平野良:原案・演出 舞台「BIRTHDAY」何もない空間、10人の登場人物は何者なのか、何を思うのか、疾走する90分、だからBIRTHDAY。

俳優・平野良原案・演出作品。初、ということもあり、個性的なキャストが揃った。
役名を見るとわかるが、「イチ」とか「ニ」とか、一種の「匿名性」が感じられる。
開幕前はイチ(宮河慶信)が前説を行う。そして前説から雑談になり(客席に向かって問いかけるので聞かれたら答えましょう)、そしてキャストが「わーーーーー!!!!」と賑やかにキャスト陣が登場する。イチはやや呆然とする。互い同士は知らない、という設定で生まれも素性も、何を考えているのか、何がやりたいのか、全くわからない、それは観客も同様な状況だ。これから何を始めるのか、ほぼ何もない空間、そこにいるのはシンプルに、生身の彼らだけ、2.5次元舞台や有名小説の舞台化、BWミュージカルのようなはっきりとした性格やバックボーンなどはなく、本当にシンプルに「イチ」「ニ」・・・・・がいるだけなのだ。皆、それぞれ勝手なことを言い始める。

テンション高い彼ら、「俺たちは選ばれたんだ!」と叫んで踊ったりもする。「なんだ、ここは!ゴールじゃないのか!」と叫ぶテン(オラキオ)。突如のファンファーレ、「もしかしてあれか?」「あれかな?俺たち」という。次々と繰り出される芝居、それは、何か俳優としての佇まいや存在そのものも問われているふしもある。不思議な空気感である。緩やかな設定はあるものの、かなり『自由』だ。そんな開放感もあり、また、セットも何もない分、人間が誰しもが持ちうる感情や迷いがストレートに舞台上でスパークし、そこから、また何かが生まれる。それぞれの役割もあるが、当て書きなのか、そんなことを想像しながら見ると興味深い。

「合格か不合格か」というキュウ(栗原大河)、そして「残された時間を見つめているのさ」という。勝ち続けないと生き残れない、という状況、ここで皆は何を思うのか、どうするのか、ラストは?というのが大体の流れ。
俳優陣一人一人の個性、そして情熱、そこから自分がなんなのか、そういったところへと恣意的にではなく、必然的に向かっていく。それは一種、観客への問題提起にも見えてくる。なんのために自分はそこにいるのか、何をしたいのか、どうしたいのか。シュールでシニカルな彼らの状況、運命、試練は『試練』なのか、それすらも見ていると曖昧なのだが、よくよく考えて見ると自分が『試練』と思えば『試練』、そこは自分の気持ちの持ちようかもしれない。「みんなのことをおかしいと思ったことは一度もない」とイチはいう。

10人が10人、バラバラに見えて、実は結束しているように感じる。「勝負」も「勝負」と思えば「勝負」。内省的な部分もあり、哲学的な心理的なものを10人でスピード感を持って紡いでいく。1時間30分、見終わったあとは自分自身を振り返って見たくなるような気分。爽快な時代劇や青春!な舞台もいいが、時にはこういった作品も観たいと思える。また、俳優陣にとってもきっと初日と千秋楽は違った景色になるであろう。時間があるなら、初日、千秋楽と観てその違いを観たいと思える作品であった。原案、演出は平野良、初演出とのことだが、初とは感じさせないステージであった。

 

ゲネプロ開始前に囲み会見が行われた。登壇したのは平野良とオールキャスト。
オラキオは「平野さんとは何度もご一緒させていただいて」と挨拶。栗原大河は舞台の説明「僕が出てきてからは”2倍”動きます」という。ここは要注目。山脇辰哉は「初めましての方がいらっしゃいますが、みなさんとっても本気で!頑張ります!」とコメント(皆、大笑い)。反橋宗一郎は「また、見たいと思うような舞台です。劇場に足を運んでください」と挨拶。碕理人は「このカンパニーでみんなで力を合わせて作り上げた作品、『え?こんなことしてんの?』っていう(笑)見所たくさんです。いろんな方面から見ていただければ」とコメントしたが、舞台をぐるりと客席が取り囲むスタイル。葉山昴は「平野さんの初演出です!チラシを見てもどういう舞台なんだろうという・・・・・最後まで見てください」コメント。秋沢健太朗は「役名が存在しないのがチャレンジ、タイトル通り、初めてのことだらけです」と語るが、なかなかないスタイル。鷲尾修斗は「」一生懸命頑張ります!(皆、大笑い)、10人ですが、僕の中では11人、一回見てもわからないことだらけです。席がいろんな角度から見られるので、笑ったり、ないたり・・・・です」と語る。途中から・・・・・サバイバル風な展開はドキドキ。谷佳樹は「平野くん初演出でワクワクしています。鷲尾くんとも久しぶりに・・・・素敵なメンバーでこれは良くんの人望、良くんがゴールキーパーでここにいられるのが幸せ。”平野JAPAN”を前面に!」と語るが、確かに平野良を入れてイレブン!イレブン!イチを演じる宮河慶信は「初舞台で主演でいろんなことが初めてです。わからないことばかりですが、いろんな方に見に来ていただけたら」と語る。平野良は「普段と変わらないです、自分が出ていないだけで・・・・キャラクターそれぞれが持っている魅力みたいな、役者として感じられる、写真を見て『あーかな?』『こうかな?』と想像していただければ」とコメント。また平野の演出について反橋宗一郎は「『こうしたらどう?』って、それを体現してくれるのでわかりやすい」と言い、谷佳樹は「稽古場から良くんが培ってきたことを出し惜しみすることなく与えてくれるのが、他の方にはない(狙ってるね!と平野良がチャチャを)・・・・平野良、丸裸!」といい平野良は「オラキオさんがよくわかっているので」とコメント、隣でオラキオが「いやいや」と笑うが、この呼吸はなかなかのコンビネーション。さらに「友達として付き合っています・・・・・・みんな良くんのことが大好きで」とオラキオ。そこで平野良は「問題作です」と笑う。
主演の宮河慶信はオーデションで選んだという平野良。「ピュアな・・・・・見ていただければ『なるほどな』と、存在感が魅力的です」と絶賛(本人は大照れ)、宮河慶信は「素直に嬉しいです。何にもしらない状態から入っていろいろ教えてくださいました。目標にしている人物は平野さんです」とコメント。ここで皆、大笑いで時間になり、会見は終了した。

<あらすじ>
「ここは、どこなんだ・・・てか、僕はなんなのだ?」
何も知らない10人。
お互いの素性も、想いも、何もかも謎のまま。
分かっているのは一つだけ、勝ち続けないと「終わる」。
そう考えている間にも、また次の試練がやってくる。
あいつが、僕が、脱落していく。
そんなシニカルな運命を、舞台の外の「黒子」たちが笑っている。
・・・そして、勝ったのは「君」だ。
【公演概要】
日程・場所:2019 年 11 月 27 日(水)~12 月 1 日(日) 東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
原案・演出:平野良
脚本:西垣匡基
<キャスト>
イチ:宮河慶信
ニー:谷佳樹
サン:鷲尾修斗
ヨン:秋沢健太朗
ゴウ:葉山昴
ロク:碕理人
ナナ:反橋宗一郎
ハチ:山脇辰哉
キュウ:栗原大河
テン:オラキオ
公式HP:http://www.39amipro.com/birthday/
文:Hiromi Koh