ナンセンス演劇の極北として、奇抜な設定と展開で、演劇界のみならずドラマ・映画業界内にもファンが多い脚本家・演出家のブルー&スカイの作・演出による新作演劇公演。業績の悪化している下町の町工場と、その町工場の融資担当の銀行員が、会社再建のためにあれこれ頑張る、だけどまともな人間は一人も登場しないので、終始何を物語っているのかよくわからない、デタラメで混沌としたコメディ。もう『不要不急』の代表のような内容(笑)、そこが面白いところ。
見るからに”経営がやばそうな”工場。従業員の会話「本当なんです」「おしまいだ」、そこへ経営者が「お疲れ様!」と元気よく。このGAP、思わずくすくす笑いが客席から起こる。銀行員が2名訪れる、融資の回収に、だ。
細かい笑いを随所に挟み込んで進行する。この細かい”笑いのネタ”、客席から時節柄『控えめな笑い』が頻繁に起こる。町工場の従業員に経営者ファミリー、スナックのママ、銀行員、誰一人としてちゃんとしたことは言わず、おかしな発言、一瞬「?」、そして笑い。この”細かい笑い”の連続で、工場は持ち直すのか、ということよりも一人一人のキャラクターの動向と発言に”期待”してしまう。神秘の石、どんな願いも叶う力、もう怪しさ満点。
ふと通販の新聞記事広告で”不思議な力の腕輪とかあったっけ”など、そんな記憶が脳裏をよぎる。観客として、このドラマを見ると冷静に”この人たち、おかしい”と思うのだが、普通に暮らしている中で、”些細なおかしいこと”は案外あったりするし、それを不思議に思わなかったりする。内田理央がなかなかなコメディセンスを発揮して、コミカルに可愛らしく演じているのが印象的。タイトルの「星の数ほど星に願いを」、だから人は「どんな願いも叶う神秘の石」に飛びつく。シニカルでカオス、じわじわとくせになりそうな、そんな笑いに満ちた作品だ。
<あらすじ>
物語の舞台となるのは町工場・高見沢製作所。 かつては、河原で拾ってきた石ころを「どんな願いも叶う神秘の石」としてインチキ占い師たちに売りつけることにより財をなしていた工場なのだが、悪質な霊感商法の評判もすっかり広まり、インチキ占い師も激減、銀行からの融資も絶え、資金繰りに窮する毎日。 そんな中、銀行から融資の回収の命を受けて高見沢製作所にやってくる銀行員のナナ(内田理央)。彼女は工場の看板商品「神秘の石」が本当に「どんな願いも叶う力」を持てば工場の業績が回復するだろうから、がんばって石の品質を向上してほしいと無茶苦茶な要求を突きつける。 工場の誰一人として石の力などもともと信じていない中、ナナの作戦は功を奏するのか……。
<公演概要>
タイトル:『星の数ほど星に願いを』
日程・会場:8/27~9/6 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
作・演出:ブルー&スカイ
出演:内田理央 田村健太郎 安澤千草 吉増裕士 師岡広明 水野小論 神谷圭介 ・ 大堀こういち
企画・製作・主催 プラグマックス&エンタテインメント S・D・P サンライズプロモーション東京
公式HP:https://www.hoshinokazu.com/
公式ツイッター:https://twitter.com/intent/user?screen_name=hoshinokazu2020
文:高 浩美
撮影:引地信彦