「あずみ~戦国編~」の幕が開いた。紆余曲折があったが、まずは一言「よかった」と。
『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて1994年から2008年にかけて連載、「第1部・完」となり、単行本は全48巻(小学館ビッグコミックス)。それから幕末を舞台にした続編『AZUMI』が同誌にて2014年まで連載された。
江戸幕府初期、泰平の世を作り上げるため、内乱の芽を摘む暗殺集団の一人として「爺」(小幡月斎)に育てられた少女・あずみの戦いと苦悩を描く。戦国から泰平の世へと移りゆく中で不要とされた武人たちの不満が描かれている、硬派な作品だ。1997年度第1回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞のほか、1998年には第43回(平成9年度)小学館漫画賞青年一般部門を受賞している。
2003年と2005年と2度映画化され、上戸彩が「あずみ」を演じ、舞台版では 2005 年黒木メイサが明治座で最年少座長の記録を作っている。2016 年には川栄李奈主演で上演され、絶賛のうちに幕を閉じた。
そして今回、今泉佑唯が四代目としてまた新たな「あずみ」に挑戦する。
舞台は換気のために、舞台後方が開放されており、外の景色が丸見え状態。これから舞台上で起こる物語とは全くかけ離れた現実の光景だ。この現実の光景が開演5分前にはカーテンが降ろされ、通常の開演前の状態になる。
時間になり、始まる、音楽、これから起こる物語を予感させる。ツケの音、カーテン前に飛猿(味方良介、高橋龍輝Wキャスト。観劇したのは高橋龍輝)。カーテンに映像が、昔の錦絵のようなタッチ、飛猿が物語の歴史的背景を説明する。関ヶ原の戦いが終わり、徳川家康が征夷大将軍に任ぜられ、江戸時代が始まる。そして幕が上がり、舞台上は、『物語の時間軸』に変貌していた。「誰だ!!!」「貴様!!!」と怒号がとぶ。刀を交える大勢の武士たち。舞台後方に僧侶が立っている「戦に勝る悲劇はない」と。赤子の泣く声、戦争で親を失った赤子、一人の男がその赤子を受け取る。再び、ツケの音、「悲劇の幕は切って落とされた」と。
若者たちが華麗な刀さばきを見せ、斬って斬って・・・・・。「我らは使命を果たすために生まれてきた」と晴れ晴れとした表情で言う。これが正義、真実と信じて疑わない、まっすぐな声。4人の若者、その中に少女もいた。「徳川の世を安泰にするために!」と言い放つ。そして加藤清正の首を・・・・・・ところが・・・・・影武者だった。
そしてオープニング、タイトルロール、先ほどの少女はあずみ(今泉佑唯)、この物語のヒロインだ。少女であるが、剣の腕前は誰よりも達者だ。そして彼女と一緒に育った若者たち、うきは(瀬戸利樹)、ひゅうが(河合健太郎)、あまぎ(濱田和馬)、彼らを育て、剣を教えたのは小畑月斎(山本亨)。「この世を泰平に導くことが使命なのだ」と4人に言って聞かせる。
そんなおり、大坂城では・・・・・・淀の方(有森也実)は怒りに燃えていた。なぜなら、先の関ヶ原の戦いで多くの武将が死んだ。そして徳川の世になった。「大坂で決着をつけたい」と言う。そばには加藤清正(久保田創)、清正の家臣である井上勘兵衛(吉田智則)。飛猿は井上勘兵衛が放った忍び、あずみたちを見張っていたのであった。あずみたちは手強い敵、井上勘兵衛はある男を呼び寄せていた、彼の名は最上美女丸(小松準弥)、不思議な色香を放つその男は人を斬ることが生き甲斐であった・・・・・・。
時は慶長20年、西暦では1615年、歴史の授業でも習っている通り、『大坂夏の陣』、これからどうなるのかは先刻承知であるが、それでも事の成り行きを見つめてしまう。この物語での豊臣秀頼(神永圭佑)は戦にも政治にも興味がなく、花や虫を愛でる、綺麗なものが好き、というキャラクター。実際にはどうだったかというのは謎に包まれているが、秀吉が溺愛した秀頼、家康はそのカリスマ性を恐れていたと言われている。そしてまだ、日本国内の情勢は安泰とは言えなかった時代、虚構の人物と史実の人物が混在し、史実に基づくところもありつつ、のフィクション。これがこの作品の面白さであろう。そしてあずみたちは大坂城に入りこむことができた。そこでこともあろうに秀頼はあずみに恋してしまうのであった。
あずみに魅了されてしまう秀頼、井上勘兵衛もまた、あずみの瞳に吸い込まれてしまう。そして幼い時からあずみと苦楽をともにしたうきは、彼は単なる幼馴染を超えて一人の女性としてあずみを愛するようになる、そしてあずみは・・・・・うきはの言葉「どこで命を落とすかわからない、でもあずみが覚えてくれるなら、オレは怖くない」、あずみの心は揺れ動く。また秀頼の優しい眼差しにも安らぎを覚えてしまう。16歳のあずみ、これは恋なのかなんなのか、わからない不思議な気持ちに襲われる・・・・・・。そんなあずみに淀の方はたたでさえ、秀頼が戦さに興味がないことに苛立っていたのでさらに機嫌が悪くなり、暴言を吐く。
しかし、時代は容赦なくあずみを、人々を飲み込んでいき、そして運命の時が・・・・・。
時代が大きく変わる時、社会不安が起こる。この時代しかり、幕末もまた、社会不安が起こり、多くの戦いがあり、人々の不安が大きくなっていった。そんな社会の空気を背景にあずみたちは懸命に生きている。そしてあずみの心の変化、敵を斬って倒すことこそが正しい道であり、それが世の中のためになる、と信じてきた。それはあずみとともに成長したうきはたちとて同じこと。しかし、成長するにしたがっていろんな景色が見えてくる。これは本当に正義なのか?自分はなんのために生きるのか、と。うきはは”あずみのために”哀しい末路をたどる。秀頼がどうなったかはほとんどの日本人は大河ドラマなどで知っているが、この作品で描かれている秀頼の心境の変化、ここも見逃せない。花と昆虫に夢中になって他のことには無関心だった一人の青年の心の成長、最期は哀しいかもしれないが、あずみを知り、愛したことは彼にとっては一筋の光、感涙の場面。また、淀の方、表面的にはエキセントリックでヒール役に見える。立場故に命令したり、怒りに任せた発言もするが、見方を変えれば、彼女もまた、時代の犠牲になり、寂しい女性。そんな姿は哀愁を感じさせる。
斬って斬って斬りまくり、しかも過酷な運命、ハードなシーンが多いが、ところどころにちょっとした”お笑い”もはさみ込む。アドリブもあり、時事ネタも飛び出し、客席から笑いが起こる(加藤清正役の久保田創のアドリブ瞬発力が!)。また、カカシを「加藤清正!」とあずみたちがいう下りも客席から思わず笑い声が。映像演出も過剰にならず、ストーリーを明快に見せる役割を果たす。燃え盛る大坂城、疾走する風景、花、ススキの風景など、作品世界をビジュアル的にわかりやすくする。また飛猿がストーリーテラーの役割を担うが、あちこちに出没するキャラクターゆえに適任。
公演が一部、なくなってしまい、多くの公演が中止になっている昨今、今泉佑唯、瀬戸利樹ら若い俳優陣の奮闘、そしてベテラン勢の渋い、そして緩急つけての演技の巧さ、主に殺陣で活躍するアンサンブルの面々、裏で支えるスタッフ。舞台への熱い思い、そして物語の人物を全力で生き切る。東京は29日まで、大阪公演は4月4、5日。またDVDの発売も決定、予約販売のみとなる。詳しくは(URL:http://rup-shop.com)。
<物語>
時に慶長五年、関ヶ原・・・。合戦の傷跡も生々しいこの地に、赤子の泣き声が響き渡っていた。生きる術を持たぬその子を拾い上げたのは、「枝打ち」という密命を負った 小畑月斎。
そして十年後、月斎の育て上げたあずみ、うきはは、仲間と共に豊臣恩顧の大名を次々と暗殺してゆく。
加藤清正の重臣井上勘兵衛、またその忍びの頭・飛猿はいち早く味方の大名を狙う刺客の存在に気が付く。
大坂城では、味方の大名を次々に暗殺され淀の方が怒り狂っていた。これから家康と天下をかけて戦おうというこの時に、総大将たる豊臣秀頼は、戦いにまったく興味を示そうとしない。
天下を再び手中に収めるには、なんとしてもあずみを討ち取らなくてはならない。
刺客には刺客を・・・。あずみを斬るために勘兵衛は、人を斬ることだけが生き甲斐という一人の手練れ最上美女丸を呼び寄せる。
なぜ、オレは人を斬らなければいけないのか・・・。 初めて感じた、人を斬るということへの恐怖。 己に課せられた過酷な運命に翻弄されながらも、次々と人を斬っていくあずみ。 数々の出会いと死別・・・。そしてついに始まる戦。そのとき、あずみの選んだ道は・・・? あずみが己の使命の果てに見いだしたものとは・・・?
【概要】
<東京公演>
日程:2020年3月20日(金)~3月29日(日)
会場:Bunkamura シアターコクーン
<大阪公演>
日程:2020年4月4日(土)・5日(日)
会場:COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホール
原作:小山ゆう(「あずみ」小学館刊)
構成・演出:岡村俊一
潤色:渡辺和徳
出演:今泉佑唯、瀬戸利樹、味方良介、高橋龍輝、神永圭佑、小松準弥、吉田智則、久保田創、河合健太郎、富岡晃一郎、松本有樹純、濱田和馬、久道成光、桑畑亨成、江浦優大、河本祐貴、藤栄史哉、宮川康裕、大岩剣也、尾形歩南、詩織、清家利一、清家大雅、山本亨、有森也実
公式HP:http://rup.co.jp/azumi_sengoku_2020.html
文:Hiromi Koh