J-POP史に残る、加藤和彦のアルバム「うたかたのオペラ」から着想を得て作られた、ドラマティック・レビュー 『うたかたのオペラ』が2009年の初演からおよそ12年ぶりに上演中。
レビュー小屋「シャトー ド レーヴ」を舞台に繰り広げられる華やかな夢物語を歌と芝居で描く。美しき歌姫メイファ役には北翔海莉、道化のドクトル・ケスラー=アマカス役には中村誠治郎、脱走兵の宗一に神里優希、ほか実力派が出演。
演出・振付は初演・再演にも出演したKAZOO。
裁判のシーンから始まる。被告人は宗一(神里優希)。脱走して逃げ込んだレビュー小屋「シャトー ド レーヴ」のことについて尋問される。宗一は少し遠い目をしながら、自分がそこで体験したことを語り始める。
場面は一転して、華やかなシーン、ドクトル・ケスラー=アマカス(中村誠治郎)登場、レビュー小屋「シャトー ド レーヴ」は夜毎、レビューが行われていた。ダンサーが踊る、そして中央から燕尾服を着た歌姫・メイファ(北翔海莉)登場、客席から大きな拍手、客席にいる観客はさしずめ「シャトー ド レーヴ」の観客と化す、舞台と客席が一体になる瞬間。次々と繰り出されるナンバー、ここで使われている楽曲の大半は加藤和彦のアルバム「うたかたのオペラ」から。曲はこの舞台のために書かれたものではなく、すでに存在している楽曲を場面に当てはめる形式、ジュークボックスミュージカルと呼ばれているもので、よく知られているのはABBAの楽曲を使用した『マンマ・ミーア!』だが、このドラマティック・レビュー 『うたかたのオペラ』も、負けず劣らず、楽曲と場面がしっくりくる。
そこへ、脱走兵・宗一が紛れ込む。「あんた、誰?」「脱走兵の宗一であります!」宗一、メイファはじめ、「シャトー ド レーヴ」との出会い。そしてお約束通り、脱走兵を追って軍の者が…彼を匿うメイファ。脱走の理由は「恋人に会いたいから」、これは表向きの理由、本当は戦争が怖かったから。そんな折、宗一の所属していた部隊が全滅したという報道が。脱走したことと、たまたま逃げ込んだところが「シャトー ド レーヴ」だったことが宗一の運命を変えていく。
加藤和彦の楽曲もさることながら、「蘇州夜曲」や「奉祝國民唄 紀元二千六百年」などの戦時中の昭和の楽曲も挿入される。「蘇州夜曲」は李香蘭主演の映画「支那の夜」(1940年6月公開)の劇中歌として発表されたもので西條八十作詞、服部良一作曲。以降、数えきれないほどカヴァーされた名曲。「奉祝國民唄 紀元二千六百年」は、1940年の日本において「皇紀(神武天皇即位紀元)2600年」を祝して制作された国民歌。この作品の舞台は架空だが、戦時中の満州や上海を思わせる雰囲気。1幕で「蘇州夜曲」をメイファが歌うが、ここでのドクトル・ケスラー=アマカスとの絡み方で二人の関係性がわかる。また、よく知られている楽曲「軍艦マーチ」をHIPHOP風にアレンジ、ここのダンスシーンは必見。
ドラマティック・レビューと銘打っているだけあって、レビューシーンがふんだんに。この時代らしいダンスで雰囲気を盛り上げる。舞台は映画と違って全てが一期一会、終演すれば、それで終わり、そこがライブのよいところ。そしてこの作品のタイトルは『うたかたのオペラ』、全ては”泡沫(うたかた)”、宗一が体験した「シャトー ド レーヴ」での出来事、それは”泡沫(うたかた)”、そして、ドクトル・ケスラー=アマカスの思惑と野望、メイファの願い、彼女は実はただの歌姫ではなかった。王朝の末裔であり、その復古を願っていた。そして密かに恋心を抱く宗一、2幕では、新帝国の崩壊と「シャトー ド レーヴ」の末路が描かれる。登場人物たちの立ち位置や思惑で、結末もなんとなく察しがつくかもしれないが、「シャトー ド レーヴ」で夜毎繰り広げられていたレビュー、キラキラと輝く瞬間は、まさに泡沫の夢と幻想、そこに身を置いた人たちもまた、泡沫の夢を抱いていた。泡と消える宿命、観客は当然のことながら、そうなることをわかっている。「臆病者が一番強い」。深い言葉だ。歴史に詳しければ、すぐにわかるが、メイファは、清国の皇女・川島芳子と満映の銀幕のスタア・李香蘭からインスパイアされた人物。燕尾服の着こなしは流石、堂々たるスタアぶりを発揮するが、2幕では哀しみをたたえた姿が印象的。そして中村誠治郎演じるドクトル・ケスラー=アマカス、そのキャラクター名で、特に説明する必要もないだろう。二面性を持った人物、ドクトル・ケスラー=アマカスは何を夢見ていたのか、彼の理想と想いもまた、泡となって消える運命。また、彼らとともにいる座員たちもまた、泡沫の夢を見ていた、いや、見たかったのかもしれない。一瞬の煌めき、宗一は想いを、愛を込めて「シャトー ド レーヴ」で体験したことを語る。レビューシーンが華やかであればあるほど、さらに愛しい時間と光を感じる。公演は23日まで。
<初日を迎えてのコメント>
[北翔海莉]
12年振りの再演ということで、大変嬉しくお稽古に励みました。
加藤和彦さんの素晴らしい楽曲に、今回のキャストならでは新しい魂を吹き込んでお届けしたいと思っております。
今の世の中だからこそ、愚か者が誰より偉く、臆病者が1番強いという言葉の意味を伝えるべく、メッセンジャーとして舞台を務めたいと思います。
個人的には、紫吹さんの背中を追って、この作品に挑戦させて頂けることがとても幸せです。
[中村誠治郎]
いよいよ初日です。
最初はダンスに苦手意識があり、不安だらけで稽古をしてきましたが、KAZOOさんをはじめ、出演者のみんなにもすごく助けてもらいました。今ではみなさんのおかげで自信持って舞台に立つことができます。
見てくださるお客様に楽しんでもらえるよう、全力で舞台上で生きたいと思います。
コロナ禍でこうして舞台をやれること自体が奇跡のようなものだし、感謝の気持ちを込めて演じさせていただきます。何卒よろしくお願い致します。
[神里優希]
いよいよ初日の幕が上がります。今日を迎えられる事とても嬉しく思います。
僕は宗一として「シャトー ド レーヴ」での日々を大切に演じ、そして目撃した事を丁寧に語りたいと思います。
どの楽曲も本当に素敵なので耳でも楽しみながら観劇して頂けると幸いです。
[佐伯亮]
本日無事に初日を迎えられたこと、本当に嬉しく思います。
稽古を積む度、カンパニーの仲も深まってゆき、物語と私生活がリンクするところがたくさん生まれました。
架空のお話ではありますが、実際に「シャトー ド レーヴ」が存在していたら、こんな感じなのかと日々肌で感じています。
このカンパニーにしか出来ない、愉快で儚いうたかたの物語を存分に楽しんで頂けると嬉しいです。
よろしくお願い致します。
[大隅勇太]
この作品に参加することになった当初に思い描いていた、素晴らしい先輩キャストの皆様から沢山のことを勉強させてもらい、劇中では「シャトー ド レーヴ」の座員として躍動したい、という自分の中での目標が実現できました。その中でも、北翔さんから受けた影響はとても大きく、僕たち一人一人の北翔さんに対する気持ちと、座長メイファと座員たちの気持ちなどがリンクして、そんなプラスの空気感が作品の軸になっている気がします。完走目指して頑張ります!
<あらすじ>
戦時中の満州を思わせるかりそめの都の妖しげな裏通りに建つレビュー小屋「シャトー ド レーヴ」。
そこでは夜毎、美しき歌姫メイファを中心に華やかなレビューが繰り広げられていた。 一座には道化のドクトル・ケスラーをはじめ、ひと癖もふた癖もある座員たちが顔をそろえる。 ある夜、憲兵に追われ逃げ込んできた脱走兵・宗一を、メイファは一座に紛れ込ませて匿ってやることにする。 こうして一座の座員となった宗一は、このレビュー小屋が、この都の影の支配者アマカスがメイファのために建てた小屋と知る。 メイファは、実はその大陸にあった王朝の末商だったが、王朝復古を願い、そのために裏工作に手を染めていた――。 新帝国の崩壊が始まる…。すべてはうたかた、うたかたの中の夢物語……。
<「うたかたのオペラ」とは>
本作は、加藤和彦&安井かずみの80年代ポストモダンの伝説的アルバム「うたかたのオペラ」「ベル・エキセントリック」「パパヘミングウエィ」などをベースに、横内謙介が描いた虚構の世界の物語で、戦時中の満州を思わせる、かりそめの都に建つ「シャトー ド レーヴ」というレビュー小屋が舞台となっています。
2009年の初演が好評を博し、ブラッシュアップをして今後も上演をしていこうと加藤和彦氏も話していたが、同年 10月に逝去され、 翌年5月に再演を果たしたものの、以降は上演をしておらず、幻の名作と言われています。
<概要>
ドラマティック・レビュー「うたかたのオペラ」
作:横内 謙介
音楽:加藤 和彦
菅原道則演出より 演出・振付:KAZOO
出演:
メイファ:北翔海莉
ドクトル・ケスラー=アマカス:中村誠治郎
宗一:神里優希
武志:佐伯亮
正吉:大隅勇太
すみれ:鳳翔大
さくら:宮川安利
あやめ:花陽みく ほか
日程会場:2022年1月13日(木)~23日(日) 六行会ホール (入場制限有)
企画・製作:アーティストジャパン
問合: 03-6820-3500
WEB: https://artistjapan.co.jp/l_opera_fragile/
Twitter @l_opera_fragile
(C)2022 ArtistJapan
カメラマン:山副圭吾