スタジオライフ公演「なのはな」、平凡な日常の愛おしさ、菜の花の種をまく、花が咲き、青空が広がる

東日本大震災とそれによって引き起こされた福島第一原子力発電所事故を題材に、2011 年 8 月に月刊 flowers(小 学館)で発表された短編漫画「なのはな」。津波で祖母を亡くした福島県の少女が描かれる繊細な物語に、劇団スタジ オライフが挑戦する。今回の舞台化にあたり、福島県出身の作曲家・明石隼汰氏をゲスト出演者として出演を果たす。脚本・演出は倉田淳、原作、萩尾望都、あの東日本大震災が起きた時、萩尾望都は埼玉の自宅にいたそうであるが、TVの映像で建物が次々と崩れるのを目の当たりにした。

舞台上にはセットらしいものは特になく、ボックスが4個、ゲートが舞台奥にあるだけ。東日本大震災と福島の原発事故が題材になっているが、その震災の様子や原発の混乱は全く表現されていない。主人公の少女・ナホは家族と避難先で暮らしている。大好きなばーちゃんは行方不明。舞台上に、その大好きなばーちゃんが登場、笑顔で佇んでいる。家に住めなくなり、ばーちゃんはいない、それでも日常を営んでいかなくてはらない。父親も母親もじーちゃんも兄さんも一見、普通に見えるがそれぞれ、震災後はやはり見えにくいところに変化が生じている。どんなことがあっても日常は続いていく、皆の心の奥には深い哀しみ、漠然とした不安が沈んでいる。ナホも一見普通に見えたりするのだが、実際には哀しみに満ちている。

夢に出てきた金髪の女の子は手に人形を持っていた。その人形でナホを慰めようとするもナホは拒否する。それが一層の哀しみを感じさせる。二度目に現れた時は花の種まき機を手にしていた。人は悲しいことや辛いことがあるとそれを一生懸命にふりはらおうとして、かえって辛い気持ちになったりする。この作品はそんなやるせない気持ちに寄り添うかのように人々を静かに包み込む。金髪の少女はチェルノブイリの写真で見た少女だった。舞台背景に線だけで描かれた菜の花、時折、そこに色がついたりする。菜の花は派手さはないが、黄金色、種をまく、チェルノブイリでは植物を育てることによって土壌の汚染を除去する、という話をナホは知る。汚染を除去することと種をまくこと、それは心の浄化と希望をそこはかとなく彷彿とさせてくれる。

ラストの近くの菜の花と青空はどこまでも広がり、閉塞された気持ちを解放させてくれるかのようだ。ドラスティックな展開もなく、市井の人々の営みは地震があろうと津波がこようとも、ただひたすらに続いていく。そんな平凡で平和な日々の愛おしさ、幸せの種をまく、黄金色に輝く菜の花の種を。明石隼汰の歌が作品のアクセントになり、時にはシニカルに、時には熱く、ラスト近くで歌唱する「なのはな」は未来へ続く歌、じわじわと染み入る作品だ。ちなみに花言葉は「快活」「明るさ」。春の香りを運び、人々の心を明るくするその花姿に由来するといわれている。

<ストーリー>
阿部ナホは福島で暮らしている小学校 6 年生の女の子。震災の津波でばーちゃんは行方不明のまま。ナホの 家は原発の近くだったので避難先へ移り住み、祖父、両親、兄の家族 5 人で生活している。ある日、ナホは 夢の中でばーちゃんと再会する。ばーちゃんのもとへ案内してくれたのは人形を手にした見知らぬ西洋人の 女の子だった。あなたは誰・・・?夢の中で二度目に会った時、女の子は、ばーちゃんの使っていた花の種 まき機を持っていた・・・。
<キャスト>
[К(クークラ)チーム]
ナホ:松本慎也
学(ナホの兄):宇佐見輝
父:船戸慎士
母:仲原裕之
じーちゃん:倉本徹
ばーちゃん:若林健吾
女の子:伊藤清之
先生:鈴木宏明
生徒1:千葉健玖
生徒2:牛島祥太
藤川さん:藤原啓児
石川音寿:明石隼汰(客演)

[Ц(ツヴェート)チ ーム]
ナホ:関戸博一
学(ナホの兄):千葉健玖
父:船戸慎士
母:仲原裕之
じーちゃん:倉本徹
ばーちゃん:若林健吾
女の子:松本慎也
先生:牛島祥太
生徒1:宇佐見輝
生徒2:鈴木宏明
藤川さん:藤原啓児
石川音寿:明石隼汰(客演)

【公演概要】
東京公演:2019 年 2 月 27 日(水)~3 月 10 日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
大阪公演:2019 年 4 月 12 日(金)~4 月 13 日(土)、OSE:4 月 14 日(日) ABC ホール
* OSE(OSAKA SPECIAL EVENT)はイベントとなり『なのはな』本編の上演はございません。
原作:萩尾望都『なのはな』(小学館刊)
脚本・演出:倉田 淳
挿入歌作曲:明石隼汰
制作:Studio Life / 米田 基
協力:小学館 / style office
公式ホームぺージ: http://www.studio-life.com/
助成(東京公演):文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会
(C)萩尾望都/小学館

取材・文:Hiromi Koh