劇団扉座第75回公演『Kappa ~中島敦の「わが西遊記」より~』上演中 沙悟浄の目に映る景色は。

劇団扉座の新作『Kappa ~中島敦の「わが西遊記」より~』が上演中だ。

中島敦は、日本の小説家。代表作は『山月記』『光と風と夢』『弟子』『李陵』など。第一高等学校、東京帝国大学を卒業後、横浜高等女学校の教員勤務のかたわら小説執筆を続け、パラオ南洋庁の官吏(教科書編修書記)を経て専業作家になったが、同年中に持病の喘息悪化のため33歳で病没。死後に出版された全集は毎日出版文化賞を受賞。著作は、中国古典の歴史世界を題材にした作品や、南島から材を得た作品、古代伝説の体裁をとった奇譚・寓意物、自身の身辺を題材にした私小説的なものなど、未完作も含めわずか20篇たらず。漢文調に基づいた硬質な文章の中に美しく響く叙情詩的な一節が印象的。冷厳な自己解析や存在の哲学的な懐疑に裏打ちされた芸術性の高い作品として評価されている。
特に遺作となった『李陵』の評価は高く、死後に名声を上げた作品のひとつとして知られている。『山月記』は雑誌『文學界』に掲載されたことで中島敦の名を初めて世間に知らしめた作品。のちに新制高等学校の国語教科書に広く掲載され、多くの人々に読み継がれている。なお、自筆資料や遺品は神奈川近代文学館の「中島敦文庫」に所蔵。『わが西遊記』(わがさいゆうき)は、中島敦の未完とされている小説の連作。「悟浄出世」と「悟浄歎異―沙門悟浄の手記―」の短編2編が書かれ、各々の末に「―「わが西遊記」の中―」と書かれていることから、『わが西遊記』と総称。

スーツ姿でロン毛、メガネ、頭は禿げている。河童の頭の人物、彼は妖怪(有馬自由)、みた通りの河童。そしておかしな格好をしている男・魚怪先生(岡森諦)は言う「自分というものに疑いを持つ」、究極の問いかけ、それに対して河童は呼応する、「まさにその通り」と言う。そこへド派手な3人姉妹、関西ノリ、わちゃわちゃと。河童、どう見ても行動するタイプではない。だが、魚怪先生の影響もあって、河童は旅に。自己とは何か、辞典を紐解く、出会う不思議な人々。自己=我、自分、自分自身。そんな時に魚怪先生は言う「私は人間だった」と。

とにかく摩訶不思議な人々が、いや人ではなく妖怪。天の声を聞く河童。三蔵法師(砂田桃子)の一行に加わる、もちろん、そこには孫悟空(小川蓮)と猪八戒(犬飼淳治)。猪八戒はお約束通り、”食いしん坊”、なぜかここで「551」の肉まんが出るが、そこは笑って(笑)。孫悟空はテンション高く、行動派、三蔵法師は人間、弱い存在だが、信念の人。彼らと一緒に行動する、ということは間違いなく『冒険』であり、様々な壁にぶち当たることとなるが、考えていても前には進めない。行動しなければ、次がない。沙悟浄となった河童は少しずつ変化していく、と言うのが大体の流れ。

とにかく出会う人(妖怪)たちが、もう、すこぶる可笑しく、客席からは笑いが頻繁に起こる。どうにか危機を脱出したかと思えば、囚われの身になったり、孫悟空は瓢箪の中に押し込められたり、もう、これがてんやわんやでここはエンタメなシーンの連続。妖怪たちは扉座メンバー総出で(笑)。アクションあり、笑いあり、そして沙悟浄は気がついていく、”動くこと”の意味を。難しいことは考えずに笑いながら。のっぴきならない出来事にぶち当たり、考える暇などない時もあり、人は、その時に何を想うのか、何を考えるのか。沙悟浄は一見流されているように見えるが、徐々に気付きを得ていく。

扉座総出の妖怪たち、これがとにかく賑やかで、ここは扉座らしいところ。時折、生演奏、エスニックな曲調だったり中国のメロディだったり。徹底したアナログ表現、温かみを感じる演出。孫悟空は元気前向きそのもの、猪八戒はちょっとちゃっかりしたところもあるが、憎めないし、人生(?!)を楽しんでいる節もある。キャラクターのネーミングも笑えたり(鰻大王とか、岩波博士とか新潮博士とか)。また扉座Jr.が3名出演、実に様々な役をこなすので!孫悟空役は急遽、小川蓮が演じていたが、アクションを軽々とこなしていたのが印象的。気弱に見えた沙悟浄の変化、「西遊記」では脇キャラ、この脇キャラを中心に据えることによって見える景色。笑いながらもふと考えさせられる作品。公演は28日まで。千秋楽前日の夜公演はラクイブナイト、有馬自由の還暦記念だそう。

あらすじ
昭和初期を思わせるレトロな書斎で、背広姿の河童が思索にふけっている。
一見物書きに見える彼こそは、流沙河の底に棲む、河童の妖怪(のちの沙悟浄)である。
彼はひたすら自己をみつめるばかりで、行動を起こそうとせず、だがその為に無為なる己の存在を恥じ、忸怩たる思いで焦燥の日々を過ごしていた。
さまざまな文献にあたり、我が道を模索したが、確たる答えはみつからない。
(静なる前半)
やがてそんな彼にも転機が訪れる。虚しさに苦しんだ果て、天の声(観音菩薩の言葉)を聞いたのだ。
「身の程知らぬ『何故』は、向後一切打ち捨てることじゃ。疑わずして、ただ努めよ」
そうして河童は、三蔵法師一行の旅に従うことになる。
その冒険で自分とは真逆の、懐疑することからの脱出者、孫悟空や三蔵法師、猪八戒の力を思い知り、畏怖する。
「意味を知って動くのではなく、動くこと、そのものに意味が生じる」
その真理に驚愕する沙悟浄も、少しずつ生まれ変わってゆく。

概要
劇団扉座第75回公演
『Kappa ~中島敦の「わが西遊記」より~』
厚木:厚木シアタープロジェクト第35回公演
日程会場:2023年5月13日(土)14日(日) 厚木市文化会館 小ホール
東京:「座・高円寺 春の劇場05」 日本劇作家協会プログラム 劇団扉座第75回公演
日程会場:2023年5月17日(水)~28日(日) 座・高円寺1

作・演出:横内謙介
出演:岡森諦 有馬自由 犬飼淳治 累央 鈴木利典 新原武 松原海児 紺崎真紀 小川蓮
砂田桃子 小笠原彩 北村由海 佐々木このみ 大川亜耶
/ 菊池均也(客演) ほか
※菊池均也さんが急病(持病の悪化)のため急遽降板する事になりました。
公演は配役を変更して行う予定です。
スタッフ:
作・演出:横内謙介
舞台美術:金井勇一郎(金井大道具)
舞台監督:大山慎一(ブレイヴステップ)
照明:塚本悟(塚本ライティングデザイン)
音響:青木タクヘイ(ステージオフィス)
殺陣:西村陽一
衣裳:木鋪ミヤコ・大屋博美(ドルドルドラニ)
メイク:比嘉奈津子
協力:krei inc. 大沢事務所 JJプロモーション すみだパークスタジオ ベルモック  テンプリント 明和運輸 厚木扉座サポーターズクラブ〈厚木公演〉
宣伝美術:吉野修平(ヨシノデザインオフィス)
題字:小林覚(三左衛門)
制作:赤星明光 田中信也
宣伝:串間保彦
票券:そのださえ 菊地恵未
製作: (公財) 厚木市文化振興財団〈厚木公演〉/(有)扉座

WEB:https://tobiraza.co.jp