2019年10月22日(火祝)~25(金)天空劇場にて音楽劇『ハムレット』が開幕。
主演・ハムレット役には韓国の人気ボーカルユニットCROSS GENE(クロスジン)で活躍中のキム・ヨンソクを迎え、 友人・ホレーシオ役には舞台「おおきく振りかぶって」阿部役ほかで今注目の若手俳優大橋典之や、オフィーリア役に はミュージカル『アニー』のアニー役を務めた実力派・栗原沙也加 、オフィーリアの兄・レアティーズ役に数々の大作ミュ ージカルで活躍中の野島直人 、クローディアス役には数々の舞台出演ほか脚本・演出家としても活躍の幅を広げている根本正勝 、そしてオフィーリアの父・ポローニアス&墓掘り役には唯一無二の存在感で観客を釘付けに。ルー大柴 、さらにハムレットの母・ガートルード役は元宝塚歌劇団男役トップスターで退団後も多くの名作で人々を魅了し続けている北翔海莉の7名で悲劇を紡いでいく。演出は西洋作品初挑戦! 歌舞伎の演出家で振付師、昨今はニコニコ超会議の歌舞伎演出を行うなど新しい挑戦で 話題の藤間流八世宗家・藤間勘十郎。 洋式の音楽・コスチュームに和楽器の鳴物を加えた、海外上演を目指す勘十郎ならではの演出に期待。
舞台端にはピアノ。まずはルー大柴が登場する。「あれ?大勢のピープルが集まっていますねー」とルー語で!作品の説明。「トゥギャザーしましょう!」と言い、ピアノ演奏が始まる。
物語はもちろん誰でも知ってる、あの「ハムレット」であるが、出演者は7人。ずいぶんと小振りな座組、ルー大柴は墓掘とオフィーリアの父・ポローニアスの2役。そして、あの有名な2人組、ローゼンクランツとギルデンスターンは・・・・・出てこないし、劇中劇で登場する旅芸人の御一行さまも出てこない。その分、シンプルで展開が早い。
音楽劇なので随所にミュージックナンバーが散りばめられている。しょっぱなは「墓掘の歌」歌うはもちろん、ルー大柴。そしてデンマーク王、つまりハムレットの父が急死し、ハムレット(KIM YONGSEOK)の叔父であるクローディアス(根本正勝)とハムレットの母・ガートルート(北翔海莉)が結婚する。「神のご加護を!」と皆が祝うが、ハムレットはもちろん祝う気にはなれるはずがない。そんな折に、あることを知らされる。ハムレットの父である先王が亡霊となって現れる、と。自分の目で確かめたいハムレットは現場に行き、父の亡霊と会い、父の死の真相を知ることに・・・・・・。
この音楽劇「ハムレット」は様々なことにチャレンジしている。”音楽”、いわゆる西洋音楽と日本の音楽とのコラボ。楽器もピアノやストリングスなどの西洋楽器と鳴り物を使った楽曲、これが想像以上に「ハムレット」の世界観と調和している。父の仇を打つ、歌舞伎ではよく聞く『物語』であるが、この「ハムレット」もまた、亡き父の仇を打つ話である。日本で最初に「ハムレット」が紹介されたのは明治19(1886)年のこと。「東京絵入り新聞」連載で仮名垣魯文による翻案『葉武烈士倭錦絵』、登場人物が当時の人気役者だった9代目市川團十郎や4代目中村福助らに似せて描かれている。よって歌舞伎風な音楽、芝居はすんなりと調和する。ツケ、歌舞伎風に見得を切り、そして客席通路は花道、ここを駆け抜けたり、あるいはここで芝居、殺陣も見せる。また、劇中劇は狂言仕立て、能の面が効果的だ。また最後のレアティーズ(野島直人)との一騎打ちは歌舞伎の殺陣を取り入れている。
そしてところどころに新しい解釈を取り入れているのもこの作品の特徴だ。妹思いなレアティーズ、確かにそうであるが、ここでは好きすぎ!妹を想っているという解釈、よってハムレットの行動と父の死によってオフィーリア(栗原沙也加)が壊れていき、最後に死にいたるのだが、烈火のごとくに怒りまくって沸騰状態、クローディアスの計画がかなり卑怯なものであるにもかかわらずにそれを受け入れてしまうのもこの解釈なら、かなり頷ける。そして叔父であるクローディアス、祈りの時だけ自分のしたことを神に懺悔するのだが、ここでは常に自分のしたことに後ろめたさを持っている、彼の内なる善と悪が拮抗している様子を根本正勝が細かく見せる。ガートルートも悪女として描かれることが多々なるが、北翔海莉のガートルートを見ていると母親として、また女性としての苦悩が見え、共感しやすいキャラクターになっている。オフィーリア演じる栗原沙也加は可憐そのもの、入水シーンは、単純に歌いながら死にいたる、というのではなく、純粋にハムレットに恋していた、という表現、ハムレットとのダンスシーンはオフィーリアの心情がストレートに表現されていて涙を誘う。
ラストは決闘、その顛末は誰もが知っているのだが、皆、死して倒れ、ホレーシオだけが生き残り、そこへフォーティンブラスがやってくるのだが、これも・・・・・・フォーティンブラスは実際には乗り込んでこない(セリフで語られる)。最後はルー大柴が舞台を締め、その後に・・・・・はお楽しみ。セリフは、登場しないキャラクターがいるので、もちろん、そこのセリフは出てこない。そして、クリエイター陣のこだわり部分であろうか原作にはないセリフもある。例えばハムレットは「驕れる者は久しからず」と劇中劇でつぶやく。これは平家物語の冒頭に出てくる言葉、この後の言葉は「ただ春の夜の夢のごとし たけき者もついには滅びぬ」と続く。ハムレットは明らかに叔父を意識して「驕れる者は・・・・」と言っている。今はよいかもしれないが・・・・・と比喩的に彼に投げかけたフレーズであり、それに対してクローディアスはハムレットを『怖い』と感じる。「彼をどうにかせねば・・・・」と心の中で思い、自分の末路も感じたに相違ない。
ニコニコ超会議の超歌舞伎を手がけた藤間勘十郎らしい柔軟さと発想力、それに応える俳優陣、北千住の天空劇場の空間で繰り広げられる世界的悲劇、少々、公演日数が少ないのが残念。
ゲネプロ後に会見が執り行われた。
登壇したのは俳優陣と演出の藤間勘十郎。
まずは挨拶。
「演出家になって10年ちょっと、まさか西洋の演劇を演出するとは思いませんでした。こういう機会に恵まれまして、今日を迎えることができました。脚本の戸部さんや音楽の橋本さんに全てを任せるのもあったのですが、歌舞伎を・・・・・シェイクスピアの芝居をやるよりも歌舞伎をやってるような、そんな感覚に・・・・・みなさま、一生懸命やってくださって。シェイクスピア好きな方には『ハムレットですか?』とはてなマークがつくような作品かもしれません、これは歌舞伎でございます!”かぶく”という精神で作ったつもりです。この精神のもとで!」(藤間勘十郎)
「今まで、いろんな作品をやりました。今回は本当に新鮮で、チャレンジすることが多かったです。これからも頑張って!」(KIM YONGSEOK)
「お稽古も歌舞伎で、短期収集型で。みなさんにアドバイスもいただいて、感謝の思いでここに立てています、ありがとうございます」(栗原沙也加)
「歌舞伎で、『ハムレット』なのに鳴り物があったりして新鮮です。新しい要素がたくさん入っててどんな『ハムレット』になるのかな?と。新しい経験ができて、また演じることにワクワク、お客様がどういう反応をするのか楽しみです。熱くなってもらえたら!」(大橋典之)
「YONGSEOKくんの膨大なセリフ、歌、日本語は外国語なのに、そして歌舞伎という・・・・彼がやってることってすごいことだなって!本当にすごい!日常会話も普通にできるし。人数が少ない分、責任も大きいです。頑張ります!」(野島直人)
「お客様がどういった反応をなさるのか、ここまでやってきたものをキャスト、スタッフを信じ、尊敬してまっすぐに演じていればいいものができると信じています」(根本正勝)
「43年ぶりにシェイクスピア、『ハムレット』をやらせていただきます。43年前はペーペーで・・・・・。こうやって若い方とハムレット役のYONGSEOKさんも素晴らしい方で力をいただきました。初日を迎えてハッピーです!」(ルー大柴)
「母親役は初めてです。以前に父親役はやりました。母になるのは初めてで・・・・・。演出家さんの名前を聞いてよそでは表現できない『ハムレット』だなと。いろいろなところで上演されていますが、これは他の人では絶対に表現できない作品ができるなと」(北翔海莉)
次におすすめシーンについて演出家より「全部観ていただきたい(笑)、初日が開けると作品は演者のものとなります。私は演じる方々、どういう役を演じるのかを注目して観ていただければ。役者一人一人が総合芸術、どんな形で芸が発揮できるか・・・・一人一人の芸を観ていただければ幸いです」とコメント。KIM YONGSEOKは「全部!あとは、早替わり、Yes、Noとか、バルコニーで歌うところ」とコメント。栗原沙也加は「入水、死ぬ瞬間を洋舞で表現します」とコメント、ここは本当に見所。大橋典之は「やっぱりクライマックスのシーン、親友として・・・・・ハムレットがなくなって、そこをぜひ!」とコメント。野島直人は「楽器がね、和楽器が入ってますので、そこを」と語るが、音楽は要注目。根本正勝は「物語の中で変わっていく様を。」と語る。ルー大柴は「エンターテイメントなので、今までにない形ですので、ぜひ楽しんで!」とコメント、北翔海莉は「狂気のハムレットと歌うところ、素敵な音楽を作っていただいたので、ただ歌うのではなく、いろんな感情を目一杯表現しながら!お客様一体となり、一緒に共感していただければ」とコメント、ここの歌唱は圧巻!
最後にハムレット役のKIM YONGSEOKが「今日から初日です。千秋楽まで全力で!応援よろしくお願いいたします!」と元気よく締めて会見は終了した。
【公演概要】
タイトル:音楽劇『ハムレット』
公演期間:2019 年 10 月 22 日(火祝)~25(金)
劇場:天空博劇場(北千住)
作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:藤間勘十郎
上演台本:戸部和久
音楽:橋本賢悟
出演:KIM YONGSEOK(CROSS GENE)、大橋典之、栗原沙也加、野島直人、根本正勝、ルー大柴/
北翔海莉
企画・製作:有限会社アーティストジャパン
公式HP:https://artistjapan.co.jp/
(C)2019 ArtistJapan
取材・文:Hiromi Koh