11月2日より『海の上のピアニスト』が上演中、13日より東京公演が開幕。 映画にもなったアレッサンドロ・バリッコのイタリア文学を音楽ドラマとして 昨年舞台化し大好評を博した本作。再演を熱望する声に応え、 更にブラッシュアップされ京都、福岡を経ていよいよ東京。 元宝塚歌劇団トップスター・北翔海莉と鍵盤の貴公子として話題のピアニスト・大井健の2人が融合、二人一役で “豪華客船の中で生まれ、生涯一度 も船を降りることのなかった”天才ピアニスト・ノヴェチェントの役を演じる。 親友トランぺッター役には喜多村緑郎(東京のみ)と、珠玉の楽曲を手掛けた中村匡宏(鍵盤男子)(京都・福岡公演)が担い、朗読と大井とのピアノの連打が見どころの音楽バージョン、喜多村の芝居部分が更に冴える芝居バージョンと、上演会場による違いも話題に。ジャズ、ラップほか様々な音楽で 物語を紡いでいく。
幕開き、汽笛の音、カモメの鳴き声、海の音、客席全体が船になる瞬間だ。シンプルなセット、中央にピアノ、その調べはだんだんとダイナミックになっていく。一人の男が現れる、手にしているのはトランペット、この物語の主人公の親友(喜多村緑郎)だ。彼はこの物語の主人公である一人のピアニスト(北翔海莉)の話を始める。それからその”ピアニスト”が舞台に現れる、その出生の経緯や音楽に、ピアノに魅せられた理由などを本人が一人称で語り始める。箱の中に入っていた赤子を黒人機関師(喜多村緑郎)が見つけて大切に育てられるが、事故で機関師はなくなり、ひとりぼっちになる。「大金持ちにはなれなかったけど、ピアニストにはなれた」と笑うピアニスト・ノヴェチェント。
映画を観ている観客も多いが、舞台らしいアナログな手法で、しかもピアノ演奏者を入れて出演者はたったの3人。特に喜多村緑郎は一人で複数役をこなす。
ミュージカルでもなく、ストレートプレイでもなく、朗読劇でもなく、コンサートというわけでもない。これらが程よい割合で混ざっている、という感じだろうか、多彩な楽曲でピアニストの出生からこの世を去るまでを綴っていく。生涯、船を降りることはなかったピアニスト、一度は船を降りようとした、帽子をかぶり、トレンチコートを着て、かっこよく、のはずだったが、しかし、顔を歪ませながら帽子を海に投げ捨て船に戻った。そして船を出ることはなくなった。
寓話のような、しかし、リアリティもあるこのストーリー、3人に絞ることによってドラマ性が色濃くなる。多彩な楽曲、ジャズ、ラップも飛び出し(喜多村の熱演は必見!)、客席からはクラップも起こり、演奏が終われば拍手も自然に起こる。芝居と客席のリアルが融合する瞬間だ。北翔海莉は生涯音楽に生きる主人公を時には颯爽と、時には苦悩をにじませ、熱演。そして元宝塚トップスターらしく、燕尾服の着こなしはさすが、というしかないほどにかっこいい。最後に覚悟を決めた瞬間の姿は胸が熱くなる。また、喜多村緑郎は複数の役を芝居の巧みさで好演する。
ラスト、老朽化が顕著になった船、かつては豪華客船できらびやかな時代もあった。だから処分されることになるのだが、栄光の時代があった、大勢のセレブを楽しませた客船の最後はあっけないものだ。無常な世界、ピアニストはそれでも船を降りなかったが、主人公の美学というのだろうか、船とともにあった人生、だから船、なのだろう。船を降りるように彼を説得しにきた友人のトランペッターも、彼の気持ちを悲しみつつも理解を示す。人生、夢、音楽、「鍵盤は88キー、人間は無限」と主人公はいう。そういう彼からは無限のメロディーが限られた数の鍵盤から繰り出される。その演奏はピアニストの大井健、見事な演奏で天才ピアニストの『ピアノ』パートを受け持つ。大井がピアノを弾き、北翔が踊るシーンは、まさに二人で一つ。大人の良質な舞台作品、再演を重ねているだけあって練りこまれた印象。音楽の力、そして言葉、シンプルであるが、たったこれだけ、されどこれだけ。派手な映像演出もない、シンプルだからこそ、響くものがある。
初日に先駆けて舞台挨拶があった。
主演の北翔海莉は「戻ってこれて嬉しい、天空劇場ならではの作り、船なのでお客様は乗客になれます。今日は天空劇場バージョン、3種類のバージョンがあります、ここでしかできない『海の上のピアニスト』を」と意気込んだ。喜多村緑郎は「去年の印象が強くって・・・・・・音楽もホンも素晴らしい、いい作品に巡り会えまして嬉しくって嬉しくって!なんとか間に合った(笑)、初日見ていただけるように!」とこちらも意気込みたっぷり。大井健は「子供頃に映画で観まして、非常に印象深く・・・・この作品に出れることが!2年目で年末の第9のように恒例になってくれたら。クラシック、ジャズなどたくさんの曲が!あと二人での演奏は初めてでした(北翔海莉と2人で弾く場面あり!必見!)さらに上を!」とピアニストらしいコメント。作曲の中村匡宏は「もともとは映画作品で名作と言われています。『どうやってやっていこうか』という気持ちで・・・・・感動、なんらかの印象を受けていただいて、何か心に与えることができたら・・・・豪華客船なのに出演者はたった3人!よくできたなと・・・・・みなさんの心が震える体験、作品、観ていただけたら」と語る。
また見所について北翔海莉は「いろんなジャンルの曲があります。生まれてからダイナマイトの上に座るまでをきちんと表現できれば」と語り、喜多村緑郎は「すべて!全部!体が覚えていました!曲が耳から離れない、聞いちゃうと涙出ます」とコメント。大井健は「テーマ曲は何度か出てきます」と語ったが、これが効果的でさらなる感動、そしてキャラクターの心情を表現する。中村匡宏は「すべての曲がいいと思います(笑)少年の頃の曲が、爆弾の上に座っているシーンでもう一回出てきます」とコメントしたが、ここのシーンは涙な場面、主人公が自分の人生の幕引きを決意しているところ、そこでこのメロディーは、もう『反則』的に涙を誘う!そして「喜多村さんのラップ!」といい、これにはご本人も思わず笑ってしまったが、渾身のラップ!という感じで!最後に北翔海莉が「いい舞台観たなと思って「もらえるように!何度も!この世界観を体感していただければ!心を込めて!」と締めて会見は終了した。
【公演概要】
日程・場所:
≪京都公演≫ 公演終了
2019 年 11 月 2 日(土)会場:京都芸術劇場 春秋座
出演:北翔海莉、大井健・中村匡宏(鍵盤男子)
主催:京都造形芸術大学
舞台芸術研究センター
後援:京都新聞
≪博多公演≫ 公演終了
2019 年 11 月 5 日(火)、6 日(水) 会場:電気ビルみらいホール
出演:北翔海莉、大井健・中村匡宏(鍵盤男子)
≪東京公演≫
2019 年 11 月 13 日(水)~15 日(金) 料金:¥9,500(全席指定・税込)
出演:北翔海莉、喜多村緑郎、大井健(ピアノ)
作:アレッサンドロ・バリッコ
訳:草皆伸子
上演台本・演出:星田良子
作曲・音楽監督:中村匡宏
企画・製作:有限会社アーティストジャパン
公式サイト:https://artistjapan.co.jp
(C)2019 ArtistJapan
文:Hiromi Koh