石井光三オフィスプロデュース 舞台「死神の精度~7Days Judgement」人生は時間、人は等しく死に至る

—死神が仕事のために人間界に赴くと必ず雨が降っており、彼は青空を見たことがない—。

舞台「死神の精度~7Days Judgement」は 2009 年 8 月に初演された 伊坂幸太郎氏の同名小説の舞台化作品で、エンターテイメント性溢れる現実離れした設定から映画化が主流の伊坂 作品が初舞台化を果たした作品。活字として読み継がれる小説と違い、時間と空間を共有する”ライブ”ならではの 作品として、伊坂ファンからも演劇ファンからも好評を得た。初演から 9 年、東京公演を皮切りに地方ツアー6 都市を 回るスケールアップで、この度再演することに。

脚本・演出は初演に続き和田憲明。主人公の死神を演じるのは、先日プロ雀士の資格を取ったことでも話 題になった萩原聖人。そして藤田を慕う若手ヤクザに 2.5 次元舞台や「火花」の舞台出演でも注目されている植田圭輔、も う一人の死神は、演劇集団キャラメルボックスを経て声優にもフィールドを広げている細見大輔。そして死神のターゲ ットとなり「死」を判定される任侠の男・藤田は、初演から続投のラサール石井が演じる。

舞台上のセットはどこかの古びたマンション(アパート?)の一室。水槽に冷ケース、安そうなソファにテーブル。2009年東京、の文字。セリフが響く。床屋と千葉の会話、原作の「死神と精度」の冒頭部分、「どうして散髪屋をやってるんだ?」「仕事だからだ」。そして雑踏の音、ノイズ。死神・千葉(萩原聖人)と同僚(細見大輔)との会話、「人間なんてくだらない」という千葉の同僚。CDショップでミュージックを試聴する2人、どこか淡々としている。この作品に登場する死神はどこかのサラリーマンのように感じる。上司から与えられた使命をこなす。死すべき人間を一週間、観察して死を「可」とするのか、あるいは「見送り」にするのか、報告をして「可」の場合は8日目に不可避の死を見届ける、というのが彼らの仕事だ。そして徹底したクールさを持っている。

登場する『人間』は藤田(ラサール石井)と阿久津(植田圭輔)。藤田はヤクザで阿久津はその舎弟という関係。ワンシュチュエーションで舞台は進行していく。閉塞感のある部屋、苛立つ阿久津に落ち着いた藤田。その対比、そしてちょっとミステリー、謎解きの部分もあるのが原作の魅力。

千葉は見た目は普通の中年男だが、人間ではないので、ちょっとした言動が常識から外れることが多々あり、それを面白がる藤田。モノローグ「人間じゃないから当たり前のことがわからない」という千葉。藤田はいう「やっぱり俺は死ぬのか?」と千葉に問いただし、千葉はドキリとするが、藤田は続けて「当てずっぽうだよ」といい「死ぬことは決まっていることなんだよ」という。物語の設定に関係なく、人は等しく死に至る、ごく自然なことだ。それを千葉という人間でない存在を登場させて、我々が当たり前だと思い、別に特に深く考えることのないことを気づかせてくれる。「後悔はないのか」「ああ」、この短いやり取りに藤田の達観して人生観が透けて見えるよう。阿久津は血気盛んだが暗い過去を持ち、どこか屈折している。そんな過去を振り切るようにテンション高く、つっかかったり、落ち着きがなかったり。さて、この2人の顛末はどこへ向かうのか・・・・・。

原作のテイストを十分に感じさせる舞台、雨男の千葉、セットの奥は『外』という設定だが、その降りしきる雨が雰囲気を増幅させる。原作の空気感を伝える『部屋』、大層で深淵なテーマというものではなく、そこには生があり、コインの裏表のように死がある。死神・千葉を通して、その生と死を極めて客観的に突き放したように表現する。何か熱い志もなく、彼らはその瞬間を懸命に生き、千葉は与えらえた任務を遂行するのみだ。千葉の同僚がスパイス的に登場するが、彼の言動もまたクールで冷たい。千葉はいう「人が生きているうちの大半は、人生じゃなくて、ただの時間、だ」。時間の経過は舞台端にある電光掲示板で示されるが、こういった装置で「ただの時間」を表現する。人生は短い、ほんの一瞬の『時間』、しかし、そこには確かに生きた人の『スパーク、煌めき』がかすかに・・・・・・。

公開ゲネプロの後に囲み会見があった。登壇したのは萩原聖人、 植田圭輔、 細見大輔 、ラサール石井。

萩原聖人は「手応えとかはわかんないです。演出の和田さんの言う通りにやって、かっこいいものになっているんじゃないかと」とコメント。この座組の中で初演を経験しているラサール石井は「まあ、もう一度、イチからっていう感じで、すごい、まだドキドキっていうか、緊張しています。失敗せずにやれたらな、と(笑)」と語る。植田圭輔は「初日が開けてみてお客様がどんな反応をするのか、どんな感想を抱いてくれるのかな?っていうワクワクと、本番が始まったら、きっといろいろ、微調整だったりとか、やっていかなきゃならないこともあると思いますが、改めて気合い入りました」とコメント。細見大輔は「初日が永遠にこないんじゃないかっていうくらいにみっちり緻密な稽古の期間を経て今、この場に立てているので、和田さんの演出を信じて、後は本番に向けて頑張るだけ」と語る。原作もそうだが、きっちりとした世界観、セリフのやり取り、ファンも多いだけに稽古も大変だったに相違ない印象だ。萩原聖人はかなり前に和田演出を受けたことがあるそうで「四半世紀以上前」と語る。「僕もそうですが、25年経ってもそんなに変わらないなっていう(笑)、人って。でも変わっている部分は少なくって、それが成長、いい方向に変わっていて、いいものが変わっていないっていう思い・・・・・そんな感じでおただいにやってたような」と語る。和田演出は初めての植田圭輔は「僕は、この中でも圧倒的に年下で、皆さん大先輩でご一緒させていただいて、どれだけ喰らいつけるのか、どれだけ自分が一生懸命になれるのか、どれだけ自分を好きになってもらえるのか、それだけですね。余計なことを考えずに素直なろうと思って今日まできました」とコメント。そして「皆さんと一緒に作ってきた、という想いが強かったので、今、振り返ると楽しい稽古でした」と語るが、密度の濃い稽古場の様子がうかがえる。

萩原聖人は和田演出を初めて受けたのが21歳の頃といい「あの頃は何もわかっていなかった・・・・・・(現在も)わかっていなかったような(笑)、でも緻密さとか濃密さっていう和田ワールドは変わっていなかった」と語る。ラサール石井は「初演も大変だった」と振り返る。「まとまってきたな、と思った日に『全然、ダメだった』と言われて・・・・・・暗転も嫌いなんですよ〜だから流動的にやってかなきゃいけない。精神的には大変だった・・・・・初演のメンバーとは今でも会うとハグし合う同士のような(笑)」とコメント。そして「今回もきっとそうなれるんじゃないかと・・・・・今回の4人は図太かった思います(笑)、打たれても自分なりに跳ね返す」と語り、他のキャストからも思わず笑いが。稽古後はよく食事に行ったようで親睦を深めると同時に『ガス抜き』も。
また萩原聖人は「『華』がないので、男4人、みずみずしい芝居になっていると思います、雨も降っています」と笑わせる。植田圭輔は演じる役については「人間臭くて好きな役」とコメント。喜怒哀楽の激しい役どころを熱演。細見大輔は「着替えが大変だった」と笑わせる。「やっているより見ている時間が長くて、見てて『面白いな』と」とコメント。さらに衣装がおしゃれで「和田さんの好みが反映されている、ギリギリまでこだわた衣装です」と語るが、冒頭のシーンの帽子がなかなか様になっているのが印象的であった。また栗木の役も演じているので、ここも注目。
萩原は先月「日本プロ麻雀連盟」に加盟しプロ雀士の資格を取得したことを発表しているが、ラサール石井は「やったところで勝てるはずもなく・・・・・・・幼稚園児と神!」と笑い、居合わせた全員から笑いが起こった。また稽古中に誕生日を迎えた萩原聖人は「誰も祝ってくんねーなーと思ったら稽古が終わって、麻雀卓のすごいケーキが!」とコメント。良い誕生日だった様子。続けて萩原聖人は「2つのことを同じに向き合える、新鮮な気持ちで向き合える様になった。両方、極めたい」と発言。最後に「イメージは暗いかもしれませんが、どの年齢層の方が楽しめる舞台、男だけの暑苦しい舞台ですが!是非、劇場に足を運んでください」(萩原聖人)、「見終わった後に雨の空や晴れの空が好きになれる様に・・・・・応援よろしくお願いいたします」(植田圭輔)「僕の中では植田くんはヒロインだと思います!可愛らしい!(一同爆笑)植田さんの頑張っている姿を!年齢層の高い3人も!」(細見大輔)「普段のイメージと違いますが、初めて『カッコいい!』と言われました(笑)、伊坂ファンも演劇ファンもエンタメ系が好きな方もご覧になれる作品だと思います」(ラサール石井)と締めて会見は終了した。

【概要】
石井光三オフィスプロデュース 舞台「死神の精度~7Days Judgement」
日程:2018年8月30日(木)〜9月9日(日)
東京:あうるすぽっと
原作:伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫刊)
脚本・演出:和田憲明
出演:萩原聖人 植田圭輔 細見大輔 ラサール石井
企画製作:石井光三オフィス
企画協力:文藝春秋

<全国公演・日程/場所>
岡山:倉敷市芸文館
9月11日(火)
18:30開演(18:00開場)

愛知:アートピアホール 名古屋市青少年文化センター
9月13日(木)
14:00開演(13:30開場)
19:00開演(18:30開場)

兵庫:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
9月19日(水)
18:30開演 (18:00開場)

山形:シベールアリーナ
9月23日(日)
14:00開演 (13:30開場)

宮城:仙台 電力ホール
9月28日(金)
19:00開演 (18:30開場)

盛岡:盛岡劇場 メインホール

9月30日(日)
14:00開演 (13:30開場)
18:00開演 (17:30開場)

公式HP:http://ishii-mitsuzo.com/movie-stage/

文:Hiromi Koh