演出 石丸さち子 談話も到着! ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』真実の愛、哀しみが心を強くする。

ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』が開幕した。コミックファン多数、ミュージカル化の発表から、注目度の高かった作品だ。

拝見したのは初日の翌日、ユリアはMay’n、トキは小野田龍之介、シンは植原卓也、レイは伊礼彼方、ジュウザを上原理生、ラオウは福井晶一、リンは山﨑玲奈、という布陣。物語はラオウ昇天まで。
パワフルな序曲、重厚なコーラス、地球は核戦争によって文明と人々の秩序が失われ、争いが繰り返されている、という設定。この物語の主要な3人、ラオウ、トキ、ケンシロウ、リュウケンの養子、彼らは兄弟。この兄弟の関係性やそれぞれの考え方をスピード感を持ってみせる。リュウケンは北斗神拳伝承者にケンシロウを指名する。ラオウは叫ぶ「ケンシロウごときが継承者ならば、もう北斗に用はない!」と言い放つ。「俺は全てをこの手に握る!」「この世に覇者は俺、ひとりだ」、これはラオウの信念であり、プライドであり、正義であり、使命と思う。ケンシロウは北斗神拳伝承者となったものの、若く経験が浅い、心優しく、情にもろく、しかも自覚がない。だが、この先に彼の身に降りかかる様々な試練によって成長していく。

原作を知っているなら、展開も先刻承知であるが、原作に触れてない観客にもわかりやすく物語を提示。「20xx年」の文字が浮かび上がる、地響き、人々が次々と倒れる、炎に包まれる、人々は逃げまどい、苦しむ。心優しいケンシロウ、トキ。ケンシロウの許嫁であるユリア、この絶望に満ちた世界を、できることならどうにかしたいと願う。トキとケンシロウは手をとりあう、「いつか、また会おう」とトキ。それからタイトルロール。ユリアはケンシロウを励ます「あなたならできる」と。ここではユリアは芯の強い女性として描かれている。ところが「力が正義」と言い放つかつての親友、南斗聖拳の伝承者シンによって七つの傷を胸に刻まれ、許嫁のユリアを奪われる。ユリアはこれ以上、ケンシロウが苦しむのを見たくないが為にシンに「愛している」と心にもないことを言うが、このセリフは見ている方も心がキリキリと痛む。その真意がわかっているケンシロウもそれ以上に心が引き裂かれる想いをする。

一人になったケンシロウだが、様々な人々と出会い、そのたびに彼の心情が変化していく。哀しみにくれているだけでは何も変わらない。少年・バット(渡邉 蒼)、純真で正義感の強いリン(山﨑玲奈)、村の人々、出会いと別れを繰り返す。そのたびにケンシロウは、ただの心優しい青年から、リーダーとなる自覚が少しずつであるが、ふつふつと生まれてくる。その過程は観客の心を鷲掴みにする。また、このミュージカルでは民衆の姿がしっかり描かれている。荒れ果てた世界、人々が次々と倒れる、炎に包まれる、人々は逃げまどう、搾取される、殴られる。こういった民衆のシーンは原作よりも色濃く描かれており、それが物語の輪郭をはっきりとさせる。

それを見る、ケンシロウ、人々の哀しみが、彼の心に積もっていく、それが彼の血となり肉となり、エネルギーとなる。また、彼のすぐ上の兄であるトキもまた、心優しく慈愛に満ちた人物、己の死期が近いことを知っており、ケンシロウに「お前に託すしかない」と言い、他者のために渾身の力を振り絞る場面はもう涙無くしては見られない。またユリアの揺るぎない愛、彼女は受け身の女性ではない。ケンシロウとともに歩むことは苦難の道のりであることを知っており、それを自ら選び取っている。シンに「ドレスも宝石もいらない」と言い放つところはユリアというキャラクターの真骨頂と言えるだろう。また、2幕で彼女の歌う楽曲はパワフル、フランク・ワイルドホーンのメロディが冴え渡る。また1幕の後半で堂々たるラオウが登場!ラスボスぶり!見るからに強そう、手強そう、ケンシロウに立ちはだかるキャラクター、圧倒的な存在感!力こそが正義と信じる。一方のトキは「恐怖に安らぎはない」と歌う。そして休憩を挟んでの2幕目は、戦いに次ぐ戦い、そしてクライマックスは、言うまでもなく!


また、原作を知っているなら、また、繰り返し読んで読んで読みまくった、という”北斗の拳”ファンなら、あのシーンは?あの戦いは?名セリフは?と思うことだろう。もちろん劇画のごとく、というわけではないが、脳内で劇画の場面が思い浮かぶ。ケンシロウの前に次々と現れるキャラ立ちした登場人物たち。ワイヤーアクションを要所要所で使い、高さのある日生劇場をフルに使って表現する。また映像も駆使し、劇画通りではなく、劇画のイメージを演劇的に表現、とでも言うのだろうか、「北斗の拳」の世界が舞台いっぱいに広がる。ここは見てのお楽しみ。もちろん、「あたたたたた〜」「お前はもう死んでいる」はお約束。ここもどう表現しているかは劇場で確かめてほしい。特筆すべきは、キャストとクリエイターの熱量。ケンシロウ役の大貫勇輔はもちろん、拳、そしてキック一つ一つに魂が込められている。

ただただ、身体能力を駆使しただけでは、単なるアクロバットになってしまう。気持ちと魂を入れて、のアクション。かっこいいだけではなく、瞬間にドラマがある。ラストのラオウとケンシロウの対決は、もう体一つで表現。パンチが実にドラマチック、そこからのラストのラオウのセリフ「我が生涯にいっぺんの悔いもなし」に連なっていく。
「『北斗の拳』がミュージカル?!よくわからないんだけど」と思っているなら、まずは劇場でその目で確かめて欲しい。そこにはケンシロウが、トキが、ラオウが、シンがリュウケンが、名もなき生きとしいける人々が、登場人物全員がそこに生きている。

<「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」演出 石丸さち子談話>
この作品では、他者のために戦う潔さと美しさが全編で描かれています。自らの使命を知り、愛のため世界のために戦う人を描くことに私自身胸のすく思いを覚えています。
主人公のケンシロウは、最初は北斗神拳伝承者としての自覚がない人物として描かれています。素質はあるけれど、まだ開花してはいない。核戦争後の人々が求める救世主のような存在になるには、広い視野で世界が見えていなければならないけれど、目の前のものを愛し守ることしかできない存在でした。様々な人と出会い、彼らの痛みや哀しみを知る中でリーダーとしての自覚が生まれ、大きな視野が育っていきます。他者の哀しみが自らの中に積もっていき、胸にある7つの傷の疼きが彼に救世主としての宿命を気づかせ、最終的には哀しみを背負った者のみが成しうるとされる究極奥義「無想転生」に到達します。戦いのエネルギーとなるのが他者の哀しみであることが、今の時代が求めるヒーロー像として魅力的です。
舞台上には俳優たちの活力やエネルギーが溢れています。映像と異なり超人的な技が使えない中、ファンの皆様に愛されてきた登場人物の戦いが演劇的にどのように表現されているのか、劇場でお楽しみいただきたいと思っています。原作の世界観を体現するために大変な体力、精神力を俳優たちは要求されています。ドラマを追求する一方、俳優陣は稽古期間中に筋トレに励んでどんどん筋肉も成長中。混乱の時代を生きる人間を演じるために、人気キャラクターを体現するために、心身共にどんどんたくましくなっていく姿をとても頼もしく思っています。卓越した身体能力を誇る大貫さんならではのダンスでの表現も見どころですし、アクション・プランナーの渥美博さんとは、拳の一つ一つにドラマを織り込んで来ました。台詞表現と同じくらい、拳の応酬で心情を表現できるかが大きな課題でした。
ユリアは原作では慈母の如く、男性にとって理想とされる女性として描かれていると思いますが、この作品でのユリアの楽曲は、歌詞もメロディーも、強い女性でなければ表現できないものです。『氷と炎』という楽曲では、「氷と炎のように戦う二人の男/その狭間で/私が成すべき何か/それを見つけ出したい/この時代を拓く何かを」と歌います。
原作ファンが思い描くユリア像の期待に応えつつも、ユリアが自分で自分の人生を選び取る現代的な女性、女性が共感できる存在となるよう作っています。

この作品を魅力を問われるなら。
こんなに愛や戦うことにエネルギーが溢れている芝居は他にないのではないかと思います。原作ファンの方々の、「あの名シーンやあの名セリフをどんなふうにやるんだろう」という期待にはできる限り様々な試みで応えますし、人間が生き生きとしていて戦う人が美しい。ダンス、ワイヤーアクション、映像や照明の美しさ、“肉”と“肉”で戦う潔さなど、演劇の醍醐味に溢れるシーンが、もう全部盛りで、飽きる瞬間はないと思います。原作ではあまり見られなかった核戦争後の時代を生き抜いた庶民の姿も丁寧に描きました。彼らの歌も素晴らしいんです。主要な登場人物だけではなく、名もなき人々もまた美しい。アンサンブルたちの八面六臂の活躍があってこそです。ここに描かれるのは、自らを傷めても、光を未来に繋げようとする人たち。未来の子供達の世代、その先の世代を考えて戦う人たち。そういう人間に出会いにくい世の中だからこそ、この芝居の美しさが今、胸に響くと思います。
そしてフランク・ワイルドホーンさんの音楽がもちろん素晴らしいです。コロナ禍でブロードウェイが閉じている時にハワイに移り、大自然のエネルギーに突き動かされて一気に楽曲を書き上げられたと聞いています。この作品がグランドミュージカルとして高いクオリティに達することができると信じていますので、音楽の力に是非ご期待いただきたいと思います。(談)

<概要>
日程 会場:
2021年12月8日(水)~12月29日(水) 日生劇場
2022年1月8日(土)・9日(日)梅田芸術劇場メインホール
2022年1月15日(土)・16日(日) 愛知県芸術劇場 大ホール
[スタッフ]
原作:漫画「北斗の拳」(原作:武論尊 漫画:原 哲夫)
音楽:フランク・ワイルドホーン
演出:石丸さち子
脚本・作詞:高橋亜子
振付:辻本知彦 顔安(ヤン・アン) ※辻本の「辻」はしんにょうの点ひとつが正式表記
協力:株式会社コアミックス
主催:ホリプロ/博報堂DYメディアパートナーズ/染空间 Ranspace/イープラス
企画制作:ホリプロ
[キャスト]
ケンシロウ:大貫勇輔
ユリア:平原綾香・May’n(Wキャスト)
トキ:加藤和樹・小野田龍之介(Wキャスト)
シン:植原卓也・上田堪大(Wキャスト)
リュウケン他:川口竜也
トウ・トヨ:白羽ゆり
マミヤ:松原凜子
レイ/ジュウザ:伊礼彼方・上原理生(交互で役替わり)
ラオウ:福井晶一・宮尾俊太郎(Wキャスト)
バット:渡邉 蒼
リン:山﨑玲奈・近藤 華(Wキャスト)
リハク 他:中山昇
青年ラオウ 他:一色洋平
ライガ 他:後藤晋彦
フウガ 他:田極翼
青年トキ 他:百名ヒロキ
ダグル 他:宮河愛一郎
ミスミ 他:安福毅
飯作雄太郎
岩瀬光世
輝生かなで
坂口杏奈
澄人
内木克洋
中野高志
原広実
妃白ゆあ
福田えり
藤田宏樹
LEI‘OH
大竹 尚      ※ダグルはオリジナルキャラクター

公式HP=https://horipro-stage.jp/stage/musical_fons2021
特設HP=https://www.hokuto-no-ken-musical.com
公式Twitter= https://twitter.com/musical_fons

(C)武論尊・原哲夫/コアミックス 1983 版権許諾証GS-111