4月7日から下北沢 本多劇場で、今年25周年を迎える人気劇団ナイロン100℃の25周年記念公演第一弾『百年の秘密』が上演中だ。この作品は、東日本大震災の翌年の2012年、劇団主宰で作・演出のケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が、人の生と死を見つめて描いた大河ドラマであり、観客の大きな支持を得たもの。KERA自身がこの作品の再演を熱望し、近年の自作の中でも、渾身の出色作であると明言する。劇団結成25周年にふさわしい記念碑的な作品だ。
舞台上にしつらえたセット、中央に大きな木があるが、家の中にそびえたっており、ひまわりの花もあり、床にはまだらに緑、芝であろうか、いわゆる奥内と外が【合体】したような印象。役者が次々と登場するが、皆、椅子やテーブル等を持ってセッティング。ここで登場人物が勢揃いする。メイドのメアリー(長田奈麻)がこの物語の設定を語る、いわば語り部的なポジション。オープニングは映像を使うのだが、これが絵画のようなビジュアルで美しい。この物語の主人公は ベイカー家の娘・ティルダ(犬山イヌコ)と、生涯の親友となるコナ(峯村リエ)。ティルダには厳格な真面目な父、銀行家・ウィリアム(廣川三憲)、優しい母パオラ(松永玲子)、5歳年上のバスケットが得意で大学の推薦入学も決まった兄・エース(大倉孝二)がいる、裕福で絵に描いたような幸せな家族だ。ティルダは、ちょっと変わった転校生のコナと友情を結ぶ。
さて、この大きな楡の木。ウィリアムの祖父がこの木に救われたとかで、この楡の木は一家にとって特別な存在だ。そんなベイカー家、同級生のリーザロッテ(村岡希美)やチャド(みのすけ)にエースの友人のカレル(萩原聖人)、隣人の弁護士のブラックウッド(山西惇)もベイカー家を訪れ、大きな屋敷には様々な人々が集う。
物語は時間が行きつ戻りつ、物語は進行する。
主軸は2人の友情なのだが、彼女達を取り巻く人々の人間模様がタペストリーのように織り交ぜられる。
人と人の関わりは万華鏡のようだ。季節と時間と共にうつろい過ぎていく。誰1人として悪意もなく、皆、“善人”である。冒頭で描かれていた【絵に描いたような幸せ家族】は少しずつ様子を変えていく。人生は、美しい部分とその真逆な部分がある。汚いものに蓋をすることなく、人が持っている邪悪さも無神経さもどんどん見せる。そういった意味においてはリアルであるが、寓話的でもある。いくつかの戯曲や映画がちょっと頭に浮かぶ。その全てがラストに向かっていく。
細かいやり取りではシニカルでクスリと笑える部分もあって客席から笑いがちょこちょこと起こる。こういったスパイス的な台詞やリアクションはKERAの持ち味のひとつ。また時間軸も戻ったり、先を行ったりするので、着替えだけでなく、芝居も雰囲気も変えていかなければならないので、ここは俳優陣の腕の見せどころ。
子供の頃は無垢で、この先には輝く未来がある、そう思うのは当然であるが、そうはいかないのが人生だ。しかも裕福な家庭に育ち、満たされた子供時代をおくっていれば、尚更。プロジェクション・マッピングや照明、効果音でダークで不穏な状況を輪郭をつける。
他愛のない会話、そして様々な出来事、そこから次第に「秘密」と「真実」と「友情」と「反目」と「転落」……それらはまるで一枚の絵画のような様相を呈していく。
初演から6年の時を経た今回、この作品を再び取り上げることの意義。何ひとつとして思い通りにはいかない登場人物達、全ての人生、しかしそのラストシーンは何故か心が洗われる、大きな楡の木は美しく、そこに全てが凝縮されている。
【公演概要】
ナイロン100℃ 45thSESSION
『百年の秘密』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:
犬山イヌコ 峯村リエ
みのすけ 大倉孝二 松永玲子 村岡希美 長田奈麻 廣川三憲 安澤千草
藤田秀世 猪俣三四郎 菊池明明 小園茉奈 木乃江祐希 伊与勢我無/
萩原聖人 泉澤祐希 伊藤梨沙子 山西 惇
東京公演:2018年4月7日(土)~4月30日(月・休)
下北沢 本多劇場
兵庫公演:5月3日(木・祝)~4日(金・祝)
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
豊橋公演:5月8日(火)~9日(水)
穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
松本公演:5月12日(土)~13日(日)
まつもと市民芸術館 実験劇場
※東京公演の当日券は、毎公演開演の一時間前から、劇場入口受付にて販売。
ナイロン100℃HP ⇒ http://sillywalk.com/nylon/index.html
キューブHP ⇒http://www.cubeinc.co.jp/news/#25
撮影:引地信彦
文:Hiromi Koh