら面白いかなと思いました(笑)。
松崎:そういう経験やチャレンジが『宇宙兄弟』、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』とのコラボでありましたが、その時に、この世界観でこういう役柄だからきっと原作のイメージの中で人狼ゲームをすることができるだろうっていうキャラクターをプロデューサー側と一緒に作っていきましたが、それがそういう作業は非常にクリエイティブでよかったと思いますね。
――みんなが知っている漫画やアニメのキャラクターが舞台化、つまり2.5次元になると、それはそれでわかりやすい。お馴染みのキャラクターが、彼らが生きている世界観の中で全く違う物語で生きるっていうところが面白いというか、そこが新しい方向性かもしれませんね。
松崎:たとえば『HUNTER×HUNTER』のハンター試験だったり『鬼滅の刃』の鬼殺隊の入隊試験だったり、本来の登場人物が出てこなくても、他に候補生がいた、みたいな…その世界観で舞台化することは相性がいいと思いますね。
――部活ものとかも新撰組と同じように仲間が結束しないと試合に勝てない、その中で『人狼』やるとハードル高くて、でも見てる方は面白いとは思いますね。
松崎:部活もので殺し合うのは難しい(笑)、設定との相性はあると思うのですが、キャラクターの結びつきが強いと、盛り上がる。
――まあ、部活で殺し合うのもいかがなものかと(笑)。でも、登場人物達の結束が強い、2.5次元系でやるのは面白いかなと。ところで稽古は、どのように行なっていらっしゃるのでしょうか。
松崎:短いオープニングシーンについては通常の演劇の稽古と同じですが、本編に関しては通し稽古を繰り返す、実際にカードを引いてキャラクターを決めて、役者の方でちょっとキャラクターがずれているなと思えば、持ち帰ってまた次やってみてっていうやり方…台本がないから、やってみるしかない。演出家も、自分も含めて、いろんな方が今まで演出をしてきて、それぞれの人が役者に対してどこまで干渉するかっていうのも、違っていますから。演出している時は役者のキャラクターや振る舞いまで僕は口を出すんですけど。今回はそこも役者に全くお任せっていう…ただ全体を通してのところも干渉とか調整はするけれども、各々スタイルがありますね。
――そのあたりが、演出家それぞれの違いはあると。
松崎:違いますよね。しかしそれはいいことだと思います。演目ごとに色がついていくし、いい意味でばらつきがあります。
――『人狼TLPT』、今年で10年目を迎えますね。そしていろいろなヴァリエーションが追加されています。
松崎:そうですね。10周年だから10種類。ファン感謝公演でもあるので、いろいろな世界観で公演をこれまでやってきたので、お客様に一旦総決算として思い出してもらいながらお祭り気分で楽しめるステージとして、パラレル、イフ…?などがありまして、ファン向けのステージといって過言はないです。なので、初期にリリースしたノーマルEXG、ルーキー、イザヴェル、エキスパートといったあたりがオーソドックスな『人狼TLPT』ですので、本当にはじめて興味を持ってくださった方ならそのあたりがわかりやすいと思いますね。
――では、人狼が人間に怯えるイフ…?はどうでしょうか。
松崎:一周回った人なら面白いと思いますよ(笑)。それはもう完全に通好みというんでしょうか、これまで観てきてくださった方に送るバージョンでもあります。ですが、人狼ゲームが未経験の人がそこから観ると、何が面白いのかわからなくなってしまうかも(笑)。
――男性が女性に扮するプリンセス。これも通好みなのかも。
松崎:ええ。これも多くのファンの方が待っているバージョンでしょうね。
――ルーキー、これは『人狼』に出演したことがない方が出ているんですね。
松崎:基本的に「今回から参加」という方ですね。今までルーキーのみ、という公演はなかったんですよね。そういう意味では10年前にはじめたプレビュー公演がそれにあたるんですが。今回とにかく「ルーキー公演をやりたい」とプロデューサーの桜庭さんと進めているんですが、そう申し入れたのはやはり「何もないところから作った」感覚でもう一度演劇の世界に対して『人狼TLPT』が始まったほうがいいなと感じていまして。それをするには一定の価値観が出来上がっていたり、プレイスタイルができている人と交わりながらするよりも、完全に初めての人だけの成功や失敗を重ねていくことでこれまでの10年とは違う価値観の集団が形成されていくべきだと思います。そうすることがおそらくここから別の10年を作ってくれるとも思います。自分が彼らと一緒にプレイヤーとして交わっていくつもりではなく、この10年見てきたものをこれからの10年に必要だろうと考えることを両方伝えながら彼らと新しい『人狼TLPT』を作っていきたいですね。
――ある意味ルーキーは原点だということですね。やはり一番最初というのは出演者全員が右も左も分からない状態。
松崎:それってすごく怖いし、きっと失敗もあるだろうし、価値に見合わない瞬間も絶対に発生する。でもそれを凌駕するだけのいびつさだからこその圧倒的な面白さがあるはず。スタートから観る楽しみっていうものがあるんですよね。ぜひともルーキーの「はじめて」の「1回目」のステージを観ておくことが、もし今回のルーキーたちが『人狼TLPT』を背負うようになったときの自慢になるんじゃないかと思います。ぜひルーキー公演にも注目してほしいですね。
――それでは、読者にメッセージを。
松崎:10年間、ずっと言われ続けていることとして『人狼ゲーム』がよくわからないけどどうなんだろう、というのがありましたが、とはいえ『カイジ』『ライアーゲーム』を見ていますっていう場合、ゲームのルールを完全に理解しなくても楽しむ分には問題ないですよね。それよりも「この人は命をかけて駆け引きをしている」「あんなに泣きながら自らの潔白を表明していた人が実は嘘をついていた」というシンプルな部分にこそ惹かれるものがあり、同時に役者の演技として価値があると思います。演劇や演技というものに慣れている人が観たとしても絶対に面白いと思いますし。一方で推理ゲームが好きだと言う人にとってはそこを考えるのも楽しいと思います。
アドリブで推理のデスゲームが目の前で進んでいくのを観る感覚って、お金持ちのVIPな客が肉料理とワインを飲み食いしながら下々を観る、みたいな(笑)、そういう禁断のエンターテインメントを手軽に楽しんでもらえる部分があります。非常にエキサイティングでスリリングなショーだと思いますし、なにか引っかかるものがあったとしたら劇場に足を運んでいただくか、もしくは配信もありますので。観ていただけたらとうれしいなと思います。
――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。
人狼 ザ・ライブプレイングシアターとは
『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』(以下、人狼TLPT)は、2012年にスタートした「人狼」ゲームを題材とした舞台シリーズ。出演者13名がお互いの正体を推理しつつ、「人狼」ゲームのルールに基づいた千変万化の物語をアドリブで演じる、ライブ・エンターテインメント。脚本はオープニングのみで、開演直前に13枚のカードで決まる役割に従い<人間 vs 人狼>の戦いを即興で展開し、究極の心理戦を繰り広げる。その為、同じ内容の公演は一切なく、毎回異なる展開を楽しむことができる。また観客も誰が人狼か予想を行うため、出演者と同じ目線で推理を楽しむことができる。
“これより始まるは……今をおいて他にない、たった一度の物語。”
株式会社オラクルナイツについて
舞台『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』をプレビュー公演(2012年10月)の頃より主催するクリエイターグループ「セブンスキャッスル」を母体として、2016年6月に法人化。代表は総合プロデューサーの桜庭未那。
概要
タイトル : 『人狼TLPT 10th Anniversary -ROSERIUM-』
日程・会場: 2022年9月28日(水)~10月10日(月・祝) シアターサンモール
スタッフ : 総合プロデュース 桜庭未那
総合演出 松崎史也
『人狼TLPT』問い合わせ窓口
e-mail:info@oracleknights.co.jp
公式HP : http://7th-castle.com/jinrou/10th_anniversary/
取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし