「イノサン」は2013年~2015年週刊ヤングジャンプにて連載。「イノサンRouge」 が2015年~現在グランドジャンプにて連載中。 現在「イノサン」1~9巻、 「イノサン Rouge」1~11巻が 単行本として販売されている。 歴史大河ロマンでフランス革命の “闇”の立役者・死刑執行人サンソンを描いている。 坂本眞一の芸術的とまで言われる画とセンセーショナルな内容にファンも多く、 国内外で高く評価される作品だ。 受賞暦は「マンガ大賞2015」7位ランクイン、第17回文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品、第18回手塚治文化賞「読者賞」ノミネート。 2017年「ルーヴル美術館特別展」に同作読切出展。脚本の横内謙介さんに作品のお話をお伺いした。
「以前扉座で『新浄瑠璃 朝右衛門』という同じ死刑執行人の作品を書いたことはありました・・・・・一回やったテーマだなと」(横内)
――この作品の脚本に決まったときの感想は?
横内:お話をいただいたときは、「イノサン」という作品のことは、全く知らない状態でした。以前扉座で「新浄瑠璃 朝右衛門」という同じ死刑執行人の作品を書いたことはありましたけれど。その時、江戸時代の首切り朝(注)という人物を調べていたときに、同じ時期にサンソン……今回の「イノサン」での主人公がフランスにいたということを知ったんですよね。日本の首切り朝とフランスのサンソン、どちらも一定の地位をもらって、世襲制で、特別な技術研鑽をしていて……という共通点があることがわかって。あ、一回やったテーマだなと思いました。
はじめは漫画原作ということで、ヴィジュアル重視になるのかと思っていたら、演出が宮本亞門さんに決まり、いわゆる2.5次元のように漫画の名場面を再現していくようなものとは違うものを作ろうという流れになっていきました。
――題材を考えると、漫画の雰囲気を踏襲しつつもヴィジュアルを再現する必要はないもののように見えます。
横内:サンソンはそもそも実在の人物ですからね。原作の坂本先生はサンソンのほかにマリーという人物を創作していますが、大元は本当にあったことなので、漫画的なヴィジュアルに寄りすぎていたら画一的で面白みのないものになっていたかもしれませんし、(宮本)亞門さんと創ることもなかったと思います。
「原作のマリーは、『ベルサイユのばら』のオスカルのように架空の人物が史実の世界にいる存在。少し浮世離れした存在」
――実在の人物が主人公の漫画作品である「イノサン」は、史実を紐解きつつその人物像がどうだったのか、というのがこれまでの作品とは大きな違いのようですが……。
横内:原作のマリーは、「ベルサイユのばら」のオスカルのように架空の人物が史実の世界にいる存在。少し浮世離れした存在でもあるので、それをどう扱っていくのかというのが悩みどころではありました。マリーは中島美嘉さんが演じますが、彼女は特別な存在感もあるし、主役とはいえ物語を相対的に演出する役柄だけれどいわゆる“異物”が作品世界にいるというのが芝居には使えるのかなと思いました。
――「イノサン」と「ベルサイユのばら」は同じ時代の作品でしたね。こちらは死刑執行人という“陽の当たらない存在”を描いていますが、フランス革命の時代というのもこの作品の魅力のように思います。
横内:原作の「イノサンRouge」からはマリーが目立つようになっていきますが。男装してベルサイユ宮殿に乗り込むあたりは、「ベルサイユのばら」を意識しているなと思いました。
――先日、台本の読み合わせをしたそうですが……。
横内:(宮本)亞門さんにとってはホン読みが仮縫いみたいなもので、曲の入れ場所とか、そこに至る会話を洗い直したり、ホン読みの段階でいろいろ練っていたのを覚えています。亞門さんとは初めてなので、その流儀に乗るようにしていますが(笑)。
――内容的には演出側としては手強そうですよね。
横内:舞台に何も道具の出し入れもできない、飾れない現状ですからね。映像を使うのはわかっていますが。ミュージカルのやり方を勉強させていただこうと思っています。今まで我流でやってきてしまったのもありますから(笑)。
「いかに原作に書いてあったとしても、我々が感じるリアルを保証していったほうが観客に響くのではないか、と」(横内)
――日本公演が終わった後、来年2月はパリ公演も控えています。
横内:その時に、“いきなりコスプレで出ていったら笑われるだろうから、しっかり作ろう”と亞門さんと決めました。別の切り口を用意する必要があるな、と。そのあたりは海外経験が豊富な亞門さんの知識を頼りました。
――そこは敢えて作画に沿わないということが効果的になってきますね。
横内:やっぱりドラマとして面白い部分をキャラクターに寄せると、キャラクターが嘘をついてしまうということが多分にあって、そういうところは2.5次元を少し離れた感覚になっています。いかに原作に書いてあったとしても、我々が感じるリアルを保証していったほうが観客に響くのではないか、と。例えば「ライオン・キング」のように、動物を人間が表現する際は、あれはあれで独自のものとして成立できるようにならないといけない。この「イノサン」に関してはアニメやテレビドラマとしては表現がやりにくい題材なので、そういうところは舞台だけに突破口がある作品なのかもしれません。
――テーマ的に処刑のシーンは避けては通れないですが、リアルな表現をせずとも観客の想像力に委ねる場合が多い舞台に向いているように思います。
横内:作品によっては舞台上で大量殺人が起きていることもありますからね。舞台という特別な場所でしか許されない。描けるものの幅が広いからこそだと思います。むしろ、舞台では人を斬る行為が当たり前すぎるんですよね(笑)。そこはもはや見せ場には物足りないので、心理的な葛藤を描いていくほうが重要になります。
――今回はキャストも豪華な印象を受けました。
横内:我々の世代からすると浅野ゆう子さんが祖母役というのがだいぶ驚きです(笑)。主演の中島美嘉さんは、初めの舞台ということでしたが、会ったときに雰囲気あるな、と思いました。本人もマリーというキャラクターが好きなようですが、これからの稽古でどのように演じてくれるのかが楽しみですね。
――最後に締めの言葉を!
横内:今回の舞台では、原作を確かめに来てもらうというよりは、この舞台を観て原作も読みたくなったという感想が得られるといいなと思っています。それで漫画の売上がもし上がったら、僕たちの手柄だなと(笑)。
お互いが影響を与え合う、そういう舞台に仕上げたいですね。
――ありがとうございます。公演を楽しみにしています。
(注)江戸時代の死刑執行人(首斬り人)・公儀お様(ため)し役山田朝右門のこと。
<出演>
中島美嘉(マリー-ジョセフ・サンソン役)、古屋敬多(Lead)(シャルル-アンリ・サンソン役)、梶裕貴(アラン・ベルナール役(W))、武田航平(アラン・ベルナール役(W))、小南満佑子(マリー-アントワネット役(フランス王妃))、荒牧慶彦:ジャック役、鍵本輝(Lead)(ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン役)、多和田任益(オリビエ・ルシャール役)、貴城けい(デュ・バリー役(マリー-ジャンヌ・ベキュー)、前山剛久(アンドレ・ルグリ役)、佐々木崇(トーマス-アーサー・グリファン役)、林明寛(ド・リュクセ役)、太田基裕(ルイ-オーギュスト(ルイ16世)役)、浅野ゆう子(アンヌ-マルト役)他
【公演概要】
日程・場所:2019年11月29日〜12月10日 ヒューリック東京
*2020年 パリ公演
原作:「イノサン」「イノサンRouge」/坂本眞一(集英社グランドジャンプ)
脚本:横内謙介
演出:宮本亞門
渉外プロデューサー:遠藤幸一郎
ゼネラルプロデューサー:原 葵(Jnapi L.L.C.)
主催:Jnapi L.L.C.
公式HP:https://jnapi.jp/stage/innocent/index.html
取材・文:Hiromi Koh