2012年6月、藤沢市民会館で 2,000 人を集め、公演した「Beautiful Life」の第 2 弾が2019年2月3日に上演された。演じるのは福祉の当事者である福祉施設職員や施設利用者、その家族、地域住民など。リアリティもさることながら、演技に関しては素人。この挑戦的なミュージカル、たった1日、2回公演、2月3日に鎌倉芸術館大ホールで公演が行われた。
ストーリーの中心になるのはどこにでもいそうな家族、父、母、娘が2人、そして祖母。祖母はおしゃれが大好きでいつもフリルのブラウスを着ていた。元気そのものであったが、ある日、突然倒れてしまう。突然に降って湧いた介護問題。
介護の問題は大概が突然やってくる。脳梗塞、転倒、誤嚥、理由は様々。さて、この家族はこの問題にどう対処するのだろうか。
介護、高齢者社会というとちょっと暗い話なのかと思いきや、明るいミュージカルナンバーで綴られる。歌詞を覚えれば、介護の知識もついてくる。
メインキャラクターはこの家族の娘、高校生。部活はパズル研究部。パズルのように一つ一つのピースを集めて一つの絵になったりするが、それが物語のキーになる『介護』とシンクロしていく。バラバラだった様々なことがパズルのピースを集めるがごとく、一つにまとまっていく。
昨今、平均寿命が伸びて、会社勤めが終わってもまだまだ先が長い。90歳もさほど珍しくなくなってきた。だから余計に「どう生きていくのか」「最期はどうする、どうなる」、そこがこの作品のキーになってくる。ミュージカルナンバーに乗せて様々な介護シーンが万華鏡のように展開される。暗さはなく、学びと気づきがある。倒れた祖母は口数が少なくなり、ある日、つぶやいた、「この服は嫌い」と。最期まで好きなものを着て楽しく過ごしたい、「そんな些細なこと」と思うかもしれないが、人生は些細なことの積み重ねだ。大好きなフリルのブラウスを着て笑顔が蘇る。その姿をみれば家族も心晴れやかになれる。そして歌詞の中に「できないが楽しい」という言葉がある。できないことは辛いことではなく、できないことをできるようにする喜び、その過程とできた時の達成感、だから「できないことは楽しい」、なかなか深いくもあり、人を勇気づける言葉だ。
タイトルにある「Beautiful Life 」、たいそうなものではなく、ただただ日常を楽しく悔いなく、生き切る、シンプルで大切なメッセージ。ミュージカルナンバーはキャッチーで楽しく、そしてダンス、難しい動きは一切ない。老若男女、誰もが踊れる動き、そしてさりげなく『リハビリ』要素が満載!大きく手をふるウォーキング(全身運動)や大腿四頭筋を鍛えるニーアップが多い。何と!曲に合わせて足が、体が丈夫に!手の振付も脳トレになるような動き。そう、ダンスはコリオを覚える、曲に合わせてリズムをとる、大きく動くことでリハビリになり、そこからさらに足腰、頭が元気になる。そんな心憎い『配慮』もあるのがこのミュージカル。出演者はほとんどが素人であるが、本気度はプロと変わらない、いやプロ以上にリアル、出演者は介護の現場で働く人々や実際に施設でデイサービスを受けているような方々。だから余計にリアル。また最新の介護ツールも登場するので「今、介護の現場ってこうなってるんだ」と新しい情報も満載。公演は2回しかなかったが、妥協しない作品作り。ここで終わらずに全国津々浦々の介護の現場でこのミュージカルが上演されれば、いわゆる生活の質の向上にもつながるのではないかと思えるような、いろんな意味において稀有で秀逸な舞台であった。
【公演概要】
ミュージカル「Beautiful Life 2 ~でこぼこ★ピース~」
日程・会場:2019年2月3日 鎌倉芸術館大ホール
構成・演出:笹浦暢大
脚本・作詞・作曲:まきりか
振付演出:南流石
後援:神奈川県、鎌倉市、川崎市、藤沢市、横浜市栄区社会福祉協議会
公式HP:https://www.shinkoufukushikai.com/musical/
取材・文:Hiromi Koh