《インタビュー》 『冬の時代』 渋六役:須賀貴匡

2020年3月、東京芸術劇場シアターウエストにて、木下順二氏の戯曲『冬の時代』が上演される。大逆事件(1910年)以降約5年間は社会主義運動の「冬の時代」と呼ばれ、この時期、堺利彦は「売文社」をおこし、荒畑寒村と大杉栄は、雑誌「近代思想」を発行し、言葉によって世の中を動かそうと尽力し、社会運動だけではなく文化運動にも力を注いできた。
この『冬の時代』には堺利彦や大杉栄、荒畑寒村、伊藤野枝など実在の人物が名前を変えて登場。
大正デモクラシーの波の中、彼らは考え、葛藤し、そして行動する。若い彼らは、社会とも自身とも闘い、生きる実感を手にしていくのだが、奔放な恋愛感、人生感をも行動で示し議論し、芸術や哲学への思いを積み重ねていく物語。
劇団民藝での初演は1964年、東京オリンピックの年。2度目の東京オリンピックを迎える2020年にこの物語を上演する意義、意味。
今の日本も、彼らが生きた「冬の時代」と同様、閉塞感が日に日に増しているように感じている人々は多いように思われる。
その現在に生きる私たちは、登場人物の人生の結末をすでに知っている、だからこそ、彼らの力いっぱい生きた姿から学び伝えるべきことがある、そうではないかと。
表現者として主張し闘い続けた彼らの姿を見つめ直すことで、現代社会へ問いかけ、未来へとつなげたい作品、この物語のメインキャラクターである堺利彦がモデルの渋六役を演じる須賀貴匡さんに役のことや作品について語っていただいた。

 

「演劇的構造としても、これだけ個性豊かな人物が一同に集まる人間模様を描いている点など魅力的ですね」

――今回のオファーを受けたときの感想は?

須賀:「冬の時代」は今、現代を生きている僕らにはなかなか難しい文体で書かれているなというのと、その中で起こっている歴史的背景がについて、恥ずかしながら知識としてが浅かったので、最初は読み進めていくことに抵抗があったというのが正直なところです。このタイプの演劇は未経験だったので、“これはたいへんなことだぞ”というのが率直な感想でしたね。
――セリフが非常に多いこと、登場人物は実在の人物をモデルにしているのが特徴ですね。

須賀:議論に議論を重ねていく内容ですよね。登場人物それぞれに思想がありでもある程度同じ方向を向いている。演劇的構造としても、これだけの個性豊かな人物が一同に集まる人間模様を描いている点など魅力的ですね。

――渋六が議論を戦わせているシーンなどは、読んでいてどんな感想でしょうか。

須賀:それぞれ個性的なキャラクターとして描かれているのはもちろんなのですが、年齢がそれぞれバラバラで、いわゆる若さゆえの暴走だとか、そういったものも組み込まれていると思います。それを組織として一つにしていく渋六は、演劇で言う演出家と同じようなポジションですよね。それに、現代では「歴史的フレームアップであった」と言われている大逆事件の後ですから、自分の主義を主張することで命の危険がおよぶこともあるわけですよね。なので、「発言する責任」のようなものは現代のものとはだいぶ違った意味になってくると思います。

「現代は言いたいことを言える環境がある分、表現の制約や自己規制などがあり自由ではなくなってきている。そういう時代だからこそやる意義が、そしてこの作品がもたらす影響は大きいのではないかと思います。」

――主人公の渋六が立ち上げた会社は現在でいう「メディア」や「マスコミ」にあたります。

須賀:台本を読んでいて、渋六は立場の割に過激というよりはむしろ寛容な人物のように受け取れました。それぞれの意見を尊重しているという点では。

――当時は政治的な発言をすると、後々自分の身の上にたいへんなことが起こる時代ではありますよね。その割には言いたい放題ですが……。

須賀:面と向かって舌戦を繰り広げられるということは、きっと人間としての誇りや痛みが含まれているのだということを理解しながら、向き合っているんだなと思いますね。

『冬の時代』の登場人物たちは人に対しての愛があるからこそ異なる思想を議論できるのではないかな、とも思います。

――現代に置き換えるとSNSに似ているような。

須賀:今は顔の見えないところで炎上したりしていますから、そこに責任はあまりなくなっていると感じます。ルールがなくなってきているので、面と向かって対話するということの意味合いも違ってくるのかなと思います。また、現代は言いたいことを言える環境がある分、表現の制約や自己規制などがあり自由ではなくなってきている。そういう時代だからこそやる意義が、そしてこの作品がもたらす影響は大きいのではないかと思います。

――この作品での議論は、言葉尻を捉えたものではなく、それぞれの考えに踏み込んで話し合っていますよね。

須賀:そういう部分も今はなかなか難しいですよね。人間関係の摩擦を嫌ったり、そもそも人間関係が希薄になってきている。表面上の激しさに目が行きがちですけれど、『冬の時代』の登場人物たちは人に対しての愛があるからこそ異なる思想を議論できるのではないかな、とも思います。それぞれの考えをリスペクトしているとも言えます。

――共演の方の印象はいかがでしたか?

須賀:池田努さん、青柳尊哉さんとは10月に一緒に二人芝居を三組でやっていました。その他の方々は初めての共演です。いろいろなフィールドで演じられてきた俳優さんばかりなので、どんな演技を魅せてくれるのかが楽しみですし、いただけるところもたくさんあると思います。それに一人ひとりとても個性が強いですよね。

――劇場に足を運ぼうかなと考えている人へメッセージを!

須賀:100年以上前の日本で、
議論を交わしながらも社会と向き合って懸命に生きてきた人たちがいた、ということを観ているお客様にどう感じていただけるか、とても楽しみです。何かしらの思いを持ち帰っていただけると思います。精進して舞台を作り上げていきたいと考えています。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしております。

<あらすじ>
舞台は、大逆事件(1910年)の後、渋六が設立した、代筆や文章代行を行う「売文社」の一室。
あちこちから、忍術の本や広告作成などの依頼が次々と届いている。楽天家の渋六社長のもとには、
ショーやノギ、不敬漢、デブ、文学士ら多士済々の社員が集まっている。激動する社会、飄風の恋愛事件…。
雑誌「新社会」の旗上げ宣言を奥方が読み上げて…。未来へと行動し続ける若き表現者たちを力強く描く物語。

【公演概要】
公演タイトル:unrato#6『冬の時代』
日程:2020年3月20日(金)~3月29日(日)
会場:東京芸術劇場 シアターウエスト(住所: 東京都豊島区西池袋1丁目8−1)
<出演>
須賀貴匡・宮崎秋人/壮一帆/青柳尊哉・池田努・若林時英・結城洋平・山下雷舞・溝口悟光・戸塚世那/
小林春世・佐藤蛍/井上裕朗・羽子田洋子・青山達三
<スタッフ>
作:木下順二
演出:大河内直子
美術:石原敬
照明:大島祐夫
音響:早川毅
衣裳:小林巨和
音楽:阿部海太郎
舞台監督:齋藤英明
制作:筒井未来
プロデューサー:田窪桜子 西田知佳
企画・製作:unrato(アン・ラト)
主催:アイオーン/ぴあ
入場料:全席指定6,800円/学生(当日引換)3,800円/高校生以下(当日引換)2,800円
お問い合わせ:unrato@ae-on.co.jp
公式HP: http://ae-on.co.jp/unrato/
取材:Hiromi Koh
構成協力:佐藤たかし