『火星の二人』 竹中直人と生瀬勝久がタッグ “竹生企画” 第三弾、火星と二人の不思議な縁 

 

 

「火星の二人」が好評上演中だ。竹中直人と生瀬勝久、“竹生企画”二人がタッグを組んで3作目になる。

幕開きは不穏な音楽、男二人の会話、「ジェットコースターは8人乗りで」「知っています」「あなたの口から聞きたいんです」「当事者からどういう風にあの事故が映っていたのか知りたいんです」という男、名前は志波(生瀬勝久)、物語の舞台は大学教授の朝尾(竹中直人)の家、ここに妻の素美(髙橋ひとみ)そして彼の息子・正哉(池岡亮介)、彼と同年代のさやか(上白石萌音)が同席している。

この志波が来る事によって、表面上は平穏無事な家族に波紋が起きる。朝尾は事故の詳細を語り始める。すると、他の家族が事故とは無関係な事を暴露し始める。客席から笑いが起こる。その会話は噛み合ない。しかし、ここから物語が動いていく。「二人が生き残った意味がある」と言う志波、さらに「僕らは出会った、生かされた理由がある」とも言う。突然の訪問者からそう言われても……な様子の朝尾。

 

 

この訪問者・志波は何故かこの家に馴染んでいき、家族もそれを何故だか自然に受け入れるが、朝尾はこの訪問者に悩む。家の外にテントをしつらえて、とどまる様子、朝尾の家族はそんな状況をむしろ楽しんでいるかのようにも見える。同じジェットコースターに乗って命を落とした教え子の親戚を名乗る男・楠見(前野朋哉)もやってくるが、彼もまたどこか当たり前のような顔をして朝尾家に。

 

 

 

少しずつ、各登場人物が抱えている“何か”が噴き出してくる。そして朝尾と志波の思わぬ接点も明らかになってくる。そして、彼らの心の奥底が変わっていく。

 

 

 

 

 

大仰な事件もなく、言葉のやり取りで魅せていく倉持ワールド。シュールな会話の連続にも聞こえるが、実はそうではないことがわかってくる。そこから見えてくる関係性や想い、それらが重なり合って、静かに観客の心に迫る。朝尾と志波の接点は思わぬところにあり、何か不思議な縁のよう。日常でも人と人との出会いは偶発的だ。それが積み重ね、思わぬ結末を引き出す。

 

タイトルにもある「火星」、近年では2003年に地球に5,576万キロメートルまで接近しているのだが、この物語でも2003年、平成15年がひとつのキーになっている。この年に志波にとって運命的とも言える出来事があったのだった……そして実は朝尾にとっても。そして15年後、2018年、火星は再び地球に接近する。つまり、この二人の関係性は火星の接近とシンクロする、不思議な縁、ちょっとファンタスティック。「火星の二人」、火星と地球、どっちが火星でどっちが地球なのか、それよりも火星の接近のせいかどうかわからないが、男2人、星占いではないが、火星が取り持つ運命なのか、ちなみに現実に火星が接近するのは7月31日、このときの火星と地球の間の距離は5,759万キロメートル、エンディングはほのかに明るい。ところで、この夏に火星を観察すると赤い火星が見えるらしい。そんなことに思いを馳せながらこの物語を思い起こす。芸達者なキャスト達が織りなす、人と人とが出会い、そしてそこから生じる摩擦と調和……解釈は人それぞれ。竹中直人と生瀬勝久と倉持 裕が織りなす舞台に個性的なキャストが絡み合う、ちょっと風変わりな大人の寓話だ。

 

『火星の二人』開幕! 竹中直人と生瀬勝久がタッグ “竹生企画” 第三弾

 

<ストーリー>
2018年。都内にある大学教授の朝尾(竹中直人)の家には本人と妻・素美(髙橋ひとみ)そして彼の息子・正哉(池岡亮介)、彼と同年代のさやか(上白石萌音)、そして志波(生瀬勝久)と名乗る来客があった。彼は1年程前の郊外で起きた事故に関する話を語る。ジェットコースターの1両がレールを離れて落下し、乗客7名のうち5名が即死。朝尾は奇跡的に助かった生還者の1人であるが、今も大学は休職中だ。以来、事故のことはあまり語りたがらず、自身の内側にばかり目を向くように人柄も変わってしまった朝尾に家族は困惑している。影響を受けたかのように俳優を目指していた正哉も急に手堅い就職を考えるようになり、つきあっていたさやかとの関係もぎくしゃく。さやかはそのことを腹に据えかねていた。そこで「事故の話を聞きたい」という志波を朝尾が拒んでいたにも関わらず、素美たち家族が「何かのきっかけになれば」と望んで迎え入れたのだった。皆は志波を記者のような者と思っていたが、話が進むにつれて彼らの会話は次第に噛み合なくなる。やがて彼がもう1人の生還者であることが判明する。

やがて「あり得ない事故から生還を果たした二人には、何か共通の“使命”があり、それがわかるまで行動を共にすべきだ」という主張のもと、志波は朝尾家に入り込んでくる。困惑する人々、そこに同じジェットコースターに乗って命を落とした教え子の親戚を名乗る男・楠見(前野朋哉)まで現れて、事態は思わぬ様相を呈しいく。

 

 

【公演データ】

タイトル:竹生企画 第3弾「火星の二人」

日程:2018年4月10日(火)~25日(水)
会場: シアタークリエ

 

作・演出:倉持 裕

出演:竹中直人、生瀬勝久、上白石萌音、池岡亮介、前野朋哉、高橋ひとみ

 

 

公式サイト;https://kaseinofutari.amebaownd.com

 

撮影:桜井隆幸

 

文:Hironi Koh