扉座40周年記念公演 『ホテルカリフォルニア -私戯曲 県立厚木高校物語-』演劇との偶然の出会い、笑いと、そしてちょっぴり甘じょっぱいリアル青春物語。

扉座が旗揚げして40年、これを記念しての公演『ホテルカリフォルニア -私戯曲 県立厚木高校物語-』が紀伊国屋ホールで上演中だ。出演者は総勢33名、しかも作・演出の横内謙介本人も舞台に立つとのこと。

開演前、昭和の懐かしい歌謡曲が会場に流れる。ロビーでは物販の方々、昭和の懐かしい詰襟姿だったり、セーラー服だったり、ジャージーだったり。こういった服装が懐かしく感じる世代も多いことだろう。幕あきは、今どきのブレイクダンス、HIPHOP、アナウンス、「俺ら、厚木だからよ〜ダンスといえばフォークダンス!」運動会でかつてよくかかったフォークダンスの曲が流れる、詰襟とセーラー服の集団、♪マイムマイム♪…一定の世代には懐かしい、しかし、多分、今の10代、20代から見たら、明らかに…「う〜ん」(笑)。


時代は1977年、主人公である横山(有馬自由)が県立厚木高校に入学するところから始まる。学校に張り出されている…大学合格者一覧、中央に東大、一流大学に合格した生徒の氏名が張り出されている。いわゆる進学校、どのくらいの生徒が一流大学へ入学したがが、ある意味、学校の基準であり、その数で箔がつく、そんな時代。横山のモノローグで厚木高校がどんな学校だったかがわかる。元々は男子校だったが、近年共学になった。とはいえ、男子校の名残、女子より男子の方が圧倒的に多い、しかも女子の方が成績優秀。いかにも「ある、ある」な話。硬派な校歌、”厚木魂”とか言われても…呆然とする横山以下、新入生。そして高校といえば、部活!横山がクラスメイトと喋っているところへ、岡本(岡森諦)が勢いよく登場、剣道部をやめると息巻く(しかもよく鼻血出すキャラ)。ありふれた光景。そして場面変わり、保護者と生徒が担任(累央)と面談、横山は母(伴美奈子)とともに面談、高校に来て成績が下がる。572人中、378番と言われる。早々に落ちこぼれる横山、県立厚木高校は、1902年に創設、現在でも偏差値は神奈川県内で336校中8位、難易度の高い学校、つまり、神奈川県から優秀な生徒が集まっているわけである。よって中学校時代は成績が良くても、ここでは全員が優秀、その中でも頭ひとつ出るだけでも大変な努力が必要、というわけである。横山も中学時代は成績が良かったが、高校に来てからは下から数える方が早い、という成績になってしまったのである。かといって勉強に走る、ということでもなく(東大は無理め)、ひょんなことから演劇部に誘われ、先輩である村上(横内謙介)から”芝居をおごってもらう”ことに。演目は『熱海殺人事件』、つかこうへいの有名な作品である。「新宿?保護者なしで?!」無理もない、ついこの間まで中学生だったわけである。予備知識もなく、どんな作品かも全く知らない、それでも「行きます!」、これが運命の出会い。
劇中劇『熱海殺人事件』、知ってる観客ならもうここはついつい笑ってしまうだろう。大音量の『白鳥の湖』にタキシード姿の役者。これは?!その衝撃、見終わった後、興奮気味に自分が見た芝居を語る横山。成績もパッとしない横山が夢中になれるものを発見した瞬間だ。そして同じく『熱海殺人事件』を見た岡本も感動、二人は意気投合する。

高校生の、しかも進学校でいわゆる”落ちこぼれ”の面々、表情も明るい。勉強そっちのけで皆、張り切って!高校生活、生徒会、文化祭、部活、このエピソードが面白おかしく、岡本は剣道部をやめて、水泳部に。「扉座四十年生」を紐解くと、これは事実!そんなエピソードが綴られるが、それが抱腹絶倒におかしく、客席からは笑いが絶えない。

そしてこの時代背景、ディスコが流行りだす、二幕の出だしでは、イケイケな格好で踊る面々を呆然としてみている横山、宮城(六角精児)の姿、かの有名な『サタデー・ナイト・フィーバー』、アメリカでの公開は1977年、日本では翌年に公開、空前のディスコ・サウンドによるフィーバー現象、日本の若者ももちろん!リアル世代には懐かしい光景だ。

文化祭を盛り上げようと奮闘する面々、その時にめちゃくちゃ流行った楽曲『ジン〜』に合わせて、かなり面白い格好で踊る六角精児(途中で本当に息が上がってる)!客席からは笑い声が。体を張った六角精児のダンスは必見!そんなこんなの文化祭、部室とおぼしき場所でコーラで乾杯。だが、文化祭が終われば…本格的に受験。東大に合格した張ヶ谷(高木トモユキ)、卒業と同時に離れ離れになる。横山のモノローグ、大学に入ってまた演劇を始める。

そこからは扉座をよく知っている観客なら周知の通り。貴重な高校時代に仲間を得た横山ら。その中にいた地味なシュウケイ(犬飼淳治)、だが、彼は自殺したと横山は言いながら遠くを見る。遠い日の思い出は楽しくもあり、キラキラと輝き、それでいてちょっと甘じょっぱい味。甘く、楽しく、それでいて塩っぱい。観客は自分の高校時代にも思いをはせることができる。1960年代のテレビドラマで描かれているような青春ではない。ただ、ひたすらにその日を頑張り、そこで出来た絆を感じる。また、この作品の面白いところはリアルに本人が本人を演じていること。もちろん年齢は!だが、自分自身のことを思い出しながら演じるのは、なかなか難しいこと。「きっとそうだったんだ」とリアルに思い、また、クスリと笑える。岡森諦、六角精児は”自分役”を横内謙介はさすがに自分役ではないが、自分の人生を変えたきっかけになった村上先輩を演じている(ここでは拍手喝采!)。まさに『私戯曲』。ちなみにタイトルに使われている『ホテルカリフォルニア』は当時人気のロックバンド・イーグルスの有名な楽曲から。


実は12月12日の回は本編終了後、最初で最後の『山椒魚だぞ!』 の公演。1979年、神奈川県立厚木高等学校在学時に執筆全国高等学校演劇大会にて優秀賞と創作脚本賞を受賞している。上演時間は1時間ちょっと。演劇コンクール風に始まる。中原三千代がコンクール前の挨拶をしたり(笑)。それから始まる。
スピード感、展開が早く、とにかく難しいことは抜きでただただ笑える。パワフルで勢いもあり、観客席からは笑い声も。あっという間の1時間ちょい。これが終わり、横内謙介本人が登場。『山椒魚だぞ!』の思い出を。高校2年の夏に誰かから頼まれたわけでもないのに勝手に書いた、といい、当時の演劇コンクールは顧問の先生が台本を作成するか、既存の作品、モリエールやシェイクスピアなどを上演するのが主流だったそうで、学生が脚本を書くことはほとんどなかったそう。横内謙介は当時、つかこうへい作品と東京キッドブラザースが好きだったので、本人的には、その2つを合わせたとのこと。そして上演時間は1時間の規定だったが、4分オーバーしたことも明かした。この時間オーバーのペナルティがついた実質最優秀賞の、優秀賞受賞。当時それだけインパクトのある作品だったことがうかがえる。今、観ても十分面白く、破茶滅茶なエネルギーが客席全体を包み込む。コンクール時の熱気も偲ばれる瞬間だった。

<あらすじ>
2021年、還暦を迎えた劇作家・横山健一が、孫のような新人劇団員たちを指導する稽古場で、懐かしい人の呼び声を聞く。
それは高校時代の同級生シュウケイ。卒業後横山に手紙を送って、自殺した男だ。
シュウケイの声に導かれて、横山は県下有数の進学校で過ごした青春時代を思い出す。
良い大学に進むために3年間、受験勉強を第一に過ごす、偏差値でたまたま振り分けられただけのクラスメイトたち。
そこにあるのは青春ドラマで描かれるような、汗と涙の友情や、初恋のロマンスなど全く無縁のシラケているばかりの、ドラマにならない学園生活だった。
秀才ぞろいのエリート校で早々と落ちこぼれた横山は、偶然入部した演劇部で「つかこうへい」を知り、その虜となって勉強そっちのけで部活に没頭する。
そんな横山の周りには、自然と勉強以外の思い出を高校生活で残したいと思う落ちこぼれたちが集まり始めて、シラケ切ったエリート校の文化祭を何とか盛り上げようと言う機運が高まり、そのチャレンジが始まる。
活動参加を希望した同志の中に、シュウケイもいた。地味で目立たぬ理系の男。
偏差値は高いが頭でっかちでコミュニケーションが苦手な進学校のエリートたちが、盛り上がる文化祭を開催しようと奮闘し、生まれて初めて得る仲間たち。
それでもシュウケイはその後、自殺した……
「故郷とは絆のことだと俺たちは知る」

<みんなの色紙>

扉座40周年!! 「生涯演劇部」から始まる色紙コメント総勢33名! いざ、未来へ、Open The Door!

<概要>
[出演]
岡森諦 六角精児 中原三千代 有馬自由 伴美奈子 山中崇史 犬飼淳治 累央
鈴木利典 上原健太 鈴木里沙 高木トモユキ 新原武 江原由夏 鈴木崇乃 松原海児 野田翔太 藤田直美 早川佳祐 塩屋愛実 砂田桃子 三浦修平 白金翔太 小笠原彩 北村由海 小川蓮 菊地歩 紺崎真紀 山川大貴 佐々木このみ 大川亜耶 翁長志樹 ほか

日程・会場:
2021年12月5日 厚木市文化会館・大ホール
2021年12月7日~19日   紀伊國屋ホール
[スタッフ]
作・演出:横内謙介
美術:金井勇一郎(金井大道具)
舞台監督:大山慎一(ブレイヴステップ)
照明:塚本悟(塚本ライティングデザイン)
音響:青木タクヘイ(ステージオフィス)
衣裳:木鋪ミヤコ・大屋博美(ドルドルドラニ)
メイクアドバイザー:tae ・ 比嘉奈津子(Be-STAFF MAKE-UP UNIVERSAL)
宣伝美術:吉野修平(ヨシノデザインオフィス)  宣伝イラスト:溝口イタル
制作:赤星明光 田中信也 票券:日高孝子 生田由明乃
製作:(公財)厚木市文化復興財団〈厚木公演〉/扉座

関連情報
横内謙介の初戯曲『山椒魚だぞ!』 12月12日(日)本編終了後特別公演
12月11日(土)14:00公演 アフタートークショー!!!
ゲスト:木原実 https://ameblo.jp/minoru-kihara/ ←20歳頃の横内と木原の手繋ぎ写真も!
横内謙介、岡森諦、六角精児らを演劇の沼にはめた張本人らしい……… 厚木高校演劇部の生涯部員。
40th Anniversary『青春500キップ』発売!
1977年春、高校一年生の横内君(原文ママ)が、先輩のおごりで「熱海殺人事件」を観て演劇の道に進んだことを記念して、先輩がおごれるチケットを特別に__
『青春500キップ』500円にて販売!

公演情報 WEB:https://tobiraza.co.jp/hotel-california