インタビュー 中村誠治郎_ドラマティック・レビュー『うたかたのオペラ』 ドクトル・ケスラー=アマカス役

J-POP史に残る、加藤和彦のアルバム「うたかたのオペラ」から着想を得て作られた、ドラマティック・レビュー 『うたかたのオペラ』が2009年の初演からおよそ12年ぶりに上演決定。レビュー小屋「シャトー ド レーヴ」を舞台に繰り広げられる華やかな夢物語を歌と芝居で描く。美しき歌姫メイファ役には北翔海莉、道化のドクトル・ケスラー=アマカス役には中村誠治郎、脱走兵の宗一に神里優希、ほか実力派が出演。
演出・振付は初演・再演にも出演したKAZOOが担い、最強の布陣で上演する。道化のドクトル・ケスラー=アマカス役の中村誠治郎さんのインタビューが実現した。

ーー前回公演の映像資料を見ての感想は?

中村:僕が出演させていただくので映像を観たんですが、いざ始まってみると自分が出るとか忘れてしまって、普通に一人の観客になっていました。観終わった後に冷静になると、「これを自分がやるのか」と一気に怖くなってしまって。歌もダンスも素晴らしいんです。
とはいえ僕が出演したミュージカルを観たうえでオファーをしてくださったのだから、自分自身でも気づいていない、可能性に賭けてくれたのかなという感謝の気持ちもあります。模倣ではない、自分にしかできないなにかがきっとあると信じて臨んでいます。いまだに怖さはありますけれども。

ーー演じられるのは非常に難しい役ですよね。この作品の時代背景からいってアマカス、と聞くと映画『ラストエンペラー』で坂本龍一さんが演じられた人物が思い浮かびます。

中村:『ラストエンペラー』と同様に甘粕事件で有名な甘粕正彦がモデルになっているようで、実際に写真を拝見させていただいたこともありました。
個人的には今回“この物語の”ドクトル・ケスラーとしてやりたいなと思っていまして。同じ人間だけど人格が変わったようなイメージを受けたんですよ。ケスラーとアマカスの間には。

ーー二面性のあるキャラクターですね。ドクトル・ケスラーであるときと、アマカスであるときで違うようでありながら表裏一体というか。

中村:ケスラーのときは、僕らが芝居をしているような、不思議な感覚ですね。アマカスがケスラーを演じているイメージ。稽古を重ねてどうイメージが変わってくるか、これから楽しみです。

ーーメイファというキャラクターもミステリアスですよね。よく知られているあの時代のスター、李香蘭風でありながら少し違う。それでいて物語のファクターとしては川島芳子のようなファム・ファタル感もある。

中村:この作品ならではの人物ですよね。つかみどころがないというか……。ただ人の心を掴む方なんだろうなと。

ーーそれ以外のキャラクターでは宗一という脱走兵も。

中村:いいキャラクターですよね。おいしい役です。

ーー楽曲には当時の歌も入っていて、個性的。

中村:昔の歌であるはずなのに、古いなという感覚がなくて。耳馴染みがあるというか、何回も聞いてしまうような、そんな楽曲ですよね。1回聞いたら忘れられないメロディラインというか、人間の細胞に組み込まれたような、今の歌謡曲とかとは違う。自然と惹かれる曲だと思います。ただ、これを自分が歌うのかと思うとぞっとしてしまいますけれど(笑)。

ーーまた、セリフも「愚か者が一番偉く、臆病な者が一番強い」となかなか意味深ですね。時代がそうだということだけではなくて、普遍的なニュアンスも含まれていてここにこの作品の芯になっているような。

中村:そうですね。でもわかる気もします。(この作品は)戦争ものと捉えがちですけれど現代でも「なるほどな」と思わせるものもあるし、聞いていてドキッとさせるような部分がありますね。レビュー作品とはいえ芝居部分を色濃くしたいと聞いています。(初演の)紫吹淳さんのバージョンでも、エンターテインメントでありつつ何気ないセリフのときにやはり心を射抜かれるというか。

ーーレビュー的な要素もありながら今回はもう少しお芝居寄りというんでしょうか、演劇寄りであると聞いています。前回との違いもまた面白いのではないかと。

中村:再演されているということは、それだけ素晴らしい作品である証拠ですよね。だけれど僕がなぞってしまうと新しいものは生まれないし。僕が演じる意味がそもそもないと思うので。今回が初演、という気持ちで挑戦しようと決めています。

ーーこういうオリジナル作品というのは、翻訳ものとは違って再演を繰り返しても同じものになっていかないというところが醍醐味ですよね。

中村:とはいえ作品のシーン自体は変わらないので、この作品の初演が好きだった人がいてもいいし、再演を好きになってくれる人がいてもいい。「これはこれで面白いよね」と思っていただけたら。
オリジナルに関していえば、いわゆる2.5次元みたいなキャラクターものとは違ってこちらが作品に寄せる必要もないですから、役柄を自分の色で塗ることができるという点は楽しみですし、見どころですよね。この作品はこれまでやって来られた方が錚々たる顔ぶれ。ハードルは高いです(笑)。

ーー今回この作品のバックボーンには戦争がありますけれども。もう戦争を体験して来られた方がご高齢の方しかいらっしゃらないので、ドラマなどでしかなかなかその実情を知ることができない。

中村:子どもの頃は「戦争」ってワードを聞いただけですごく怖かったですね。お爺ちゃんとかから聞いていたので。でも大人になるにつれて戦争モノの作品とか観ることが当たり前になっている。だから、子どもの頃のほうが現実的に捉えていたのかなってふと思い出しています。爆弾が降ってきたらどうしよう、とか。僕が今回演じたことで、お客様にそれらが伝わったのだったら、そんな戦争の怖さみたいな僕の幼少期から感じているイメージが活きてくるのかなと。

ーー最後にメッセージを。

中村:北翔海莉さんと共演させていただくのは今回が2回め。最初のときも夫婦役だったんですけれども。すごい才能の持ち主、努力型の天才というか。僕が出会った女優さんの中で一番歌もすごいし、踊りも素晴らしい。この人がいるからこの作品ができると思います。北翔さんがいるだけでもう間違いがないんです。でも、僕としてはそれだけではダメだと思っているので。北翔海莉という「最高の白米」をよりおいしくできるおかず、すなわち「最高の明太子」のような(笑)。そんな存在になりたいなと思っています。しかも、北翔さんが僕へのオファーを勧めてくれたらしいんです。それに報いたいですね。2022年1発目の舞台ですし、40超えてもまた新しい挑戦ができるという環境にも感謝しつつ、コロナになって舞台に立てるのが当たり前じゃなくなった中、いいスタートを切りたいなと個人的に思っています。そして、この作品を観てくれたお客様になにかメッセージを届けられたら役者としてこれ以上ない幸せなので。がんばります。

――ありがとうございます。公演を楽しみにしております。

<あらすじ>
戦時中の満州を思わせるかりそめの都の妖しげな裏通りに建つレビュー小屋「シャトー ド レーヴ」。
そこでは夜毎、美しき歌姫メイファを中心に華やかなレビューが繰り広げられていた。 一座には道化のドクトル・ケスラーをはじめ、ひと癖もふた癖もある座員たちが顔をそろえる。 ある夜、憲兵に追われ逃げ込んできた脱走兵・宗一を、メイファは一座に紛れ込ませて匿ってやることにする。 こうして一座の座員となった宗一は、このレビュー小屋が、この都の影の支配者アマカスがメイファのために建てた小屋と知る。 メイファは、実はその大陸にあった王朝の末商だったが、王朝復古を願い、そのために裏工作に手を染めていた――。 新帝国の崩壊が始まる…。すべてはうたかた、うたかたの中の夢物語……。
<「うたかたのオペラ」とは>
本作は、加藤和彦&安井かずみの80年代ポストモダンの伝説的アルバム「うたかたのオペラ」「ベル・エキセントリック」「パパヘミングウエィ」などをベースに、横内謙介が描いた虚構の世界の物語で、戦時中の満州を思わせる、かりそめの都に建つ「シャトー ド レーヴ」というレビュー小屋が舞台となっています。
2009 年の初演が好評を博し、ブラッシュアップをして今後も上演をしていこうと加藤和彦氏も話していたが、同年 10月に逝去され、 翌年5月に再演を果たしたものの、以降は上演をしておらず、幻の名作と言われています。

<概要>
ドラマティック・レビュー「うたかたのオペラ」
作:横内 謙介
音楽:加藤 和彦
菅原道則演出より 演出・振付:KAZOO
出演:
メイファ:北翔海莉
ドクトル・ケスラー=アマカス:中村誠治郎
宗一:神里優希
武志:佐伯亮
正吉:大隅勇太
すみれ:鳳翔大
さくら:宮川安利
あやめ:花陽みく ほか
公演日程:2022年1月13日(木)~23日(日)
劇場:六行会ホール (入場制限有)
企画・製作:アーティストジャパン
問合:アーティストジャパン 03-6820-3500
WEB: https://artistjapan.co.jp/l_opera_fragile/
Twitter @l_opera_fragile
取材:高 浩美
構成協力:佐藤たかし
写真:加美山莉奈
ヘアメイク:柗本和子