もののふシリーズ最終章『駆けはやぶさ ひと大和』

 2015年に上演された『もののふ白き虎』は白虎隊の隊士たちの青春と生き様を描いた熱い物語であった。この作品の反響を受けて「もののふシリーズ」と題し、2作目は新撰組なき後の齋藤一をメインにした『瞑るおおかみ黒き鴨』を2016年に上演した。そしてシリーズの最終章は『駆けはやぶさ ひと大和』、新撰組が集い、夢を追いかけ走り出した日々から時代のうねりに巻き込まれ、終焉へと向う様を描いている。メインキャラクターは中島登、剣は苦手、絵を描くのは好き、という人物になっている。史実では1864年に新撰組に入隊しており、『戦友絵姿』や『中島登覚え書』等を残している。

 

 物語の出だしはピアノの音色、ロマン溢れる楽曲でだんだんとクレッシェンドになる。スポットライトの脇で中島登(花村想太)が絵を描いている。齋藤一(青木玄徳)がやってくる。「今日は特別な日です」と中島が言う。酒を飲む男達、想いを馳せる。明治時代、幕末から明治維新にかけての動乱がひとまず落ち着いたタイミング、桂小五郎(中村亀鶴)もやってくる。そして時間が遡る。オープニングは殺陣・アクション、楽曲が流れる。透き通るような高い歌声が響き渡る。そして時代は幕末、新撰組のおなじみの顔ぶれ、幕府が彼らを召し抱える、新しい者が新撰組に入る、意気揚々とした空気感。1863年、新撰組の前身は壬生浪士組、八月十八日の警備に出動し、その働きが評価されて新撰組を拝命、彼らの絶頂期であった。この作品のテーマも「集団は始まりが頂点」、彼らの眼前に広がるのは夢、そして希望であった。ちなみに近藤勇は武蔵国多摩群上石原村(現:東京都調布市)の百姓の三男として生まれた。土方蔵三もまた武蔵国多摩群石田村(現:東京都日野市)の豪農の10人兄弟の末っ子であった。ストーリーは中島の回想という形で進行する。

 

 第二次長州征伐に赴く新撰組、しかし、長州は薩摩藩の協力で最新の武器を揃えており、かなり手強い相手、また幕府も弱体化していったタイミング、その後、新撰組がどうなっていったのか、もはや説明不要だ。

 物語は隊士たちの生き様と死に様にフューチャー、2幕は、そんな新撰組の末路、殺陣、アクションシーンが続く。生きることに懸命で己の正義を信じる姿、それは倒幕側も幕府側も同じこと。死んでも守りたい正義がある、夢がある。そんな男達の姿は涙なしでは語れない。スピード感と心揺さぶられる情感、自らを鼓舞しながら突き進んでいく。結末は小説や大河ドラマでわかっていても、ドキドキ。桜の花のように華やかに咲き、鮮やかに散っていく。心に刺さる台詞や歌詞も多く、ロマン溢れる作品に仕上がった。ラスト近く、実際に中島登が描いた絵がスクリーンに映し出される。どんな想いで描いたのか、生き残った自分が出来る戦友への供養なのか、多少デッサンの狂いもあるが、それを凌駕するような熱い想いが透けて見える。

 主演の中島登演じる花村想太が、新撰組隊士でありながら剣術苦手な、ちょっと弱腰のキャラクターをチャーミングに演じていて好感が持てる。テーマソングの作詞・歌唱もつとめているが、伸びやかな歌声と音域の広さで魅了。昨年の『ちるらん』では土方蔵三を演じていたのは記憶に新しいところ。ベテランの的場浩司が近藤勇役で芝居全体を引き締め、殺陣、アクションでも大活躍。第1弾から出演の青木玄徳の齋藤一役は、すっかり板について安定感も抜群。荒木宏文もまた第1弾から土方蔵三役、貫禄もあって当たり役になっていた。中村亀鶴演じる桂小五郎、口跡も良く流石な貫禄、演出も彼の出番は歌舞伎チックで粋な計らいでファンサービス。

 美しくも疾走感あふれ、ダイナミックかつ華やかな殺陣とアクションは演出家・西田大輔の手腕が光る。また、ドラマ性を強調した脚本は観客の涙を誘う。幕末の志士たちの「もののふシリーズ」、ラストにふさわしい作品に仕上がった。

 ゲネプロ前に簡単な挨拶があった。

 

 主演の花村想太は「めちゃくちゃ気合が入ってます!」とコメント、榎本武揚役の久保田秀敏は墓参りしたそうで「恥じないように!」と語る。山本涼介は「人より長い刀を使うのでそれが決まれば……」、殺陣ではその長い刀で大活躍!杉江大志は「命より大事なものを持っていることが伝われば」とコメント、演じる役は市村鉄之助、14歳で入隊した若者らしく初々しさを全面に出して良い感じ。健人はシンプルに「最後迄せいいっぱい!」と挨拶。近藤頌利の役は伊藤博文、日本初の総理大臣であるが、この時代は、まだまだ若造、「まだまだ発展途上」と役についてコメント。青木玄徳は「一発目から観てる人もこれだけの人も楽しめるように!」と語る。荒木宏文は大きな声で「一生懸命、頑張ります!」と言い周囲の笑いを取って場をなごませた。中村亀鶴は「(この芝居が)生きていく糧になって頂ければ」とコメント。激動の時代に生きた男達の生き様と死に様は一瞬、スパークし、観る者のハートを鷲掴みする。的場浩司は「来た人に何かを残せれば。若い人達に引っぱってもらって頑張ります」と語ったが、ベテランらしい演技で流石。最後に演出の西田大輔は「並々ならぬ想いで創りました。仲間達が愛らしい人間像を創ってくれた。もっともっと観たいと思えるような作品に」と語り、挨拶はここまで。フォトセッションは終始和やかでカンパニーの結束力を感じた。

 

【公演データ】

もののふシリーズ最終章『駆けはやぶさ ひと大和』

東京

期間:2018年2月8日(木)~18日(日)

会場:天王洲 銀河劇場

 

大阪

期間:2月24日(土)~25日(日)

会場:森ノ宮ピロティホール

 

作・演出:西田大輔

出演:花村想太/久保田秀敏、山本涼介、杉江大志、健人、近藤頌利、林田航平/中村亀鶴/青木玄徳、荒木宏文/的場浩司  他

 

主催・製作:東映/テレビ朝日/エイベックス・エンタテインメント
大阪公演 主催:キョードー大阪

公式サイト:http://www.mononofu-stage.com
公式twitter:
https://twitter.com/mononofu_St

 

文:Hiromi Koh