細貝圭,山本涼介,鳥越裕貴,今泉佑唯,本西彩希帆,大串有希出演 舞台『最後の医者は桜を見上げて君を想う』 生と死を見つめる、生き切ること。

二宮敦人『最後の医者は桜を見上げて君を想う』、舞台化作品が開幕した。

冒頭、音山春夫(鳥越裕貴)が登場、この物語の輪郭がここでそこはかとなくわかる。病院は人の生死の交差点だ。治る場合もあれば、そうでない場合もある。患者にどのような治療を施すか、特に助かる見込みの薄い場合はなおさらだ。どんなことがあっても病と闘うことに信念を燃やす福原雅和(細貝圭)、腕もいい、最善の治療をして奇跡を起こしたい、諦めの悪い男、しかも院長の跡取り、この病院をよくしたい、青雲の志を持つ。

一風変わった医者・桐子修司(山本涼介)、無理矢理な延命治療をよしとしない。残りの余生をその人なりに充実させたい、と思う。

もう一人は音山春夫(鳥越裕貴)、平凡だが、患者と一緒に悩み、迷い、寄り添おうとする。

普通のサラリーマンが白血病になり、さまざまな治療の選択を迫られる。医大に合格し、これからという矢先に不治の病に犯される女子大生。この医者三人のうちの一人、音山春夫が喉頭癌になる。彼には祖母がいる、電話して声を聞かせたいという音山。この3つのエピソードから三人の医者のそれぞれの考え方が炙り出される、という趣向。


三人の考えや姿勢は、各々の信念に基づいている、どれも間違っていないし、また正解もない。答えのない命題、そこに真摯に向き合う。福原は院長の跡取りゆえに病院の経営、立ち位置にも関わらざるを得ない。政財界の大物の手術、普通にくる患者より優先しなければならない。

飄々とした桐子、一見冷たいように見えるが、患者の人生、悔いのないようにしたい、という気持ち、だから自分らしく終末を迎えさせたいという観点から無理な延命治療をよしとしない。音山は基本優しい、だから優柔不断にもなる。この3人、キャストのバランスもよく、熱演。彼らを取り巻く患者、同僚の他の医者、看護師、皆、普通の人々、死に向き合い、生を思う。


テーマは重く、たくさんのことを内包している。生と死、死ぬことは生きること。「明日が来る」と普通に思っていた日々が病によって突然失われる、「明日は来ないかもしれない」という恐怖。会社員はもうすぐ子供が生まれる、という矢先。子供と何をしようか、名前はどうしようかと普通に考えていた日々が失われる。勉強してようやく勝ち取った医大合格、夢と希望に満ちた日々がなくなる女子大生。普通は実は普通ではなかった、奇跡の積み重ねと気が付き、それがいかに尊いものであったかと。そんな患者と向き合う医師もまた同じ。

音山は祖母に自分の声を聞かせたいがために、祖母の”普通”を守るために手術しないことを決める。福原はそれが確実に死を意味するからこそ、彼に「手紙を書く」ことをすすめるくだりは胸が痛い。音山を死なせたくない福原の気持ち、桐子は音山の祖母に自分の声を聞かせたいという希望を尊重する、どちらも間違いではないし、どちらも正しい。

ラスト近く、回想する3人、学生の頃、希望に満ち溢れた日々を思い出す。シンプルなセット、照明、それだけで見せるドラマは濃密で尊い。休憩なしのおよそ2時間、明日のことはわからない、だから今日を懸命に生き切る。福原と桐子は正反対、そして喉頭癌になった平凡な音山、3人の根っこは同じ、人を、命を尊重する心。原作を紐解きたくなる作品だ。

劇場で待ってます!

【あらすじ】
舞台は武蔵野七十字病院。そこに勤める三人の若い医者。三人は同じ医大に通い、共に七十字病院に入った同期である。それぞれに信念を持っている。 一人は副院長の福原雅和(細貝圭)。院長の一人息子で天才外科医。命に限りがある患者に 対して、奇跡を信じ、諦めず難病と闘うことを願う。「生」を諦めない医者。 一人は風変わりな医者の桐子修司(山本涼介)。闘病に疲れた患者には無理に延命治療を行わずに、自分らしく余命を過ごすことを勧めることから死神と呼ばれている。「死」を受け 入れる医者。 一人は平凡な医者の音山春夫(鳥越裕貴)。二人ほどの信念はないが、患者と一緒に悩み、迷い、寄り添う。 この三人を時に支え、時に自らの野心を燃やすのが神宮寺千佳(本西彩希帆)という看護師 である。
神宮寺は福原の元彼女で、今は福原の指示で桐子を見張るべく助手をしている。 この医者たちの信念が「とある会社員の死」「とある女子大生の死」「とある医者の死」を通 して語られていく。
「とある会社員の死」は若くして白血病にかかってしまった浜山雄吾の話。雄吾は平凡なサ ラリーマンでお腹に子供を宿した妻、京子(佐々木ありさ)と暮らしている。病院に検査に来た ところ白血病と診断される。 白血病における闘病で様々な選択を迫られるが、どの選択も確率、確率で悩み苦しむ雄吾。 徹底して闘病するようにしむける福原。桐子は雄吾との面談で死に向かって自らの足で歩い て行くことをすすめる。 雄吾は優柔不断でこれまでの人生で何かを決断したことがなかった。だが愛する妻の京子と 一生一緒にいられるかもしれないという一縷の希望に賭けて、造血管細胞移植を選択する。
「とある女子大生の死」は医者を目指して医大に合格したばかりの川澄まりえ(大串有希) の話。まりえの両親は医者である。まりえは次第に体が動かなくなり命を落とす病、ALS に かかってしまう。そのまりえの主治医となるのが音山。 まりえは闘病の中で延命治療をしないことを選択する。音山はまりえの家に往診し、最後の 最後まで看取る。まりえと語り合う中で、自分がなぜ医者になったのか、自分は医者として 何ができるのかを悟っていく音山。
「とある医者の死」は音山晴夫の話。音山には田舎に年老いた祖母が一人いる。この祖母は 音山と電話で話すことだけが楽しみである。その音山が咽頭癌にかかってしまう。 音山が癌にかかったことで人はどう生きるかという問題に改めて直面する福原、桐子、音山。 福原は音山の完治を目指して治療計画を立てるが、癌の進行が早く全身に転移してしまって いた。音山は治る確率の低い治療を続けるよりは、祖母と電話をするために声帯を残すこと を望み、桐子に治療計画を立ててもらう。 なんとしても命を救いたい福原、音山の望みを叶えてやりたい桐子、二人に協力してもらいたい音山。治療計画をめぐり、対立していってしまう三人。
生と死に対する考えは人それぞれ。
その選択肢は無数にある。
何を大切にして、何を選ぶかはその人次第。
三人の医者が病気を通して、人はどう生きていくべきかという問題に向き合っていく。

概要
日程・会場: 2022 年9月8日(木)~9月11日(日) CBGK シブゲキ!!
原作:二宮敦人『最後の医者は桜を見上げて君を想う』(TO文庫刊)
構成演出:岡村俊一
脚本:久保田創
出演
細貝圭
山本涼介
鳥越裕貴
今泉佑唯
本西彩希帆(劇団4ドル50セント)
大串有希
濱田和馬
久保田創
河本祐貴
佐々木ありさ
協力:アール・ユー・ピー
主催:TO ブックス
公式HP:http://www.tobooks.jp/lastdoctors-stage/index.html