浅野ゆう子、一路真輝、瀬奈じゅん、水夏希が艶やかに競演!「細雪」昭和中期、名家の人々の生き様と季節の移ろいと時代の足音と。

谷崎潤一郎の長編小説である「細雪」は1936年(昭和11年)秋から1941年(昭和16年)春までの大阪の旧家を舞台に、4姉妹の日常生活の悲喜こもごもを描いた作品として知られ、毎日出版文化賞(1947年)や朝日文化賞(1949年)を受賞したベストセラー小説。世界各国でも出版され、英語(The Makioka Sisters(英語))をはじめ、中国語、フランス語やドイツ語、ロシア語、韓国語はもちろん、スペイン語やフィンランド語、ギリシャ語やポルトガル語、セルビア語、オランダ語、スロベニア語などに翻訳されている。阪神間モダニズム時代の阪神間の生活文化を描いており、会話が船場言葉で書かれている。作中には年代の表記は出ていないが、日中戦争勃発の前年1936年(昭和11年)秋から日米開戦の1941年(昭和16年)春までのことを書いているとされている。
大阪船場で古い暖簾を誇る蒔岡家の4人姉妹、鶴子・幸子・雪子・妙子の繰り広げる物語。三女・雪子の見合いが軸となって物語は進んでいく。

幕開きの音楽は作品の雰囲気にふさわしく格調高い楽曲、子供達のはしゃぐ声が遠くに響く。季節は春、満開の桜、ウグイスがさえずり、それから竹刀を持った子供達、子供と一緒に四女の妙子(水夏希)が走っている。これだけで妙子という女性がどういうキャラクターなのか一目瞭然である。「かかってこい!」「いくでーーー」「エーーイ」「突撃!!!」また、描かれている時代も言葉でわかる。戦前、少しずつ戦争の足音が聞こえてくる、そんな雰囲気だ。この物語の主軸を担う4人の姉妹たち、発言や物腰で、どんな立場にいるのか、どんな性格なのかがわかる。ここで話される言葉は標準語ではない。この時代に使われた船場言葉、よって「ごりょうさん」「こいさん」といった言葉が出てくる。江戸時代から昭和の中期にかけて使われた言葉で今、話されている大阪弁とは少々異なる。響きもたおやかでしかも柔らかいイントネーション、物語の雰囲気を盛り上げる。長女の鶴子(浅野ゆう子)は本家の奥様らしく凛とした佇まい、夫である辰雄(磯部勉)は婿養子で銀行員。次女の幸子(一路真輝)は分家の奥様で夫の貞之助(葛山信吾)は計理士、どちらの夫もいわゆるしっかりとした職業。長女は本家らしく、格式を重んじ、世俗とは距離をおいており、次女の幸子は本家にとらわれず、芦屋に住み、妹たちの良き相談相手。三女の雪子(瀬奈じゅん)は引っ込み思案で婚期を逃しかけている。末の妙子は闊達な雰囲気で雪子とは正反対の恋多き女性だ。蒔岡家は格式のある家柄であるが財産もだいぶ減ってしまい、店は傾きかけている。

原作はかなりの長編で、様々な登場人物がいるのだが、これを3幕もののストレートプレイにし、原作のエピソードを咀嚼し、うまくつなげて巧みに構成、脚本は菊田一夫、35年の長きに渡り上演され続けているのは原作の力と舞台化した時の構成の良さであろうか、昨今は3幕ものとなるとかなり長い方になるが、長さを感じさせない。季節の移ろいとともにこの家の事情も変わってくる、そしてちょっとした事件も起こる。駆け落ち騒ぎ、自然災害、そしてくるべきものが・・・・・ついに倒産。
人の営み、儚くも崩れやすいものであるが、その中で生きている人々。季節の変化とともに生活や住まいも変わっていく。人と人との出会い、別れ、それらがすべて愛おしい。時局が刻一刻と変わっていく。無邪気に竹刀を振り回している時代が過ぎ去りつつあり、不穏な空気が時代を覆い尽くし始める。それでも日常は相変わらずの日常だ。噂話が大好きなマダムたち、未沙のえるらが場を盛り上げる。男たち、夫たちに恋人たち、女性に振り回されているように見えるが、そうではない。それはこの時代に限ったことではない。磯部勉、葛山信吾、川崎麻世、太川陽介、今拓哉ら男性陣がしっかりと女性たちを、物語を支える役割を担う。そしてラジオの音が聞こえる、戦争が始まる、しかし、まだ彼らには実感がない。
ラストは満開の桜に佇む四人の姉妹。それそれの想いと未来。住み慣れた家を離れることになった長女・鶴子、子供を流産してしまった幸子、結婚相手も見つかり、幸せをつかもうとしている雪子、恋人と死別した妙子、それぞれがそれぞれの道を歩こうとしている。ハッピーエンドでもなくバッドエンドでもなく、ただひたすらに『道は続いていく』、それだけだ。
舞台美術も精度が高く、家具調度品の美しさと存在感が物語らしさを彩る。また姉妹が着用する着物、単に美しいだけではなく、キャラクターを体現、こういった配慮は心憎い。男性陣が着ている着物やスーツも雰囲気があり、彼らのポジションも表現している。
絢爛な舞台であるが、『戦争前夜』、「あと少ししたら・・・・」と観客は気がついている。滅んでいくもの、崩れていくもの、変わらないもの、変わりたくないもの、それらが一体となったラストシーンはただ美しい。

【公演概要】
2019年5月4日(土)~5月27日(月)
原作:谷崎潤一郎(中公文庫版)
脚本:菊田一夫
潤色:堀越 真
演出:水谷幹夫
製作:東宝
出演:浅野ゆう子 一路真輝 瀬奈じゅん 水夏希
葛山信吾 磯部 勉 川﨑麻世 今 拓哉 太川陽介

公式HP:https://www.meijiza.co.jp/lineup/2019/05/