本作は、2021年4月に初演の幕を開けるも、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、数公演で東京公演は中断、大阪公演の全中止を余儀なくされたが、2023年、再び。
舞台『サンソン』は王族、貴族、革命家、一般庶民にいたるまで、フランス革命にかかわった多くの人間たちの理想や挫折、生きざまを、鮮やかに浮かび上がらせる。
主人公は、18世紀のフランス・パリに生きた、実在の死刑執行人シャルル=アンリ・サンソン。時には忌まわしい存在として人々に疎まれながらも、国家と法を重んじ、職務を遂行し続けた彼は、敬虔なカトリック教徒で医者でもあり、その内心には常に、死刑廃止論者としての死刑制度に対する葛藤があった。死刑の方法は陰惨な拷問を伴うものもあり、せめて誰にでも平等に苦痛を感じさせない死をもたらそうと、サンソンは、ギロチン(断頭台)の発明にも積極的に協力した。だが、フランス革命期に完成したギロチンは処刑の名の下に多くの人間の死を量産する道具となり、サンソンが敬愛した国王ルイ16世も含まれていた。
演出は白井 晃、脚本は中島かずき(劇団☆新感線座付作家)、音楽は三宅純。
死刑執行人という宿命を背負ったシャルル=アンリ・サンソンの葛藤を一身に背負うのは、稲垣吾郎。大きな時代の変化を見つめる知性と冷静沈着さを保ちつつ、その内面に息づく人間性、信念、情熱をも感じさせる多面的なサンソン像、初演時にも深い印象を残した。
フランス革命のいちばんの当事者であり、サンソンの敬愛の対象でもあるルイ16世役には、大鶴佐助が挑戦。その他の新キャストは、崎山つばさ(トビアス・シュミット役)、佐藤寛太(ジャン=ルイ・ルシャール役)、D-BOYSの池岡亮介(ルイ=アントワーヌ・サン=ジュスト役)、革命期の青年たちを演じる。
初演メンバーからは、落合モトキ(ナポリオーネ・ブオナパルテ役)、清水葉月(エレーヌ役)が続いて出演。さらに、ギロチンの発案者で医師、ギヨタン役には田山涼成、シャルルの父親とロベスピエールの二役には榎木孝明も続投する。
2021年の初演時から時間が経過、その分、演出や脚本面がブラッシュアップ、主人公のサンソンのみならず、それ以外の登場人物たちの人生をよりクリアーにみせる。死刑執行人の家に生まれただけで、多くの苦難が生まれる。物語の冒頭で裁判のシーン、貴婦人から訴えられるサンソン。当時、死刑執行人は忌むべきものとして見られており、この貴婦人はそうとは知らずに一緒に食事をしたからだ。つまり、もしもサンソンが死刑執行人の家の人間ではなかったなら、この貴婦人は訴えなかったわけである。人物そのものを見ているのではなく、その人物の地位や身分で判断しているに他ならない。
フランス革命、世界史においても間違いなく十大事件に入る出来事であり、その影響は世界中の国々に波及。革命前は、「血筋」「生まれ」によって運命は決まっていた。つまり、自由とか平等などは論外、フランス革命は、その常識を覆した。「人間の自由と平等」を宣言したことはフランス革命の功績。封建社会から近代社会への流れを決定的なものにした。そして、この物語でも描かれている処刑機械「ギロチン」誕生、革命前は庶民と貴族では同じ死刑でもやり方が違っていた。時代の波、自由と平等、よって死刑の方法も貴族と庶民は同じでなければならないのでは?という議論がなされた。サンソンやギヨタンが議論するシーンがあるが、苦痛を長引かせない、そして等しく同じ処刑方法で、ということで誕生したギロチン。
ここは何度観ても興味深い場面。また、サンソン回想録によると、この時にサンソン、ルイ、ルイ16世の3人で非公式に検討会が開かれ、この時にルイ16世が、刃を直角三角形の定規のような斜めの形にすることを提案したと記されている(異説あり)。ルイ16世のその後の運命を思うとどこか哀しみを感じる。そして、時代は大きくうねり、ついにフランス革命が起こるのである。
続投キャストは主演の稲垣吾郎始め、落ち着いた、深い演技でカンパニー全体を牽引。新キャスト、特にこのカンパニーでは若手の崎山つばさや佐藤寛太らが自由・平等に酔いしれる若者を熱演、そのエネルギーと革命シーンがシンクロし、熱い場面に。
死刑執行の指揮をとる四代目「ムッシュー・ド・パリ」シャルル–アンリ・サンソン、誰よりも人の幸せを願い、自由と平等を愛していたにもかかわらず、世襲制の時代背景、死刑執行などやりたくない、だが、やめることはできない、その矛盾を抱え、呵責も感じながら、抗えない革命の激流に翻弄されつつも己を見失わないサンソン。映像を効果的に使いつつ、アナログな手法で場面転換、時代や国籍を超えた音楽、登場人物たちがその後、どうなったかは誰もが知ってることだが、それでも見入ってしまう、物語のパワー。そしてサブタイトルの”ルイ16世の首を刎ねた男”、サンソンはルイ16世を敬愛していたが、その彼を自分自身の手でギロチンにかける運命。ルイ16世の処刑は、世界中に知れ渡っている”大事件”であり、サンソンの苦悩をも示している。この物語は様々なものを内包している。
会見では稲垣吾郎が「完走したい」と語ったが、今度こそ、きちんと大千穐楽まで上演されることを願うばかりだ。上演時間は約2時間25分(休憩あり)。
ゲネプロ前に簡単な会見が行われた。登壇したのは稲垣吾郎、大鶴佐助 、崎山つばさ、佐藤寛太 。
2021年の公演は開幕したものの、4月25日から3回目の緊急事態宣言の期間に入り、公演は中止になった。稲垣吾郎は「本当に悔しい思いをしました。今回の再演を演出の白井さんは“再始動”とおっしゃってくださっています…動き出していることが本当にうれしい。完走することが目標」と語る。また「飄々としていますが、舞台の上では力を入れてやっています。頭は冷静に、心は熱くしないと」と言い、「舞台は一番自分らしくいられる場所」と語った。
ルイ16世役の大鶴佐助は「歴史上の人物をまさか自分が演じることになるとは…役になり切れるように頑張りたい」と意気込みを。断頭台を作るトビアス・シュミット役の崎山と、ギロチンの刃を作る若者ジャン=ルイ・ルシャール役の佐藤は、実は過去に共演してたそう。それについては稲垣吾郎は初耳。「あまり喋らなかった」と言ったら「ワインの話をしてたじゃないですか」と佐藤寛太。続けて「話しやすかった」と振り返る。崎山つばさは「お芝居の細かいところを観て下さった…これからいろんなお話をしたい」とコメント。
最後にPR。
稲垣五郎「歴史の舞台裏で活躍していた人間の物語。そういう人間がいたことを知っていほしい。白井晃さんが作る、細部にこだわった美しい舞台芸術が、観る人の心にも記憶にも残る深い作品に仕上がっています。ぜひ、劇場にお越しください」
<2021年公演レポ>
物語
1766年、フランス。その日、パリの高等法院法廷に一人の男が立っていた。
彼の名はシャルル=アンリ・サンソン(稲垣吾郎)。パリで唯一の死刑執行人であり、国の裁きの代行者 “ムッシュー・ド・パリ”と呼ばれる誇り高い男だ。市中で最も忌むべき死刑執行人と知らずに、騙されて一緒に食事をしたと、さる貴婦人から訴えられた裁判で、シャルルは処刑人という職業の重要性と意義を、自ら裁判長や判事、聴衆に説き、勝利を手にする。
父・バチスト(榎木孝明)の仕事を受け継ぎ、処刑人としての使命、尊厳を自ら確立しつつあったシャルル。おりしもルイ15世の死とルイ16世(大鶴佐助)の即位により、フランスは大きく揺れはじめ、シャルルの前には次々と罪人が送り込まれてくるようになる。将軍、貴族、平民。日々鬱憤を募らせる大衆にとって、処刑見物は、庶民の娯楽でもあったが、慈悲の精神を持つシャルルは、自身の仕事の在り方に疑問を募らせていく。
そんなある日、蹄鉄工の息子ジャン・ルイ(佐藤寛太)が、恋人エレーヌ(清水葉月)に横恋慕した父を殺める事件が発生。その死は実際には事故によるものだったが、「親殺し」の罪は免れず、ジャン・ルイは車裂きの刑を宣告される。しかし、職人のトビアス(崎山つばさ)、後に革命家となるサン=ジュスト(池岡亮介)ら、彼の友人たちは、刑場からのジャン・ルイ奪還を目論み、成功する。この顛末を目の当たりにしたシャルルは、いっそう、国家と法、刑罰のあり方について、思考を深めることとなる。
さらに、若きナポレオン(落合モトキ)、医師のギヨタン(田山涼成)ら、新時代のキーマンとなる人々とも出会い、心揺さぶられるシャルルがたどり着いた境地とは——。
概要
『サンソン -ルイ16世の首を刎ねた男-』
日程・会場
東京
2023年4月14日(金) ~ 4月30日(日) 東京建物 Brillia HALL
主催:キョードー東京/TBS/イープラス
後援:TOKYO FM/TBSラジオ
大阪
2023年5月12日(金) ~ 5月14日(日) オリックス劇場
主催:「サンソン」大阪公演製作委員会
長野
2023年5月20日(土) ~ 5月21日(日) まつもと市民芸術館 主ホール
主催:キョードー東京/TBS/イープラス
SBC信越放送/一般財団法人松本市芸術文化振興財団
原作:安達正勝『死刑執行人サンソン』(集英社新書刊)
坂本眞一 『イノサン』に謝意を表して
演出:白井 晃
脚本:中島かずき(劇団☆新感線)
音楽:三宅 純
出演:
稲垣吾郎
大鶴佐助 崎山つばさ 佐藤寛太 落合モトキ 池岡亮介 清水葉月
智順 春海四方 有川マコト 松澤一之
田山涼成/榎木孝明
今泉 舞 岡崎さつき 小田龍哉 加瀬友音 木村穂香 久保田南美
熊野晋也 斉藤 悠 髙橋 桂 チョウ ヨンホ 中上サツキ 中山義紘
奈良坂潤紀 成田けん 野坂 弘 畑中 実 古木将也 村岡哲至
村田天翔 ワタナベケイスケ 渡邊りょう
公式ホームページ:https://sanson-stage.com/