ーー桜の花言葉は「私を忘れないで」、「Ne m’oubliez pas」ーー
鈴置洋孝原案、堤泰之脚本の【火葬場コメディ】である。
幕開きは有名なジャズの曲、この作品名と同名だが、曲は失恋ソングなので、物語の中身とはシンクロしないが、ちょっとおしゃれ心のあるオープニング。舞台は火葬場の待合室。ソファに座る二人の男、着ているものが・・・・・・白い着物、喪服ではない。この二人の男性は死者。ボソボソと喋る。話の中身は他愛もない内容。窓の外から見える満開の桜。「ゆっくり桜が見られる」と死んだわりには明るい会話。一人が装束の着方を間違え、もう一人が直す。客席から笑いが起きる。この二人は、これからあの世へと旅立つのである。中年から初老に差し掛かったぐらいの年齢であろうか、一人は野々村浩介(天宮 良)、もう一人は北見栄治(新井康弘)。一転して幕が閉じて、人々が並んで手を合わせる。そう、故人を見送っているところだ。
そして場面は再び、火葬場の待合室。彼らの親族が入ってくる。葬儀というものは案外、雑用が多く、お茶を出したり、弁当の心配をしたりする。たまたま、同じ待合室に居合わせた二つの家族、先の二人の家族である。野々村家のおばあさん野々村桂(加藤健一)、ちょっとボケが入ってきたお年頃、どうも死者が見えている様子。だが、それを周囲は「おばあちゃん、またボケちゃって」という反応。
笑いの絶えない舞台、二人はやっぱりちょっと現世に未練がある様子。天寿を全うした訳ではない。現世に残した人々に自分たちの姿は見えないからこそ、彼らには今までわからなかったことが見えてくる。それを観る観客は俯瞰して火葬場にいる彼らを見られる立場。だからこそ、共感も出来、笑えることもある。旅行から帰ってきた野々村の息子、訳ありの様子の保険会社の女性社員、普通に過ごせるはずの火葬場でちょっとした小々波が起きる。ざわつく人々、それを見る死んだ二人。
亡くなった人、残された人、火葬場は現世とあの世の交差点、そこで働く人々、斎場の管理人は淡々と業務をこなす。途中で先の二人の衣装が焦げてしまう。ビジュアル的には、ここは笑えるところだが、よくよく考えると肉体がなくなってしまったことになる。面白おかしく、やがて哀しき。通夜、告別式、その後は火葬場へ。経験したことがあれば分かるが、意外と慌ただしく過ぎていく。待合室で火葬されるのを待つ、そして呼ばれて骨を拾う、箸でつまんで骨壷に入れる。管理人は判で押したように決まり文句を言う。骨の説明、順番に入れていく。斎場で働く人にとっては日常で、クールに作業を進めるが、残された遺族にとっては非日常、このコントラスト、これが現実。
湿っぽい感じはなく、むしろカラッとした笑いと心温まる展開。ユーモアあふれるストーリー、人の生死を優しいタッチで笑い飛ばす。最後に偶然に同じ火葬場に居合わせた二つの家族、記念写真を撮ろうということになる。すったもんだの展開であったが、桜の木をバックにパチリ。後ろには死装束ではない二人の姿が・・・・・・もちろんその姿は観客にしか見えない。笑顔、桜は満開。パッと咲いてパッと散る、人生のようである。フランスでは桜の花言葉は「私を忘れないで」だそうである。「Ne m’oubliez pas」、そんな言葉を連想させるエンディング。毎日、どこかの火葬場で誰かが故人を見送っている、昨今の火葬場は煙は出ないし、煙草も吸えないが気分は「煙が目にしみる」。
【公演データ】
加藤健一事務所vol.102「煙が目にしみる」
日程:2018年5月3日(木・祝)~13日(日)
会場: 本多劇場
日程:2018年6月23日(土)
会場:埼玉県 所沢市民文化センター ミューズ マーキーホール
日程:2018年6月29日(金)・30日(土)
会場:東京都 大田区民プラザ 大ホール
日程:2018年7月1日(日)
会場:兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
日程:2018年7月4日(水)
会場: 亀戸文化センター カメリアホール
日程:2018年7月7日(土)・8日(日)
会場: 能登演劇堂
原案:鈴置洋孝
脚本・演出:堤泰之
出演:加藤健一、山本郁子、天宮良 /加藤忍、伊東由美子、佐伯太輔、菊地美香、、伊原農、久留飛雄己、吉田芽吹、照屋実 /新井康弘
公式サイト:http://katoken.la.coocan.jp/
撮影:石川純
文:Hiromi Koh