1994年10月、実話をベースに「昭和」を描いたミュージカル「ホーム」が誕生。
世相の推移と家族のあり方を通して、昭和という時代を日本人がどう生きてきたのかを見つめたこの作品は、来たるべき21世紀の生き方を暗示している、とも言われた秀作。
「ホーム」を構成するのは、あるひとつの家族と60年安保で学生運動に身を投じていた恋人たちのふたつのストーリー。はじめは関わりがないかのように見えるストーリーはやがて、周囲の人も巻き込んで大きなひとつの物語として展開していく。初演からちょうど30年となる2024年秋、この作品がダンスミュージカルとして、新作に近い形で生まれ変わる。
大きくうねる時代の流れや空気感、そして「今」この瞬間を、ダイナミックなダンスにのせて描く新しい「ホーム」。
始まりは現代、手にスマホ、ファッションも今の感じ。そこから暗転、羽衣のような衣装を着用し、ダンスシーン、これがアートな雰囲気を醸し出す。そして始まる。
この物語の中心人物、時は昭和34年、アドバルーンの見張りをしている男、名前は山崎哲郎。アドバルーン、宣伝気球、見たことのない人もいるかと思う。日本では1913年に化粧品会社が使用したのが最初とされる。昭和30〜40年代はこのアドバルーンの隆盛期、時代を感じさせる、まさに”昭和”だ。哲郎は特にこれといった目的もない、戦時中は特攻隊だったが出撃することはなく終戦を迎えた。「何をやっても中途半端」と歌う。
彼は一人の女性と出会う、名前はめぐみ。その一方、ビルの谷間で若い男女、いずみと宏。学生運動が盛んだった時期、宏も御多分に洩れず、学生運動に身を投じていた。
日本で学生運動が最も盛り上がりを見せたのは、1960年の安保闘争。そんな時代の空気が舞台上に充満する。哲郎とめぐみは結婚、新居に、そこにテレビが!1950年代の中頃から1950年代の中頃、冷蔵庫・洗濯機・掃除機の家電3品目が『三種の神器』としてもてはやされ、後に掃除機に代わりテレビとなる。よって昭和34年の『三種の神器』はテレビ、冷蔵庫、洗濯機。
もうテレビが来て哲郎はじめ、皆テンションアゲアゲ(笑)、ここで歌われる曲はこのミュージカルの中でもビッグナンバーの一つ。ところが…めぐみが突然いなくなり、哲郎は赤ん坊を抱えて困り果てるも懸命に子育て。
この時代、1960年代は実に様々な出来事があった。1964年に東京オリンピック、野球が大人気、ON砲(わからない方もいると思う、Oは王貞治、Nは長嶋茂雄)、そして1968年から1969年にかけて全共闘や新左翼諸派の学生運動が全国的に盛んに。そして高度経済成長、大蔵大臣は田中角栄、まさに激動の昭和。ベトナム戦争勃発、アポロ11号が月に着陸。宏はベトナムへ、いずみは学校の先生になっていた。
この激動の昭和でも淡々と暮らす市井の人々、この昭和の大きな出来事と比較するとかなり小さい出来事の連続、一生懸命に生きる哲郎たち。ところどころ笑いやダンスを交えて進行する。豊おばあちゃんが登場するだけで可笑しく、客席から笑いが起こる。また、登場人物たちの細かいやりとりも微笑ましく、ほっとするシーンも。この普通の人々の営みがところどころ絡み合い、繋がり、一つの大きな波となる。奇跡に近い出会い、感動、「ホーム」というタイトルの意味もなんとなく見えてくる。
薄い羽衣を着たキャストは天使や妖精のようでもあるが、ここは観客の解釈に委ねられるところ。時代が進むにつれて哲郎始め、だんだん歳を重ねていく過程もなんだか愛おしく感じる。ラストの哲郎のスピーチは泣ける。途中15分の休憩を挟む2幕もの、初演と比べると今風なスタイリッシュな印象、再演を重ねるごとに変化する作品、だが根っこはブレない。東京公演は12月8日まで。
▶︎作品のあらすじやこれまでの上演についてはこちらから
https://ongakuza-musical.com/works/home
<2018年公演レポ>
STORY
昭和34年秋。デパートの屋上でアドバルーンの見張りをしていた哲郎の前に、ひとりの女が現れる。夕焼け空を見ながら、空を飛べそうな気がするとつぶやき、風のように立ち去った女。哲郎とめぐみの出会いだった。同じ頃、ビルの谷間でいずみと宏が寄り添っていた。世界を変えようと学生運動にかける宏。そんな彼のために、いずみは進んで手伝いを申し出るがー。やがて哲郎とめぐみは結婚。新居への引越しの日、哲郎の家にはじめてテレビがやってくる。めぐみの妊娠もわかり、やがて赤ん坊も生まれるが、幸せな日々はめぐみの突然の失踪によって崩れ去ってしまう…
概要
音楽座ミュージカル「ホーム」
第二回読売演劇大賞 優秀男優賞・優秀スタッフ賞 受賞作
日程・会場
東京:2024年11月29日(金)〜12月8日(日) 草月ホール
大阪:2024年11月22日(金)17:00(吹奏楽コンサート)高槻城公園芸術文化劇場 南館 トリシマホール
脚本・演出:
相川タロー・ワームホールプロジェクト
音楽:高田 浩・金子浩介
振付:ワームホールプロジェクト
美術:久保田悠人
衣裳:原 まさみ
ヘアメイク:川村和枝
照明:渡邉雄太
音楽監督:高田 浩
音響:小幡 亨
メインビジュアル:M!DOR!
ロゴデザイン:高橋信雅
文化芸術パートナー: 町田市
協力:一般財団法人草月会・草月文化事業株式会社(東京公演)
製作著作・主催:ヒューマンデザイン
オリジナルプロダクション
総指揮:相川レイ子
脚本・演出:ワームホールプロジェクト
音楽:高田 浩・金子浩介
公式サイト:https://ongakuza-musical.com/
舞台撮影:二階堂健
(c)ヒューマンデザイン