人間の細胞の擬人化というあっと驚くコミック「はたらく細胞」。アニメ化も果たし、そしてこの秋には衝撃の舞台化!公演直前、脚本の川尻恵太に台本作成に当たっての工夫した点や原作の面白さを語ってもらった。
一人、二人の俳優で、どれくらいの『人数感』を想像させるか・・・・・・。
――台本を起こすにあたっての苦労した点や工夫した点を教えてください。
川尻:一番に思ったことは、この『人数感』をどうやって表現したらいいのだろうかということ。漫画では本当に細胞が何万何十万と細かく描かれていまして。
――そもそも人間ってものすごい数の細胞でできていますから。約37兆個以上と言われていますよね。
川尻:実は、そこが演劇の一つの課題でもあるわけです。例えば戦国時代の舞台作品なら、十万vs十万の戦いを5人ぐらいで表現しないといけない。「はたらく細胞」も同じで、ここはかなり重要なところだなと思っています。本当に一人、二人の俳優で、どれくらいの人数感を想像させるか・・・・・・。僕は台本上で書くだけですが、演出家さんは相当、大変だろうと思いつつそれを託して、「おーい、みんな、こっち来い!」って何万人にも呼びかけているみたいなことを書いています。ある時は空間に向かってそこにたくさんの細胞がいるかのように想像させながら、また、ある時はお客様に、まるで細胞の一部になったかのような錯覚をしてもらえるように。「劇場が体内になるってどういう状況なのだろう」と考えながら書きました。(キャストも観客も)みんな身体の中にいて、いろんなところでいろんなことが起こっているっていうのがこの作品のコンセプトの一つです。
細菌やウイルスたちを凶悪な、恐ろしいキャラクターにし過ぎずに、かといって身近な仲間としても描かない。彼らは彼らとして生きている、それだけ。
――ただ普通にいるだけでも体の中ではいろんなことが起こっているわけですから、それをどう表現するか、そこがポイントですね。
川尻:子供の時に見たヒーローものは、自分も人質の一部だ!とか、自分が応援しないと負けちゃう!(笑)みたいな気持ちにしてくれましたが、演出のきださんはそういうのが得意。大人が観に行って、子供の心を取り戻せるような作品になればいいかなと思います。あとはやはり身体の話なので、テーマは「病気との戦い」、これに関してはシリアスな一面があって、その病気で苦しんでいる方もいらっしゃるので、そこをどう描いていくかっていうことが、台本上ではかなりキーになっています。人間の細胞に敵対する役を、増田裕生(化膿レンサ球菌)、髙木俊(インフルエンザ感染細胞)、馬場良馬(肺炎球菌)、富田翔(黄色ブドウ球菌)という信頼できる俳優さんが演じてくれることはかなり安心できます。しかもコミカルに演じてくれるんです。細菌やウイルスたちを凶悪な、恐ろしいキャラクターにしすぎずに、かといって身近な仲のいい存在としても描かないで、彼らは彼らとして生きている、それだけ。そこをうまく出してくれるキャスティングだなと思いました。それに対して、主人公である和田雅成くんや七木奏音さんたちが立ち回りますが、和田くんはすらっと真ん中に立ってくれるし、七木さんはおっちょこちょいな役ですがそこを柔らかく演じてくださる、このバランスがいい!キャスティングの時点ですごく安心しました。
僕はいろんな擬人化の舞台作品をやっていますが、それによって許せることはたくさんあります。
――バランスがいい座組ですし、描かれている細菌・ウイルスたちは原作でもそんなに凶悪でもない、彼らは彼らなりの生き方、理由があるわけですよね。
川尻:そこがコミカルに描かれているので、人間の実生活に、かなり落とし込める題材でもある。普通に社会生活していても、ぶつかり合いが起きます。自分たちが正しいと思っていること
の命題で、絶対的な正義もなく、絶対的な悪もなく・・・。例えば本作で言うと、病原菌を主人公にしたら、それを倒しにくる白血球などの免疫系細胞が敵であり悪になります。今回は体内の世界の話なので、病原菌は敵という描き方ですけど、それぞれにちゃんと理由はあって、彼らはみんな自分たちが倒されることを不満に思っている、「なぜだ?」ってね(笑)。俺たちは俺たちで頑張っているのに、住む場所を開拓しに来ただけなのにっていう彼らの言い分があるんです。そこを原作はすごくいいバランスで描いていらっしゃるので、その世界観を壊さずに・・・。どうしても脚本を書いていると、つい、何かに肩入れしたくなるんです。そこをできるだけフラットに書こうと思いました。
――いわゆる雑菌、バイ菌たちは悪いイメージがありますが、漫画を読んでいると彼らはどうにかして存在したいだけのようですね。ただ、身体の中にいては困る(笑)。
川尻:彼らの気持ちもなんとなくわかるなっていうところを感じました。いろんな方が観にいらっしゃるので、嫌悪感を抱く方もいらっしゃる可能性はあるなと思いましたので、そこはすごく気をつけているところです。風邪をひいた時に、風邪は風邪で事情があるのかな?みたいに、ちょっと頭よぎるだけで少し許せるっていうか、それが擬人化っていうものの命題、一つの役割だと思います。僕はいろんな擬人化の舞台作品をやっていますが、それによって許せることはたくさんあります。例えば鉄道の擬人化もやっていますが、鉄道が遅延していてもちょっと許してしまいます。鉄道にも意志があって、こいつはすごく申し訳ないと思っていて、すごくドタバタしている気がしてきて。キャラクターに愛着が湧いてくると、今までは「なんで、こんな時に遅れるんだ」って思っていたのが、「なになに線だからしょうがないな」ってことがある(笑)。今回も、この作品はそれに完全に当てはまるなと思っていまして、熱が出ていると「白血球が頑張ってくれているな」とか「赤血球が頑張って酸素を運んでくれているな」とか、そんなことを思う・・・・・・その愛着の沸き方こそが、この「2.5次元」と言われている舞台が受け入れられている、人気の理由の一つかなって思っています。
――最近、紙で指を切ってしまったんですが、「血小板が頑張っているんだ!」って(笑)。
川尻:「うんしょ、うんしょ」って(笑)
――普通は気にも留めずやり過ごしていたものが、原作読んだ後は「細胞たちが体内で頑張っているんだ!」と。
川尻:働いている!
細胞たちを化学式で見せるよりも「白血球さんと赤血球さんがいて」っていう風に見せた方が俄然、興味を持ちやすくなるんですよね。
ーー学校でこういう風に教えれば、もっと自分の身体に興味が持てるんじゃないかな?って思いましたね。
川尻:本当に!教え方一つで興味の持ちかたが違ってくる。簡単な視点のチェンジが大事だと思います。最近は教えさせていただく機会があるんですが、そういう時にみんなを集めて「どんなことがやりたい?」と問いかけると、みんな考えあぐねちゃう。どんなことをやったらいいか突然聞かれても答えられないんですね。でも、聞きかたを変えて「どんなもの、みたい?」って聞いてみると言い始めるんですよ。「みたいもの」と「やりたいもの」、本当に聞き方一つ、見せ方一つでそれに対する感情の働きかたが違ってくる。細胞たちを化学式で見せるよりも「白血球さんと赤血球さんがいて」っていう風に見せた方が俄然興味を持ちやすくなるんですよね。
自分自身も細胞の塊なので、自分の体内に細胞がいるのを舞台で見るという体験はすごく面白いし、他の作品ではなかなかできることではないですね。
――本作は、客席も人間の身体の一部なんですよね。
川尻:そうなんです。観に行くっていうよりは身体の一部になりに行く、そういう感覚になってくれると面白いな、と。今回は劇場がこの世界であり、この身体の中であるということになっておりまして、・・・・・気持ちだけでも細胞になりきっていただければ(笑)。
――最後に作品PR、見所を改めてお願いいたします。
川尻:皆さん自身も細胞の塊です。自分の体内にいる細胞を舞台で見るという体験はすごく面白いし、他の作品ではなかなかできることではないですね。是非、この不思議な体験をしに来ていただきたいです。原作やアニメのスピード感をどうやって表現しようかというのは現場で、試行錯誤してやっています。あとは、細菌・ウイルスたちがこの格好で、どれだけ動けるのか(笑)。
子役が演じてくれる血小板はじめ、各キャラクターが全部ハマリ役なので、安心して観に来ていただきたいです。原作モノが実写(舞台)になることに拒否反応がある方も、舞台が初めてな方も覗きに来てくれると、「こんなに面白いんだ!」って思ってもらえるはずです。
――見終わったあとはちょっと指切った時とか風邪をひいた時に「あ、細胞たちが働いている」と思える(笑)。
川尻:そうですね。帰りに体の細胞が元気になるような、食べ物や飲み物を摂取して帰ってもらえると良いかなと思います(笑)。
――細胞を活性化して・・・・・。
川尻:はい。悪い細菌・ウイルスたちを倒してくれるので!
――これからインフルエンザの季節なので!
川尻:そうですね!マスクもしてきてください!
――はい、ありがとうございます!公演を楽しみにしています。
【概要】
「体内活劇『はたらく細胞』」
日程:2018年11月16日(金)~11月25日(日)
会場:シアター1010
<スタッフ>
原作:清水茜(講談社「月刊少年シリウス」連載)
演出:きだつよし
脚本:川尻恵太(SUGARBOY)
<キャスト>
和田雅成 七木奏音/
君沢ユウキ/山田ジェームス武 戸谷公人 茉莉邑薫 太田将熙/
平田裕香 甲斐千尋 川隅美慎 正木 郁 岸田結光 森田 恵 木内彩音/
阿瀬川健太/松本城太郎 菅野慶太 福田圭佑 来夢 髙久健太
高橋 凌 網代将悟 栗本佳那子 松田祐里佳 田中里奈 柿の葉なら/
増田裕生 髙木 俊 馬場良馬 富田翔
制作:トライフルエンターテインメント
主催:体内活劇「はたらく細胞」プロジェクト(アニプレックス、トライフルエンターテインメント、講談社)
公式HP:https://hataraku-saibou.com/butai/
©清水茜/講談社・体内活劇「はたらく細胞」プロジェクト 2018
取材・文:Hiromi Koh