凰稀かなめ主演 音楽劇『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~が開幕する。
世界的に有名なアレクサンドル・デュマ・ペールの小説「モンテ・クリスト伯」(日本では「巌窟王」の題名で知られている)は エドモン・ダンテスがモンテ・クリスト伯として、裏切りの果てに壮大な復讐劇を展開していくのは有名、翻案化、映画化、舞台化も数多く、近年ではフランク・ワイルドホーンの手によるミュージカルがある(2009年初演。日本では2013年、主演は石丸幹二)今回の作品は、作家・デュマが愛した最初の女性・カトリーヌが描く愛憎の果ての復讐劇。劇中劇でありながら、小説世界を舞台に描き、そしてデュマ自身を追い詰める復讐劇と変わっていく。
史実では、デュマは隣人で縫製業を営むカトリーヌ・ラベ―を誘惑して、翌年私生児を産ませたが、その私生児はのちの小デュマ(「椿姫」で有名)。その後、大デュマは次々と女性に手を出し、1831年にはベル・クレイサメールとの間に女児マリー=アレクサンドリーヌをもうけた。また1840年には女優イダ・フェリエと結婚してフィレンツェに住んだという。
主演の凰稀かなめは宝塚歌劇団在団中に主演としてモンテ・クリスト伯を演じたが、ここではカトリーヌとメルセデスの2役に挑戦する。カトリーヌはアレクサンドル・デュマ・ペールの最初の女性、メルセデスは小説の中に登場する主人公の婚約者。しかもメルセデスはこともあろうにフェルナンと結婚、このフェルナンこそが、主人公を陥れた張本人であり、メルセデスは彼の従姉妹であった。
雨の音、これから始まる物語を予感させる。デュマの史実、女性に次々と手を出す、女癖が悪い男であるが、世界的な作家。そんな彼が大復讐劇を執筆、しかし、ここではそれはカトリーヌである、という大胆な設定。舞台は原作の“「モンテ・クリスト伯」軸”と“カトリーヌ軸”を行きつ戻りつ進行する。この舞台の面白さは配役の妙。主演の凰稀かなめがカトリーヌとメルセデスの2役を演じ分けているのを筆頭に、渡辺大輔はエドモン・ダンテス(モンテ・クリスト伯)とフィス(小デュマ)の2役を演じ、川崎麻世はアレクサンドル・デュマ・ベールとエドモン・ダンテスを助けるファリア司祭、富田麻帆はマリーとエデ姫を、松浦雅はイダとヴァランティーヌ、といった具合だ。これが演劇的なトリックともいうべきところで、キャラクターを演じ分けるところも見どころとなっている。またキャラクターの個性、バックボーンがしっかりとしているので、ここは原作者のパワー。
メルセデスと婚約し、そのパーティの最中に捕まり、投獄されるエドモン・ダンテス。従妹のメルセデスに恋し、ダンテスを恋敵として憎んでいたフェルナン(伊藤裕一)。ダンテスを妬んでいた会計士・ダングラール(村田洋二郎)にそそのかされて、虚偽の密告状を提出しダンテスを逮捕させた。その後、祖国や恩人を次々と裏切り、陸軍中将にまで出世、さらに貴族院議員の地位を手に入れ、メルセデスをエドモンから奪い、彼女との間に息子・アルベール(千田京平)をもうける。成金貴族と見下されることがあるために傲慢な振る舞いをしている。
マルセイユの検事代理であるジェラール・ド・ヴィルフォール(廣瀬智紀)もまた、出世欲の塊。ダンテスが無実とわかっていながら、彼の持っていた手紙が自身の失脚に繋がることを恐れ、保身のために手紙を隠滅、ダンテスを政治犯として投獄する。ダンテスは獄中でファリア神父(川崎麻世)に出逢い、そこで3人が自分を陥れた張本人であると知り、彼らに対して緻密な復讐劇を行う。
1幕のラストでエドモンは叫ぶ、「悪魔と罵られようと後悔はしません!」そして2幕目では脱獄したエドモン、モンテ・クリスト伯と名乗り、じわじわと3人を追い詰めていく。しかし、フェルナンと結婚したメルセデスはモンテクリスト伯を一目見た時から、モンテ・クリスト伯=エドモン・ダンテスと気づく。そして息子・アルベールは優雅でクールなモンテ・クリスト伯に惚れ込んでしまうのだった。
今、巷を賑わせているTVドラマ「半沢直樹」ではないが、知略の限りを尽くしたエドモン・ダンテスの『倍返し』(いや、3倍返しかも)、それと呼応するようなカトリーヌの復讐劇、この二重奏が作品の真骨頂。そしてビジュアル的スパイスが十碧れいや演じるヴェルツッチオ(モンテクリスト伯の家令)。男役らしい洗練された所作、銃を構える姿が美しい。
カトリーヌを演じる時は不意にミステリアスな微笑みを浮かべ、空中に羽ペンを走らせる。そしてメルセデスの時は最初は愛する人との婚約に素直に喜びを表し、2幕からは愛する人が生きて現れ、自分の置かれた立場に悩み、傷つく、凰稀かなめが好演。ミュージカルなどの出演が多い渡辺大輔、立ち姿と歌唱はこれからさらに活躍してくれるであろうことを予感させる頼もしさ、川崎麻世の貫禄、多彩に活動する伊藤裕一の芝居巧者ぶりなど、俳優陣も充実。ダンサー陣の群舞で雰囲気を盛り上げる。映像演出も過剰にならず、物語を彩る。マリーを語り部的な立ち位置にして、物語の輪郭をはっきりさせる。また、ストレートプレイにせず、音楽劇にしたことによって明治座という大きな舞台での作品にふさわしい華やかさが加わった。こういったところは演出・西田大輔の手腕が光る。また、振付は良知真次、宝塚歌劇団などの大きな舞台でも振付のスタッフとして経験、洗練された動きが光る。
3幕では、この復讐劇は?どうなるのか?原作は世界的に知られているので、ここは言うまでもないが、カトリーヌはこの物語を描き終えたら?愛と憎しみと嫉妬、人間の欲と業、普遍的なテーマ。世界的にヒットした原作の力、どんな手法をとっても観る人の心を打つ。なお、メインキャストからコメントも到着!
[凰稀かなめさん⦅カトリーヌ/メルセデス⦆]
今回は、色んなことでお稽古の中断があったり、マスク・フェイスシールドを付けて芝居稽古をしたりと普段とは違う状況下でした。満足出来るお稽古が出来なかったので すが、「幕が開く」「ここまで来れた!」という嬉しさが湧いてきております。 お稽古を重ねる度に「絶対に観て頂きたい」という気持ちもありますが、このような大変な時期に、「ぜひ」ということも言えないのが悔しいです。 感染対策をしてお待ちしておりますので、日々の疲れを少しでも忘れて頂ける空間を感じて頂けたら嬉しいです。
[渡辺大輔さん⦅エドモン・ダンテス(モンテ・クリスト伯)/フィス⦆]
まず、このような状況の中、幕を開けるためにご尽力下さった全ての皆様へ感謝の気持ちでいっぱいです。
今回共演が叶わなくなってしまった素敵な役者の方々もいらっしゃいますが、また笑顔で再会、共演できる日を心から楽しみにしています。
そして観劇に来て下さる皆様、この度は有り難うございます。
自分達カンパニーも、しっかりと対策をし3密を避けソーシャルディスタンスを守り
ながら素敵な作品を皆様へお届けしたいと思っていますので、楽しんでご覧頂け
たら幸いです。
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【キャスト配役】
凰稀かなめ ⦅カトリーヌ/メルセデス⦆
渡辺大輔 ⦅エドモン・ダンテス(モンテ・クリスト伯)/フィス⦆
伊藤裕一 ⦅フェルナン⦆
廣瀬智紀 ⦅ヴィルフォール⦆
村田洋二郎⦅ダングラール⦆
富田麻帆 ⦅マリー/エデ姫⦆
松浦雅 ⦅イダ/ヴァランティーヌ⦆
千田京平 ⦅アルベール⦆
伊藤孝太郎⦅マクシミリアン⦆
十碧れいや ⦅イリアス/ヴェルツッチオ⦆
岩崎良祐 ⦅ヴァンパ⦆
川﨑麻世 ⦅デュマ/ファリア司祭⦆
<概要>
『モンテ・クリスト伯』~黒き将軍とカトリーヌ~
日程・会場:2020 年8月18日(火) ~ 8月23日(日) 全12公演 明治座
作・演出:西田大輔
主演:凰稀かなめ
出演:渡辺大輔/伊藤裕一 廣瀬智紀 村田洋二郎/富田麻帆 松浦雅 千田京平 十碧れいや 岩崎良祐 伊藤孝太郎/川﨑麻世
主催:モンテ・クリスト伯制作委員会
『モンテ・クリスト伯』公式サイト http://kaname.style/monte_cristo20/
『モンテ・クリスト伯』公式 Twitter @Monte_Cristo20
©モンテ・クリスト伯制作委員会
取材・文:高 浩美