2013年から毎年“Jazz meets Classic”というタイトルで、様々なアーティストと小曽根真のコラボレーションによる公演を東京文化会館にて開催していたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から一部内容を変更。今回の目玉は、ピアノ協奏曲「もがみ」。この作品は、故・井上ひさし氏が、 2003年に山形で開催された国民文化祭のために依頼して誕生した、小曽根真の作曲によるピアノ協奏曲。 最終楽章の終盤に登場する合唱パートを、新型コロナウイルス感染拡大防止のためハモンドオルガンに変更するなど、 当初の作曲から一部を改訂したスペシャルバージョン。
また、今回指揮を務める太田弦と小曽根は3月末、山形県総合文化芸術館の開館記念コンサートで今回演奏する2曲を山形交響楽団と共演する予定であったが、リハーサル中に公演の中止が決定。想定外の状況下で、まるで必然であったかのように2人の運命が重なり、今回この公演が実現した。
演目は、当初はベートーヴェン:ピアノ、合唱と管弦楽のための幻想曲(合唱幻想曲)op.80と小曽根真:ピアノ協奏曲「もがみ」であったが、これをモーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K488と小曽根真:ピアノ協奏曲「もがみ」に変更。
ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K488はK491(第24番ハ短調)とともに、1786年に3回開かれたモーツァルト自身の音楽会のために作曲されたもの。第1楽章はアレグロ、イ長調、4分の4拍子、協奏風ソナタ形式。一言でいえば軽快で明るい。オーケストラが提示した主題をピアノが繰り返すが、ピアノの音色が心地よい。第2楽章は、嬰ヘ短調、メランコリック、そして第3楽章は、それとは一転して明るい。ピアノによる軽快な主題で始まる。ここではクラリネットが大活躍、この音色が柔らかく、ラストのアクセントに。
休憩を挟んでピアノ協奏曲「もがみ」。その名の通り最上川をモチーフにして作られた作品。2003年に小曽根真が完成させ、同年10月4日『第18回国民文化祭・やまがた』の開会式において小曽根自身のピアノと指揮により初演。開会式のプロデューサーである井上ひさし氏から2000年に依頼されて小曽根が作曲した3楽章からなる協奏曲である。初演は大成功を収め、以降繰り返し演奏され続けている。
第1楽章は、冒頭はピアノのソロから始まる。それからだんだんと大きな川を連想させるようにダイナミックに、景色が浮かんでくる。日本らしい音階のメロディ、民謡のようなフレーズを思わせるモチーフ、楽器も拍子木を使って祭りのような雰囲気も醸し出す。その中に、JAZZらしいテイストも感じる。
第2楽章は、冒頭はクラリネット、オーボエ、ファゴットの三重奏。全体として東北の冬の厳しさ、暮らしを感じさせる。東北の人々の生活の歴史に想いをはせる。大ヒットドラマ「おしん」はまさに山形が舞台。船に乗っておしんが両親と別れる有名なシーンは最上川。そんな情景が浮かぶような第2楽章。
第3楽章は一転して明るくアップテンポ。冬が過ぎ去り、春がやってきたかのような雰囲気だ。木々は芽吹き、日差しは暖かく、動物たちは活動を始める、そんなエネルギーに満ち溢れているが、それはJAZZが持つエネルギーとパッションに通じるものがある。そして本来なら終盤で合唱が入るのだが、今回はここを亡き父、小曽根実が愛用していたハモンドオルガンで代奏する。明るい希望に満ちて、エンディングとなる。
万雷の拍手、スタンディング・オベーション。本来なら「ブラボー!」の声がかかるところだが、時節柄大きな声が出せないためプラカードで「ブラボー!」と掲げる来場者も。贅沢な時間、クオリティの高い演奏。JAZZピアニストらしい、情熱的で洗練された、まさに「イケてる」空気感。しかし、決して軽いものではなく、大きなテーマ性を内包した楽曲「もがみ」。大きな感動に包まれた会場、暗い、不安なニュースばかりが続いているが、明けない夜はない、と観客に思わせた至福の時間であった。
<公演概要>
[日程・会場]
2020年7月25日(土)17:00開演 会場:東京文化会館 大ホール
2020年7月26日(日)15:00開演 会場:オリンパスホール八王子
[出演]
ピアノ:小曽根真
指揮:太田弦
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
[主催等]
主催:東京都/公益財団法人東京都歴史文化財団 東京文化会館・アーツカウンシル東京
共催:公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団(26日 オリンパスホール八王子公演のみ)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
[お問合せ]
東京文化会館 事業係 03-3828-2111(代表)
[公演詳細情報]
25日 東京文化会館公演
https://www.t-bunka.jp/stage/4767/
26日 オリンパスホール八王子公演
https://www.t-bunka.jp/stage/4768/
写真提供:東京文化会館
撮影:ヒダキトモコ
文:高 浩美