劇団青年座 第243回公演『ブルーストッキングの女たち』 ”自由に生きたい”、”自由に生きる”

『ブルーストッキングの女たち』は、青鞜社を舞台に、らいてう(平塚らいてう)、市子(神近市子)、紅吉(尾竹紅吉)、保子(堀保子)、野枝(伊藤野枝)、松井須磨子、ミツ(辻美津)たち女の芝居として描いている。女たちは「冬の時代」と言われる中でも、真っすぐに社会と向き合いながら、女としての生き方を追求。その激しさ、潔さこそが今を生きる女優たちを魅了する。 野枝・田上唯、らいてう・遠藤好、紅吉・世奈、市子・小暮智美、保子・森脇由紀。 青年座の次代を担うこの女優達が劇の骨格をなす5人の役を担う。
1911年、日本初の女性文芸誌「青鞜」が創刊。翌年、これに刺激を受けた伊藤野枝が、平塚らいてうを慕って九州から上京したことから物語は始まる。「青鞜」にいたく感銘を受けた伊藤野枝はいてもたってもいられずに上京、「その方に会いに行くんです!」と高らかに。「青鞜」では伊藤野枝の投書を読み、興味を抱いていた。個性的な面々、平塚らいてう、神近市子、尾竹紅吉、その女性達の名前は一度は聞いたことがあるだろう。基本的には文芸誌の編集部、原稿を書いたり、取りに行ったり、「青鞜」の日常、「原稿!!!」と元気よく入ってきたマント姿の女性、尾竹紅吉。ワチャワチャと賑やかにやり取り。そこへ伊藤野枝が入ってくる。自由で威勢の良い雰囲気、「夢みたい」と伊藤野枝。時は大正時代、大正デモクラシー、政治・社会・文化の各方面における民本主義の発展、自由主義的な運動、風潮、思潮の総称であり、その風潮に影響されているとは思うが、”自由に生きたい”と思う若い女性達が集まって持ち前の行動力で何かを動かし、何かをしたいというエネルギーに満ちている。その中に自ら飛び込んだ伊藤野枝もまた、行動力の塊だ。

物語は1911年から甘粕事件まで、ジェットコースターのような人生。大逆事件をまぬがれた荒畑寒村、無政府主義の大杉栄らが出入りしていた「青鞜」編集部、そこで野枝は彼らに出会う。恋愛、大杉栄は自由恋愛を標榜、市子がいるにもかかわらず、野枝に恋愛感情を抱く。イプセン「人形の家」の劇中劇が挿入される。夫ヘルメルの理不尽な仕打ちに子供をおいて一人家をでるノラの物語は「青鞜社」を取り巻く人々に強い共感を呼んだのは想像に難くない。この劇が前ぶれのように野枝は辻潤と別れ、大杉と野枝は一緒に。市子は葉山の日陰茶屋で仕事をしていた大杉の元へ現れ、一緒に死んでくれと刃物をかざす。
波乱万丈な生涯を生きた伊藤野枝であるが、この物語に登場する人物全てが波乱万丈、この物語で描かれていない部分もまた興味深い。パンフレットによると宮本研は「男が限りなくやさしかった時代」と言っている。意外と家庭的な大杉、野枝が忘れられない辻、らいてうと一緒になった年下の奥村博、皆、性根は優しい。
肩肘張って、というよりはしなやかに自由に生きた人々という印象が強い。舞台は後方にアシメントリーな三角のオブジェが自由でいて、どこか不安定な時代の空気を醸し出し、机や椅子は俳優陣が動かす。音楽も多彩で、特にスパニッシュ音楽が印象的、パッションがほとばしる。時折、語り部のように登場人物が語る。今から、100年ちょっと前に生きた人々の息遣い、もしかしたら、今を生きる我々よりも彼女達の方が自由かもしれない。

<キャスト>
らいてう=遠藤好
市子=小暮智美
紅吉=世奈
保子(大杉栄の妻)=森脇由紀
ミツ(辻潤の母親)=津田真澄
野枝=田上唯
松井須磨子/ノラ=坂寄奈津伎
島村抱月/森憲兵曹長=五十嵐明
辻潤=松田周
荒畑寒村=桜木信介
奥村博/当番兵=古谷陸
大杉栄=石母田史朗
甘粕憲兵大尉/ヘルメル=小豆畑雅一
尾行警官=佐藤祐四
メゾン鴻巣の女給/日蔭茶屋の女中お源/リンデ夫人=万善香織
魔子/女中=橋本菜摘
<物語>
「原始、女性は実に太陽であった」
1911年明治44年
平塚らいてうの創刊の辞を掲げ 女性だけの文芸誌「青鞜」は立ち上がった
翌1912年大正元年ものがたりは野枝がらいてうを慕い九州から上京、青鞜社を訪ねてきたところから始まる。
ここには女性の解放と自由を求める「新しい女性たち」が集った。
彼女たちはそれぞれの信念に従いその生を激しく燃焼させた
―――相寄る二つの魂 桜の花が散り急ぐ中、野枝は無政府主義者大杉栄のもとに走った。
貧乏と官憲に監視される日々それでも二人の生活は充実していた。
そんな折、甘粕憲兵大尉から呼び出しがかかった―――

<公演概要>
日程・会場:2020年9月26日(土)~10月4日(日) 東京芸術劇場シアターウエスト
原作:宮本研
演出:齊藤理恵子
美術:根来美咲
照明:鷲崎淳一郎
音楽:寺田鉄生
音響:長野朋美
衣裳:小泉美都
舞台監督:尾花真
製作:森正敏
宣伝美術:早田二郎
石膏像写真:脇本壮二(石膏像ドットコム)
青年座 HP=http://seinenza.com
撮影:坂本正郁
文:高 浩美