飯島寛騎&鈴木勝吾、W主演 舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』、人生は自分のもの、会社のためじゃない。

舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』が上演中だ。
本作は70万部を超える大ベストセラーとなり、第21回電撃小説大賞“メディアワークス文庫賞”を受賞し、2017年には映画化もされた北川恵海の同名小説の初舞台化となる。
脚本は巧みなセリフ運びとユーモアにあふれた人間ドラマの作り手として定評のある劇団oneor8の田村孝裕、演出には数々の舞台をはじめ、近年ではオペラを手掛けるなど多岐に亘り、活躍をみせる深作健太が担当。
主演はTV「仮面ライダーエグゼイド」で主演デビューを果たし、現在公開中の映画「愛唄-約束のナクヒト-」でも注目を浴びている飯島寛騎と舞台『ジョーカーゲーム』、映画「カバディーン」など作品において比類なき個性と圧倒的な存在感をみせる鈴木勝吾のW主演。さらにアイドルグループ『℃-ute』のメンバーとして活動した他、ドラマ「釣り刑事」、映画「王様ゲーム」などに多数出演し、卒業後は幅広いフィールドでマルチに活躍する中島早貴。ドラマ「おっさんずラブ」、舞台『ダイヤのA LIVE』シリーズをはじめ、多方面で多彩な活躍をみせる若手俳優葉山昴。そして大ヒットドラマ「俺たちの旅」で脚光を浴び、以降数多くのTV、映画において秀逸な表現力を発揮。ケーナ奏者としても活躍をみせる実力派俳優の田中健が脇を固める。

基本、青山隆(飯島寛騎)のモノローグで進行する。ようやく就職した先はいわゆる『ブラック企業』、部長の尾高(田中健)にことあるごとに罵倒され、叩かれる毎日。疲れ切った表情、足取りは重い。日曜の夕方、国民的アニメの放映時間になると憂鬱になってくる。また月曜日が始まる、会社に行かねばならない。疲れ切って駅のホームでふらふらっとしたところ、危うく!なところで誰かに助けられる。ヤマザキ(鈴木勝吾)と名乗る男は幼馴染というが、さっぱり記憶にない。

やたら明るい彼に誘われて居酒屋に行き、意気投合、久しぶりに笑った青山であった。同級生に「ヤマザキっていたっけ」と聞くも同級生の山崎は海外。そうこうしているうちに過去のニュースで・・・・・・「え?」。ヤマモトは会社の激務に耐えかねて自殺していたのだった。「誰?」、青山は・・・・・・。
会社勤めをしたことのある、あるいは「今、会社員です」という人にとっては「ある、ある」な話が出てくる、出てくる。満員電車に乗りたくなくて早起きして各駅停車に乗って「寝る」、企画書や見積書がうまく書けずに残業、いや、今は働き方改革とやらで会社で残業できず、家で仕事かもしれない、仕事は減らずに収入は減る。

部長のご機嫌次第で仕事状況が変わっていく。取引先のご機嫌も重要だ。就職活動中の回想シーン、ごく普通の学生だった青山、いつの間にか自己否定、ネガティヴ思考の無限ループに囚われていた。しかも、自らそれに気づかない、いや、気づけない状況。しかし、ヤマモトと接しているうちに内なる何かが変わっていく。また会社の先輩である五十嵐(中島早貴)、営業成績も良いが、ある日、青山に何気にいう、「負けたくない」「セクハラまがいのことをされた」などなど。出てくるエピソードのどれもが「ありがち」なことばかりだ。しかし、舞台そのものは暗くならず、むしろクールな印象だ。そのクールさが一種の救いになり、観客の視点に客観性を持たせることに成功している。しかも共感も得やすく、登場人物たちに対してエールを送りたくなる。パワハラ部長、いわゆるヒール役であるが、彼は自分が何をしているのか気がついていない。青山に対して仕事へのダメ出しだけでなく「人格攻撃」を仕掛けてくるが、それが上司としての仕事だと勘違いしている、という風にも捉えられる、「仕事をさせてやっている、ありがたいと思え」的な空気感、そして「お前は誰からも期待されていない」と言い放つ。これが青山の心をさらにボコボコにする。
客席最前列のすぐ前に列車の線路、これが実に象徴的。幕開きの電子音や舞台のスクリーンに映し出されるラインのやり取り、携帯の鳴る音、列車のホームのアナウンス、リアルでありながらもセットがシンプルですっきりしているので、寓話性を持たせることができる。このコントラストが観客を物語世界に入っていきやすくする仕掛けとなっている。

青山隆を演じる飯島寛騎、人が良さそうな、それでいて気弱そうでパワハラを受けて暗い表情、しかしヤマザキとの出会いによって徐々に変化していく様を好演、そのヤマザキを演じる鈴木勝吾はやたら明るいだけでなく、ちょっとした瞬間に複雑な表情を見せて観客に『何か訳ありだな』と思わせてくれる。脇を固める岩井を演じる葉山昴は、ちょっと軽いキャラクター作りで青山の性格を際立たせる。そして唯一の女性キャラクターである五十嵐演じる中島早貴は、努力で営業成績NO1の女性社員をリアリティを持って演じ、田中健演じるパワハラ部長である尾高、自分のやっていることは間違っていないという信念も感じられる。きっと尾高自身も新入社員だった頃は上司の叱責の『洗礼』を受けたのでは?と思われるキャラクター作りで単なる悪役ではなく、陰影のある人物に作り上げているところはさすがのベテラン。
結末は最初からなんとなくうっすらとわかってしまうかもしれないが、ついつい見入ってしまう。また原作や映画を知っていれば、それと比べてみるのも興味深いし、もちろん初見でも十分に共感できる。演出も登場人物に対して突き放しているように見えるが、その奥底の温かな視点を感じる。途中でよく死亡事故や自殺現場に白い花束が手向けられるが、それは最後までずっとそこにおいてある。死んでしまった故人もそこにいる、そして「自分のようになってはならない」というメッセージのようにも受け取れる。会社のために生きているのではない。人生は仕事のためではない、自分自身のためにある。当たり前のことが実現されづらい社会、環境。重いテーマを軽やかに見せ、そして考えさせられる。タイトルは『ちょっと今から仕事やめてくる』、『ちょっと今から』考えてみようと思わせる舞台作品であった。

ゲネプロ前に囲み会見があった。登壇したのは飯島寛騎、鈴木勝吾、中島早貴、葉山昴、田中健。
葉山昴はキャラクターについて「小説にはあまり描写がなく、映画にもあんまり・・・・・」とコメントしたが、舞台版では軽く見えて実は案外しっかり者な感じのキャラクター作りで存在感を示す。中島早貴は「原作では男性」とコメント、しかし女性に変更したことで女性の働く環境に警鐘を鳴らす存在になっている。「大きな役なので演じ切れたら」と抱負を述べた。飯島寛騎は「ブラック企業問題、社会問題に向かっていく若者の話です。青山とヤマザキの関係・・・・・・お互い、どうのびていくのか」とコメント。青山はヤマザキとの出会いによって変化していくが、ヤマザキもまた、考えに変化が訪れる。そしてラスト近くにある行動に出る。鈴木勝吾は「僕だけアロハです。青山に寄り添い、助ける、そして救われる役、きてくださるお客様のためにある役です」と語るが、そこは劇場で!田中健は「パワハラ部長です。小説読んで映画も観ました。もしかしたら舞台版が一番いい終わり方なのではという気がしています(笑)」とコメント。またW主演ということでお互いの印象については飯島寛騎は「おもったことを言ってくれる、正直でわかりやすい、頼りになる兄貴分、良くも悪くも(笑)」といい、それを受けて鈴木勝吾は「まっすぐさと情熱と、毎日、誰よりも早く稽古場に入ってて・・・・たくましくなった、良くも悪くも(笑)」と返した(笑)。田中健はカンパニー最年長であるが「年齢の差ってないね(笑)」といい、葉山昴は「怖いかと思ったらとても優しくって、仲良くさせていただいて。もう今じゃ、たまにタメ口きいてるもんな!」と中島を向いてコメントし、本人は「してない! してない!!」と慌てて否定し、ここで大きな笑いが起こった。田中健は「仲良しとやるのはいいですね」とにっこり。小説から映画や漫画になっている作品であるが、「舞台版は、また違うんじゃないかな?」と飯島寛騎。キャラクターの性別変更もあり、また登場人物も映画版にいて舞台版にはいないキャラクターもある。原作を知っていても知らなくても共感、原作を紐解きたくなるような舞台。5人だけの会話劇、公演は23日まで。

■STORY
青山隆(飯島寛騎)は、ブラック企業で働く若手社員。学生時代、同級生の岩井(葉山昴)と一緒に語り合った理想の社会人生活とは程遠く、仕事のノルマの厳しさや部長の尾高(田中健)から叱責される毎日だった。そんな青山にとって営業成績が常に優秀な五十嵐(中島早貴)は唯一尊敬する先輩であった。ある日、青山は疲労のあまり駅のホームで意識を失い、危く電車にはねられそうになってしまう。そんな青山を救ったのは、幼馴染みのヤマモト(鈴木勝吾)と名乗る男。だが、青山には彼の記憶がまったく無かった。大阪弁でいつでも爽やかな笑顔をみせる謎の男、ヤマモトと出会ってからというもの、青山は本来の明るさを取り戻し、大きな成果を上げるチャンスもめぐってきた。そんなある日、青山がヤマモトについて調べると、出てきたのは三年前に激務で鬱になり、自殺した男のニュースであった。ニュースに出ていた男はまさしくヤマモトだった。ではあのヤマモトと名乗る男は一体誰なのか。

【公演概要】
『ちょっと今から仕事やめてくる』
日程・場所:2019 年6 月13 日(木)-6 月23 日(日)CBGKシブゲキ!!
原作:北川恵海「ちょっと今から仕事やめてくる」
(メディアワークス/KADOKAWA刊)
演出:深作健太
脚本:田村孝裕
<出演>
青山 隆役:飯島寛騎(男劇団 青山表参道X)
ヤマモト役:鈴木勝吾
五十嵐役:中島早貴
岩井役:葉山昴
尾高役:田中健
公式HP::https://www.chottoimakara.com/

お問い合わせ:サンライズプロモーション東京
TEL:0570-00-3337(全日10:00-18:00)
企画・制作:インプレッション
主催・製作:オスカープロモーション、テレビ朝日
取材・文:Hiromi Koh