パルコプロデュース 横山拓也の秀作『目頭を押さえた』6月4日より上演

第65回岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされるなど、演劇界で注目が集まる劇作家=横山拓也。鋭い観察眼と綿密な取材を元に、人間や題材を多面的に捉える作劇を心掛け、立場や事情の異なる人の葛藤を、関西弁のテンポと笑いを交えた論理的な思考による会話劇に仕立てる。他人の口論をエンタテインメントに仕上げるセリフ劇や、ある社会問題を架空の土地の文化や因習に置き換えて人間ドラマとして立ち上げる作品を発表している。

横山作品の魅力の一つは、切り取られた日常のシーンのなかに立ち現れる人間のさまざまな感情の鮮やかさ。生身の人間の生きたセリフの数々で、ユーモアを交えて人間の葛藤が丁寧に描かれる中で、ふとした瞬間の言葉の端々にLIFE(生活⇔人生)の本質がにじみハッとさせられる。登場人物の持つ感情が普遍性をもって観客の心に迫ってくる。それからやってくる静かな感慨、心にじわりと染み込む。

つい先ごろ、公演が終了した「逢いにいくの、雨だけど」を拝見した。モノトーンのシンプルなセットだが、不思議と無機質な感じはしない。むしろ、どこか大きく包み込まれているような印象。物語の発端、ほんの些細な出来事(事故)で男の子の片方の目が失明してしまった。無論、ニュースになるほどの大きな事故ではない。そのことが何年もの間、心の中のわだかまりとなっている。それぞれの心の機微、こういった感情に蓋をしてしまって心を押し殺す人もいるかもしれない。作品は明快な答えは提示しない。だからこそ、観客は考える、加害者、被害者、許すこと、そして翻って観客はやがて気がつく、これは日常なのだと。

[「逢いにいくの、雨だけど」より]

6月公演の「目頭を押さえた」は、伝統的に林業を生業としてきた関西圏の山間のとある集落を舞台に、写真家としての才能を開花させていく高校3年生の遼と、その仲良しの従姉妹で同級生の修子の二人を軸に、その家族や教師たちの人間模様を描いた作品。2012年の初演以来、横山拓也が主宰する劇団、iakuでも繰り返し上演されている。伝統と新しいもの、田舎と都会、平凡と非凡、死と生といった正反対の価値観が混在する中で、その間(あわい)を揺れ動く人物たちの葛藤に胸を揺さぶられる、真摯な人間ドラマ。

パルコは2020年に初タッグとしてオンラインプロジェクト「PARCO STAGE@ONLINE」にて、プロジェクト初のオンライン演劇「仮面夫婦の鑑」を制作。将来的には渋谷のPARCO劇場での公演を見据えつつ、今回の公演では、東京芸術劇場シアターイーストにて、初のプロデュース公演に挑む。

<公演概要>
日程:2021年6月4日(金)~7月4日(日)
※7月 サンケイホールブリーゼにて大阪公演あり
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
スタッフ:作:横山拓也  演出: 寺十吾
出演:筒井あやめ(乃木坂46) 秋田汐梨/林翔太/枝元萌  橋爪未萠里 大西由馬/山中崇 梶原善
企画製作:パルコ
公式WEBサイト:https://stage.parco.jp/
舞台撮影:木村洋一