「こと~築地寿司物語~」でコンビを組んできた女優の鳳恵弥と脚本家の江頭美智留が再びコンビを組んだ新作舞台『ナビゲーション』が上演中だ。
共演にはポケットモンスターのサトシ役など声優としても活躍する松本梨香や爆風スランプのギタリストパッパラー河合。またパッパラー河合は劇中音楽も担う。
本作品はコロナ禍において疲弊した中小劇場を応援する目的にサンモールスタジオ、雑遊、シアター風姿花伝 の3劇場が12月6日開催宣言をした『劇場都市TOKYO演劇祭』の開催を受けて、その第1発目としてサンモールスタジオにての公演。
開演5分前に前説、ここは撮影OK。それから始まる。「もしもし、すぐ来てください。私、人を刺しました」サイレンの音、なんとも物騒な出だし。主人公(鳳恵弥)のモノローグ「全てを失いました、いや、捨てたかもしれない」と。場面変わって、舞台中央に横たわる男、顔に白い布、男(パッパラー河合)が泣いている。そこへ主人公がやってくる。男はここの所長。なんとも奇妙なやりとり。亡くなった男の名前は遠藤、死因は心筋梗塞。所長は主人公に言う「ご実家まで運んで」「死体を?」「ご遺体ですよ」遠藤は山形から出稼ぎに来ていた。山形の家族は小さい子供とか遠藤の年老いた親とか…。とても引き取りに来られない。「運べばいいんでしょ!」
車を運転していたら、人が!!吹っ飛ぶ!だが、立ち上がる!妙に馴れ馴れしく、図々しい女(松本)。「当たった、当たった」と大騒ぎ。初対面なのに、強引に車に乗る女。「どこで降りますか?」「どこまで行くの?」やたらテンションの高い女、結局、山形まで一緒に行くことに。車中でなんとなく自分の話をする主人公。だが、この図々しい女は自分のことは語らない、謎だらけの女。だが、なんとなく意気投合し、歌ったり!パッパラー河合がギターを弾き、客席からはクラップ。だが、この旅、そうスムーズにいくはずもなく…様々な人々に出会い、そのたびにてんやわんやな状況。また、ご遺体を運んでいることがバレたら…執行猶予取消し!車乗っ取られたり(笑)。この道中、無事に遠藤さんを山形の家に送り届けることができるのか?!がだいたいの流れ。
主人公は要するに崖っぷち、そんな彼女にさらなる”試練”が襲うが、これを究極の困り顔で鳳恵弥がリアリティ溢れる演技で物語に存在する。妙に図々しい女を演じる松本梨香、登場の仕方が衝撃的に面白すぎて(笑)、倒れた姿は芸術的。そしてうざいくらいに騒々しく主人公につきまとうところは抱腹絶倒、だが、主人公を見つめる眼差しは悪戯っぽくも優しさが垣間見える。パッパラー河合の所長は軽妙でごり押し上手(笑)。そして主人公に絡んでくる人々、これが一癖も二癖もあるキャラクター。脚本は江頭美智留、伏線の張り方はもはや職人芸、笑って笑って、ちょっとドキドキの泣ける物語、ストーリー展開が鮮やか。休憩なしの1時間45分だが、この上演時間の中には様々なことが凝縮されている。主人公のやるせない人生、母親は33年前に他界、人を刺した、これ以上なくすものもないくらいなくしたと思っていた。だが、ラストは彼女の心に温かいものが灯る。オチは…涙腺崩壊。観劇した日は初日の夜公演、満席。派手さもなく、小ぶりながらも秀作、これからも大作でなくてもレベルの高い、観客の心に響く作品を発表し続けることが重要と改めて認識できる舞台であった。
初日の前日行われた囲み取材では、劇場都市TOKYO演劇祭の佐山泰三実行委員長が日本の演劇祭史上最高額となる総賞金額900万円(副賞を含む)と現在の協賛企業がAPAグループ、築地玉寿司、オーダースーツSADA、学生新聞社、カンフェティであり、まだ数社からの協賛相談があることを伝えた。
また、佐山委員長は今回実車を入れた本公演の舞台美術に驚きを伝えると共にこのように素晴らしい作品が続きますと胸を張った。
脚本の江頭は3年以上も温めていた物語が舞台では不可能と思っていたが、鳳さんと梨香さんを見てこれならやれると思い瞬く間に書き上げた。と話した。
主演の鳳は、「先ずは終演後に楽屋に戻ったら真っ先に江頭先生が目を赤くして良かったよ。自分の作品で久しぶりに泣いたよ。と言って下さって、もうそれだけで何よりの幸せで私も泣いてしまいました。ですから(囲み取材前に)メイク直しでお待たせしてすいません」と笑わせた。
松本は、「こうして2年間のコロナ禍があり、劇場が潰れ、私の周りにもたくさんの役者が辞めていっています。そんなみんなの為にもこうして演劇は続けていかなければならない。鳳さんは本当に真面目で、真面目過ぎるほどだけど、だからこそこうした熱さを皆さん届けられる。鳳と歌う主題歌の『大丈夫』は私の1番好きな言葉だからみんなに届けたい」とコメント
河合は「俺はずっとミュージシャンとしてやってきたが、先ずわかったことは舞台は音楽の10倍稽古がかかると分かったがそれがこの熱量を作るんだと分かった。自分の歌の確認と舞台中に隠れて後から何度か覗いたが特に鳳さんと梨香さんのバラードは泣いたよ。芝居は冒頭シーンから登場するんだけど、稽古では泣いてなかったのにリハーサルになったら鳳さんがツーっ、と涙を流していて圧倒されて焦っちゃった。本番からは大丈夫。あ、そうだ今日のリハーサルは俺の盟友で同級生のサンプラザ中野くんが観に来てくれたんだけどたくさん笑って泣いて、楽しかったと言って帰ってくれたよ。
次回再演の時は中野も共演しようと思う」と会場を沸かせた。
鳳は憧れの存在である松本との共演に「緊張しっぱなし」とぶっちゃけながらも「プライベートでも仲良くしてくれていつも素敵な言葉をくれる」と語る。
鳳の実家の喫茶店は大衆演劇場の前にあり、役者が集まったある日、大衆演劇のスターであった父親と共に松本がお店を訪れ、その日から虜になったそう。鳳恵弥と松本梨香のコンビでもっと楽しい舞台ができそうな予感。
<演劇祭記事>
https://theatertainment.jp/japanese-play/93734/
<あらすじ>
建築会社で住み込みで働く土木作業員(通称ドボジョ)の主人公(鳳)がひょんなことから知人の死体を運ぶことに、出発早々に出会った妙に馴れ馴れしい当たり屋らしき女(松本)を何故だか同乗させて死体と女2人の珍道中が始まる。道中で出会う様々なトラブルと人々を乗り越えて、2人と1体の行きつく先とは・・・?
ナースのお仕事、ごくせんなど様々なヒットドラマを描く江頭美智留が温めていたストーリーが盟友鳳恵弥と松本梨香に出会って花開き、一気に書き上げた新春新作ハートフルコメディー。
<概要>
舞台『ナビゲーション』
脚本:江頭美智留
演出:鮒田直也
出演:鳳恵弥/松本梨香/パッパラー河合
村川翔一/木之枝棒太郎/小野春花/亀吉/岩瀬かえで/井出晋之介/村松美里
日程・会場:令和4年1月13日(木)~16日(日)全7公演 サンモールスタジオ
チケット:https://confetti-web.com/navigation2022
問い合わせ先:atz.stage@gmail.com (ACTOR`S TRIBE ZIPANG)