みきくらのかい 第一回公演 リーディング「いとしの儚」 三木眞一郎、江口拓也が『千の声』で淡く儚い愛を紡ぐ。

声優の三木眞一郎が”みきくらのかい”を立ち上げた。
第一回公演はリーディング「いとしの儚」、原作は横内謙介、扉座の人気作品の一つ。
これに三木眞一郎と江口拓也が挑戦。

主人公は件鈴次郎、親兄弟、妻子もなく、天涯孤独な男。手癖も悪く、言葉も汚いし、意地汚い、人間のクズ、と言われても仕方のない男だが、なぜかツキはある。博打では負け知らず、という設定。ある日、賭博場へやってきた鬼の鬼、シゲと勝負することになる。しかし、シゲは鈴次郎に勝てない。掛け金の亡くなったシゲは世界一の女をかけて勝負を挑む。それでも鈴一郎は負けることがなかった。このシゲが用意した女はなんと墓場の死体を集めてこしらえた体に生まれたて、すぐに死んでしまった赤子の魂を入れて作った美しい女だった。ただし、体と魂がくっつくのに100日かかる。きっかり100日は決して抱けない。そうしなければ、本当の人間になれないからだ。もし、この『ルール』を守らなければ、水になって流れてしまうという。その名前は「儚(ハカナ)」。100日の物語、というのがだいたいの流れだ。

扉から三木眞一郎が登場し、舞台の端に座る。そして語る。客席後方から江口拓也が登場し、舞台に。二人とも着物姿、中央にはテーブル、その両脇に椅子。賭博のシーンは実際にサイコロを振る。ほぼ二人だけで紡いでいく、よって何役もこなさなければならない。その芸だけでもすごいのだが、じっと聞いていると世界観が広がっていく。鈴次郎は基本的に愛を知らない。そんな彼が愛を知り、内面が変化していく。100日、99日がすぎて、あと1日という時に鈴次郎の宿敵であるゾロ政が二人の運命を狂わせる。2人が間髪入れずにすべての役を演じていくのだが、これが圧巻で、物語の世界観が広がっていく。多少の演技、アクションを取り入れつつ、照明と音楽とで縁取りをする。富沢里綸那も着物をきているのだが、これが妖艶で、童女のような、それでいて魅惑的な儚をビジュアル的に見せる。セリフはないのだが、存在感が抜群で立っているだけで絵になる。賭博の場面はよく通った声で、また、三木眞一郎がところどころ歌唱、場面のアクセントとして聴かせる。演じる役が多いので、様々な声、トーンで演じなければならない。漫画「ガラスの仮面」に『千の仮面』という言葉が出てくるが、この場合は『千の声』、そしてラスト、水にはならなかった「儚」、そして鈴次郎との愛、花びらなって一体化し、はらはらと散っていく。儚い夢、儚い恋、儚い愛、人間の夢や愛は陽炎のように儚いが、それが純粋なものに昇華した瞬間は花びらのごとくに、ということ。演出も三木眞一郎がキラキラした紙吹雪のような細かいものを江口拓也の頭の上に降らせる。照明がきらめき、幻想的な幕切れ。

声優2人で淡い夢物語を舞台上にほぼ声だけでそれを観客に届ける。挑戦的な企画、終演後のトークイベントでは三木眞一郎、江口拓也、そして原作の横内謙介が登壇した。三木、江口はリラックスした服装で登場、今回の企画のことや2名で演じることの難しさなどを語った。三木眞一郎は2弾、3弾と続けていきたいと企画にさらなる意欲を示した。

【公演概要】
日程・会場:2019年11月17日(日)13:00/17:00
目黒区 中小企業センターホール ※公演終了

原作:横内謙介
脚本・演出:倉本朋幸
出演:三木 眞一郎、江口 拓也、富沢里綸那

公式WEB:https://mikikuranokai.wixsite.com/mikikura
公式Twitter:@mikikura_no_kai
文:Hiromi Koh