cube 20th Presents Japanese Musical「戯伝写楽 2018」

 江戸時代に生きた謎の浮世絵師、写楽。約10か月の短い期間に役者絵その他の作品を版行したのち、忽然と画業を絶って姿を消した。そのミステリアスな写楽に関して様々な研究がなされてきた。有力な説は能役者である斎藤十郎兵衛であったとされているが、もちろん、あくまでも【説】である。

 しかし、まさに天才に相応しい大胆かつユニークな作品群と、活動期間が1年に満たない等、不明な点が多く、だからこそ、想像力をかきたてられる存在、ラジオドラマから小説、テレビドラマに研究本、映画、演劇等、いわゆる“人気コンテンツ”として多展開されているのである。

 

 この作品、初演は2010年、「写楽は女だった…?!」という大胆な着想、喜多川歌麿、葛飾北斎、十返舎一九、太田南畝(別号・蜀山人)らも登場、写楽を軸に江戸時代を熱く生きたクリエイター達の生き様を描く。この2018年版は装いも新たに、演出を河原雅彦、作詞を森雪之丞が担当し、まったく新しい”日本産ミュージカル”『戯伝写楽 2018』を創造する。

 幕開き、風の音、客席のドアから斎藤十郎兵衛(橋本さとし)登場、舞台に上がり、おせい(中川翔子)とのデュエット、それから全ての登場人物が勢揃いする、華やかな出だし。時代は寛政、ちょうど松平定信が「寛政の改革」を行っていたが、その前は商人を重視した田沼意次の政治であった。また江戸の街は最盛期は100万都市だったそうであるから、例えば1801年のロンドンが86万人と言われているので、世界有数の都市だったことがうかがえる。

 

 喜多川歌麿(小西遼生)、当時の人気浮世絵師、派手な身なり、歌麿に描かれた女性はたちまち江戸中に広まり、さしずめ「メディア」、よって多くの自称美人が歌麿に群がったとしても不思議ではない。そんな江戸の街で斎藤十郎兵衛は楽しそうに絵を描いている若い女性・おせいに出会う。その天才的な絵に心奪われる斎藤十郎兵衛、彼はあることを思いつくのであった。

 

 ポップでチャッチーな楽曲、ダンスも“和”ではなく“洋”、着物でターンしたり、タンゴを踊ったりと、これがかなり似合っている。舞台転換もスムーズでスピード感もある。舞台には多くの浮世絵が掲げられており、これが物語の世界観をハッキリと示す。写楽、「写すことが楽しい」と書く。おせいは描きたいものが描ければそれでいい、絵描きの申し子のような存在で無垢であるが、一種の狂気をはらんでいる。一方の斎藤十郎兵衛、己の才能に限界を感じていたところに圧倒的な天才が出現、その絵を世に出すことにやりがいのようなものを見つける。彼の周囲にいるクセのある面々、今でいうところのプロデューサー、蔦屋 重三郎(村井國夫)、朋誠堂喜三二、山東京 伝らの黄表紙・洒落本、喜多川歌麿や東洲斎写楽の浮世絵などの出版で知られる、いわゆる版元である。「蔦重」ともいわれる。狂歌名を蔦唐丸(つたのからまる)と号し、歌麿とともに吉原連に属していた。寛政の改革で彼の洒落本が摘発され、財産の半分が没収されてしまうが、このエピソードは劇中にも登場する。面倒見がよく、人の才を見抜くことに長けていたとも言われていた。また、若き日の葛飾北斎である鉄蔵(山崎樹範)、まだ世に出ていない十返舎一九、こと与七(栗山航:東山義久とのWキャスト)、太田南畝(吉野圭吾)等そんな多士済々なキャラクターが舞台上でおせいの画力に翻弄される。そして野心、恋、疑い等が渦を巻く。出てくる登場人物、見せ場も多く設けられており、わかりやすく感情移入もしやすい。当代随一の花魁・浮雲(壮 一帆)、はでやかな風貌だがミステリアス、彼女の存在はこの物語のカギとなる。

 

 一幕の冒頭で歌われる曲「夢合わせ」、“ありのままに写しとりたい”と歌う。美しいものもそうでないものも写し取る、そこには真実がある。2幕のラスト近くにこの歌の意味がわかるようになっていくが、ここは圧巻で、「全てはこのためにあったのか」とも感じさせてくれる。ラストは怒濤のような展開から一転して穏やかな印象。スピリットは未来につながる、ちょっと温かな幕切れ、キャストが芸達者揃い。終われば大きな拍手、初演から8年の間があいたそうだが、もっと頻繁にやってもいいんじゃないかと思わせてくれる国産ミュージカルであった。

 

<ストーリー>
江戸、阿波国蜂須賀家お抱えの能役者・斎藤十郎兵衛は、ある日、町中の喧嘩の最中、その様子を夢中に絵に書き留める女・おせいと出会う。おせいの絵は、普通の美人画や大首絵とは異なり、人物の内面までをえぐり出し、時に醜さまで浮き彫りにしてしまうような、非凡なる筆力を持っていた。
時は、喜多川歌麿、葛飾北斎、十返舎一九、太田南畝など、才能豊かな絵師、文人が江戸の町で、競い合うように描き夢を追い、。蔦屋重三郎を始めとする版元達は、大衆が求める作品を自分の版元で売り出そうと、様々な策を巡らせていた頃。
能役者が本業の十郎兵衛は絵を書きながらも芽は出ず、非凡なる才を持つおせいと偶然に出会い、ある大儲けの策を思いつく。絵を描くことさえ出来ればそれでいいおせいは、その提案を快諾する。様々な人々が生き生きと才能と野心と恋の花を咲かせ、その只中、彗星のごとく登場し駆け抜けていった”東洲斎写楽”とは、一体誰だったのか、独創的な着想で展開してゆく。

 

【公演データ】

cube 20th Presents Japanese Musical「戯伝写楽 2018」

<日程・会場>

期間:2018年1月12日~1月28日

会場:芸術劇場 プレイハウス (東京)

 

期間:2018年2月3・4日

会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール

 

期間:2018年2月7日

会場:日本特殊陶業市民会館 (名古屋)

 

期間:2018年2月10日~2月12日

会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

 

作:中島かずき

作詞:森雪之丞

音楽:立川智也

演出:河原雅彦

出演:

橋本さとし、中川翔子、小西遼生、壮一帆、東山義久(Wキャスト)、栗山航(Wキャスト)、山崎樹範、吉野圭吾、村井國夫  ほか

 

公式サイト:https://sharaku2018.amebaownd.com

 

文:Hiromi Koh

撮影:桜井隆幸