ミュージカル「また、必ず会おう」と誰もが言った。 ちょっと見栄っ張りの高校生、想定外の旅路の果てに見た景色は?

「こんなに泣ける本はない」と評判の小説の初ミュージカル化、小説には「偶然出会った、たくさんの必然」という副題が付く。ささいな嘘がきっかけで一人旅をすることになった男子高校生の成長を描いている。

劇場に響くアコースティックな音楽、シンプルでメロディアスなナンバーで幕開き。杖をついた老人がゆっくりと登場し、それから、この物語に登場する人物が次々と登場するオープニング。そこからミュージカルナンバーで滑らかにストーリーが始まる。老人はこの物語のストーリーテラー的な役割を果たす。
熊本在住の高校 2 年生・和也(長江崚行)が歌う。そして「自分で言うのもなんだけど僕は嘘つきだ!」、見栄と虚勢を張ってついつい、クラスメイトに嘘をついてしまう。原作通りに物語は進んでいく。母親からお金をもらい、東京へ・・・・・東京に着いた、大都会!ちょっと不安だけどワクワク、それをテンポの良い楽曲で表現、クラスメイトへの見栄のために自撮りをして、さあ・・・・・・そこで予測できないトラブルに遭遇し、なんと財布はすってんてん!熊本に帰れない!さあ、どうする?和也の人生最大のピンチだ。途方にくれる和也、そこへおばちゃんが!すっかり状況を見抜かれ、おばちゃんの家に。おばちゃんの名は田中昌美(杜けあき)、「一生。忘れられない旅になるよ」と言われる。そこから和也の『想定外』の旅が始まる。
キャッチーなミュージカルナンバーで和也の旅を綴っていく。そこで出会う人々、和也は彼らからかけがえのない『GIFT』をもらう。それは決して見えないが、心にしっかりと刻み込まれる『GIFT』だ。そして旅の途中で出会った人々もまた、大切な『GIFT』を和也から受け取る。

芸達者な大人俳優陣の演技、杜けあき演じるおばちゃんはキップがよく、性格は竹をわったようだが、久しく息子と会っていない。そんな寂しさを紛らわすかのように缶ビールをプシュ!そんなおばちゃんも杜けあきの手にかかるとなんだか、かっこいい。そして和也と踊るダンスがさすが!ちょっとした手の動きもピシッと決まる。

また石坂勇演じるトラックの運転手・柳下、ちょい怖い系のおっさんに見えるのだが、うまいさじ加減で性根は優しすぎるおっさんを好演する。おまわりさん役の豊田豪、屈折した動機で警官になったが、爽やかすぎない、陰影のあるキャラクター。とにかく和也と出会う登場人物全てが愛おしく、和也の旅をかけがえのないものにしていき、そしてそれぞれのキャラクター全てが出会いによって変化していく。

和也を演じる長江崚行はリアル感が満載、そして旅路が進んでいくに従って様々な気づきを得ていくのだが、その変化の仕方がナチュラル。最初はトホホな感じだったのが、ラスト近くではすっかり心がたくましくなる、その様に共感と感動を覚える。
あらかじめ原作を読んでいれば展開もオチもわかりきっているのに、それでもちょっとドキドキ、胸が熱くなる。珠玉の言葉も余すことなく散りばめられており、感動必至。「出会う人の運命を動かす」「お前の人生を生きろ」「どんどん旅をした方がいいよ」etc.
人生は出会いの連続だ。その出会いこそが人に気づきと成長と愛をもたらす。極めてシンプルなセット、基本的にはキャストがこれを動かす。多彩なミュージカルナンバー、音楽は生演奏で、ピアノとヴァイオリンのみだ。このシンプルでいながら奥が深い音色でさらに心揺さぶられる。無駄のない、見やすい上演時間(1時間50分程度)、「5日前の僕とは違う」とラスト近くで和也は言う。たった5日、されど5日。いろんなものがぎゅっと詰まった5日間の旅、公演期間が短いのが唯一、残念。終幕後に思わず呟きたくなる、「また、会えますか?」と。

<物語>
熊本の高校 2 年生 和也は、クラスメイトに「小さな嘘」をついてしまったことがきっかけで、夏休みに親へ内緒で東 京への一人旅を実行する。しかし帰りの飛行機に間に合わず、わずかな所持金のまま空港に取り残されてしまう。 落胆する和也をみかねた土産物屋の昌美に声をかけられ、家に泊めてもらうことになる和也。昌美との出会いをきっか けに、和也は自力で熊本へ帰ることを決意する。 そこからの様々な大人たちとの出会い。娘の結婚を賛成できないトラック運転手、親不孝をしてしまった美容師、友達 を裏切った警察官、自分の人生を生きてこなかった医者など……旅の途中での彼らとの出会いによって、和也に成長と 変化をもたらしていくが、彼らもまた、和也に自分の生きてきた道を重ね合わせ、変化を遂げていく。 すべてが必然のタイミングで……。

《インタビュー》 ミュージカル「また、必ず会おう」と誰もが言った。 脚本・作曲 まきりか

【概要】
原 作:「また、必ず会おう」と誰もが言った。(喜多川泰著 サンマーク出版刊)
日 時:2018年 11月 14日(水)~11月 18日(日) 計 7公演
場所:全労済ホール/スペース・ゼロ
脚本・作曲:まき りか
演 出:本藤 起久子
出演:長江崚行 杜けあき/松岡侑李・石坂勇
多岐川装子/関根慶祐/豊田 豪/Adam/桐矢彰吏/安城うらら/西村秀人
演奏:村井一帆(ピアニスト)/RiO(ヴァイオリニスト)
主催:文化放送/ミュージカル「またかな」実行委員会
制作協力:NLT
制作:ちあふる
企画製作:全栄企画

公式HP:http://matakanamusical.com

公式Twitter:https://twitter.com/matakanamusica

文:Hiromi Koh