ダンス&リーディングシアター「おとな公演」舞台『踊れ!人生があるうちに』生きることはやかましく、騒々しく、お騒がせなこと。それでもいい、自分の人生を踊って生きよう!

2019年9月14日(土)に「おとな公演」の舞台『踊れ!人生があるうちに』が上演された。この公演は出演資格がなんと50歳以上!演出は堤幸彦、衣装はKOSHINO MICHIKO(コシノミチコ)が手がける。
「何十歳になっても参加できて、それぞれが自分の好きな表現を思う存分、発揮できる場をつくりたい」という想いから、株式会社オースタンスが発起人となり生まれたプロジェクトの第一弾だ。何歳になっても人生は輝き出すことを描くドタバタ・エンタメ群像劇とのこと。

音楽、手にはキャンドル、皆、フードをかぶっている、客席通路からも登場、そして・・・・・・とにかくダンサーだけで100人以上!それだけで圧巻だ。皆、踊る、上手とか下手とか、そういう問題ではない。皆が生き生きと踊りだす。それだけでハッピーな気分になれる。中央に赤いシャツを着たおっさんが客席に向かって叫ぶ、「みんな、生きてるか!!!!」、”当たり前じゃん”ではない、そういう意味ではない!エレキギターがジャーーン!もうノリノリだ。「生きてるっていうのはやかましいんだよ!」とシャウトする。某番組の「ぼーっと生きてんじゃねーよ」のフレーズが脳内に。そして「ハヅキルーペ、最高!」と叫び、ここは大ウケだ。ダンサー陣が拳をあげて「イェイ!」とシャウト、皆、本当に楽しそうだ。

そして物語が始まる。50過ぎて同級生のライブにいく主人公、絵に描いたようなサラリーマン生活を送っていたが、その日に事件が起こる。また、別の場面、『終活』という言葉が昨今あちこちで目にするが、ここでは妙な『終活』が行われていた、同じ墓に入るパートナーを見つける集い、決め台詞は「僕と一緒にお墓に入りませんか?」というもの、すごい口説き文句!ここに集まったのは大人の男女7人(7人、というのがポイント)。また、ある三人家族、大好きなオムレツを食べないと決めた花子、母は?祖母は?

なかなかにシニカルな設定であるが、生きることを考えさせてくれる。そんなこんなを芝居とダンスで綴っていく。実は赤いシャツのおっさんは、花子は・・・・・・は置いといて、それよりも、物語が進むにしたがって、様々なことが見えてくる。エリート街道を進んでいる、給料もしっかり、家族もいる、しかし、何かが足りない。そして登場人物たちはやがて気づく、『ちゃんと生きてない』ことに。普通になんとなく日々を過ごすこと、それ自体は別に悪いわけではない。ただ、何かが足りない。自分の人生を生きること。やり残したこと、やりたくてもやれなかったこと、やってみたかったこと、そういったことをどこかに置いてきてしまった人は大勢いる、いや、むしろそっちの方が大多数かもしれない。

赤いシャツを着たおっさんは「人生があるうちに暴れようぜ!」と客席に向かって叫ぶ。ハチャメチャだっていいじゃない、踊り狂ったっていいじゃない、歌え、踊れ!な雰囲気なラストシーン。舞台にはステージに上がりきれないくらいの『大人』なダンサーが踊る、踊る、踊る!客席からはクラップも!そしてシニアには懐かしい小ネタが散りばめられて!ポケベル!今時の若い人には「それって何?」であろう。そしてダンスのコリオもところどころに懐かしい、腕ぐるぐる、ボックスステップ、新宿あたりのディスコに行ったことのあるシニアなら思わず笑ってしまいそうなダンスシーンがふんだんに。それにしてもこれだけの人々が、しかも年齢もかなり上、いろんなバックボーンの方々が心を一つにして踊る。スキルではプロとは比べものにならないが、勢いはどんなステージにも負けないくらいのパワフルさ。この勢いが日本中に広がれば、日本はもっと元気になるのに、と思わせる舞台。公演は残念ながら1日限り。客席には様々な年代の方々が楽しく観劇、ラストには舞台に向かって手を振る観客も!まさにタイトルそのままな舞台『踊れ!人生があるうちに』。


会場ロピーにはパネルがあり、そこにはダンサーとして出演している方々の一言コメントが!その一言、一言に魂を感じる。その真摯、かつユーモアあるコメント、舞台はフィクションかもしれないが、実はノンフィクションなのかもしれない。

 

また昼公演終演後に出演者の方々や演出の堤幸彦氏、そして今回の企画立案者である株式会社オースタンスの菊川諒人氏にお話をお伺いすることができた。

<出演者コメント>

滝口伸一さんは昼公演を終えて「間違えないように、みんなに合わせようっていう気持ちがあって緊張しましたね」とコメント。ダンスは全くの未経験であるが「楽しいですよね、ランニングマンとか教えてもらって・・・・できるようになると嬉しいです」とにこやかに。
夜の回にお友達が観劇にくるとのこと(お話したタイミングは昼公演後)。また参加して他のメンバーと仲良くなったそう。「男性は4人しかいないのですが、みんな仲良く教えあったりしました。よくしてもらっています」と語る。「一つのことをやろうという団結、そういう感じはしました」と語る。群舞のところはプロ顔負けのチームワークの良さが!夜公演に向けて「元気いっぱいにやりたいな」と抱負を語ってくれた。

 

最高齢(78歳!)の八木詢子さんは「自分が最高齢になるとは思っていなかった」と笑う。「もっと上の人もいるかしら?と思っていたら、ダントツで最高でした!」と語る。「今まで踊ったことのない振り付けですとか・・・・・・参加資格は50歳以上ですが、その世代は自分の子供年代で・・・・もしかして先生はお孫さんに近いのかしら?」と笑う。「体がだんだん古くなって痛いところもありますので(笑)、でもこらえながら、ケアをしながら今日を迎えました」と語り、「ステージが好きっていうのもありましたし、今回は周りの方がすごく面倒を見てくださって(笑)、今までは自分が面倒を見る立場だったのが!面倒を見ていただきながら振り付けを覚えたり、一緒に踊るための努力をして、最後の最後まで皆さんに助けられて」と語るが、その団結力は客席にも十分すぎるほどに伝わってくる。
さらに「とても楽しい舞台でした。息が弾んで!自分でも力が入っていたと思うのですが・・・・二回目(夜公演)、できるかしら?頑張ってやって行きたいと思います」と笑顔で。
また「挫折して客席で見ることになるかな?と思ったら最後まで(皆さんが)引っ張ってくださったので、公演まで漕ぎ付けることができました。そうすると欲が出てきて!」そう言いつつマッサージのジェスチャーをしながら「こんなことをしていただきながら・・・・踊りを続けたいな〜と」。もし別の機会で参加するチャンスがあったとしたら?との問いかけには「出たいと思います!」と力強く。「機械的に体操するよりも踊るのが、自分の体を動かすのが大好きです!」と笑顔で答えてくれた。

<演出:堤幸彦氏コメント>

実はこういったプロでない方々の舞台演出はこれが初めてではないそう。「市民芝居みたいなのはたまにやります・・・・・・度胸があって勢いがあるという点では東京の方々なので面白い」と語る。
スキルの点ではプロではないが、とにかくパワーと勢いとパッションを感じる舞台、この力は普通の演劇作品にはなかなかない。「先に若い役者さんたちで一回作って、それを移しますが、今回もそれができました。先に考えながら芝居の原型の形を作らせてもらうのですが、そこは苦労するところですね。しかもお客様は出演者のご家族とか演劇に馴染みがない方々がいらっしゃるであろうから、そういう方々にどういう玉を投げるかを考えるのが一番苦労しました」と語る。客席は小さいお子さんからお年を召した方々も。
「大人ダンサーズの皆さんに関しては全く不安もない」ときっぱり。
「(逆に)見ないようにしていましたね。いわゆる演劇の流れと違和感があった方がいいんじゃないかと。それをミックスして今日の形があるので、今まではわざと見ない(笑)、昨日ぐらいから拝見させてもらってちゃんと出来ているなと・・・・・・改めて感心した次第です」と語る。
そして「演劇の原始的な形っていうんでしょうか、石川県の小松市は祭のたびに曳山子供歌舞伎をやったりしています。地元に根付いている、本当に素人の市民が演じることっていうのはどれを見ても完成度云々ではなく、すごく力を、熱をもらえる。今回はそれがダンスに結実していました。途中、プロの芝居を一応は入れてあります。頑張ってギャグとかも入れていますが、でも負けちゃうんじゃないかって(笑)」と笑う。
また小ネタだが・・・・ポケベル!ダンスでは腕ぐるぐるの振り付けも!「振り付けの方も脚本を書いている荒川さんにしろ、若いんで!30代!20代の方もいらしていて、大人に寄せてやってくれていました。でも20歳代の若々しさはちゃんと振りに出てまして、えも言えぬ世代間ミックスみたいなのがとてもよかったです」と語る。今風の振りに往年の振り、ここら辺は楽しく見られるポイント。
たった1日の2回公演「もったいないですね」と語り、「このトライは続けていけるなら、ずっとやった方がいいですね。リーディングする役者も果たしてプロである必要があるのかなと。この熱がある50代、60代の方が役者として進出していけば、いいと思う。プロアマ共同の必要もないと思う」と語る。
またダンスが皆、揃っており、初心者の方々も本当に楽しそうに踊る。「振り付けの方々がものすごく上手なんです。振り、形を覚えてください、というだけではここまではいかない。カウントの数え方からやっていらっしゃるので、初めての人であろうが、ダンススクールに通っている経験があろうがエアロビ経験があろうが、関係ない。ダンスの基本はリズムでカウントをとること。教え方が本当にうまいなと。感動しました」と語るが、その成果が!
全員が踊るところは舞台からはみ出ている!「それがいいじゃない(笑)」と笑顔で。「楽屋もないんですよ。終わると上の会議室に帰っていく、いいじゃないですか」と笑う。もし、二回目があるなら「この完成度をあげて若干ギャグを足して、ぐらいで」と語り、「僕自身も楽しみたい」とコメント。
さらに「そういった演劇に近くない人たちが必死にやる、それこそが感動の種だなって思うし、僕自身、舞台演出家として、頑張れる力をもらえるなと」。こういう企画が根付いていけば日本も元気に。「そうですね!もっともっとやるべきだと思います」と締めくくってくれた。

<株式会社オースタンス 代表:菊川諒人コメント>

この企画のきっかけは「2年半前に遡りますが、おばあちゃんのダンサーが踊るっていうのを作ってそれがすごくシェアされまして。1億回ぐらい再生されたのがきっかけです。アーティストの会社を作りたいという思いがありまして、若い人の方を向いてずっとやってきたのですが、60歳を超えた方々で、映像を作ってそこですごくシェアされて、そこから仕事が入った時に、実は皆さんが年齢に関係なくダンス等の表現をしたいのだ、ということに気づきました。その後に『シニアモンスターズ』のブランドを作って30人のパフォーマー集団を作った後にイベントを行い、一般の方も100人集まりイベントをやりました。その一般の方々から『私も表現したい』『何か作り上げることがしたい』との声をいただきました。親世代、親も参加していまして、楽しんでいただきまして、『これ、やりたいな』と思い、始めました」と語る。表現したい、何かをやってみたい、という思いは年齢に関係ない。
今回の公演は100人以上のシニアの方々が集まり、音楽に合わせて実に楽しそうに踊っていたのが印象的であったが、かなりの規模!100人以上の出演者というのはなかなか、ない。「笑いあり、涙ありの感動の作品で!観ている僕らにとってもすごく良かったですし、何より出演者の方々が終わった後、またステージに立たれている時の表情を見て『やって良かったな』と思いました」と語る。すべてのダンサーの顔が生き生きと!これは稀有なこと。
「迫力が!もっと大きいステージで観たいという思いもあったのですが、この迫力が身近で観られるのは、すごく良かったかなと思います」とコメントしたが、舞台から溢れて!客席との一体感もみられた。
また今後の展開については「実は今回収支は合ってないのですが、ただ、これは価値があることだと。出演者も観劇した方も『もう一回、やりたい』とか、また観劇した方からは『私もやってみたい』という声をいただいていますので、続けていくつもりですし、いい意味で今回のものを変えてやっていけたら、とも思います」と語る。また客席には観劇の習慣がない方々が多く見受けられたが、いろんな意味において裾野が広がっていく可能性も感じられた。
「脚本はゼロから作り上げました。この内容でもう一回やってもいいですし、別のストーリーにしてもいいですね。会社のビジョンを体現するようなものに、と思っています」また、「募集をして、ストリートダンスをやったことのない方々がどんどん表現することがうまくなっていくのが見られて良かったですね」と語る。「振付師の方の教え方がうまい。振りがあっているかっていうことよりも、その人自身に対して『思いをきちんと出して』って。観ていてうまい下手に関係なく良かったです」と語る。
そして「今後も続けていきたい」と力強くコメントして締めてくれた。

【公演概要】
『踊れ!人生があるうちに』
・日時:2019年9月14日(土)
昼の部 開場13時 開演13時半 / 夜の部 開場17時 開演17時半
・場所:武蔵野公会堂
演出:堤 幸彦
衣装協力:MICHIKO KOSHINO
ダンス監修:松田鼓童(nts んっつ)
脚本・演出助手:荒川 大(劇団ハーベイ)
実行委員長:新谷 颯起
主催:株式会社オースタンス
公式HP:https://otona-koen.ostance.com/
取材・文:Hiromi Koh