フクシノブキ(福士申樹)主演,山崎銀之丞etc.共演CEDAR Produce vol.8『群盗』 演出 松森 望宏 インタビュー

CEDARでは、2018年に『群盗』を上演。今回はコロナ禍に揺れる時代に直面した我々人間の生きる意味を問う硬派な作品として『群盗』をリニューアルして12月18日より上演する。
『群盗』は、フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲第1作。1781年に完成し、匿名で自費出版、翌年にマインハイム国民劇場にて初演、観客の熱烈な支持、この作品でシラーは有名になるが、この後、祖国に出奔、亡命生活を送ることになる。この作品を演出する松森望宏さんに上演に際しての思いや作品のテーマなどについて語っていただいた。

――夏に『ブリキの太鼓』も上演なさいましたが、今回、シラーの戯曲『群盗』を上演しようと思った理由をお聞かせください。来年は他のカンパニーでも『群盗』の上演が決まっており、また、先ごろ、シラーの『ドン・カルロス』も上演されました。シラー戯曲の魅力なども合わせてお願いいたします。

松森:CEDARでは2018年に一度このシラーの『群盗』を上演させていただいております。その当時はCEDARというユニットを作ってから間もなかったので、とにかく若者が魅力的に見える作品を上演したいという思いで取り組みました。しかし、いまはその時と社会情勢も変わりコロナなしでは語れない時代。そんななかこの『群盗』を再演するにあたり、より抑圧され、どうにもできない感情をピックアップしてみたいと思い再演させていただくことにしました。
およそ240年前に書かれたこの戯曲は、当時18歳のシラーが牧師や医師になりたかった自分の意に反して軍事学校に領主から強引に入学させられ、悔しい思いのなか社会の圧力への怒りから勢いで執筆した作品です。この作品の中には青春自体に体験するすべての感情が詰め込まれています。恋愛・嫉妬・友情・憎悪・理想の英雄を追いかける姿や支配力や権力欲。そのどれもが若く瑞々しい爆発寸前の感情で、強いエネルギーをもって描かれています。青春時代に負った傷は大人になるための成長痛。正しく生きる考えを持つためには誰しも避けては通れない痛みなんだろうと思います。登場人物たちのその痛みを、恥じることなく必死に生きる姿が描かれているこの作品に、僕は惹かれているんだろうと思います。
抑圧された社会の中で声高に叫んだシラー。彼が一番熱望していたのは自由の獲得だろうと思っています。後年、ドイツはナチスの台頭で、民主的に選ばれたヒトラーが独裁を進めるという自由のはき違えをしてしまいます。民衆たちはヒトラーのカリスマ性に自由を感じ、大戦で凌辱された自分たちを慰めるように独裁に加担していきます。自由の獲得は、決して孤独からの解放ではありません。自由を叫び続けることは、より孤独に突き進むことだと思います。ですから人は自由の獲得がとても難しい。その孤独に耐えられないから人は誰かと支えあって生きているものなんだろうと思います。『群盗』は人が真の自由の獲得の難しさと美しさを語っています。今作ではその意思を受け継ぎ、精神的真の自由とは何なのかを考えてみたいと思っています。

カール役:フクシノブキ(福士申樹)

――シラーの第1作目の戯曲『群盗』、台本も拝見したしました。聖書に出てくる「放蕩息子」の宗教的なテーマもありますが、主人公は追放されるも邪悪な弟に陥れられたことに気づいた時には自身も、悪の道に足を踏み入れ、後戻りできない状況に陥ります。正義と悪に揺れ動く主人公の葛藤や人間模様が見どころだと思いますが、今回は、そこをどのように見せていきますか?

松森:『群盗』はノーカットで上演すると、おそらく5時間以上に及ぶ大作です。シラー自身も言っていたことですが、この戯曲はレーゼドラマ(注)として書かれており、上演を目的とするつもりはなかったそうです。シラーが物語を残すには小説よりも戯曲を選んだのは、戯曲形式のほうが人間の感情の爆発を表現できるからだそうです。
今回の上演では原作を大幅にカットして2時間の上演時間で駆け抜けようと思っています。「放蕩息子」に代表されるように、この戯曲はキリスト教的観念が多大に詰め込まれています。しかし今回はこの宗教的なエッセンスを極力カットしました。その分人間ドラマにフォーカスをあて、神学的な「正義と悪」よりもより人間的に揺れ動く様を描いていくつもりです。修飾された美麗なセリフは極力なくし、より普遍的な葛藤を激突させていきたいと思っています。
乱高下する状況に振り回される主人公カール。知らずに悪の道に手を染め、群盗団を結成してしまいます。カールの求めた英雄としての人生は自分が作った集団により強盗殺戮集団となり、後戻りできない状況に陥ります。それでも常に正しく生きたいと思う葛藤の痛みは、人がより善く生きるためにはどうしたらいいのかを教えてくれます。失敗することは悪いことではない、むしろ失敗しないと気が付けないことはたくさんあります。若者の成長物語は、現代の僕たちみんなに当てはまるストレスフルな精神的な病みをえぐり、そして癒してくれる、そんな物語になるんだろうと思います。

フランツ役:桧山征翔

――稽古も佳境に入っていると思います。稽古の状況、またキャストさんの魅力などお願いいたします。

松森:正直いうと、稽古は大変です(笑)。当時シラーが描きたかったことをより膨らませ、現代にも通じる普遍的な話に解釈を変更している部分が多々あるためです。台本も5時間の作品を2時間に凝縮している分、すべてのシーンで強烈なエネルギーを蓄えていないと乗り切れない作品になっています。それに付き合ってもらうキャストの皆さんは本当に大変だと思っています。主演カールのフクシノブキ(福士申樹)さんは振り回される状況を丁寧に積み上げていってくれています。カールの父親役の山崎銀之丞さんは重厚な存在感で場を圧倒してくださいます。僕もこの作品を演出することは、演出家としての成長痛だと思い、シラーの言葉に必死に食らいついていきたいと思っています

マクシミリアン・フォン・モーア:山崎銀之丞

――シラーの戯曲の“初心者”向けにメッセージを。

松森:およそ240年前にドイツで書かれたいわゆる古典演劇になりますが、とても分かりやすくそしてドラマチックなエンターテイメントに仕上げて上演させていただきたいと思っております。とにかくわかりやすい作品作りを目指していますので古典劇だからと身構えず、気楽な気持ちで劇場に足をお運びいただけたらと思います。数百年残り続けた作品は、そこに必ず共感できることや生きるヒントが詰め込まれています。その部分を大切に、そして躍動感あふれる作品にしようと思っておりますので、ぜひご来場いただければ嬉しいです。2021年12月18日より赤坂レッドシアターにて上演いたします。おたのしみに。

――ありがとうございました。公演を楽しみにしています。

注:レーゼドラマ(Lesedrama)は、上演を目的とせず、読まれることを目的に書かれた、脚本形式の文学作品のことを指す。別名はブーフドラマ(Buchdrama)。

<あらすじ>
舞台は 18 世紀のドイツ。
フランケンの領主モーア伯爵の長男カールは、それまでの放蕩生活を悔いて父に謝罪の 手紙を送る。しかし家督の相続を狙う冷血な弟フランツはカールから届いた手紙を握りつぶし、かわりに父の返信を捏造し、兄カールに偽りの内容を送ってしまう。これは父の意に 反する絶縁を告げる偽の手紙であった。
カールは手紙を読み絶望し、仲間のシュピーゲルベルクにかどわかされて革命軍の結成 に加わり、 そのリーダーに選ばれる。カールは曲がった世界を正そうと、無血革命の集団 を結成したつもりであった。しかし、カールの及ばぬところで革命の意志は綻び、集団は強 盗・殺人と悪事の限りを尽くしていく。
一方フランツは、カールの恋敵であったヘルマンと共謀して、父モーア伯爵に兄カール がとある戦争で戦死したというニセの報告をする。父モーア伯はショックのあまり気絶し、 フランツの策略に気づくがなすすべなく塔の中に幽閉さてしまう。フランツの目的は、家督 の相続・アマーリアとの結婚。カールが手にするすべてのものを自分のものとすることであ った。
その後カールは父の死の知らせを受け、悪事を繰り返す集団と自分の信念の間に揺れ動く。父の墓参と故郷にいる恋人アマーリアに再会するため帰郷を決意し、一団は大群となってカールの故郷・フランケンへと帰ってゆくのであった。
殺人集団のリーダーであるカールは罪悪感から身元を隠し実家に潜入。そこで発覚した のは弟フランツの悪行の数々であった。カールはフランツに復讐を決意し、この宿命に決着 をつけようと決意するのだが…。

<概要>
日程・会場:2021年12月18日〜12月26日 全14ステージ 赤坂 RED/THEATER
出演:
フクシノブキ(福士申樹) カール
高崎かなみ アマーリア・フォン・エーデルライヒ
桧山征翔 フランツ
岸本勇太 シュピーゲルベルク
渡邉 響 ヘルマン
林田一高 神父/牧師モーゼル(2役)
今井 聡 ダニエル
中嶋海央 シュヴァイツァー
村松洸希 ラツマン
山中啓伍 シュヴァルツ
溝口雄大 シュフテレ
中西雷人 ローラー
山崎銀之丞 マクシミリアン・フォン・モーア
作:フリードリヒ・フォン・シラー
翻訳:大川珠季
演出:松森望宏
公式HP:https://www.cedar-produce.com
公式ツイッター:https://twitter.com/cedar_engeki
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/cedar.0725/

取材:高 浩美